道徳と教育
Online ISSN : 2435-1199
Print ISSN : 0288-7797
338 巻
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  • 鈴木 宏
    2020 年 338 巻 p. 3-13
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は、人類の平和の実現という理念に対して、道徳教育の領域をどのように位置づけられるのかを明らかにすることである。考察を進めるにあたり、本稿では平和思想の哲学的基盤を築いたカントの議論に焦点を当てる。カントによれば、人間は本来的に「非社交的社交性」と呼びうるような傾向性をもっており、それが人間の自然素質を発展させてきたという。その一方で、非社交的社交性は、時に他者に対する攻撃的な情念として現れ、人間関係そのものを破壊してしまう危険性を秘めてもいるという。そこで本稿では、非社交的社交性がもつ危険性について整理し、その根本的な原因である人間の「悪への性癖」とは何かを分析する。その上で、悪への性癖を乗り越える手段としての道徳教育の意義を検証する。カントが提起する「心のあり方の革命」と「漸次的な改革」という二つのキーワードを参照しながら、具体的な道徳教育の方法にも論究する。
  • 中野 真悟
    2020 年 338 巻 p. 15-26
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    複雑で予測困難な社会で、道徳科の年間指導計画に実効的なカリキュラム・マネジメントを学校組織全体で行うためには、どのような組織学習を行えばよいのかについて考察した。道徳科の年間指導計画のカリキュラム・マネジメントを行う際は、シングル・ループ学習に加え、前提を修正することも視野に入れたうえで実践に臨む、ダブル・ループ学習も行うことが有効であると考えられる。また、年間指導計画の弾力的な取り扱いが必要となったときには、OODAループも取り入れることが効果的ではないかと考えられる。それらをまとめ、「1年間のシングル・ループ学習を土台とし、OODAループで短期間における修正を行いながら、前提の修正も視野に入れたダブル・ループ学習を行うカリキュラム・マネジメント」である、カリキュラム・マネジメントの三層ループ構造を構想した。
  • 浅部 航太
    2020 年 338 巻 p. 27-39
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    道徳科では、発達の段階や教材の特徴を考慮した上で、子供に考えさせたい学習内容を焦点化する「ねらいの明確化」が重要である。そこで教師がねらいの明確化を容易に行えるよう、「感謝」を扱う小学校教科書教材を分析し、全教材の特徴を把握できる一覧表を作成した。そして、一覧表を活用したねらいの検討を通して、ねらいの明確化が図られたかを検証した。 まず、教材を分析する視点を検討し、(1)感謝の対象、(2)主人公・登場人物・読み手の関係性、(3)支える側の思いの描写、(4)感謝生起状況、(5)状況評価、(6)感謝生起後の対人行動、(7)「弱さ」の有無、の7つの視点を設定した。次に、視点をもとに全55教材を分類し、一覧表に整理した。最後に、一覧表を活用しねらいの検討を行った。結果、学習内容が焦点化されるなど、従来のねらいに比べ改善が図られた。また、一覧表がねらいの明確化を行う際の判断材料となる点や、系統性の理解に役立つ点が示唆された。
  • 齋藤 道子
    2020 年 338 巻 p. 41-52
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    グローバル化の進展に伴い多文化共生の地球時代となった。ICTは驚異的な発達を遂げ、AIが人間を越えるシンギュラリティの時代も近い。物質文明の恩恵を享受する一方、精神文明の荒廃が危惧され、心の教育や道徳教育が一層重要視されている。新学習指導要領を踏まえ、道徳科においても「資質・能力」の育成視点に基づく「授業改善」及び「カリキュラム改善」が求められている。 本研究では、道徳的資質・能力を「道徳性の育成視点」と、道徳的な「ものの見方・考え方・学び方の育成視点」の2つの側面から捉え、ビックテーマを「人権教育」として、総合的な学習の時間を枠組みに、人権意識の覚醒を中核とした「総合単元的プログラム型道徳学習」を構想し、2つの側面からの道徳的資質・能力の育成を試みる。また、検証授業を通して課題を明らかにし、今後のさらなる研究につなげていく。
  • 谷口 雄一
    2020 年 338 巻 p. 53-64
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は、道徳授業に関する校内研修の在り方について検討することである。そのために、道徳授業に関する校内研修においてOPPシート(One Page Portfolio シート)を活用することにより教員自身が校内研修を通しての学びや自身の成長について自己評価することに取り組んだ実践をもとに考察した。この結果、次の3点の必要性が導出された。(1) 教員自身が自らの学ぶ目的を明確にすること。(2) 教員自身が校内研修を通した自身の学びを評価すること。(3) 教員自身が校内研修を通して得られた学びの成果を実感すること。
  • 星 裕
    2020 年 338 巻 p. 65-74
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/06/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、「道徳の指導法」において学生に求められる資質・能力を育むために理論と実践の関連を図った授業をデザインし、実践した結果を検討した。授業計画のデザインにあたっては、ウィギンズらの「逆向き設計」の3段階を基盤とし、各回の授業のデザインではガニェらの「9教授事象」を視点として取り入れた。その結果、本研究でデザインした授業は学生に求められる資質・能力を育成することにつながったことが示唆された。 本研究でデザインした授業のもつ意義として、次の2点が挙げられた。1点目は、「道徳の指導法」における理論と実践の関連を図る1つの方法を示したことである。2点目は、学生に求める資質・能力が明確な目標達成型の科目において意義があると考えられることである。そのため、学生に教員として最小限必要な資質・能力を身に付けさせることが求められる教員養成段階において有効な授業デザインの1つとして考えることができる。
  • 浅見 哲也
    2020 年 338 巻 p. 77-
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
    小、中学校共に特別の教科 道徳の全面実施を迎えた。主たる教材として道徳科の教科書を使用して授業を行うこと、その授業で子供を評価することが、教科化により大きく変わったところである。道徳科の評価は、指導に生かされ子供の成長につながる評価でなくてはならない。そのためにも評価の意義や重視している学習活動に着目し、その意義を理解した上で指導の工夫を行うことが大切である。子供が、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を広い視野から多面的・多角的に考え、自己の、あるいは、人間としての生き方についての考えを深める学習を展開することこそ、子供の道徳性を養うことができる授業と言える。
  • 大藏 純子
    2020 年 338 巻 p. 89-
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
    評価は、授業づくりと一体であり、学習姿勢の蓄積から生み出されるものであるにも拘わらず、授業は従来のままで評価文例だけを児童に当てはめる実態が見受けられる。そこで、本稿では、各教科と同様に道徳科でも求められるようになった「指導と評価の一体化」の具現について検討した。一つ目に、多面的・多角的な見方や考え方を交流できる問題解決的な道徳授業から、パフォーマンス評価の在り方とルーブリックの作成について検討した。二つ目に、指導と評価を往還させる実践を通して、ポートフォリオ評価とエピソード記録評価の在り方について考察した。その結果、授業を質的に転換することにより、学びのプロセスが見える評価が可能となった。そして、蓄積した評価を基に、児童と教師の評価を関連付けた総括的評価を行うことは、児童が自らの成長を実感し、更に意欲的に取り組もうとするきっかけになることについても確かめられた。
  • 富岡 栄
    2020 年 338 巻 p. 99-
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
    評価が道徳の特別の教科化により注目されるようになったが、その関心の中心は評価に関する記述文であり、評価の意義を理解し指導に生かす意識は薄い傾向にある。本来、評価は指導の改善に資する役割を担っており、指導と評価の一体化を図っていくことが課題である。この課題解決に向け、まず、ねらいの明確化を図る必要性や重要性を述べた。さらに、ねらいの明確化を図る方途として方向目標と具体目標を設定することを提案した。方向目標はこれまで一般的に表記されてきたものとし、具体目標は道徳科の目標に示されている四つの内容㋐道徳的価値の理解、㋑自己を見つめる、㋒(広い視野から)多面的・多角的に考える、㋓自己(人間)の生き方について考える、を基本として設定した。そして、この具体目標を評価していくための評価規準を示した。また、この提案に対する具体例を例示した。以上のように指導と評価の一体化を図っていくための道筋について論じた。
  • 西野 真由美
    2020 年 338 巻 p. 109-
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
    「指導と評価の一体化」は、学習の過程における評価を指導改善に生かすという評価の機能に焦点をあてる役割を果たしてきたが、現代の学習論・評価論から見ると、指導も評価も教師の行為と位置づけられていることに課題がある。本稿では、道徳科における「指導と評価の一体化」を新たな学びを実現する視点で再構築するため、「学習としての評価」や「自己調整学習」の研究成果に基づいて、子ども自身が行為主体となる自己評価を軸に学習指導と評価を一体化する道徳授業の学習過程を構想する。
  • 吉田 誠, 逸見 裕輔
    2020 年 338 巻 p. 121-
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では道徳性に関わるスタンダードに基づく評価とエピソード評価を統合する方法を検討するために、道徳科の単元構成を計画し、実施した授業者のエピソード評価の思考や視点を分析、考察した。その結果、教師の視点やスタンスを自覚した上で子どもの生き生きとした姿を柔軟なコンピテンシー・モデルと重ねて捉え、そこに見られるズレや違和感を探求し続けることでエピソード評価の妥当性や有効性を担保できる可能性を明らかにした。また、柔軟なコンピテンシー・モデルとホワイトボード・ミーティング®を用いたエピソード評価の方法について、垂直的な発達の評価の観点からは成長した点と課題が残る点を捉えて指導の改善に活用できることを、水平的な発達の評価の観点からは授業者の思考が整理され、現状の強みと課題が可視化されることで子どもたちの実態と今後の指導に向けた目標を明確にすることができることを明らかにした。
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