地域に根差した自然保護活動を進めていくためには,そこに住む人々が大切と感じる自然の恵みを明らかにし,各主体のもつ多様な意見を反映した保全計画を定める必要がある.本研究では,長野県下伊那地方において,市民ナチュラリストの団体である伊那谷自然友の会の会員(以下友の会)と長野県飯田高校の生徒(以下高校生)にアンケート調査を実施し,地域の自然に対する関わり方と自然に対する意識について比較した.調査の
結果,友の会と高校生では自然環境に対する認識が大きく異なることが明らかにされた.友の会は高校生に比
べて,登山や動植物の観察などを通じて能動的に自然と関わっており,伊那谷に自生する植物の認知度も高かった.対して高校生は,風景として眺めるなど受動的な自然との関わりが多く,特に希少種や地域のシンボル種
である植物の認知度が友の会に比べて低かった.大切にしたい自然環境を尋ねた結果,友の会は里山,高校生
は山地という回答が最も多かった.市民ナチュラリストが認識している自然の多様な価値を将来世代に継承し
ていくためには,特に違いの大きかった部分について,知識や経験を共有する機会を積極的に設け,その差を
縮めていく取組が必要と考えられる.例えば,地域の自然を一緒に観察するツアーを実施したり,博物館や体
験施設などで自然に関する情報を共有したりする活動は,将来世代が希少種やシンボル種を実際に見たり触れ
たりすることで理解を深めていくのに有効と思われる.
抄録全体を表示