米国において心毒性は臨床試験の取り下げ理由の28%を占める。心毒性の評価には、平面培養した心筋細胞を多電極アレイや蛍光イメージング等で解析する手法が用いられているが、心筋の本来の機能である収縮力を測定することは難しい。収縮力を測る系として、近年では、多能性幹細胞由来の心筋細胞から作製した細胞塊や細胞シートを利用する系が開発されている。しかしながら、①1度の測定で106〜107個程度の大量の細胞を用いる必要がある、②長期培養できないため薬剤の長期的影響を見られないという課題が残されている。今回我々は、①②の課題解決を目的として、細胞ファイバ作製技術によりひも状の心筋細胞塊を作製し、これを用いた収縮力測定試験系を構築した。細胞ファイバは、直径数百マイクロメートルのアルギン酸ゲルチューブ内部に細胞とECMを封入する技術であり、均一な大規模三次元組織の作製と長期培養に優れるという特長を持つ。我々は、はじめにiPS細胞由来の心筋細胞を内包した細胞ファイバ(心筋ファイバ)を作製した。ファイバ内部の細胞は、作製直後はばらばらであったが、培養日数の経過と共にひも状に構造化し、作製翌日から自発的な拍動が観察された。培養40日間後も高い生存率が保たれていることをLive/deadアッセイにより確認し、これを収縮力測定に用いた。測定にはCell Scale社のMicro Testerを用いた。37℃の培地に浸した状態の心筋ファイバを測定用ステージの上に置き、収縮力測定用の治具で挟み込み、20%程度の圧縮歪みを加えた状態で力を測定したところ、一定周期の拍動が測定できた。また、イソプレテレノールを培地に添加したところ、応答が見られた。測定に使う心筋ファイバ長から計算すると、1測定あたり105個以下のごく少量の細胞で測定が可能であった。今後はより創薬現場のニーズに合致した、薬剤評価システムを開発していく。