知的熟練の継承が大きな問題となって久しいが,これは決して一過性の問題ではなく,スリム化された組織においても機能する新しい組織的継承の枠組みが求められている。筆者らは既にオントロジーとルールベース・システムを活用した知的熟練の組織的継承の枠組みを提案し,東京電力のある現場事業所での試行およびその評価実験により,熟練者がオントロジーやルールベース・システムへ表出化した知的熟練を新人が効率的に内面化できることが支持された。ただし,知的熟練も,経営環境等の変化に伴い,経営層の意思に従い,変化する。そのため,筆者らの提案が機能していくためには,熟練者が知的熟練の変化をオントロジーおよびルールベースへ持続的に表出化していくことが前提となる。そこで,本論文では,熟練者が経営層の意思に従って知的熟練を持続的に表出化していくことを支援するシステムを提案する。具体的には,ドメイン・オントロジーによりルール・オントロジー上の業務に直接使われる日本語の「最も浅いルール」を生成し、それをルールベース上の実行ルールに変換する機能,経営環境等の変化に対する経営層の意思をルール・オントロジー上の「最も浅いルール」およびルールベース上の実行ルールに反映する機能を提案する。併せて,新人による内面化に関しても,筆者らの先行論文での評価実験を踏まえ,業務プロセス・フローの詳細化を提案する。これらの提案は,試行事業所において熟練者から高い評価を得,その有効性が支持された。
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