国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、日本において2015年時点で不妊に悩み、実際に体外受精などの何らかの生殖補助医療を受けている夫婦は5.5組に1組にのぼる。一方で、技術は日々進歩しているにも関わらず妊娠率は10∼20%前後であり、むしろ近年は減少傾向にある(日本産科婦人科学会「倫理委員会・登録・調査小委員会報告」)。その主たる原因として、母体の高齢化や外的環境ストレス、さらには不適切な培養条件による卵子・初期胚の質の低下が想定されている。そこで、妊娠率を向上させるためにもその「質」の実体を科学的知見によって理解し、正確かつ定量的に評価する手立てが重要になるであろう。我々は、培養中の胚にダメージを与えることなくさまざまな現象を3次元的に継時観察できるライブセルイメージング技術を開発し、胚の質の評価につなげることを目的として研究を行っている。これまでに、ディスク式共焦点レーザー顕微鏡をもとにした観察システムの構築や各種蛍光プローブの開発、画像解析技術に基づいた定量化法の確立などを進め、初期胚卵割過程における染色体動態や発生速度、ATP濃度の動態について検討を行ってきた。その結果、例えば若齢マウス由来の胚では染色体分配や細胞質分裂に異常が見られ、さらに発生速度に胚ごとのばらつきが多く観察された。また、逆に高齢マウス由来胚では、排卵数に大きな低下がみられるものの、胚発生における染色体安定性やATP濃度に関しては大きな差が見られないことが明らかとなってきた。さらに最近ではマウスのみならず、ウサギ、ウシ、ヒト胚を用いた検討や、卵胞培養中の卵子形成や成熟過程のライブセルイメージングを行っている。本講演では、これまで行ってきた取り組みについてレビューするのに加えて最近のトピックスについて紹介し、ライブセルイメージングによる胚の質の評価法の有用性について議論したい。