主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
【目的】Acetamide(AA)はラットにおいて強力な肝発がん性を示す。我々はこれまでにAAがラット肝臓において主核の1/2程の直径を有する大型小核(LMN)を誘発することを明らかにし、小核で生じる染色体再構成がその発がん機序に寄与する可能性を見出した。本研究では、発がんの起点と考えられる小核形成機序の解明を目的とし、AA単回投与後のラット肝細胞の経時的変化を検索した。
【方法】雄性6週齢のF344系ラットにAAを6000 mg/kg体重で単回強制経口投与し、投与後1,2,4,6,12,24,48,72または120時間の肝臓を採材し、病理組織学的検査及び免疫組織学的検索に加え、ホルマリン固定後にアルカリ処理で分散した肝細胞標本を用いた核の形態学的検査を実施した。
【結果】二核のうち一方が不整形を呈し小型化した二核肝細胞はAA投与6時間後から認められ、24時間後でその数は最大となった。48時間後には肝細胞のアポトーシス像が高頻度にみられ、小型化した核を有する二核肝細胞は減少したが、LMNを有する肝細胞の出現を認めた。肝細胞の有糸分裂像とKi67陽性細胞の数は72時間後に最大となり、120時間後には小型化した核またはLMNを有する肝細胞が散見されたものの、その他の変化は見られなかった。なお、試験期間中、通常の小核の発生頻度に変化は見られなかった。免疫組織学的検索では、投与6時間後から核膜関連タンパクであるBAFの異常発現が見られ、12時間後には小型化した核において H3K9me3で示されるヘテロクロマチン領域の拡大、48時間後にはLamin B1で示される核ラミナの異常が観察された。
【考察】病理組織学的検査及び核の形態学的検査の結果から、AAが誘発するLMNは二核化した肝細胞から一方の核の小型化を経て形成されることが明らかになった。小型化した核に加え、一部の形態学的に正常な核にも核膜の異常を示すBAFの異常発現がみられたことから、核の小型化及びLMNの形成は肝細胞の核膜異常により生じる可能性が示唆された。