日本毒性学会学術年会
第51回日本毒性学会学術年会
セッションID: S4-1
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シンポジウム4: 生体金属部会シンポジウム: 〜金属による免疫毒性〜
チタン酸ナノシートがヒト単球に及ぼす毒性影響 -細胞内Ca2+濃度増加によるリソソーム制御不全を介した細胞死-
*西村 泰光
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抄録

チタン酸化物はセラミックスや複合酸化物等の原料や光触媒材料、或いは食品添加物を含め幅広く利用されている。しかし、近年そのナノ粒子について従来の知見とは異なる毒性が明らかとなり健康影響は危惧されるところにある。チタン酸ナノシート(TiNS)は1nm程度の厚みと平らな結晶構造を持つ2Dマテリアルであり、緻密で平滑性の高い膜を形成するため、紫外線遮断バリア膜、半導体材料、耐食膜、触媒等としての産業利用が見込まれ研究開発が進められている。TiNSは二酸化チタン(TiO2)粒子と同様にチタンと酸素から構成されるが、特異なレピドクロサイト型結晶構造を有し、表面積はTiO2ナノ粒子と比べても非常に大きく、異なる毒性影響が危惧された。そこで、我々は細胞培養実験によりTiNSの毒性影響の解析を進めた。TiNSはヒト単球に特徴的な空胞形成を伴うカスパーゼ依存性アポトーシスを誘導し、空胞内部にはTiNSが確認された。TiNSはオートファジー関連遺伝子の発現増加を誘導したが、bafilomycin A1添加の実験結果よりリソソーム機能亢進を介した毒性機序が示唆された。近年、リソソーム由来Ca2+シグナルの意義が指摘されている。そこで、リソソームCa2+放出チャンネルtransient receptor potential mucolipin(TRPML)に注目し、種々の解析を進めた結果、TiNS曝露後の単球においてTiNSの取り込みに起因する細胞内Ca2+濃度およびv-ATPase, TRPML1 mRNAの発現増加が確認された。また、Ca2+がTiNS表面に結合することも確認された。さらに、TRPML作動薬でリソソーム内Ca2+の放出に働くML-SA1はTiNS曝露時にのみ単球の細胞死を増悪させた。細胞内Ca2+キレート剤 BAPTA-AMはリソソーム遺伝子mRNA増加を抑制した。また、既知のlysosomal cell deathはカテプシン(CTS)依存性であるが、CTS阻害剤はTiNS曝露による細胞死を増悪させた。TRPML1チャンネルの増加によりリソソーム由来Ca2+シグナルが亢進し、これにより上述遺伝子の発現が誘導され再びCa2+シグナルが増幅するpositive feedback loopに陥り、リソソーム増加が加速度的に進行し、著しい空胞形成に続くアポトーシスに至ると考えられる。特異な結晶構造と立体的特徴に起因するTiNSの毒性影響は、金属ナノマテリアルによる免疫毒性の新たな作用機序を示す。

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