2020 年 4 巻 2 号 p. 83-89
本稿は、幼児音楽教育学者・小林美実による、子どもの「表現」、特に領域「表現」指導に関する所論に焦点を当て、その今日的な意義を明らかにしようとするものである。小林は、幼児教育の場における音楽を含む表現の指導が、子どもの感性の特性、表現能力の発達の過程を無視し、大人中心の極端な活動主義に陥っている現状を批判しながら、1989年幼稚園教育要領において登場した新領域「表現」の新規性を訴えてきた。本稿は、小林の新領域「表現」に込めた思想を明らかにするため、彼女による幼児教育における技能主義的傾向への批判をまず検討し、その上で、大人の側からの評価のまなざしを一時停止させた上で子どもの側からの「自己表現」に座標軸を置く新領域「表現」の意義づけを見る。特にそこにおいて、自己表現の震源であり同時に媒体でもある「身体」への着目がなされていることを確認する。