近年、様々なバイオナノマテリアルが開発され、ナノ医療や多くの産業分野に応用されている。Fe3O4-PEG-PLGAナノ粒子はがん温熱治療への利用が期待されているが、安全性は評価されていない。本研究はFe3O4-PEG-PLGA曝露による肺への影響を評価することを目的とする。
方法:C57BL/6JJcl野生型雄マウスとNrf2-/-マウスにそれぞれ0、10、30 μgのFe3O4-PEG-PLGAを咽頭吸引法により単回投与した。曝露14日後にBALFを回収し、タンパク量測定・白血球数の計数を行った。BALF回収後の左肺切片でPrussian-Blue染色を行った。また右肺で炎症性サイトカイン・酸化ストレス関連物質のmRNA発現量をRT-qPCRにより測定した。
結果:Fe3O4-PEG-PLGA 30μg曝露群では野生型マウスでBALF中の総細胞・マクロファージ数、Nrf2-/-マウスでリンパ球・好中球・好酸数とタンパク質量が増加した。また、両マウスにおいて好塩基球数が増加した。肺切片のPrussian-Blue染色では両マウスの10、30 μg曝露群においてマクロファージによるFe3O4-PEG-PLGAの取り込みが見られた。Fe3O4-PEG-PLGA曝露により野生型マウスではSOD-1, GcLc, GcLm, MMP-2, TGF-β、Nrf2-/-マウスではTNF-α, KC, MIP-2の肺での発現が増加した。
結論:以上の結果より、Fe3O4-PEG-PLGA曝露はマウス肺において炎症性細胞の浸潤を誘導し、Nrf2はFe3O4-PEG-PLGA曝露による白血球遊走を抑制することが示唆された。
謝辞:Fe3O4-PEG-PLGAの供給に関し、BIORIMA(欧州Horizon2020)パートナー、とりわけISTEC-CNRとCOLOROBBIAに感謝します。