2016 年 4 巻 1 号 p. 110-119
目的 わが国の生活習慣病対策においてたばこ対策の推進は重要な課題であり,自治体における地域特性に応じたたばこ対策の推進の強化が求められている。しかし,市町村レベルの対策推進の実態に関する報告は少ない。本研究では,岐阜県内市町村のたばこ対策のモニタリングならびに対策の推進方策を検討するため,「たばこ規制・対策の自己点検票(市町村版)」を用いた実証的研究により,市町村のたばこ対策の推進の実態を明らかにした。
方法 対象は,岐阜県内すべての市町村のたばこ対策担当者とした。調査項目は,たばこ対策の推進の実態を包括的に評価するため,「Ⅰ.受動喫煙の防止」「Ⅱ.禁煙支援」「Ⅲ.喫煙防止」「Ⅳ.情報提供・教育啓発」「Ⅴ.たばこ対策の推進体制」の5領域を設定した。
結果 回答が得られた30件(回収率71.4%)を分析対象とした。たばこ対策担当者の職種は保健師が93.3%,たばこ対策担当者経験年数の平均は2.2年であった。官公庁および学校関係のすべての施設について建物内禁煙または敷地内禁煙を実施している市町村の割合は,官公庁が20.0%,学校関係が36.7%と低かった。喫煙者全員に禁煙支援を実施している市町村の割合は,母子健康手帳交付の場が73.3%と最も高く,国保の特定保健指導の場は41.4%と低かった。学校のすべてで喫煙防止教育を実施している市町村の割合は,小学校43.3%,中学校65.5%であった。情報提供・教育啓発に関する実施割合は,ポスターの配布・掲示が93.3%と最も高かった。たばこ対策の推進体制として,喫煙率減少の具体的数値目標を設定している市町村は60.0%であり,たばこ対策の専任担当者の設置は13.3%と低かった。
結論 県内市町村のたばこ対策の5領域の推進状況は,全体として進んでおらず,領域や市町村間の差があることが明らかとなった。特に,たばこ対策の推進体制の整備に加え,建物内禁煙以上の規制内容の受動喫煙防止対策,各種保健事業を活用した喫煙者全員への禁煙支援体制の強化の必要性が示唆された。