主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
小児用医薬品の開発は、グローバルな課題となっている。小児は、全身の臓器が発育・発達の途上にあり、医薬品に対する反応が成人とは異なる。したがって、小児用医薬品の有効性や安全性を評価するためには、小児の生理的特性を考慮する必要がある。我々は、小児期特異的なアンジオテンシンIIの生理作用に着目し、小児心不全治療薬の創薬研究を進めている。小児心不全は小児の重要な死因のひとつであるが、これまでにエビデンスの示された治療薬はほとんどなく、長年のunmet medical needsとなっている。アンジオテンシンIIは、生体の循環調節に重要な役割をもつペプチド分子であり、細胞膜上のAT1受容体(AT1R)と結合し、Gタンパク質経路とβアレスチン経路を活性化する。我々は以前、AT1R/βアレスチン経路を特異的に活性化するバイアスAT1RアゴニストであるTRV027が、新生児・乳児マウス特異的に強心作用を発揮することを報告した。さらに、新生児・乳児期の心不全モデルマウスにTRV027を継続投与すると、心臓収縮力、生存率が有意に改善することを見出した。TRV027は、他の強心薬で見られるような心拍数や酸素消費量の増大を誘導せず、また慢性投与による心、肝、腎などへの毒性も示さなかった。一方、AT1R下流の両経路を阻害するcandesartan(AT1Rブロッカー)は、心不全モデルマウスの離乳前生命予後を改善しないだけでなく、腎臓の形態的、機能的異常を誘導した。以上の結果から、TRV027は安全かつ有効な小児心不全治療薬候補となることが示された。本講演では、新生児・乳児期特異的な心臓生理機能に関する知見について紹介し、小児用医薬品の開発に向けた非臨床評価法について議論したい。