抄録
本論文では,現代日本における教育期待の形成メカニズムの特徴を明らかにすることを目的として,中等教育段階における選抜と差異化の面で日本とは性格の異なる教育システムをもつアメリカおよびオランダとの比較検討を行う.日本では高校進学時に異なるタイプ・ランクの学校への進路分化が生じるが,本論文で対象とする中学2年生はこの選抜と進路分化をまだ経験しておらず,それゆえに国際比較の視点から見た日本の位置づけは明確でない.TIMSS2003のデータを用いた分析から,教育期待に対する学力の効果には日本とオランダの間に差が見られず,アメリカではこれら二カ国に比べて弱いこと,他方で,教育期待への出身階層の影響力は三カ国間でほぼ同程度であることが明らかになった.教育期待に対する学力の影響という面では,開放的な中等教育システムをもつアメリカよりも,むしろ「高度に差異化された教育システム」をもつオランダとの間に日本との共通性が見出される.近年のわが国では学力面での大学進学の制約が弱まりつつあるという見方もあるが,国際的に見ると,日本における教育期待の形成は現在でも学力の影響の大きさによって特徴づけられる.