日本毒性学会学術年会
第46回日本毒性学会学術年会
セッションID: EL1-2
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教育講演
フェーズゼロ反応:活性イオウ分子を利用した化学物質の不活性化というパラダイムシフト
*熊谷 嘉人
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抄録

 脂溶性を有する化学物質は受動拡散などにより細胞内に取り込まれ、CYPのような異物代謝酵素によって酸化される(フェーズ1反応)。生じた代謝物はGSH転移酵素やUDP-グルクロン転移酵素の存在下、GSHやグルクロン酸のような極性基が導入され(フェーズ2反応)、最終的にトランスポーターを介して細胞外に排泄される(フェーズ3反応)。一連の反応は異物代謝の世界で広く受け入れられてきた。一方、我々は約10年前から東北大学・赤池教授らと共同研究を開始し、親電子物質と未知の求核低分子との相互作用について検討を行ってきた。その結果、システインパースルフィド(CysSSH)、グルタチオンパースルフィド(GSSH)や硫化水素(H2S)のような活性イオウ分子(Reactive Sulfur Species: RSS)との反応により生じるメチル水銀、カドミウムおよび1,4-ナフトキノンのイオウ付加体を同定した。それぞれのイオウ付加体は、母化合物曝露で観察されるレドックスシグナル伝達活性化や毒性を殆ど示さなかった。このことは従前から知られていたGSHによる解毒・排泄以外に新たな機構が存在することを示唆している。我々はRSS産生酵素のひとつであるcystathionine γ-lyase(CSE)のノックアウト(KO)および高発現(Tg)マウスを作製し、CSEKOマウス臓器中RSS量が野生型のそれらより顕著に低いにもかかわらず、Tgマウスの臓器中RSS量は野生型と殆ど変わらない知見を得た。しかしその一方で、Tg マウスの血漿中RSS量は野生型より有意に高く、初代肝細胞でも細胞内は同程度であるが、培養液中RSS量はTgマウスの方が野生型より有意に高かった。また、その培養液と親電子物質を反応させると、イオウ付加体の生成が見られた。このことは、細胞内で産生された活性イオウ分子は細胞外に排泄され、親電子物質の細胞内侵入の前に捕獲・不活性化していることを示唆している。本教育講演では、我々が提案する「フェーズゼロ反応」について紹介し、新たな解毒システムについて考察したい。一連の研究は基盤研究(S)(2013〜2017年度、2018〜2022年度)の支援により実施している

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