白内障は眼の水晶体が濁り, 視力を失う疾患で, 80歳以上の老人では誰もが発症する. その発症原因として, 水晶体透明性に関与する蛋白質であるクリスタリン (crystalline: Cry) の異常凝集があげられる. これまで, Cry中において特定部位のアミノ酸が, 老化という長い年月を経て化学的に変化し, それがCry異常凝集につながることを筆者らは明らかにしてきた. 本稿では, これらの分析に用いた筆者らが独自に開発した分析手法を本稿前半で紹介する. 一方, これらの修飾がCryに与える影響を調査するためには, 変化がみられたアミノ酸部位に各種修飾アミノ酸を導入したCryを作製し, その物性を野生型Cryと比較すればよい. また, 各種修飾アミノ酸を導入したCryを用いた各実験の結果より, Cry分子表面に生じる脱アミド化修飾および異性化修飾がCry異常凝集を引き起こすことを報告する.

ルテイン (lutein, 以下, Lu) の抗酸化作用は加齢黄斑変性の予防に有効とされているが, 白内障の抑制についての効果は明確ではない. 従来の研究では異なる個体間で比較し, 遺伝, 生活習慣などの交絡因子や日々摂取量の変動について考慮されていなかった. 筆者らはこれらの影響を最小限にするため, 摂取量が一定のサプリメントを用いて, 同一人の内服前後で比較した. 両眼同程度の白内障で手術を受ける患者を対象として, 片眼の白内障手術を行い, Lu含有サプリメントを6週間内服したあと, 僚眼の白内障手術を行った. サプリメント内服前後の白内障手術時において, 血清, 房水および水晶体上皮細胞が付着している前囊を採取した. 結果として, サプリメント内服後に房水中のスーパーオキシド消去能が上昇し, 過酸化物質総量が低下した. 前囊におけるペントースリン酸回路の律速酵素であるglucose-6-phosphate dehydorgenaseの発現および蛋白質生成に関連する 18S rRNAが上昇し, 過酸化水素の透過チャンネルである aquaporin 8の発現が低下した. Lu含有抗酸化サプリメントは, 水晶体の過酸化を抑制し, 白内障の発症および進行を予防する可能性が示唆された.