ジャフィー・ジャーナル
Online ISSN : 2434-4702
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選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
  • 姫野 知也, 横内 大介
    2023 年 21 巻 p. 1-28
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/03
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    本論文では,テキストアナリティクスのファイナンス分野への応用を念頭に,金融経済ニュースおよびそのラベル情報を活用する新たなトピックモデルを開発,提案した.本研究が提案するモデルは,文書に付与されたラベルを文書分類のための補助情報として取り込みつつ,文書に割り当てられたトピックからその文書に対応する複数の教師データを予測する点が大きな特徴である.とりわけ,予測部分について,パラメータが銘柄間でランダムな値をとりうるマルチラベルモデルを導入している点が,本研究での最も重要な貢献となっている.また,実際のニュースデータと提案モデルを用いた実証分析では,算出したスコアをもとに株価とニュースの関係を調査した.その結果,将来にわたって株価への影響が持続する企業のファンダメンタルズに関する情報が,ニュースの中に含まれる可能性があることを示した.

  • 丹波 靖博, 原口 健太郎
    2023 年 21 巻 p. 29-42
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/03
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    本論文では,日本の地方債市場における地方債スプレッドについての実証分析を行い,地方債市場の特殊性と透明性について考察を行う.本研究では暗黙の政府保証論とスプレッド推定モデルの構築の困難性に注目し分析を進める.スプレッド推定モデルの構築は,機械学習モデル(Random Forest Regressor)を用い,目的変数であるスプレッド水準に寄与している説明変数の特定を行う.また,説明可能なAI(XAI: eXplainable AI)のツールのひとつであり,変数の説明力における重要性や変数の関係性を検証可能なSHAPで分析した結果,スプレッド推定モデルで説明力の高かった財務変数は実質公債費率,将来負担比率,退職手当引当金であり,新型コロナウィルス感染症の影響があった2020年と2019年とを比較すると,地方債償還が財政運営に与えるインパクトを示す指標である実質公債費率と,職員の退職手当の支払いに将来必要と見込まれる金額を示す公会計上の負債項目である退職手当引当金の寄与度の順位が2020年に上昇したことが確認された.本稿で,スプレッドが公会計指標を含む複数の財政指標により左右されることや,特に影響の大きい指標を具体的に明らかにしたことは重要な発見である.これに加え,本稿で構築した高精度のスプレッド推定モデルは,財政学・会計学における研究はもちろん,実務界における活用可能性もあることから,将来の分野横断的な研究展開が見込まれる.

  • 吉田 周平, 山本 零
    2023 年 21 巻 p. 43-62
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/03
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    機械学習技術の発展により, 近年では深層強化学習を用いたポートフォリオ構築モデルが提案されている.しかしながら深層強化学習は計算負荷が高いため, 先行研究では少数の投資対象銘柄を対象にしており, また非常に短い間隔でのリバランス問題としてモデルが構築されている.本論文では, 大きな資金を運用する機関投資家の資産運用に利用可能なモデルを構築することを目的として, 広範な投資対象銘柄, 取引コスト(回転率, 流動性), 月次程度のリバランス間隔などを考慮した深層強化学習モデルを提案する.国内株式市場の株式データを用いた実証分析の結果, 提案したモデルは大型・中型500銘柄の投資対象銘柄を現実的な時間で取り扱うことができ, 構築したポートフォリオは先行研究で利用されている深層強化学習モデルや標準的な機械学習モデルを用いたものに比べ高い有効性を有していることを示した.

  • -創業時の年齢, 斯業経験年数, 創業の「旬」の効果
    尾木 研三, 峰下 正博, 枇々木 規雄
    2023 年 21 巻 p. 63-87
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/03
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    中小企業の信用リスクを計測する信用リスクモデルは, 目的変数にデフォルトの有無, 説明変数として主に決算書の数値を用いたロジスティック回帰モデルが主流となっている. ただ, これから創業する企業は決算書がないため, 創業者に関する情報や業界・市場環境に関する情報といった決算書以外の情報から説明力のある変数を探して選択する必要がある. 創業者に関する情報のうち, 創業時の年齢と斯業経験年数は, 創業後のパフォーマンスとの関係が有意であるとする研究が複数あり, モデルの変数として有力な要因と考えられる.

    先行研究をみると, 創業時の年齢は, 創業後の成功に対してマイナスの相関, 斯業経験年数はプラスの相関で有意とする分析結果が多いものの, 玄田(2001)は, 創業時の年齢の2乗と斯業経験年数の2乗が有意であることを示している. さらに, 学校を卒業してから20年くらい関連した経験を積んで40歳くらいで創業する場合に最も経済的成功を収めやすいという創業にベストなタイミング「旬」があると述べている. とすれば, 「旬」で創業した企業の信用リスクを評価する場合, 個別に創業時の年齢と斯業経験年数を評価すると過大評価する可能性があり, 「旬」についてもモデルの変数として有力な要因になると考えられる. ただ, 玄田(2001)は二つのデータをクロスした分析は行っておらず, 信用リスクモデルの構築や評価も行っていない.

    創業企業向けの信用リスクモデルに関する先行研究として, 尾木・内海・枇々木(2017)は, 日本政策金融公庫(以下, 日本公庫)が融資した34,470件の創業企業の非財務情報から, デフォルトと関係がありそうな変数を「人的要因」「金融要因」「業種要因」の三つのカテゴリーに分けて分析し, 有意になった非財務変数を使ったモデルが実務で利用可能であることを示した. 人的要因では, 創業時の年齢の40歳未満ダミー変数と斯業経験年数の5年以内ダミー変数が有意であることを明らかにしているが, 非線形関数を使った定式化や二つの変数をクロスした詳細な分析は行っていない.

    そこで, 本研究では, 「創業時の年齢」と「斯業経験年数」に着目し, 日本公庫が融資した約11万件の創業企業のデータを用いて, デフォルトとの関係を詳細に分析するとともに, 非線形関数を使った定式化を試みる. さらに, 二つの変数をクロスした創業の「旬」が存在するかどうかについて確認する. 本研究では, 創業時の年齢と斯業経験年数をクロスした部分の企業数が構成比で1%以上かつ100件以上存在し, デフォルト率の水準が全体もしくは業種平均のおおむね半分以下になるタイミングを創業にベストなタイミング「旬」と定義し, その存在の有無について, さまざまな角度から分析する. 最後に, これらの変数をモデルの新たな変数として採用して説明力があるかどうかを検証し, 同時に尾木ら(2017)のモデルに比べて精度が向上するかどうかも明らかにする.

    分析の結果, 創業時の年齢は, 年齢別デフォルト率を4次関数で定式化でき, 斯業経験年数は, 年数別デフォルト率を2次関数もしくは区分線形関数で定式化できることがわかった. さらに, 筆者らの知る限りにおいて,信用リスク評価の観点からも創業の「旬」があることを初めて実証的に確認できたとともに, 「旬」で創業したかどうかを示すダミー変数が飲食店において統計的に有意となり, 信用リスクの過大評価を修正する効果が期待できることも明らかになった. これらをモデルの変数として投入すると, モデルの精度を示すAR値が, 尾木ら(2017)が示したモデルに比べて, インサンプルで5.6%ポイント, アウトオブサンプルで5.8~6.1%ポイント向上することを確認した.

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