日本毒性学会学術年会
第46回日本毒性学会学術年会
セッションID: S4-4
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シンポジウム 4
環境化学物質による心疾患リスク増加の分子メカニズム
*西田 基宏
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抄録

生涯を通して受ける様々な環境因子の複合的曝露(エクスポソーム)が疾患発症リスクを評価する新たな指標として注目を集めている。多くの環境化学物質は親電子性が高く、これらは共通して生体分子中の求核物質(タンパク質中のシステイン(Cys)パースルフィドをはじめとする活性イオウ種)と化学的に共有結合し、生体分子に機能修飾を与える。こうしたタンパク質機能修飾の蓄積が生体恒常性の変容を誘発し、個体機能低下を招くことが示唆されている。我々は、ミトコンドリアの品質管理を制御するGタンパク質dynamin-related protein 1 (Drp1)が高いレドックス活性を持つことに着目し、Drp1のレドックス活性がC末端に存在するシステイン(Cys624)残基によって制御されることを見出した。Cys624はミトコンドリアtRNA合成酵素(CARS2)活性依存的にポリイオウ化されることで、Drp1活性を負に調節すること、神経毒性を起こさない極低用量のメチル水銀曝露によりDrp1ポリイオウ鎖がイオウ枯渇することでDrp1依存的なミトコンドリア分裂が起こることをマウス心臓レベルで明らかにした。ミトコンドリア過剰分裂したマウス心臓に圧負荷を加えたところ、心臓の圧負荷に対する抵抗性が顕著に減弱し、突然死率と心不全重症度の顕著な増加が観察された。Drp1のCys624のポリイオウ鎖枯渇を模倣した変異体(Drp1(C624S))を心筋細胞株に発現させたところ、ミトコンドリア分裂の亢進が認められ、逆にCys624のポリイオウ鎖構造を模倣した変異体(Drp1(C624W))を発現させた細胞ではMeHg曝露によるミトコンドリア分裂が抑制された。以上の結果は、Drp1タンパク質のポリイオウ鎖が環境化学物質センサーとして機能し、ミトコンドリア品質低下を伴う心疾患発症を制御していることを強く示唆している。

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