大腸癌培養細胞HT-29の細胞表面に発現しているシアル化Lewis
a抗原に対するモノクローナル抗体(MoAB)H-15を精製し,ペプシン,パパインによりFab,F(ab')
2のfragmentを作成して,
in vitro, in vivoの系においてdosimetry analysisを行い,腫瘍画像診断における有用性を検討した.
[対象と方法]
in vitroの系では,whole MoAbとFab,F(ab')
2の抗原に対する親和性を大腸癌培養細胞株SW403をターゲットとして,mixed hemmagglutination test (MHA)にて判定した.
in vivoの系では,whole MoAbとF(ab')
2の双方をクロラミンT法にて
125Iにより標識し,ヌードマウス腹腔内に投与し,その腫瘍:筋肉比,腫瘍:肝比,および腫瘍:血液比を抗体投与直後より7日目まで連日測定した.また,標識抗体投与後4日目には,移植大腸腫瘍,移植メラノーマ,血液,肝,正常大腸,および筋肉における%injected dose per gram (%ID)の測定も行った.
ヌードマウスにおける腫瘍画像診断は,
125I標識抗体(whole MoAbとF(ab')
2 fragment)投与後連日シンチレーションカメラを用いて,A-PおよびP-A画像の撮影を行った.
この結果をもとにして,直腸癌局所再発患者1例において
131I標識F(ab')
2抗体を投与し,ガンマカメラを用いて抗体の局在を検討した.抗体投与による重篤な副作用は認められなかった.
[結果]ヨード標識をしたwhole MoAbとFab,F(ab')
2の大腸癌細胞株SW403に対するMHAテストではwhole MoAbが×10
4,Fabが×10,F(ab')
2が5×10
3の希釈まで反応を示した.この結果,H-15MoAbに関しては,放射性ヨード標識後はFab fragmentの抗原結合能がいちじるしく低下することが明らかになった.
in vivoの系においては,標識抗体投与後4∼7日目において腫瘍:筋肉比がwhole MoAbで×5,F(ab')
2では×75であり,腫瘍:肝比は,whole MoAbで×3,F(ab')
2で×25,腫瘍:血液比はwhole MoAbで×1.5∼1.8であるのに対し,F(ab')
2では×10とF(ab')
2 fragmentのより高い腫瘍特異的集積が明らかになった.また,%IDもF(ab')
2は移植大腸腫瘍0.56(whole MoAbでは0.36),移植メラノーマ0.03(0.08),血液0.09(0.25),肝0.07(0.10),正常大腸0.05(0.09),筋肉0.02(0.06)と移植大腸腫瘍部において高値を示していた.ヌードマウスにおける画像診断では,F(ab')
2抗体投与後36時間で,移植大腸腫瘍部に抗体の集積がみられ,whole MoAbに比し,早期に腫瘍画像を得ることができた.また,直腸癌局所再発症例においてF(ab')
2を投与した1例では,投与後3日目において腫瘍画像が抽出され,臨床応用への有用性が示唆された.
[考察]wholeのMoAbに対しF(ab')
2 fragmentを腫瘍画像診断に用いることは,(1)早いclearance,(2)抗体の腫瘍へのaccess,(3)Fcによる非特異的集積の減少などの利点があるといわれている.
今回の検討により,in vivo, in vitro,また臨床の場においてもF(ab')
2 fragmentの高度な腫瘍特異的集積が証明され,今後の臨床応用への有用性が示されたものと考えられる.
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