ラット28日間反復経口投与毒性試験では、被験物質の血中濃度推移(曝露)に関する評価はほとんど行われていない。化学物質の毒性予測基盤整備のため、経口投与時の生体に入る過程である消化管吸収性と生体レベルでの肝中濃度の時間推移を予測した。検討対象化合物は、ラット経口投与試験による肝毒性情報を含む有害性評価支援システム統合プラットフォーム (HESS)」収載化学物質(以下HESS化合物」を一次対象とし、一般化学物質のランダム5万分子の記述子計算結果を2次元可視化し、等間隔な空間エリアを25個設定したケミカルスペースでの多様性を考慮した医薬、農薬等を含む化合物53種とした。本発表では、肝への化合物の移行と代謝消失速度を加味した簡易生理学的薬物動態(PBPK)モデルを使い、化学物質の生体内濃度の時間推移を予測し、肝毒性との関係を推定する経産省次世代型安全性予測手法AI-SHIPSプロジェクトの一端を紹介する。
ヒト結腸がん由来細胞株Caco-2 細胞を用い、化合物の in vitro 透過係数を調べたところ、17種HESS化合物の肝無作用量(NOEL)値と対数変換した透過係数実測値の間に有意な逆相関が認められた。推定物性値を用いる重回帰分析で得られた回帰式より算出した透過係数の予測値は、実測値と良好に相関した。構造情報を活用することで透過係数、さらに化学物質の経口吸収性をも予測しうることが示された。血中化学物質濃度推移の文献・実測値を活用し、ラット各種体内動態パラメータ値を算出し、コンパートメントおよび消化管、肝臓および全身循環からなるPBPKモデルを活用して、仮想投与後の血中または肝臓中濃度推移を予測した。両方法で予測した化合物の血中濃度および時間曲線下面積は一致したが、血中と肝中濃度の相関係数は低下した。1日あたりの肝中濃度時間曲線下面積と7種HESS化合物の肝最小作用量(LOEL)値は有意な逆相関を示した。各化合物の薬物動態3種パラメータ値[吸収速度定数、分布容積および肝代謝消失]を化合物の構造特性値から推定する手法の整備を契機に、薬物動態モデルを用いる化学物質の体内濃度推移と安全性評価技術の統合に期待したい。