日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
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  • 新井 宏受, 徳地 直子, 木庭 啓介
    セッションID: P1-081c
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    森林土壌は多くの有機物(SOM: Soil Organic Matter)を蓄積している。森林土壌中のSOMは全球的な物質循環過程においても重要な位置を占め、その動態把握は重要であると考えられる。安定同位体比分析は、起源植生や土壌中で受けた作用に関する情報を残していることからSOM動態把握に有用である。そこで、本研究では炭素・窒素に着目し、安定同位体を用いた森林土壌中のSOM動態の把握を目的とした。
    調査は京大フィールド研和歌山研究林のスギ人工林内で行い、120cmまでの土壌サンプルと表層リターを採取した。試料は風乾後、炭素・窒素濃度、安定炭素・窒素同位体比を測定した。
    全層位を通して深度が増すにつれ有意に炭素濃度と窒素濃度は低下し、窒素同位体比は増加傾向を示した。一方、炭素同位体比は深度に伴う有意な傾向は見られなかった。さらに、炭素と窒素の深度に伴う濃度、同位体比の傾向の変化から、土壌プロファイルは上下2層に分離できた。その場合、上層では深度に伴い炭素・窒素濃度は有意に急激な低下傾向を示し、同位体比は増加傾向を示した。これらのことから、本調査地では特に上層において炭素・窒素の分布に分解が強く影響を与えていることが示唆された。しかし、下層での深度に伴う傾向は炭素と窒素では異なり、炭素濃度は深度に伴う有意な傾向を示さなかったが、窒素濃度は上層よりも弱いが、有意な低下傾向を示した。また、下層での同位体比は炭素、窒素共に深度に伴う有意な傾向を示さなかった。このような違いをさらに炭素同位体比より推定された古植生起源の有機物の存在割合、Isotopic discrimination factorを合わせて考察した結果、特に下層での炭素と窒素の蓄積機構に大きな違いが存在する可能性が示唆された。また、特に森林土壌中の炭素動態を把握する上では古植生を考慮することが必要な場合があると考えられた。
  • 中村 雅子, 香川 裕之, 江成 敬次郎
    セッションID: P1-082c
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    最近、冬の田んぼに意図的に浅く水を張る冬・水・田んぼという農法が日本各地で行われている。冬・水・田んぼは春の抑草効果、その結果の減農薬、冬鳥のカモ類の利用がある場所では冬鳥の生息地の保全、またカモ類が利用した際に落ちた排泄物の施肥効果が期待されるなど、生き物と共存する環境保全型農業として注目されている。しかし、冬・水・田んぼに関する調査は始まったばかりでデータの蓄積が急務である。そこで、冬・水・田んぼを行った際のカモ類排泄物の施肥効果について仙台市内の田んぼで調査を行った。
    カモ類排泄物の施肥効果を検証するために冬・水・田んぼの土壌養分(N・P・K、ケイ酸、炭素)の経日変化を追い、湛水開始時と田植え直前で養分量を比較した。また、冬・水・田んぼは秋耕せずに冬に水に張るため、対照区として慣行区(秋耕あり・湛水なし)、不耕起区(秋耕なし・湛水なし)を設け、さらにカモ類の利用がない湛水防鳥区(秋耕なし・湛水あり)を設け、計4調査区の土壌養分の経日変化を追った。
    結果、Nに関しては全ての調査区で調査開始前と開始後で土壌中のNは減少を示し、P・Kは全ての調査区で増加し、ケイ酸については土壌の表層で全調査区において増加傾向を示した。また炭素に関してはほとんど変化が見られなかった。測定項目の増加・減少の幅に調査区間での大差はなかった。つまり、P・K・ケイ酸について、冬・水・田んぼ区で土壌養分の増加が見られたが、対照区においても同様に増加が見られたため、今回の調査結果からは冬・水・田んぼにおけるカモ類排泄物の施肥効果は認められなかった。ただし今回の調査では、湛水が上手く保持できなかったこと、冬・水・田んぼ初年度だったこと、カモ類が採食場として利用していたことなどがあり、今後、ハクチョウがネグラとして利用している田んぼや何年も冬・水・田んぼを行っている田んぼなどでの調査を行い、どのような鳥の利用があれば施肥効果になるのかを検討する必要がある。
  • 周 承進, 林 明姫, 今川 克也, 中根 周歩
    セッションID: P1-083c
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    大気中の二酸化炭素濃度増大による地球温暖化の問題は21世紀以降に向けて深刻な問題である。森林をめぐるCO2固定対策は少なくとも数十年のスパンでの施策計画が求められるが、その際予測される温暖化環境下での森林、樹木のCO2固定能の変動予測が不可欠である。そのためには、人為的に温暖化環境を創出できる施設を用いて、長期にわたって樹木の生理生態、光合成能、土壌有機物の分解能などを追跡する必要がある。そこで、2002年広島大学精密実験圃場(34゜24´N, 32゜44´E, 230 m a.s.l.)に設置したオープントップチャンバー6基を使用して、B1(外気±0℃と外気CO2濃度の1倍)、B2(±0℃と1.4倍)、B3(±0℃と1.8倍)、A1(+3℃と1倍)、A2(+3℃と1.4倍)、A3(+3℃と1.8倍)の6通りの環境設定で、植栽した常緑広葉樹(アラカシ)の光合成能、蒸散能、純生産量、生産物の再配分、リター分解及び幹、根系、土壌呼吸などの研究が進行中である。本研究では、2003年5月から1年間の6基のオープントップチャンバーの制御環境を検討することを目的とする。光量子束密度についてはチャンバーの覆(エフグリーン)の影響で外より約3%程度下がったが、6基すべて等しく維持された。外気、B1、B2、B3、A1、A2、A3基での年平均気温は、それぞれ14.1℃、14.1℃、13.9℃、14.0℃、16.9℃、16.6℃、16.7℃となり、B系とA系の間に約2.7℃の温度差が維持された。地温の場合は、それぞれ15.5℃、16.1℃、15.6℃、15.9℃、17.4℃、17.9℃、16.7℃となり、B系とA系の間に約1.5℃の温度差が生じた。相対湿度と土壌水分は、外でそれぞれ76%、28%、B系で78%、30%、A系で66%、26%となり、A系の方が若干低く維持された。外気、B1、A1、B2、A2、B3、A3基での年平均CO2濃度(昼間)は、それぞれ392、389、393、552、547、705、701 ppmとなり、外気の1倍、1.4倍、1.8倍の目標濃度で正確に維持された。
  • 林 明姫, 今川 克也, 周 承進, 中根 周歩
    セッションID: P1-084c
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    本研究では、広島大学精密実験圃場に設置したオープントップチャンバー(OTC)6基を用いて異なるCO2 濃度と温度の温暖化環境に制御された条件下で、1年間生育した常緑広葉樹(アラカシ、Quercus glauca)の成長の特徴を分析し、上昇する大気のCO2 濃度と温度の相互要因が植物の成長に与える影響を考察することを目的とする。2002年11月、216個体のアラカシ(3年生)の樹高、地表直径などの毎木調査を行い(平均樹高±SD:126.0±13.7 cm、平均地表直径±SD:16.3±1.8 mm)、6基のOTCそれぞれに36個体ずつ植栽した。別の49個体のアラカシを伐倒して、幹、枝、葉及び根の乾重量を測定し、相対成長関係を適用して、植栽されたアラカシの初期個体重を推定したが(平均個体重±SD:158.8±33.5 g)、6基のOTCの間に有意差はなかった。2003年4月から6基のOTC内の環境条件の制御が開始され、B1(外気±0℃と外気CO2 濃度の1倍)、B2(±0℃と1.4倍)、B3(±0℃と1.8倍)、A1(+3℃と1倍)、A2(+3℃と1.4倍)、A3(+3℃と1.8倍)の6通りの環境条件を設定した。ただし、夜間においてCO2 濃度は6基すべて外気濃度に追従した。2003年11月、6基のOTCでの毎木調査(36個体ずつ)とOTC周囲に植栽されたアラカシ12個体の伐倒調査を行い、6通りの環境条件下での生育期間1年のアラカシの成長を調べた。B1、B2、B3、A1、A2及びA3区において、平均樹高はそれぞれ136、153、144、161、164、173 cm、平均地表直径はそれぞれ17.9、19.1、18.8、19.4、20.8、21.3 mm、平均個体重は198、244、225、263、299、329 gとなり、高CO2 濃度と高温の正の影響が認められた。相対成長率(RGR)の場合、B1区で0.25、B2区で0.38、B3区で0.33、A1区で0.52、A2区で0.57、A3区で0.71となり、高CO2 濃度と高温の相互作用の影響が見られた。地下部重/地上部重は、B1区で0.48、B2区で0.44、B3区で0.46、A1区で0.43、A2区で0.47、A3区で0.45となり、有意差はなかった。
  • 土井 裕介, 菱 拓雄, 森 章, 武田 博清
    セッションID: P1-085c
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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     樹木の細根動態を調べる事は,森林生態系の物質循環を考える上で重要である。本研究では,中部山岳地帯に位置する御岳山の亜高山帯林(標高 2050 m)において,細根(直径 2 mm 以下の樹木根)の現存量,生長量,季節変化,そして垂直分布を調べた。現存量,生長量,季節変化を調べるために,2 ヶ月ごとに土壌コアとイングロースコア(共に深さ 8 cm)のサンプリングを行った。イングロースコアの中に詰める基質は調査プロット付近の根を取り除いた鉱質土と,バーミキュライトの 2 種類を用意した。根の垂直分布を調べるために,プロットの付近に深さ 52 cmの土壌断面を1箇所作成し,4 cm間隔で,それぞれの深さから5つコアを採取し,細根の垂直分布を調べた。直径2 mm以上の根(太根)の分布は,土壌断面に現れた太根の直径,地表面からの深さから求めた。
     垂直分布の結果から,全体の 9 割近くの細根が表層から深さ 8 cmまでに集中していた。一方,太根は表層から見て4 cm - 12 cm の間に多く存在した。また,土壌コアで得られた樹木の細根の現存量は 163 g m-2 (2003 年 5 月のデータ)で,Vogt (1996) の寒帯のデータと近い値を示した。しかし,イングロースコア(基質:バーミキュライト)で得られた細根の純一次生産量(NPP)は12.8 g m-2 year-1,ターンオーバー速度は 0.079 year-1と寒帯で行われた先行研究と比べるとかなり遅かった。季節変化を見てみると,5 月 - 7 月は変化が少なく,7 月 - 9 月に活発に伸長し,9 月 - 10 月にわずかに枯死が起こり,10 月 - 翌年 5 月に再び伸長が始めていた。これらの結果から,このサイトにおける細根の生長は遅く,寿命が長いことが推察される。そのことは,冬季における長期間の積雪のため樹木の生長期間が短いことに加え,このサイトの葉リターフォール量は 238 g m-2 year-1と多く,土壌の有機物層は厚く,含水率も高いこと(Tian 1997),つまり土壌が根にとって良い環境にあることが関係しているのかもしれない。
  • 河野 尚美, 冨山 清升
    セッションID: P1-086
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    ヒメウズラタマキビガイLittoraria intermediaはタマキビガイ科に属する雌雄異体の巻貝で,瀬戸内海や有明海などの内湾の岩礁や礫地などに生息している。鹿児島湾喜入町愛宕川河口と鹿児島市祇園之洲海岸の二カ所で本種の殻のサイズ頻度分布の季節変動を明らかにし,生活史を検討した。また,垂直分布の季節変動から生息場所の季節変化を調査した。祇園之洲は,海岸の改修工事が行われている地域で,生息環境の攪乱が本種個体群に与える影響も考察した。調査の結果,本種は春と秋に幼貝の新規加入が認められたが,年によっては新規加入が行われない年もあった。垂直分布の季節変化から,冬季の寒さを避けて,生活場所を変える季節的な移動習性も認められた。祇園之洲個体群では,新規の幼貝の加入がまったく認められず,年々,個体群を構成する個体サイズが大型になる傾向がある。今後もこの傾向が続くと,近い将来,祇園之洲地域のヒメウズラタマキビが消滅していまう事態が危惧される。隣接する自然海岸の本種個体群には幼貝加入が認められることから,祇園之洲個体群の幼貝未定着の現象は,海岸整備による攪乱が大きいものと思われる。
  • 永光 輝義, 河原 孝行, 金指 あや子
    セッションID: P1-087
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    北海道日高地方のアポイ岳にのみ生育する絶滅危惧種アポイカンバの繁殖を調べた。 胚珠数に対する健全(充実または発芽)種子数の比率は無受粉と自家受粉が他家受粉よりも低く自家不和合性があった。 また、胚珠数に対する健全種子数の比率は自然受粉が他家受粉よりも低く60 m以内の個体数が増えると高くなった。 よって、自然条件では健全種子の生産が花粉不足によって制限されていたといえる。 アポイ岳にはアポイカンバとダケカンバがともに生育している。 開花時期と花粉散布時期は、アポイカンバが早いものの両種の間で重なった。 しかし、胚珠数に対する健全種子数の比率は、ダケカンバとの種間受粉が種内の他家受粉より低かった。 よって、アポイカンバはダケカンバとの間に不完全な生殖隔離の機構をもっているといえる。
  • 伊藤 健二, 田渕 研
    セッションID: P1-088
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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     ホソヘリカメムシRiptortus clavatusは大豆子実を吸汁加害する重要害虫であるが、その生活史に関しては不明な点が数多く残されている。特に、越冬に関する知見は乏しく、本種がどのような場所で越冬しているのかについての系統的な調査は行われていない。本種の越冬場所を明らかにすることは、生活史の解明という意味だけでなく、大豆圃場での発生初期の密度を予測し, 効果的な防除を行う上できわめて重要な意味を持つ。そこで、ホソヘリカメムシの越冬する環境を推定することを目的として、様々な環境を人為的に再現し、越冬期間を通じてそれらを選択させる野外実験を行った。
     茨城県つくば市の中央農業総合研究センター敷地内に3m*3m*1.8mのケージを四つ設置して1mmメッシュの網で覆い、その中に4つの環境となる基質 a)敷石, b)枯死イネ科雑草, c)広葉落葉(ケヤキ・ニレ主体)d)枯死スギ枝葉+スギ幼木(以下, 人工スギ林)を等面積に配置した。越冬期前に休眠状態に調節したホソヘリカメムシの飼育個体を放飼し、越冬後全ての環境基質を精査して放飼した個体を回収した。実験は2003年12月から2004年3月まで行った。
     実験の結果、放飼したホソヘリカメムシのうち72.8%が回収されたが、全ての放飼個体は死亡していた。死亡個体が回収された環境基質を「越冬場所として選択した基質」として解析すると、基質をランダムに選択しているという帰無仮説は棄却され、人工スギ林>枯死イネ科雑草>広葉落葉>敷石の順で選択する傾向があることが示された。
  • 阿部 恵子, 大原 雅
    セッションID: P1-089
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    虫媒花の主要なポリネーターの1つであるマルハナバチでは巣内に幼虫がいる期間は花粉・蜜の両方を必要とするが、巣の解散間際には幼虫がいなくなるため花粉を採餌する必要がなくなる。マルハナバチが利用する餌資源の季節的変化は植物の繁殖戦略にも大きな影響をもたらすと考えられるが、近縁な植物種を対象として、その繁殖特性とポリネーターが必要とする餌資源との関係を明らかにした例はない。本研究で対象としたイチヤクソウ亜科には、花粉花の種(イチヤクソウ属5種)と花粉・蜜両方をもつ種(ウメガサソウ属2種、コイチヤクソウ属1種)の両方が認められ、北海道においては同所的に生育している。主要なポリネーターであるマルハナバチの採餌行動とイチヤクソウ亜科8種の開花時期との関係を明らかにするため、北海道千歳市の針葉樹林下においてイチヤクソウ亜科の開花時期、マルハナバチ4種の営巣期間、訪花頻度の調査をおこなった。
    その結果、(1)イチヤクソウ亜科8種の開花ピークはそれぞれ異なっていること、(2)花粉花5種は花蜜をもつ3種よりも早く開花すること、(3)花蜜をもつ種の開花時期は主要なポリネーターであるエゾコマルハナバチの巣の解散時期と一致していること、などが明らかになった。イチヤクソウ亜科における開花時期は、同所的に生育する近縁種との種間競争および花粉媒介者であるマルハナバチの餌資源の双方によって規定されているものと推察された。
  • 伊原 禎雄
    セッションID: P1-090
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    アジア産サンショウウオの地域ごとの餌の違いや捕食行動の比較については,これまで未調査であった.そこで,トウキョウサンショウウオの神奈川県横須賀市津久井,野比,山中,千葉県夷隅町万木,福島県いわき市四ツ倉の各個体群の餌組成や捕食行動を比較し,その違いや共通性を検討した.本研究では総計で82個体のトウキョウサンショウウオを捕獲し,胃内洗浄法を用いこららの内59個体から個体を傷つけることなく胃内容物を採取した.その結果,検出した個体あたりの胃内容物の湿重量,捕食した餌個体の体長や体積には地域間での差は無いことが示唆された.餌動物の内,ミズムシを除いた動物の全てが土壌動物であり,各地点の餌組成の個体数割合の中で等脚目の占める割合が最も高かったが,地点ごとに捕食された主要な等脚目の種は異なっていた.この結果から,トウキョウサンショウウオは生息地の潜在的な餌資源のなかで等脚目を餌として選考することが示唆され,サンショウウオの餌とする等脚目の選考基準として個体数や体の大きさの違いが重要な要因の様であり,餌とする等脚目の生態にあわせて捕食活動を変化させている可能性が示唆された.
  • 柴山 弓季, 植田 好人, 角野 康郎
    セッションID: P1-091
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    自殖性絶滅危惧水生植物ヒメシロアサザの地理的変異

    柴山弓季(東京大・農学生命科学研究科)・植田好人(神戸市立西高校)・角野康郎(神戸大・理)
     
    日本産アサザ属には他殖性を示す異型花柱植物アサザとガガブタのほかに、ヒメシ
    ロアサザNymphoides coreana (Lev.)Haraが存在し、3種とも絶滅危惧植物に指定
    されている。最近の繁殖生態学的研究の結果、ヒメシロアサザは他の2種と異なり、
    自動自家受粉による高い自殖性を維持していることが明らかになった(植田・角野,
    未発表)。ヒメシロアサザは、栃木県から西表島にわたって約10数個体群程度が局所的に残存しているに過ぎない。そこで本研究では、自殖性を示す本種の各個体群にみられる遺伝的分化を調査した。
     各個体群から採集した種子を材料に発芽特性、種子形態(表面突起の有無)、種子サイズ、重量、花冠サイズおよび生活史(多年生か一年生か)を比較観察した。
     その結果、上記の形質において顕著な地理的およびハビタット間(ため池か水田)分化が認められることが明らかになった。さらに、酵素多型分析により多型が認められたPGM, MDH, TPI, ADK, SkDHを組み合わせたmultilocus genotype(MLG)を決定したところ、各個体群に特有なMLGが存在していることが分かりそれぞれの個体群の遺伝的分化も裏付けられた。共有対立遺伝子距離に基づいた樹形図から、岡山県の個体群でさらなる遺伝的分化が確認された。このような分化は、自殖という繁殖様式によってお互いの個体群が遺伝的に隔離される中で生じてきたものと推測される。
     今回の結果は、遺伝的多様性保全の観点から残存するすべての個体群の保全に努めることの必要性を示している。今後は、ヒメシロアサザ個体群の存続可能性を検討するためにF1, F2を作出して、近交弱勢や他殖弱勢の存在などを確認する予定である。
  • 平山 貴美子, 石田 清, 戸丸 信宏, 鈴木 節子
    セッションID: P1-092
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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     シデコブシは、東海地方の里山湿地に生育するモクレン属の樹木であり、絶滅が危惧されている。温帯域のモクレン属では、特有の繁殖システム(asynchronous flowering, self-compatibility)によって、木本植物の中でも高い自殖率を示すことが報告されてきている。さらに、集団の分断・孤立化が進行しているシデコブシでは、外部からの遺伝子流動の減少、遺伝的浮動などが起こり、集団における近親交配の程度がますます高まっていると予想される。シデコブシの保全を考えていく上では、分断・孤立化に伴う送粉効率の低下等とともに、近親交配がもたらす近交弱勢の大きさや遺伝的荷重を明らかにすることも重要である。本研究では、繁殖個体が245株の愛知県春日井市(中規模集団)、29株の三重県四日市市(小集団)の2つのシデコブシ集団を対象に、人工受粉実験とマイクロサテライト分析によって、近交係数(FIS)、結実率と胚生存率(種子に至る胚珠の生存率)に現れる近交弱勢の大きさ(δ)、種子の他殖率を求め、Ishidaら(2003)の方法を用いて未受精率、胚段階に現れる近交荷重(自家受精率×δ)の推定を行った。
     成木のFISは、中規模集団が0.02と低い値を示す一方で、小集団が0.29と高い値を示しており、シデコブシでは小集団化するに伴い近親交配の程度が高まることが示唆された。果実当たりの結実率に現れるδは小集団の方が小さかったものの、胚生存率に現れるδは中規模集団と小集団で大きく異ならず、両集団とも受精した胚の約4割が自殖による近交弱勢によって死亡していると推定された。未受精率や近交弱勢以外の原因による胚死亡率は、いずれも小集団で高くなっていた。最終的な胚珠の生存率は、中規模集団で2.6%であったのに対し、小集団では0.3%にとどまっていた。小集団化したシデコブシでは、近親交配が進むものの、理論的に予想されているような近交荷重の減少はそれほど大きくなく、さらに花粉不足や近交弱勢以外の原因(被陰等)が胚珠の生残により大きく影響してくることが明らかとなった。
  • 金指 あや子, 金谷 整一, 鈴木 和次郎
    セッションID: P1-093
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    ハナノキAcer pycnanthum K.Koch(カエデ科ハナノキ節)は、長野県南部、岐阜県東南部、愛知県北東部の限られた地域にのみ遺存的に分布する日本の固有種である。ハナノキはミズゴケが優占する湧水のある小湿地に生育するが、土地の開発などにより個体数の減少が進み、現在、絶滅危惧(II)類に指定されている。ハナノキ自生地保全のための基礎的情報として、繁殖・更新特性を明らかにする必要がある。その一環として、ハナノキの種子生産の現状を把握するため、下伊那地方で比較的まとまった個体が分布する2カ所の局所集団(土橋、備中原)において、各11個体を対象としてそれぞれの樹冠下に開口部0.5m2のトラップを3ヶ設置し、雌雄花および未成熟から成熟種子の落下量を測定した。さらに、成熟したサイズに達した種子の中の充実種子数を軟X線照射によって観察して求め、これらより、捕捉した雌性生殖器官をもとにした結実率(充実種子数/雌花総数)や充実種子率(充実種子数/成熟サイズに達した種子数)を求めた。同時に成熟種子の中の食害種子の割合を調べた。
     樹冠下における雌花から種子までの雌性生殖器官の総生産量は、2002年は658.0ー4374.7個/m2、2003年は810.0ー12570.0個/m2であり、いずれの個体も2003年は生産量が多い傾向がみられた。また、結実率は2002年に7.6ー53.8%、2003年は6.6ー28.7%で、個体によるバラツキとともに、全体に2003年が低い傾向がみられた。2002年における充実種子率は42.3ー75.3%で、結実率と同様、個体によってバラツキがみられた。ハナノキにおいて、種子の初期落下やシイナが形成される主な要因は明らかにされていない。周囲の雄個体との位置関係、雄花開花量などを考慮して、個体ごとの充実種子率や結実率について検討した。
  • 金谷 整一, 大谷 達也
    セッションID: P1-094
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    植物と動物の相互関係、特に種子散布に関わる相互関係を遺伝的側面から解析することは、森林生態系における樹木の空間的な遺伝的多様性の維持機構を理解するために重要である。本研究で対象としたアコウ(Ficus superba var. japonica)は、クワ科イチジク属の常緑高木で、いわゆる絞め殺し植物である。屋久島西部においては、通年大量に結実し、ヤクシマザルや各種の鳥類にとって重要な餌資源となっている。同時に、これらの動物は、フンによって種子を散布しアコウの更新や分布に大きな影響を及ぼしていると考えられる。
    アコウ個体群の遺伝的多様性を明らかにするためには、まず1個体を定義することが必要である。しかしながら、絞め殺し植物という特殊な成長様式のため、このことが困難でなる。気根が絡み合い、複数の枝が様々な場所から伸びている外見からは、見かけの1個体が遺伝的にも同一なのかどうか判断が難しい。例えば、同所的に見られるガジュマル(Ficus microcarpa)も絞め殺し植物であるが、アコウにガジュマルが着生していることがあるので、遺伝的には異なる複数のアコウが絡み合って生育することがあり得ると考えられる。外見上の1個体が遺伝的にも1個体であるかどうかを検証することは、アコウの遺伝的多様性を評価する研究をすすめていく上で必須である。
    本調査では、屋久島西部におけるアコウの空間的な遺伝的多様性を解析するために、マイクロサテライトマーカーを開発した。次に、アコウの樹形を絞め殺し型(樹木に着生)、岩上型(岩の上に生育)および地面型(地面より直立)の3つに分類し、樹形ごとに一樹冠内における遺伝構造について検証した。最後に、ヤクシマザルのフン塊から発生した実生の遺伝的多様性を分析し、一樹冠内の遺伝構造との関係について考察した。
  • 亀山 慶晃, 外山 雅寛, 大原 雅
    セッションID: P1-095
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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     一般に、水生植物は陸上の植物に比べて無性繁殖への依存性が高く、特に浮遊性の水草では、植物体が断片化することによるラメット数の増加や集団内・集団間の移動は、種子に依存するより確実かつ効率的と考えられている。日本に生育する浮遊性の水生植物、タヌキモ類(タヌキモ、イヌタヌキモ、オオタヌキモ)のうち、タヌキモは種子を形成できず、無性繁殖によって集団を維持している。しかし、タヌキモにおける不稔現象の原因や、集団の維持機構についてはほとんど分かっていない。本研究では、交配実験、葉緑体DNA分析、AFLP分析によって、タヌキモの起源と集団の維持機構について検討をおこなった。
     交配実験の結果、有性繁殖能力を持つイヌタヌキモとオオタヌキモの間には非対称的な交配親和性があり、イヌタヌキモを種子親、オオタヌキモを花粉親として多数の種子が形成された。また、イヌタヌキモとオオタヌキモは種特異的な葉緑体DNAタイプで識別されたのに対し、タヌキモの大部分はイヌタヌキモ型の葉緑体DNAを持っていた。さらに、イヌタヌキモとオオタヌキモに認められた多数の種特異的なAFLPバンドのほぼ全てが、タヌキモでも確認された。
     以上の結果から、1)タヌキモはイヌタヌキモとオオタヌキモの雑種第一代である、2)タヌキモの形成はイヌタヌキモ(種子親)×オオタヌキモ(花粉親)の場合が圧倒的に多い、3)雑種起源かつ不稔にも関わらずタヌキモの遺伝子型は集団ごとに異なっており、多様な起源を持つ、ことが明らかとなった。タヌキモ類の生育適地は明らかに異なり、それらが同所的に生育することは稀である。タヌキモがいつ、どのように形成されたのかは不明だが、その後の分布拡大や集団維持には、旺盛な無性繁殖能力と雑種強勢による広範な適応能力の獲得が関与しているものと推察された。
  • 一柳 英隆
    セッションID: P1-096
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
     カワネズミChimarrogale platycephalaは、食虫目トガリネズミ科に属する、数少ない日本在来の半水生哺乳類である。山梨県都留市の山間の小渓流において、この種の生活史に関する調査をおもに標識再捕獲法により行った。今回の発表では、繁殖時期の推定、巣離れ後の成長・生残について報告する。
     標識再捕獲調査のために、渓流に沿って1.7kmの調査区を設定した。その調査区において、2000年11月から2004年2月まで、捕獲を繰り返した。捕獲は、毎月3-9回行った。それぞれの捕獲調査では、日の入り前におよそ40個のトラップを調査区河川に設置し、1-2時間おきに見回ってカワネズミの捕獲をチェックする、という作業を日の出まで繰り返した。捕獲された個体は、性別、体重、歯の摩耗度による相対齢を記録し、固有のナンバーを刻印した脚輪により個体識別して、捕獲場所に放逐した。
     調査期間中、72個体に標識した。若い個体が初捕獲される時期は、5月と11月にピークがあった。これは本種の離巣時期にあたると考えられ、本種は基本的に春と秋の2回の繁殖期をもつと推定される。ただし、11月のピークは5月のピークより捕獲できた個体数はずっと少なく、春に産まれた個体がその年の秋に繁殖することはないか、あってもわずかであると考えられる。離巣時の体重はおよそ30gと推定され、幼体はその後およそ0.2g/日の速度で成長し、2-3ヶ月で成体と同様の体重に達した。成体の体重は、平均で、メス45g、オス48gであり、オスの方がやや大型になった。離巣後の生残率(生き残って、調査区から移出しない率)は、年10%程度であり、特に冬の減少率が高かった。
  • 山崎 梓, 藤崎 憲治
    セッションID: P1-097
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    オオタバコガHelicoverpa armigeraは、近年の地球温暖化によって、日本でもその被害が拡大している亜熱帯性の重要害虫である。本種は終齢幼虫において体色に顕著な色彩多型現象がみられるが、この体色は飼育密度、温度、日長の影響を受けず、餌条件によって変化することが示唆されてきた。しかし、餌条件がどのように関与しているかについては具体的には明らかになっていない。さらに、体色による幼虫期間、生存率、蛹重などの形質にも差がみられず、それは中立的な形質であるとみなされている。このように、本種における色彩多型には、未だに解明されていない点が多い。加えて本種は広食性であることが知られており、栽培植物だけでも49科以上、約160種近い寄主植物が報告されている(Zalucki et al, 1986)。
    本研究では、オオタバコガの広食性に着目し、さまざまな餌植物と幼虫体色との関係について検証した。その結果、与えた餌植物によって体色の発現頻度が異なり、同一の植物でも摂食する部位により体色が大きく異なることが示された。また、実験に用いた植物に共通して、果実部を与えたものは茶色、葉や花を与えたものは緑色の体色のものが多く出現し、幼虫は摂食部位の色に近い体色を発現する傾向があることが示唆された。さらに、与えた餌植物やその部位によって、幼虫期間、蛹重、生存率などに大きな違いがあり、餌メニューが幼虫の体色の違いだけでなくパフォーマンスにも影響を与えていることが確認された。
    このように本種の終齢幼虫は、利用する植物やその部位に似せて体色を変化させることで、鳥などの捕食者に対して目立ちにくくなっている、つまり隠蔽色として機能している可能性が高いと考えられた。

  • 三谷 拓矢, 亀山 慶晃, 大原 雅
    セッションID: P1-098
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    エンレイソウ属(Trillium )は北米および東アジアに生息域を持ち、北海道には9種が生育している。北米種が全て2倍体であるのに対し、日本産エンレイソウ属には、著しい倍数体が存在しており、これらはエンレイソウ(T. apetalon )、ミヤマエンレイソウ(T. tschonoskii )、オオバナノエンレイソウ(T. camschatcense )の3種を基本種とした雑種および倍数化により形成されていることが染色体の研究から明らかになっている。しかし、自然野外集団における雑種形成の要因や過程に関する生態遺伝学的研究は少ない。そこで、今回は、野外自然集団における基本3種間の交雑親和性と雑種の母系構成を明らかにし、雑種形成の一要因と考えられるフェノロジーとの関係について研究を行った。
     基本3種が生育する千歳において、3種それぞれを種子親・花粉親とした種間交雑実験を行った。その結果、全ての種間において高い交雑親和性が認められた。一方、種間雑種の開花個体における葉緑体DNAを用いて母系分析を行った結果、オオバナノエンレイソウとミヤマエンレイソウの雑種であるシラオイエンレイソウ(T. hagae )では、全ての個体でオオバナノエンレイソウ型、エンレイソウとミヤマエンレイソウの雑種であるヒダカエンレイソウ(T. miyabenum )では全てミヤマエンレイソウ型というような一定の規則性が見られた。
    自然野外集団の開花フェノロジーをみると、エンレイソウ、ミヤマエンレイソウ、オオバナノエンレイソウの順で開花しており、各雑種のDNA分析で種子親とされた種が、親種2種のうち、より開花の遅い方の種であることが示された。さらに、開花個体の分布様式についての分析を行った結果などから、開花フェノロジーによる花粉移動の方向性が、雑種形成の重要な要因であることが示唆された。
  • 森長 真一, 酒井 聡樹
    セッションID: P1-099
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
     花弁や花被片などの誘引器官の多様性は、それぞれの植物が効率的な送受粉のために進化させてきた結果である。このような花弁(花被片)の多様性と進化を理解するためには、それぞれの花弁(花被片)に対する選択圧を検出する必要があると考えられる。
     本研究では、大きさと形の異なる花被片(外花被片と内花被片)をもつヒメシャガ(アヤメ科)を材料に、花被片間の機能分化と各花被片に対する選択圧の違いを明らかにすることを目的とした。そこで2003年仙台市青葉山のヒメシャガ集団において、個体ごとに各花被片の長さを人為的に処理して、送粉者の訪花頻度と送受粉数/訪花、そして最終的な雌雄繁殖成功の指標として送粉数/花(雄繁殖成功)と種子数/花(雌繁殖成功)を調査した。
     その結果、外花被片と内花被片間には雌雄機能への貢献度と選択圧に違いがあった。外花被片は雌雄機能に貢献しており、現在の長さが適応的であった。一方、内花被片は雄機能のみに貢献しており、ある程度短くしても送粉数が減少しないため、現在よりも短い長さが適応的であった。また内花被片が適応的な長さに進化しなかったのは、外花被片と内花被片間の遺伝相関などの制約によるものかもしれない。花弁(花被片)にみられる多様性は、各花弁(花被片)に対する選択圧の違いとその間の制約により進化してきたと考えられる。
  • 後藤 晋, 岩田 洋佳, 芝野 伸策, 大屋 一美, 鈴木 憲, 小川 瞳
    セッションID: P1-100
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
     北海道の水辺林の主構成種であるヤチダモは,翼のある大型の種子をつける.ヤチダモ種子は,母樹間でその大きさやかたちが大きく異なることから,母樹によって散布パターンが異なる可能性がある.そこで,本研究では,ヤチダモの母樹間で種子の飛翔能力に違いがあるか,また,どのようなかたちの種子がより飛翔するかを解明するため,9母樹から採種したヤチダモ種子の人工散布実験を行なった.散布実験の前に,各種子の重さと面積を測定した.種子のかたちについては,形状解析ソフトウエアSHAPEを用いて,デジタル画像から種子の輪郭を抽出し,楕円フーリエ記述子(EFD)により定量化した.さらに,EFDの主成分分析により,種子の長軸に対して対称な変異と非対称な変異について別々の主成分を求め,主成分スコアをかたちの特徴値とした.人工散布実験では,8.3mのタワーから各母樹10個の種子を1つずつ散布し,各種子の飛翔時間と飛翔距離を測定する実験を5回繰り返した.分散分析の結果,種子の重さ,面積,形の対称成分,飛翔時間は母樹間で有意に異なっていた.そこで,種子の飛翔時間を目的変数として重回帰分析を行った結果,面積,重さ,形の主成分として対称成分のAP3,AP5,非対称成分のBP3が有意な相関が認められた.特に,AP3は種子のかたちの変量としては7%程度と小さいにもかかわらず,飛翔時間と強い相関が認められ,種子の両端が尖るほど飛翔時間がより長くなるという興味深い傾向が検出された.この成分では母樹間の違いが高度に有意であったことから,強い遺伝的支配が示唆される.以上の結果から,森林内において飛翔により有利なかたちの種子をつける母樹が,実際により広範囲に種子散布を行っているかについて,今後明らかにする必要がある.
  • 戸田 裕子, 桜谷 保之
    セッションID: P1-101
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    フタモンテントウ(〈I〉Adalia bipunctata〈/I〉)は、1993年に大阪市南港において日本で初めて発見され、外来種と考えられている。1993年以降これまで発見地を中心に継続的に調査を行ってきた。本研究では発見地および周辺の公園・緑地等において、侵入後の分布や生活史、在来テントウムシとの種間関係を調査した。分布については、最初の発見地である南港中央公園(350m×500m)において発見以来ほぼ毎年発生が確認されているが、他の場所では2001年まで発生がみられず、分布の拡大は起こっていないと考えられた。しかし、2002年には2から3kmほど離れた2ヶ所で発生がみられるようになり、2003年には新たに2ヶ所で分布が確認された。2004年には南港地区(約3km四方)のほとんどの調査地で発生が確認され、南港以外の大阪府内や、約20km離れた兵庫県神戸市でも発生が確認された。発生密度は南港中央公園で最も高く、そこから離れるに従って減少する傾向にあった。したがって、南港中央公園が最初の侵入地で、発生の中心と推察された。この2から3年で分布がかなり広がり、さらに飛び火的に拡大する傾向にあると考えられる。種間関係については、フタモンテントウと同じ樹上(シャリンバイやトウカエデ)に生息する在来種ナミテントウとの個体数関係を中心に調べた。その結果、フタモンテントウの生息密度が高い地域の方が低い地域よりもナミテントウの個体数の割合が低い傾向がみられ、フタモンテントウの個体数増加や分布拡大はナミテントウやダンダラテントウ等、在来テントウムシの生存に影響を与えつつあると推察される。
  • 上野 直人
    セッションID: P1-102
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
     雌雄異株性植物個体群におけるメス・オスの個体数比(性比)は各個体の繁殖成功、ひいては適応度を決定する重要な生態学的要因である。一般に植物における個体の繁殖成功は周囲の異性個体の頻度や異性個体までの距離に依存する。もし個体群における性比に偏りが生じている場合には、メスとオスの間で繁殖成功や適応度に頻度・距離依存的な差が生じ、多数を占める性をもつ個体(メスが多ければメス、オスが多ければオス)に不利益が生じるだろう。このため、進化的な観点では、頻度・距離依存的な繁殖成功の制限が十分に強く働くなら性比の偏りは解消されてしまい、恒常的な性比の偏りは生じにくいと考えられる。しかしながら、いくつかの雌雄異株性植物においては性比の偏りが観察されている。例えば、冷温帯から亜寒帯にかけての河畔に生育するオノエヤナギは、雌雄異株性樹木であり、他のいくつかのヤナギ属樹木と同様に個体群の性比が強くメスに偏ることが報告されている。このような性比の偏りが維持されるメカニズムを明らかにするためには、各個体の繁殖成功に対し性比の偏りがどの程度の影響を与えているかを明らかにする必要がある。

     オノエヤナギは河川攪乱に依存し河畔に侵入する先駆性樹木である。河畔ではオノエヤナギのような先駆性樹木が個体数の異なる小集団を形成し、パッチ状に分布している。小集団を構成するメスにおける最近接オスまでの距離や周囲のオス密度は各パッチの性比に依存する。各小集団における性比は、小集団の個体数が少ないほどばらつくため、メスにおける最近接オスまでの距離や周囲のオス個体密度にかなり大きな変異が見られる。

     本研究では、個体群内におけるメスへの性比の偏りが、オノエヤナギメスにおける繁殖成功にどのように影響するかを明らかにするため、メスの結実率と最近接オスまでの距離・周囲のオス密度の関係を明らかにした。

  • 舘野 隆之輔, 井鷺 裕司, 柴田 銃江, 田中 浩, 新山 馨, 中静 透
    セッションID: P1-104
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    森林の分断化などの人為攪乱が、樹木の個体群や遺伝的多様性におよぼす影響には、繁殖個体の空間分布の変化という直接的な影響と、生物間相互作用を介した間接的な影響がある。繁殖に関わる様々な動物群との生物間相互作用系の変化は、例えば送粉・種子散布者の個体数の減少や絶滅、送粉者群集の多様性の喪失などを介して、間接的に樹木の繁殖成功や実生・稚樹の分布、最終的には次世代の個体群構造や遺伝構造に影響する。本研究では、冷温帯落葉広葉樹林で低密度な個体群を維持しているホオノキ(虫媒)に着目し、森林の分断化が樹木の繁殖過程に与える影響を明らかにすることを目的とした。
     調査は、小川群落保護林とその周辺地域で行った。調査地とした約2km×3kmのエリアには、面的に残された約100haの天然林(保護林)と人工林などによって魚骨状に分断化された約30haの天然林(保残帯)・人工林・二次林・農地などさまざまな景観が含まれる。調査地ほぼ全域を踏査しホオノキ個体の分布図を作成し、開花期には、繁殖の有無を確認した。保護林と保残帯で周囲繁殖個体密度が低い個体から高い個体まで含むように、それぞれ14個体を選定し、果実を各個体3_から_32個採取した。採取した果実から成熟種子・虫害種子・未成熟種子・その他を取り出し、それぞれの個数を数え、受精率、虫害率、結実率を算出した。
     保護林と保残帯では、受精率、虫害率、結実率の平均値に有意な差は見られなかった。保残帯では、周囲200mの周囲繁殖個体密度と受精率・結実率の間に有意な正の相関が見られた。一方で、保護林では、個体密度と受精率・結実率の間に有意な相関は見られなかった。虫害率は、保護林と保残帯ともに個体密度と有意な相関は見られなかった。保残帯では、個体密度の減少は、受精率の低下を引き起こし結実率が低下するが、保護林では個体密度の影響は受けないことが示唆された。このような違いは、訪花性昆虫の個体密度や行動様式(訪花頻度や行動範囲)が分断化によって変化することが原因なのではないかと考えられる。
  • 西谷 里美, 増沢 武弘
    セッションID: P1-105
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    ムカゴトラノオは極域から温帯の高山に広く分布するタデ科の多年生草本である。結実が非常にまれであるため,むかごの発芽・定着が本種の個体群維持には必須である。この研究では,野外で予想される越冬時の環境を実験的にむかごに経験させ,その間の生存率,および翌春の発芽特性を比較した。
    2002年7月下旬から8月中旬にかけてノルウェー領スバルバール諸島の4地点,合計9集団からむかごを採集した。むかごには色変異があるため,同じ地点でも色が異なる場合は別の集団として扱った。採集したむかごを温度(-5°C,-25°C)と水分条件(乾,湿)を組み合わせた4条件で保存し,翌年5月に発芽実験に用いた。-25C湿条件で保存したむかごでは,観察による生死の判別が困難であったため,一部のむかごを用いてTTCテストを行った。発芽実験は,温度(5°C,5°C /15°C変温,15°C)と光(明,暗)を組み合わせて行い,発根と展葉の有無を1週間おきに4週目まで記録した。ただし暗処理のむかごについては4週目の観察のみとした。
    保存中のむかごの生存率は,-25°C湿条件では非常に低く,4集団ではすべてのむかごが死亡した。一方で他の3条件で保存したむかごは99%以上が生存し,発芽条件によらず4週目までには,ほぼ100%の発芽率に達した。ただし5°Cでは他の温度に比べて発芽が遅れ,その傾向は乾燥保存したむかごで顕著であった(-5°C,-25°C共に)。乾燥保存したむかごの中には,5°Cでは発根のみで展葉しない個体もみられた。-25°C湿条件下での生存率や5°Cでの発芽速度において,集団による変異の存在が示唆された。
  • 阿部 司, 小林 一郎, 近 雅博
    セッションID: P1-106
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    アユモドキLeptobotia curtaはドジョウ科に属する日本固有の純淡水魚である.琵琶湖淀川水系と岡山県の数河川にのみ生息するが,近年どの生息地においてもその減少が著しく,国の天然記念物,環境省のレッドリストの絶滅危惧IA類に指定されている.そこで,保全のための基礎資料を得ることを目的とし,繁殖生態に関する研究を行った.今回はその中の産卵環境と仔稚魚の分布について報告する.
     仔魚,稚魚の捕獲はタモ網を用い,そこに生息する魚種がもれなく確認でき,かつ攪乱が大きくなりすぎないように配慮し,地点ごとに調査時間を設定して行った.そのデータと,調査時に測定した水深や流速,植被率等の環境のデータをもとに分布に影響する環境要因を解析した.また,目視観察により産卵行動の調査を行い,仔魚の確認された環境とあわせて産卵環境の把握に努めた.
     その結果,アユモドキの産卵環境は灌漑開始前には陸上の植物が繁茂し,灌漑開始後はそれらが水に浸かる,流れのほとんどない泥底の一時的水域であった.また,それらは水深20cmから50cm程度ではあるが,恒久的水域から容易に進入できる地点であった.卵や仔魚は流れに対する抵抗力が非常に弱いので,流れがほとんどないことは必要な条件だと考えられる.また,植生が豊富であることは,降雨等の増水時に流されたり,進入してきた捕食者から発見されたりする確率を低下させると考えられる.
     稚魚は仔魚とは異なり,比較的流れがあり,底質に砂礫を含む地点で多く確認された.流れがあるということはそこに水の供給があることを意味する.安定した水域を求め移動分散する過程の中でそのような流れを目安にしていることが考えられる.また,成長に伴う食性の変化や岩陰等に隠れる習性の発現等も,移動分散に影響しているものと考えられる.
  • 半田 孝俊
    セッションID: P1-107
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    2002年は北海道内では各地でアオダモが同調して豊作年となったように観察され,林木育種センター北海道育種場構内(北海道江別市文教台緑町)でもサイズが極端に小さい個体を除いてほぼ全個体が開花した。調査地は大きな沢と平坦地の針葉樹人工林に挟まれた帯状の斜面で,花粉の交流は流域毎に行われているのが大部分と想定されたので,小さな流域毎にAからHの9局所個体群に分けて行った。雌雄の調査は5月に、秋に配置図により,雌孤立個体,雌雄隣接個体,林縁個体,樹冠下個体など環境を考慮して21個体から枝を切り落として果実を採取し、25粒を抽出し,軟X線装置を使用して種子の内部形質を調べた。
    結果:雄123,雌196株が確認できた。雌の平均胸高直径は11.9cm,樹高8.2m,雄の平均胸高直径12.2cm,樹高8.1mであり,分散分析の結果では差がなかったが,頻度分布図では雄の胸高直径のピークが雌より3cm大きいところにあった。性比が1:1と仮定した場合のカイ二乗検定結果では,集団全体とE,F局所個体群が棄却され,雄の比率が雌より多いことが確かめられた。調査個体数が少ないH,I以外について検討すると,A,B,C,Gは雄が多く,Dだけが雌が多かったが,いずれも有意ではなかった。個体サイズはB,C,Dがほかよりも小さかった。またFでは雌サイズの平均が雄サイズよりも小さがったが統計的には有意でなかった。種子の充実率は76から100%で、調査地ではサイズの小さい個体を除いて全ての個体が同調して開花したことにより,雄雌個体が隣接していなくても,孤立していても周囲から花粉が飛散,もしくは訪花昆虫により交流は広範囲におこなわれていると予想された。また種子に幼虫の入っていたもの、穴があき幼根部分が被害を受けているものも観察された。
  • 井田 秀行
    セッションID: P1-108
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
     多雪地ブナ林において残雪や林分構造が樹木の葉フェノロジーに与える影響を明らかにするために,樹木群集を対象に冬芽から落葉までのフェノロジーのパターンを解析した.調査地は長野県木島平村カヤの平ブナ林で,ブナが圧倒的に優占する典型的な日本海型ブナ林の様相を示す林分である.フェノロジー調査は1999年4月下旬から12月上旬にかけて,当林分に設置した100m四方の方形区内の直径5cm以上の生存樹木全て(全19樹種,550本)について行った.葉群の観測は約1-4週間間隔で樹幹ごとに行い,各観測日には葉のステージ(冬芽から落葉までを7段階に区分)と,最も早いステージにある葉の樹冠あたりの割合(4段階に区分)を記載した.
     ブナは4月下旬の残雪期,高木の個体群(樹高18m以上)が開葉し,続いて亜高木(樹高5-18m)が開葉した後,低木(樹高5m未満)が5月上旬にかけ消雪に伴って開葉し始めた.結局,ブナの低木全てが完全に開葉したのは高木全てが完全開葉した約10日後の6月中旬であった.ブナの紅葉(黄葉)も低木より高木の方がやや早く,それは9月下旬に始まった.しかし落葉期は階層間で顕著な差異はなかった.一方,本数でブナに次いで優占していたテツカエデやハウチワカエデについてみると,開葉の季節パターンはブナと類似していたが,紅葉および落葉時期はブナよりも概して早かった.
     以上から多雪地ブナ林では,下層木の開葉が残雪の影響で高木よりも遅れ,さらに樹木群集全てが完全に開葉を完了するまでには約2ヶ月間を要することがわかった.また,ブナの着葉期間は他樹種よりも平均して長かったが,これはブナが多雪環境下でも効率よく生育できるような光合成期間を有していることを示唆している.したがって,こうしたフェノロジーのパターンもまた多雪地特有の純林状のブナ林の更新維持に重要な役割を果たしていると考えられた.
  • 岡崎 純子, 和多田 悦子
    セッションID: P1-109
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    植物の生活史での各生育ステージは個体群での繁殖と密接に関わっている。生育ステージの移行は、繁殖での性資源配分に大きく関与する一方で、生育環境に影響されていることが知られている。両性花植物における性機能の揺らぎや性機能調節の実態を理解していくためには、生活史の発育ステージでの性資源配分の違いを明らかにし、その地域特性を考慮しながら、各生育ステージでの繁殖成功を制限する要因を結びつけて解析を行っていく必要がある。本研究で扱うトチバニンジンはウコギ科の林床性多年生草本で、花は両性花であるが、結実率の異なる5タイプの花をつける。開花ステージには主軸の花序のみをつけるT-stageと主軸と側枝に花序をつけるL-stageの2ステージがある。本研究では、トチバニンジンの繁殖特性特に資源配分に注目し、その地域特性を明らかにするため、生育ステージの移行と資源投資量の指標であるサイズと種子生産の関係を、能勢(大阪府)・美山(京都府)・上市(富山県)の3集団で比較した。また、能勢集団を用い除花・強制授粉実験を行い、種子生産の制限に資源制限と花粉制限のいずれが各発育ステージで関与しているのか調べた。その結果、次のことが明らかになった。1)各集団におけるサイズ分布は異なり、特に上市集団の開花ステージへの移行が、能勢・美山集団よりも著しく大きいサイズで行われていた。2)トチバニンジンの資源投資は、生育ステージによって異なることが明らかになった。能勢集団で、T-stageは、サイズの増加に対して花数を変化させず、花型をトレードオフさせることにり結実率を上昇させていた。L-stageでは、主軸の花序と側枝の花序で異なるサイズとの反応を示し、その両者の組み合わせで個体レベルの種子生産性を高めていた。他の2集団では、各生育ステージの反応は多少異なっていた。3)トチバニンジンの種子生産を制限する要因には、花粉制限ではなく資源制限が関与していることが明らかとなった。どの生育ステージにおいても、花数の人工的減少に対し、残りの花のタイプの割合を変化させず、結実率を上昇させることで種子生産の不足を補っていることが判明した。
  • 関 剛
    セッションID: P1-110
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
     木本植物では有性繁殖を2、3年から数年に一度行う種がある。このような種においては、繁殖器官と栄養成長に光合成産物を同時に分配する結果、有性繁殖している年の当年枝への光合成産物の分配量が繁殖していない年より低い可能性がある。一方、同じ個体においては、元々の当年枝のサイズが部位ごとに異なる。このため、有性繁殖が当年枝成長量に及ぼす影響は、樹冠における当年枝の位置によって異なるかもしれない。
     アオモリトドマツは2〜数年に一度球果を生産する。円錐形の樹冠を形成し、ターミナルリーダーと一次枝(幹から直接出る枝)の主軸が明瞭である。本研究では、(1)球果の成長と当年枝の伸長の生物季節を確認し、(2)樹冠上部の球果数が当年枝の伸長量に及ぼす影響について、痕跡による経年変動データをもとに解析した。
     当年枝の伸長と球果の成長の生物季節については、岩手山付近で観察した。
     経年変動の調査は八甲田山の亜高山帯下部で行った。対象とした当年枝はターミナルリーダーと一次枝の主軸である。なお、幹から直接伸長した当年枝(枝階1)は幹に埋没するため解析対象から除き、幹から出現後1年(枝階2)から5年(枝階6)経った一次枝先端の当年枝を対象にした。経年変動の解析は1975年から1990年を対象にした。
     生物季節において、当年枝の伸長は常に球果の成長以降に開始していた。
     当年枝長は、ターミナルリーダー、枝階2の主軸、枝階3〜6の主軸の順で長かった。球果数と当年枝長の関係では、ターミナルリーダーと枝階2の当年枝のみにおいて有意な負の相関が検出された。一方、球果数と当年伸長/前年伸長比の関係では、どの部位においても有意な負の相関が検出されたが、ターミナルリーダーや枝階2の当年枝で顕著だった。
     球果生産は、ターミナルリーダーや先端付近の当年枝など、サイズの大きい当年枝の伸長に影響を及ぼしやすいことが示唆された。
  • 伊部 貴行, 生方 正俊, 河原 輝彦
    セッションID: P1-111
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    天然林内でのミズナラの繁殖特性を明らかにするために、林内に分布する稚樹や採取した堅果から得られた苗を対象にDNAのマイクロサテライト(SSR)マーカーを用いて、雌性親と花粉親の推定を行った。
     調査は、日光国立公園内、西ノ湖湖畔のミズナラを主体とした天然林内で行った。この天然林内に250m×150mの調査区を設定し、調査区のほぼ中央に位置する林冠木を中心にして20m×20mのサブプロットを設定した。調査区内の全ミズナラ林冠木(85個体)、サブプロット内の中央部に生育する稚樹(122個体)および2年前にサブプロット内の中央部から採取した堅果を播種し、温室内で養苗している稚樹(360個体)について成葉を採取し、全DNAを抽出した。5種類のSSRプライマーを用いてDNAを増幅し、シークエンサー(ABI社製PRISM3100Genetic Analyzer)と付属ソフト〈genotyper〉を用いて遺伝子型を決定した。
     遺伝子型から稚樹の両親の推定を行ったところ、両親候補とも調査区に存在するグループ、片親候補のみが存在するグループおよび両親候補とも存在しないグループに分けられた。天然林内の稚樹も温室内の稚樹も、ほとんどが調査区内に片親候補のみが存在するグループだった。花粉と堅果の分散のしやすさを考慮すると、調査区内に存在しない親候補は花粉親の可能性が高いと考えられる。調査区外から飛来した花粉が、当調査地内のミズナラの次世代の生産に大きく関与していることが示唆された。また、各グループ間で稚樹の苗高に有意差は認められなかった。
  • 佐原 雄二, 富樫 望, 國分 純平, 東 信行
    セッションID: P1-112
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    本研究の目的

    メダカOryzias latipesの主要な生息地である水田地帯は、水路が複雑に連絡している上、季節的な変動も大きい。このような環境の中で、メダカがどのような生活を送っているのかを、個体ごとに異なるマークを施して識別し、再捕獲によって移動や成長を追うことによって、個体レベルで明らかにすることを試みた。

    調査場所と方法

    青森市の水田地帯にある水路からメダカを採集して、蛍光エラストマーを用いて個体ごとに異なるマークを施した。370個体を5月に現地に放流し、以後8月まではほぼ毎週、6ヶ月以上にわたって再捕獲を行って個体ごとの移動や成長を調べた。

    結果

    移動の個体変異

    370個体のうち、少なくとも1回は再捕獲されたものは175個体であった。そのうち、4回以上再捕獲された15個体について検討したところ、「水路から別の水路へ頻繁に移動する個体」と「あまり移動しない個体」とに分けることができた。この違いはオス・メスに関連しておらず、むしろ放流時の体サイズに関係がある。「頻繁に移動する個体」は放流時の体サイズが小さく、「あまり移動しない個体」は放流時の体サイズが大きい傾向があった。

    成長と寿命の個体変異

    放流時の体サイズが小さな個体は、その後の成長が、とくに5月・6月に速いが、放流時のサイズが大きな個体は成長が遅い。8月以降まで生残が確認された個体は、オスの場合には放流時の体サイズが小さな個体が多かったのに対して、メスの場合には逆に、8月以降まで生残の確認された個体は、放流時の体サイズの大きな個体が多かった。
  • 本田 裕紀郎, 伊藤 浩二, 加藤 和弘, 倉本 宣
    セッションID: P1-113
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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     種子のギャップ検出機構は、実生の定着に適さないミクロサイトでの無駄な発芽を抑制し埋土種子集団として土壌中での永続性を獲得するための機構であり、発芽に好適なタイミングの検知に導く。そのため、この機構は種子植物の適応度を高めることに貢献すると考えられているものの、ギャップとの結びつきの強い植物でさえもこの機構をもたないという現象も見られる。そこで、ギャップ検出機構をもつ植物(あるいはもたない植物)が他種植物と種間競争をしながら生育する状況を模した単純なモデルを想定し、ギャップ検出機構をもたないことが最適戦略となるような条件を検出することにより、ギャップ検出機構をもつことの生態学的意義を再検証するためのコンピューター・シミュレーションを試行した。その結果、ギャップ検出機構を獲得することは必ずしも適応度を高めることではなく、攪乱頻度や定着に不適な条件の発生頻度が高まるほど、ギャップ検出機構を獲得せずに確率的な埋土種子集団を形成することが最適戦略となる頻度が上昇する。種子の永続性そのものを獲得することは、攪乱などの予想不能な事態に対する適応の結果であり、攪乱頻度が高かったり定着に不適な環境であったりするほど獲得されるものであるものの、その永続性に対するギャップ検出機構への依存度は小さくなり、休止などによる他の機構への依存性が相対的に強くなる。そのため、ギャップ検出機構を獲得することの実際の選択性は、種子の永続性とそれに対するギャップ検出機構への依存性の相互作用により決定され、中程度の攪乱頻度のハビタットにおいてギャップ検出機構を獲得する選択圧が最も高まる。加えて、単純な永続性と同様にギャップ検出機構においても種子散布距離に対するトレードオフが存在するため、短距離散布しか行えない種においてギャップ検出機構はより重要な発芽戦略であり、そして種間競争に弱い場合はさらにその重要性は増す。
  • 名倉 京子, 湯本 貴和
    セッションID: P1-114
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    本研究では、閉鎖花・開放花に由来する二型痩果を付ける多年草の風散布植物センボンヤリ(キク科;Leibnitzia anandria (L.) Turcz.)を対象に、植物の繁殖システムと種子散布様式における、閉鎖花/開放花に由来する痩果の二型の役割を明らかにすることを目的とし、センボンヤリの種子散布におけるNear and far dispersal modelの妥当性を検討することで、集団の維持に閉鎖花由来種子と開放花由来種子がどのような条件でどの程度貢献しているかを調査した。六甲山および金剛山の各3集団を対象に行った。痩果の二型性を示すために痩果間の形態差の定量化と散布能力の比較、二型痩果の集団の遺伝構造に対する影響を明らかにするためにAFLP解析を行った。
     痩果の散布に関わる形態である冠毛長や冠毛の外径を調べた結果、開放花由来痩果よりも閉鎖花由来痩果のほうが長かった。落下速度実験および野外での痩果散布実験の結果、閉鎖花由来痩果のほうが開放花由来痩果よりも散布距離が長いことがわかった。また、集団内の遺伝構造は見られなかった。これは痩果が広範囲に散布されているためだと考えられた。これらの結果からセンボンヤリはNear and far dispersal modelとまったく逆の現象を示していた。
     センボンヤリにおいて、自殖個体を遠くに散布し他殖個体を近くに散布することの意義として、兄弟間競争の回避が考えられた。
  • 竹中 践
    セッションID: P1-115
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    エゾアカガエルの繁殖時期を1995年_から_2004年にかけて調査した。調査地点は2地点で、北海道札幌市の北海道東海大学敷地内の林地にある沢周辺および札幌市南部の丘陵地域に入った中ノ沢の砂防提が形成する湿地である。大学林地における初産日は4月4日から4月16日のあいだで変化し、終産日は4月15日から5月3日であった。産卵期間は7_から_26日間であり、産卵期間が長かった年には大雨による水量増加や降雪による一時中断があった。大学林地では、調査開始の初期は水路や人工池に多数の産卵が見られたが、最多359卵塊(1996年)から減少して2004年にはひとつの水たまりで12卵塊の産卵がある程度となった。これは人工水路、人工池での生育が困難であったことが主な要因と考えられる。
     中ノ沢では、1995_から_1997年と2002年については産卵数のみの調査となり、繁殖経過はそれ以外の6年のデータである。初産日は4月6日から4月17日、終産日は4月26日から5月4日で変化した。産卵期間は11_から_21日間となった。中ノ沢は、特に人為等の影響は見られなかったが、最多295卵塊(1995年)から減少傾向にあり、2004年は56卵塊の産卵が見られただけとなった。
     エゾアカガエルは、昼間繁殖と夜間繁殖を行う。大学林地では初期の年度は昼間繁殖が主であったが、その後夜間繁殖のみになった。中ノ沢では、調査期間を通して昼間繁殖が主であり、その年の繁殖時期後期になると夜間繁殖が見られるようになる。繁殖時期は水温の上昇とともに開始する傾向が見られるが、夜間繁殖である大学林地の繁殖開始時期よりも昼間繁殖である中ノ沢の繁殖時期のほうが水温がやや低い。これは日照のもとで繁殖活動を活発に行う昼間の行動と関係すると考えられる。
  • 岸田 竜
    セッションID: P1-116
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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     亜社会性昆虫のモンシデムシ類は両親で子の世話をする。しかし、雄の子の世話の意義については十分解明されていない。本研究の材料としたヨツボシモンシデムシでは、資源量が最適な場合は雌雄とも子の世話をする。一方資源量が少ない場合、資源処理は雌雄共同で行うが、その後の給餌は雌が単独で行うことがある。
     雌が単独で給餌を行う理由として以下の4つの仮説が考えられる。
    (1)資源量が少ない場合、雄の摂食行動は幼虫の餌不足をもたらす危険があるため、雌が雄を巣から追い出す。
    (2)雄の摂食行動が幼虫の餌不足をもたらさないとしても、資源処理行動をあまり行わない雄を雌が巣から追い出す。
    (3)雌の産卵数が少ない場合、投資に対する利益が小さいため、雄は給餌という投資を放棄し、巣から去る。
    (4)投資に対する利益とは無関係に、資源量が少なく、幼虫数が少ない場合、雌単独給餌だけで幼虫の高い生存率が確保できるため、雄は給餌せずに巣から去る。
     そこで、本研究では資源量が最適な条件下(資源量25g区)と不足する条件下(資源量10g区)で資源処理行動を測定し、仮説を検証した。雄の摂食量には資源量10g区の雌単独給餌、雌雄共同給餌および25g区の雌雄共同給餌の間で有意差はみられなかった。したがって仮説(1)は棄却された。資源量10g区では、雄の資源処理時間が雌単独給餌の方が雌雄共同給餌の場合より短かったが、雌の雄への攻撃頻度は雌単独給餌と雌雄共同給餌の間で有意差はみられなかった。また雄が巣に留まって給餌を行うか否かは、雄の意志決定(decision making)によることが判明した。したがって仮説(2)は棄却された。資源量10g区では、産卵数と幼虫の生存率には雌雄共同給餌と雌単独給餌の間で有意差はみられず、仮説(3)は棄却されたが、仮説(4)の可能性が示唆された。
  • 中山 新一朗, 舘野 正樹
    セッションID: P1-117
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
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    種子植物の7割以上の種は雄機能(花粉etc.)と雌機能(胚珠etc.)をあわせ持つ両性個体であるが、雄個体・雌個体に分かれている雌雄異株や、雌個体と両性個体が共存する雌性両全異株、雄個体と両性個体が共存する雄性両全異株など、その繁殖様式はさまざまである。これには古くから多くの研究者が興味をもってきたが、その進化条件や過程についての統合的な理解は得られていない。これら繁殖様式の違いは雄機能・雌機能への資源分配様式の違いとみることができ、雄機能及び雌機能を通じて得られる適応度が投資量に対してそれぞれどのように変化するかによって資源の分配比が決定すると考えられている。この仮説 に基づいてさまざまな考察がなされているが、現在までの研究は定性的なものにとどまっている。これは雌機能、または雄機能を通じて得られる適応度を計測するための手法が確立されておらず、定量的な議論をすることが非常に困難なためである。私は、定量的な議論が可能なモデルを考案し、それに基づいた考察を行った。このモデルではランダムに交配がおこることと、柱頭に付着した花粉同士が胚珠をめぐって確率的に競争することを仮定している。被子植物においては、数々の繁殖様式は両性から進化したと考えられているので、はじめに両性個体であるという条件のもとでESSを求めてみた。すると、ESSに達している両性個体集団には他のいかなる繁殖様式をとる個体も侵入し得ないことが示された。これにより、両性以外の繁殖様式をとる個体が侵入するためには、環境の変動が不可欠であることが示唆された。
  • 保谷 彰彦, 芝池 博幸, 森田 龍義, 伊藤 元己
    セッションID: P1-118
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    2倍体在来種とセイヨウタンポポとの交雑から生じる雑種タンポポは、遺伝マーカーにより4倍体雑種と3倍体雑種、雄核単為生殖雑種の3タイプに分類が可能であり(2000年芝池ら)、さらに分布調査からセイヨウタンポポよりも雑種(特に4倍体雑種)の頻度が高かった。このような頻度の差が生じる原因のひとつとして、生活史初期の解析から種子発芽特性や実生期の高温耐性などの違いが示唆された(2003年保谷ら)。雑種頻度が増加するメカニズムを生活史の各段階ごとに比較することを目的として、本研究では実生期以降に着目し、幼植物体期の乾燥に対する耐性、発芽後約1年間の植物体の乾燥重量などに基づく成長量の比較を行った。
     本葉が2から3枚展開した幼植物体を用いて、3段階の土壌水分条件下で生残率と個体の乾燥重量を測定した。その結果、いずれの条件下でも生残率に差はなかった。個体の乾燥重量については、すべての条件下で4倍体雑種が他のタイプに比べて重く、本葉展開後の成長量が大きいことが確認された。
     発芽後1年間の約1ヶ月ごとの成長量を乾燥重量などに基づいて比較した結果、(1) 根際直径は、どのタイプでも月ごとに大きくなった。花期以降を比較すると、(2) ロゼットサイズと葉数は、在来種以外は増加する傾向があり、また、(3) 地上部の成長は4倍体雑種と雄核単為生殖雑種で大きく、地下部は在来種で大きくなる傾向があり、在来種とそれ以外のタイプでは、地上部と地下部の比率が異なっていた。
     以上のことから、4倍体雑種はセイヨウタンポポに比べて、より乾燥した環境下でも本葉展開後の成長量が大きくなり、また花期以降も地上部が減少しないことから、光合成産物が夏の間にも蓄積される可能性がある。これらの特性により、裸地などの都市的な環境下で4倍体雑種がセイヨウタンポポよりも頻度が高くなる可能性が示唆された。また花期以降の地上部・地下部の比率の違いと自生地との関係についても考察を行う。
  • 今 博計, 野田 隆史, 寺澤 和彦, 八坂 通泰, 小山 浩正
    セッションID: P1-119
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    マスティングにおける受粉効率と散布前の捕食者飽食を検証するために、北海道南西部の5つのブナ林における種子生産量(1990-2002年)のデータ解析を行った。ある年の充実種子率は、「開花量」→「受粉率」、「被食回避率」という関係と「開花比(当年の開花量/前年の開花量)」→「被食回避率」という2つ関係によって導かれる、という仮説を立て、パス解析を行った。その結果、ブナの充実種子率は受粉効率と捕食者飽食の両方を含んだモデルによってもっともよく説明された。それに対して、受粉効率と捕食者飽食のどちらかだけのモデルでは充実種子率は説明できなかった。

     次に、種子生産の変動が受粉効率と捕食者飽食を通じて、繁殖成功にどのように影響しているかを調べるために、Kelly&Sullivan(1997)によって開発されたシュミレーションモデルを使った。種子生産の変動係数(CV)の増加による捕食者飽食の変化率は、受粉効率の変化よりも大きかった。受粉効率の利益はわずかな増加にとどまったが、一方、捕食者飽食の利益はCV0.8を境に急激に増加し、現実のCV値(1.0)で頭打ちになった。その結果、充実種子率はCV0では6%であったがCV1.0では41%へと急激な増加を示した。したがって、ブナは捕食を減少させるために最適な種子生産の変動をとっていると思われた。加えて、CV1.0における相対的な利益は、受粉効率で10%、捕食者飽食で90%と大きく異なっていた。このことは、ブナのCVが種子捕食者の自然選択圧によって決まっていることを示していた。
  • 前田 桂子, 木村 勝彦, 佐々木 真奈美, 奥田 敏統, 新山 馨, Ripin Azizi, Kassim Abd. Rahman
    セッションID: P1-120
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
     東南アジア島嶼部の熱帯雨林で起こる現象として、数年に一度の周期で多くの種と個体が同調して結実する"一斉開花現象"が知られており、一月に起こる低温が一斉開花を引き起こす要因として現在最も有力であると考えられている。では、このような明確なトリガーの無い非結実年において植物はどのようなリズムを持って活動し、一斉開花年まで推移しているのだろうか。

     そこで本研究では、リタートラップを用いて捕らえた落下種子・落葉を用い、一斉開花年を含めた個体レベルでの落葉と結実フェノロジーを調査し、同一種内における個体間のフェノロジーの同調性を確認することを目的とした。

     調査地はマレーシア半島部にあるセマンコック保護林とパソ保護林である。試料は環境庁の地球環境総合推進費の熱帯林プロジェクトの一部として両調査地に設定された2haプロットに設置されたリタートラップから1992-1997年に回収された葉・種子試料を用いた。解析に用いた種はパソ20種、セマンコック10種であり、それぞれの落葉量は総落下葉量の38.6%、21.4%を占めている。これらの種は調査期間内にリタートラップで種子が捕らえられた種を中心に選択した。

     個体間の同調性を解析するために、母樹からリタートラップまでの距離とトラップが捕らえた落葉量から個体ごとの葉の落下範囲を推定した。そこから個体の落葉量の時間的変動を求め、結実個体間の同調性と非結実個体と結実個体での同調性に違いがあるのか、または非結実年から結実年にかけて個体間の同調性がどう変化していくのか等を解析していく。
  • 戸金 大, 倉本 宣, 福山 欣司
    セッションID: P1-121
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
     関東地方においてはトウキョウダルマガエル(Rana porosa porosa)はその分布域や個体数が徐々に減少してきているカエルであるといわれている。しかし、本種の保全生態学的なデータは不足しているため、基礎的なデータの収集が必要とされている。

    本研究では東京都町田市にある2つの谷戸(神明谷戸、五反田谷戸)を調査地とし、トウキョウダルマガエル個体群における成長およびフェノロジー(生物季節)を明らかにすることを目的とした。

    定期調査では、原則として毎週フィールドを調査し、ルートセンサス後、発見した個体全てを捕獲した。捕獲した個体の体長と体重を測定し、年齢査定を行うために左後肢の指1本を切り取り研究室へ持ち帰った。さらに再捕獲認識をするための写真(上、横向き)を撮った。

    その結果、稲の耕作期とほぼ一致する4月中旬から10月下旬にかけてが本種の活動期であり、残りの期間は冬眠する可能性が高いと考えられた。また、成熟個体と未成熟個体とで出現時期にずれがあることが推測された。すなわち、成熟個体は未成熟個体よりも春先の出現が遅い傾向を示すにも関わらず、秋の早い段階で調査地から姿を消してしまった。一方、体長の測定結果から、この個体群での年間を通した平均体長は、オスで57.5mm(SD=6.75)、メス59.7mm(SD=9.81)であった。また、月別の体長ヒストグラムの分析結果から、冬眠後の1齢及び当歳個体はいずれも5_mm_/月程度成長していると考えられた。講演ではこれらの結果から本種の谷戸田におけるフェノロジーと成長について考察する。

  • 石田 健太郎, 徳永 幸彦
    セッションID: P1-122
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    ヨツモンマメゾウムシは世界中に広く分布する貯穀豆の害虫で、幼虫期に豆を寄主として利用している。幼虫間競争を引き起こす幼虫の干渉能力の強さと、産卵分布の均一度には地理的変異が報告されており(Messina and Mitchell 1989; Takano et al. 2001)、それぞれ干渉能力が強いものから弱いものまで連続的に存在している。両形質の関係を考えたとき、幼虫の生存率は幼虫密度に大きく影響を受けるので、雌親が卵をどのように分布させるかは、幼虫間の競争を避ける、あるいは競争の影響を弱めるという点で重要である。幼虫の干渉能力が強い場合には、産卵分布の均一度が低いと羽化成虫数が減る。一方、干渉能力が弱い場合には均一度に関わらず比較的多くの成虫が羽化できる。これらのことから、次の仮説が導かれる。幼虫の干渉能力が強いと、産卵分布を均一にするような強い選択圧がかかると考えられる。反対に幼虫の干渉能力が弱いと、産卵分布の均一度への選択圧も弱く、他の選択圧や遺伝的浮動の効果が相対的に強くなり、産卵分布の均一度に関する形質は動きやすくなると考えられる。以上の仮説から、幼虫の干渉能力が強く、産卵分布の均一度が低い地理的系統はいないと予測される。

    幼虫の干渉能力の強さと、産卵分布の均一度を定量的に測定したところ、両形質には特徴的な関係がみられた。幼虫の干渉能力が強い系統では、産卵分布の均一度が高く、干渉能力が弱い系統では、均一度はばらつくという傾向を示した。この結果は仮説を支持しており、強い幼虫の干渉能力により、高い産卵分布の均一度が維持されていると考えられる。さらに産卵数や体サイズなどの適応度に直接関わる形質と産卵分布、競争様式の関係について議論する。
  • 辻沢 央, 酒井 聡樹
    セッションID: P1-124
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
     消雪時期の違いに依存した、繁殖への資源分配戦略の個体サイズ依存性の違いを明らかにするために、雪田に生育するチングルマ(Sieversia pentapetala)を用いて、消雪時期が異なるサイトごとに、繁殖器官への資源分配量と個体サイズ(個体が持つ資源量)との相関関係を調べた。
     花への資源分配量のサイズ依存性は、消雪時期が早いサイトではみられなかったが、遅いサイトではみられた。この傾向は調査年度によらず一定であった。花の各器官への資源分配量を個別にみると、雄蕊群への資源分配量のサイズ依存性は、消雪時期が早いサイトではみられなかったが、遅いサイトではみられた。この傾向は調査年度によらず一定であった。雄蕊群への資源分配戦略は、消雪時期の違いによって生じるポリネーター環境の変化の影響を受けていると考えられる。その一方で、雌蕊群の資源分配量のサイズ依存性には、年変動がみられた。雌蕊群への資源投資戦略は、年によって大きく変動するなんらかの環境要因の影響を受けていることを示している。花弁への資源分配量は、すべてのサイトにおいて個体サイズによらず一定であった。繁殖成功に関しては、種子の大きさはすべてのサイトで、個体サイズによらず一定であった。種子の数のサイズ依存性は、年度によって異なるパターンを示した。
     以上の結果より、消雪時期の違いによって生じる繁殖成功の違いは、繁殖への資源分配戦略の個体サイズ依存性のパターンに影響を与えていないことが示唆される。
  • 中村 智, 徳永 幸彦
    セッションID: P1-125
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    寄生蜂の性決定様式は半数倍数性であり、雌は腹部に精子をためておくことができる貯精嚢をもっている。そのため、寄生蜂の雌は貯精嚢にためてある精子を卵に受精させるかどうかで性比を調節することができる。また、寄主の体重とその寄主から出てきた寄生蜂の体重との間には正の相関が見られる。寄生蜂は体重を重くすることで繁殖成功度を高くすることができ、さらに雄に比べて雌の方が体重を重くすることで得られる繁殖成功度は高くなる。したがって、寄生蜂がより体重の重い寄主に雌を産卵するよう性比を調節できることには大きな意義がある。実際に寄主の体重に伴う寄生蜂の性比調節は広く知られている。

    本研究室で飼育している寄生蜂はマメゾウムシを寄主としている。この寄生蜂は豆の中にいるマメゾウムシの幼虫を寄生の対象としている。このような場合、寄生蜂が寄主の体重を直接感知して性比を調節することが困難であると考えられる。そこで、この寄生蜂が豆の外部から寄主の体重を推定できるような情報が必要になってくる。

    本研究では寄主の活性(寄主が豆を摂食するときに生じる音に頻度)に着目し、日数に伴う寄主幼虫の体重の変化と活性の変化を比較した。

    結果から、寄主の体重、活性はともに大きく増加する期間を示し、またその期間(12日目から13日目)は一致していることがわかった。このことから、活性は寄生蜂が寄主幼虫の体重を知るための情報として可能性があると考えられる。また、寄主の活性において、12日目と13日目の幼虫間にのみ変化が見られたことから、寄生蜂はこの変化を閾値として利用し、性比を変換しているのではないかということも考えられる。
  • 木村 幹子, 宗原 弘幸
    セッションID: P1-126c
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    北海道南部は、温帯性のクジメHexagrammos agrammusとアイナメH. otakii、および亜寒帯性種のスジアイナメH. octogrammusが同所的に生息する世界でも珍しい海域である。クジメとスジアイナメはともに浅場の藻場で繁殖するため、両種の分布が重なる海域ではしばしば雑種が報告されてきた。これに対してアイナメはクジメやスジアイナメよりも深場に生息するため、繁殖場所が隔離し交雑は回避されていると考えられてきた。しかし近年、北海道南部太平洋岸の臼尻沿岸でアイナメと他の2種との交雑が確認された。このことはこれまでアイナメと他の2種との間で働いていると考えられていた繁殖場所の違いによる交配前隔離機構が、この海域では十分に機能していないことを示している。そこで本研究では、同所的生息海域におけるアイナメ属3種の繁殖場所の分布に関する基礎的知見を得ることを目的として、臼尻沿岸における3種の繁殖場所の分布と産卵基質を調査した。
    その結果、クジメとスジアイナメは丈が長く葉状部が枝状を呈し岩上に密生する小型藻類を、アイナメは丈が短く凹凸があり平面的に広がるコケムシ類や網などを産卵基質として利用していた。すなわちアイナメは他の2種と産卵基質の選好性が異なることが明らかとなった。3種のなわばり形成場所は産卵基質の分布に対応しており、クジメやスジアイナメは小型藻類が繁茂する浅場の岩棚部分で、アイナメはコケムシ類の付着する深場の魚礁のほか、漁港外縁にある消波ブロック帯の海底に沈む根固め用の石を入れた網袋の結び目などで見られた。また消波ブロック帯は急峻な斜面を形成するため上部には小型藻類が繁茂し、クジメやスジアイナメのなわばりも見られた。このように消波ブロック帯の複雑な地形が性質の異なる産卵基質が混在する環境を作り出し、アイナメ属の交配前隔離機構を撹乱している可能性が示唆された。
  • 佐藤 琢, 五嶋 聖治
    セッションID: P1-127c
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
     オス間競争において優位なオスは質的に優れており、メスはそのようなオスを配偶者として好むと考えられる。多くの研究では、そのような優位オスと交尾をすることにより、メスは適応度を上げると想定されている。しかし、優位オスとの交尾が必ずしもメスに利益をもたらすわけではない。多くの交尾機会を得ることができる優位オスほど、保有精子量を枯渇させていることがある。そのため、優位オスと交尾をしたメスは不十分な精子量しか受け取ることができず、精子制限に陥る可能性がある。メスにとって精子制限は避けるべきものである。しかし、メスの精子制限のリスクに対する反応の研究はほとんどなく、メスが精子制限のリスクに反応するメカニズムについてはほとんどわかっていない。

     そこで本研究では、イボトゲガニHapalogaster dentataを用いて、メスの配偶者選好性パターンとそのメカニズム、また精子制限のリスクに反応した配偶者選択の有無について調べた。まず、体サイズの大きなオス、小さなオスを同時にメスに与え、メスはどちらのオスを選ぶか? また、メスはどのようなcueによってオスを選択しているのか? について調べた。次に、交尾を重ね、交尾あたりの射精量の低下したオスと、まだ交尾をしておらず十分な精子を持っているオスを同時にメスに与え、メスがどちらのオスを選ぶかを調べることにより、メスが精子制限のリスクに反応した配偶者選択を示すかどうかについて調べた。その結果、メスは体サイズの大きなオスを好み、そのメカニズムはオス由来の化学物質によることが示された。そして、メスは精子の枯渇したオスを避け、十分に精子を持っているオスを選んだ。以上の結果から、メスはオス由来の化学物質を基に精子制限のリスクを回避できることが示された。これはこの種において、メスにとって精子制限は重要な圧力のひとつであることを示していると考えられる。
  • 上野 真由美, 高橋 裕史, 西村 千穂, 梶 光一, 齊藤 隆
    セッションID: P1-128c
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は、糞の窒素(糞中窒素)がエゾシカの餌の質の指標として有効なのかについて、異なる個体群動態を示す2個体群を対象に検討した。まず、個体群の栄養状態の評価として体サイズを比較した。次に、(1)食性(2)餌資源(第1胃内容物)の窒素(3)糞中窒素(4)胃内容物の窒素と糞中窒素の関係を分析し、個体群間比較を行った。対象個体群は、個体数が増加途上にある西興部村と、個体数がすでに飽和状態に達している洞爺湖中島である。結果、西興部は中島よりも体サイズが有意に大きかった。次に(1)西興部では牧草に依存し、洞爺湖中島では落葉に依存していた。(2)胃内容物において、西興部は中島よりも高い窒素値を示した。また、個体群間の窒素値の差は春に大きく、夏と秋は春よりも差が小さかった。(3)糞中窒素の結果は、胃内容物の結果と必ずしも一致せず、春は胃内容物の窒素値の優劣と同じであったが、夏は胃内容物の窒素値と逆の優劣結果を示した。(4)共分散分析より、胃内容物の窒素に対する糞中窒素の値は、中島が西興部よりも相対的に高いことが明らかになった。つまり同じ窒素値の餌を食べた際に、中島は西興部よりも高い窒素値の糞を出すことが示された。春は西興部の餌の窒素値は中島に比べてはるかに高いため、糞中窒素も付随して高く、比較の優劣は変わらなかったが、夏は個体群間で餌の窒素値に有意な差がありながらもその差が縮まるため、個体群ごとで胃内容物の窒素と糞中窒素の関係性が異なることにより、中島が西興部よりも高い糞中窒素値を示したと考えられる。胃内容物の窒素と糞中窒素の関係は消化率を反映すると考えられることから、西興部は中島に比べて消化率の高い餌資源を利用していると示唆される。
    以上のことより、糞中窒素は、個体群間で餌の質を評価する上では、指標として適切ではないことが明らかになった。
  • 清水 健, 藤崎 憲治
    セッションID: P1-129c
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    亜熱帯性昆虫オオタバコガの温帯への適応と休眠特性

    ○清水 健・藤崎憲治(京大院・農・昆虫生態)

     近年日本の農業現場で問題となっているヤガ科広食性害虫のオオタバコガHelicoverpa armigeraは、世界各地の被害分布から亜熱帯性の種であると一般に認識されていた。その休眠特性に関して温帯性近縁種タバコガH. assultaとの間に顕著な相違が見られたことからも本種は温帯日本の気候には十分に適応していないものと考えられてきた。温帯や亜熱帯で採集されるオオタバコガは、タバコガと同様に休眠機構を備えてはいるのであるが、たとえ短日であっても高温条件下では休眠が誘導されず、発育期間中の長期にわたる低温刺激が休眠誘導の必須条件であった。一方で、本種が温帯野外で休眠を誘導する秋季に訪れる急速な気温低下は、この時期に幼虫が休眠ステージ(蛹)までの発育を完了する際に致命的であるのだ。
     しかし温帯でも、初秋の極めて短い時期には本種の休眠誘導に適した穏やかな低温が短日条件に伴ってタイミング良く訪れる。運良くこの時期に休眠に入った個体は越冬し翌春まで生存することが確認された。さらに、この時期を予測して休眠を誘導するために有効であると考えられる短日化と低温化を感受する機構において、亜熱帯個体群と温帯個体群との間に明確な変異が確認された。温帯個体群では、秋の温度低下が比較的緩やかであると考えられる亜熱帯個体群よりも、変温変日長シグナルにより強く反応したのである。
     この変異は、従来まで地理的傾向の指標とされてきた臨界日長における個体群間変異よりも顕著であった。この結果は本種の地域適応とは無関係なのだろうか。亜熱帯性害虫が温帯へ分布拡大する可能性と、地球温暖化がそれに及ぼす影響について考察する。
  • 浦川 裕香, 小林 剛, 深井 誠一
    セッションID: P1-130c
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
     植物は,光合成で獲得したエネルギーを成長・繁殖・貯蔵のいずれに振り分けるか,常にジレンマに遭遇している。林床に生育する草本は,弱光下で強いられる低生産性の下でも成長を維持し,なおかつ繁殖を行わなければならない。ユキモチソウ(Arisaema sikokianum Franch. et Savat.,サトイモ科)は四国と本州の一部にのみ分布する夏緑性の多年生草本で,園芸採取や里山の管理放棄などにより絶滅危惧種となっている。本種は体サイズの増加に応じて可変的に無花 _二重左右矢印_ 雄 _二重左右矢印_ 雌と性表現を変える「時間的な雌雄異株植物」であるが,同一の体サイズであっても異なる性表現を示すことがあり,この定義は必ずしも明確ではない。しかし,本種の成長と性表現との相互関係と,それらに対する光強度の影響に関する生理生態学的な知見は極めて少ない。本研究では,林床を模した異なる光条件下(相対光量子密度28%,14%,4%)でユキモチソウを栽培し,以下の点を検討した。光強度の変化にともなう,1)地上部形態・光合成機能の可塑性と個体サイズ・性表現との相互関係,2)貯蔵器官である球茎の成長速度を指標とした前シーズンの生産性と今シーズンの性表現との関係。
     光強度の減少にともない,本種の葉面積成長は長期化し,葉柄が長くなる傾向にあった。遮光による成長抑制は有花個体よりも無花個体で顕著だったが,成長速度は光強度の影響を受けにくかった。雌個体では,体サイズが大きいほど繁殖器官に多くのバイオマスを投資していた。一方,雄個体では繁殖器官への投資を抑制して貯蔵器官への分配を維持しており,次年への成長と開花・結実に備えていると考えられた。小葉の光ム光合成特性は遮光の影響をほとんど受けなかった。一方,日中の小葉の光化学系IIの光利用効率(Fv/Fm)は相対光量子密度14%から28%の下で有意に低下していた。
  • 嘉田 修平, 藤崎 憲治
    セッションID: P1-131c
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    コバネナガカメムシは、イネ科のヨシとツルヨシを主な寄主植物とする吸汁性昆虫である。同一個体群中に飛翔可能な長翅型と不可能な短翅型を出現させる翅二型性を示す。またヨシ群落は湖沼環境で見られるのに対し、ツルヨシ群落は河川環境で見られる。河川環境下のツルヨシ個体群は頻繁に洪水にさらされるのに対して、ヨシ個体群は安定している。そして洪水による攪乱が選択圧となり、それらの間で分散型出現頻度がツルヨシ個体群の方で高くなっているのではないかと考えられた。まず室内飼育によってコバネのツルヨシ個体群、ヨシ個体群由来の孵化幼虫を育て、それらの間での長翅出現に関する違いがないかをみた。成虫の長翅率はツルヨシ個体群由来の場合に比較して、ヨシ個体群由来の方で低く、長翅発現性に関して遺伝的な違いがあることが示唆された。次に野外調査によりツルヨシ群落、ヨシ群落でみられるコバネの長翅率を調べた。しかし、野外で見られた個体群密度が低かったこともあり、一定の傾向は検出できなかった。
    また、コバネの発生消長を両群落において比較した。その結果、ツルヨシ個体群では年1化であるのに対して、ヨシ個体群では年2化する年があることが分かった。これらのことも含めて、両個体群における生活史戦略の違いについて考察する。
  • 藤木 大介, 菊沢 喜八郎
    セッションID: P1-132c
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/07/30
    会議録・要旨集 フリー
    木本植物の幹の生育段階の指標として相対成長速度(RGR)の逆数を対数化したLRR (the logarithmic reciprocal RGR)を使うことを提案する.最初に我々は,生育段階の指標変数としての必要十分条件を以下のように仮定した.1)変数は個体発生直後にある極値をとり,枯死直前に別の極値をとる.2)異なる個体間で変数の変動幅に差はない.この条件に基づき,LRR,齢,サイズの3変数の中で,どの変数がもっとも上記条件を満たすかを調査した.

    林床低木のクロモジ(Lindera umbellata)の自然枯死地上幹を対象に樹幹解析を行い,幹の寿命,LRRと幹材積量の生存期間を通した変化を明らかにした.その結果,以下の点が明らかになった,1)全ての枯死地上幹において3変数ともにその最小齢において最小値をとり,最終齢に最大値をとること.2)各変数の変動幅の幹間変異は,LRRで最も小さいこと.以上より,生育段階の指標変数としての必要十分条件は,3変数の中でLRRがもっとも満たしていることが明らかになった.

    次に,野外に生育する生存地上幹を対象に,そのLRR,幹材積,幹齢,樹冠上の当年生枝の年間加入率と死亡率,繁殖努力(単位材積成長量当たりの年間花序生産量)を調査した.得られたデータを用いて,当年生枝の年間加入率と死亡率,繁殖努力をそれぞれ従属変数とし,LRR,幹材積,齢を独立変数として回帰した.その結果,それぞれの従属変数においてLRRを独立変数として回帰した場合に最も高い決定係数が得られた.このことは,樹木個体レベルにおいて,生育段階に依存して変化するパラメータは,LRRを用いることでこれまでより高い精度で予測できることを示唆していた.
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