【はじめに】三角骨骨折を受傷し4週間のギプス固定をした後に手関節の尺側部痛および尺骨神経領域の感覚障害を主訴とする症例に対し理学療法を行う機会を得た。超音波画像診断装置(以下,エコー)を用いて,短小指屈筋(flexor digiti minimi brevis:以下,FDM)の動態を明らかにし,効果的な運動療法を行ったことで症状の改善が得られたため,その考察と運動療法について報告する。
【症例紹介】40歳代男性である。転倒した際,側方のコンクリートに小指球側面を打ち付けて受傷した。
【経過】主訴は,手関節の尺側部痛および尺骨神経領域の感覚障害であった。Guyon管症候群の検査はいずれも否定的であった。FDMの起始部で圧痛や伸張痛を認め,有鉤骨鉤の尺側でTinel signが得られた。FDMの動態についてエコーを用いて評価したところ,健側ではFDMの最大収縮時にFDMが尺骨神経の表層に乗り上げる動態が確認されたが,患側では移動が少なかった。FDMにおける柔軟性の改善や尺骨神経の滑走を目的に運動療法を行ったところ,疼痛および神経症状が消失した。
【まとめ】本症例の手関節の尺側部痛および尺骨神経領域の痺れは,筋と神経の滑走不全により誘発されているものであり,FDMの拘縮が尺側部痛に関与していると考えられた。FDMの過敏な伸張痛や可動域制限などの理学所見に加え,FDMと尺骨神経間の滑走性の低下についてエコーを用いて評価したことで効果的な運動操作が決定でき,症状の消失に至った。
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