抄録
ウイルスや細菌の感染からヒトや動物を守る上で、薬剤耐性(AMR)は大きな脅威である。ワンヘルス概念とは、ヒトと動物、それを取り巻く生態系を包括的に捉え、あらゆる分野が「ひとつの健康」の概念を共有して問題解決に当たるべきという考え方である。畜産業では、様々な家畜の疾病が頻発し、多用される動物用抗菌薬が環境細菌のAMR獲得の一因となり、人間医療に大きなリスクを及ぼす。家畜への抗菌薬使用は慎重に行うべきであるが、例えば、現在のウシの身体では、過度な代謝負担や飼養管理ストレスに伴う免疫機能の変調により、子牛の呼吸器病症候群や高泌乳牛の周産期疾病など、様々な疾病が頻発しているため対策が求められる。そのため、機能性栄養素を活用して、ウシのストレス緩和、ストレス耐性能および免疫機能を調節および賦活化することで感染症罹患リスクを低減できる飼養技術の開発が重要となる。そこで我々は、牛の健全性向上と畜産現場のAMRリスク低減の実現に向けて、α-トコフェロール(α-Toc)を活用して牛の疾病を予防する戦略を研究している。本稿では、未解明であったウシのα-Toc体内動態関連遺伝子の発現特性、α-Tocの組織蓄積およびストレス応答や末梢、呼吸器局所の免疫機能に及ぼすα-Toc補給効果に関する知見を中心に紹介し、栄養生理学的視点からウシの疾病予防戦略を考えたい。