【背景・目的】職場環境で粒子状物質の曝露に起因するじん肺などの労働災害は、依然として多い。作業現場で使用された粒子状シリカのサイズや性質と呼吸器障害発生との詳細は不明であり、in vivo実験によりその発生機序や因果関係を解明し、改善・対策を講じることが急務となっている。本研究では産業現場で使用されている粒子状化学物質の例として結晶質シリカ(石英)を取り上げ、その曝露と呼吸器障害等の疾患発症との関係を解明するため、気管内投与に用いる分散液中の粒子の正確な性状把握と適正な調製法の検討を試みた。
【方法】粉体試料は2種類の石英シリカであるMin-U-Sil 5(U.S. Silica Company)およびSiO2(高純度化学研究所)を、分散液は0.9%生理食塩水を選定し、各懸濁液(100 mg/ml)を超音波処理(0、10、30および60分)し、分散させた後、希釈系列(3.125~100 mg/ml)を作製し、各濃度においてそれぞれ動的光散乱法による散乱強度分布の測定を行った。Min-U-Sil 5については、透過型電子顕微鏡による形態観察とエネルギー分散形X線分析装置による元素分析を行った。
【結果・考察】Min-U-Sil 5は処理時間依存的に小さな粒子径が得られ、サブミクロン付近にまでの粒子径になった。同条件下においてSiO2は、Min-U-Sil 5 と比べて粒子径はミクロンサイズであり、分散状態も安定していなかった。電顕による観察の結果、Min-U-Sil 5には多角形、棒状、針状、フレーク状といった多様な形態を呈するSiを確認した。さらなる液中分散粒子の性状の解析のため、超音波処理を行ったMin-U-Sil 5やSiO2の形態を比較観察し、超音波処理による結晶構造の変化の有無ついて、X線回折法を用いて測定しているところである。