抄録
小林秀雄は横光利一の小説「機械」(『改造』1930・9)を、評論「横光利一」(『文芸春秋』1930・11)において高く評価した。しかし、小林の「私小説論」(『経済往来』1935・5~8)の発表前後から、小林の横光への高い評価は変化を見せ始める。
このような評価の変遷はなぜ生じ得たのだろうか。本論ではその評価の変遷を分析すべく、まずは小林による「機械」への高い評価の理論的な解明を試みる。そこでは二人を接近させる、マルキシズム及びカント(新カント派)の理論的な連関を見出すことになるだろう。その理論的連関を通して、小林は横光の「機械」の中に〈様々なる意匠〉を発見することになるのである。