日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: S7-2
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シンポジウム7
ゲノム編集におけるオンターゲットリスクと遺伝子水平伝搬
*小野 竜一
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抄録

DNA の二重鎖切断 (DSB ; DNA double strand break) は、細胞にとって最も重篤な DNA 損傷であり、受精卵における DSB は生命の生死を決定しうる問題となる。他方、 CRISPR/Cas9 システムを用いて遺伝子上の任意の位置に DSB を導入し、ゲノム編集を行う事が可能となり、ゲノム編集を利用した遺伝子治療への臨床応用が検討される段階にある。しかし、目的部位以外の位置で意図せず遺伝子変異が起こるオフターゲット効果が大きな課題とされてきた。

我々は、マウス受精卵においてゲノム編集を実施して DSB を誘導した際に、およそ10%のDSB 部位(オンターゲット)に100bp を超える長いDNA の挿入(非意図配列の挿入)が起こることを明らかにした。これらの非意図配列の多くは、レトロトランスポゾンや内在性遺伝子、およびゲノム編集に用いたベクターなどであった。これらの非意図配列と内在性遺伝子の融合遺伝子も生じることは、ゲノム編集を用いた臨床応用に際して新たなリスク事象となりうる(オンターゲットリスク)。

これらのオンターゲットリスクを培養細胞において、次世代シーケンスを用いた網羅的な解析で評価したところ、レトロトランスポゾンや内在性レトロウィルス、ベクター配列などの他に、ウシ由来の内在性レトロウィルスやサテライト配列がマウスやヒト培養細胞のオンターゲット部位に挿入していることを明らかにした。すなわち、遺伝子水平伝搬が起こっていた。これらの遺伝子水平伝搬は、細胞培養液中のウシ血清成分に含まれる細胞外小胞(エクソソーム)を介して起こることを明らかにした。

これらの遺伝子水平伝搬機構は、哺乳類のゲノム進化に寄与してきた可能性も考えられる。

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