胃癌は術後の補助療法が有効であるか,議論が多く,外国文献では無効であるとの報告が多い.そこで,筆者らの経験した胃癌切除例における術後補助療法の有用性につきretrospectiveに検討を行った.
[対象と方法]対象は1976年10月より94年1月までに胃切除術が行われた胃癌症例541例である.術後の補助療法は,MMC(手術当日,MMC0.4mg/kg,翌日0.2mg/kg静注)+fluoropyrimidine剤(術後14日目より,futraful(600mg/day),または,5-FU(150mg/kg),または,HCFU(400mg/day),またはUFT(300mg/kg)内服)(MF群),fluoropyrimidine剤(F剤)で,それぞれにPSK(3.0g/day)を投与した(それぞれ,MF+PSK群,F+PSK群).また,同時期に行った胃切除術で,補助療法を拒否した症例や主治医が補助療法をしなかった症例を手術単独群として検討を行った.Coxの比例ハザードモデルを用いて予後因子(性別,年齢,腫瘍最大径,pTNMステージ,術後補助療法)を検討した.
[結果](1) pTNMステージIB,II,III(IIIA+IIIB)およびIVの5年生存率は,それぞれ87.1%,69.1%,42.3%,6.6%であった(図1).
(2) 術後補助療法は胃癌患者には有用であったが,化学療法とPSK併用化学療法との間には有意差を認めなかった(図2).
(3) Coxの比例ハザードモデルを用いた予後因子の検討では,(1)胃切除術vs MF群では,pTNMステージ,年齢がもっとも強い予後因子で,ついで性別,腫瘍最大径,補助療法の順であった(表3).(2)胃切除術vs F群では,pTNMステージがもっとも強い予後因子で,ついで腫瘍最大径,補助療法の順であった(表3).(3)胃切除術vs MF+PSK群および胃切除術vs F群では,pTNMステージがもっとも強い予後因子で,ついで腫瘍最大径,補助療法の順であった(表4).(4)MF群vs F群では,pTNMステージ,年齢がもっとも強い予後因子で,っいで性別,組織型,補助療法の順であった(表4).(5)MF+PSK群vs F+PSK群ではpTNMステージがもっとも強い予後因子で,ついで腫瘍最大径の順であった(表5).
(3) 10年相対生存率は,胃切除術,MF群,MF+PSK群,F群,F+PSK群は,それぞれ0.0%,61.9%,78.2%,57.2%,76.3%であった(図3).
[考察] 西洋諸国では,胃癌に対する補助療法は有効ではないと報告されたり3),ステージII,III,IVの5年生存率も,Hallisseyらの報告では2),それぞれ,39%,18%,5%と予後不良でわが国の報告とは異なっていることより,胃癌そのものが異なっているのではないかと考えられている13).
今回の検討では,胃癌に対する術後補助療法は胃切除術単独に比し有用であり,特にPSK併用化学療法の有用性が認められた.しかし,MF化学療法を選択する場合には患者の年齢を配慮する必要があり,高齢者には,非適応と考えられた.
抄録全体を表示