津守眞は、日本の保育学を築いてきた研究者の一人である。子どもの世界への深い敬意と尊重が、彼の生涯にわたる研究を一貫して導いてきた。本研究は、津守眞における保育思想の展開過程を4つの時期――⑴前史、⑵研究者としての出発、⑶保育研究の転回とその発展、⑷保育者としての研究とその統合――に分けて概観する。「⑴前史」においては、彼が子どもの研究をめざすようになったきっかけを示した。「⑵研究者としての出発」においては、障碍をもつ子どもたちとのかかわり、保育・幼児教育に関する研究、そして『乳幼児精神発達診断法』に代表される発達研究を取り上げ、彼が客観主義的アプローチに疑問を抱くようになった経緯を取り上げた。「⑶保育研究の転回とその発展」においては、子どもの描画研究を通して外的行動を超えた内的体験の意義を捉えたこと、障碍をもつ子どもと困難な時期をやり通す体験が生まれたこと、心理療法学や現象学的教育学との出会いが彼独自の新たな研究を可能にしたことを示した。「⑷保育者としての研究とその統合」においては、彼が障碍をもつ子どもたちの保育者となることでその実践と思想が深められたこと、それによって保育論・発達論のみならず、保育理解における解釈の方法論についても独自の貢献がなされていることを明らかにした。また彼が自らの研究を振り返って何を保育学に残そうとしたかについて、資料をもとに考察した。
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