本研究の目的は、道徳科と音楽科の関連授業を支える核となる考え方を抽出することである。そのため、音楽による感情経験を重視することによって、道徳性の育成や人間形成のあり方を提案したアメリカの音楽教育学者ジェームス・L・マーセルの道徳教育原理を手掛かりとする。具体的には、1 .音楽を生かした道徳授業に関する課題を整理した上で、2 .マーセルの道徳教育原理を整理し、3 .道徳科と音楽科の関連授業をプロジェクトメソードとして捉え、有意義な感情経験の機会として、「創造的な社会的自己表現creative social self-expression」や「達成感experience of achievement」を生み出す関連授
業を試みた。これにより、関連授業を支える条件として、達成感を呼び起こす感情経験と、児童自らが創造し自己表現から生じた感情の存在に喜びと価値を生み出すことの必要性が明らかになった。
新型コロナウィルスの感染拡大により、ICTの活用は教育現場の喫緊の課題となっている。また、
Society 5 .0に向けた学校教育の在り方を考える上でも教育情報ツールは必要不可欠である。しかし、全国規模で見てもその環境整備や授業実践は乏しい。特に、道徳科においては、従来の活用形態として映像やBGM等の教材提示が挙げられる。しかし、このような教師主導的な活用だけでなく、これからは児童の主体性を生み出す活用が求められる。そこで、本実践研究では、主体的・対話的で深い学びを促すICTの活用とその学習効果について考察することを目的とした。そのために、道徳科の主体的・対話的で深い学びを検討し、学びを促すためのICTの活用の目的を定立した。そして、2つの検証授業からその学習効果を分析した。結果、ICTの活用を通して、少数意見に含まれる言葉の可視化から問題意識を引き出したり、情報の共有化から自己表現の多様性を高めたり、自己の振り返りを深化させたりすることができた。