日本全身咬合学会雑誌
Online ISSN : 2435-2853
Print ISSN : 1344-2007
27 巻, 2 号
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原著
  • ─ Phasic 波形とtonic 波形の比較─
    斎藤 未來, 山口 泰彦, 三上 紗季, 後藤田 章人
    原稿種別: 研究論文
    2021 年27 巻2 号 p. 1-7
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,睡眠時ブラキシズム(SB)の評価パラメータとして,咬筋筋電図波形積分値の有用性を明らかにすることである.特に,phasic波形とtonic波形の関係に注目し,検討を行った.

     対象は,SBおよび 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS) の疑いにて,終夜睡眠検査を行った患者76名とした.音声ビデオ付き睡眠ポリグラフを用い,咬筋筋電図からphasic波形,tonic波形,および波形の集合体であるエピソードを抽出した.睡眠検査結果によりSB,OSASともに陽性の38名[SB(+)OSAS(+)群],SBのみ陽性の20名[SB(+)OSAS(−)群],および全被験者76名について,波形数と積分値を算出した.

     各群の各分類での波形数やエピソード数と標準化積分値間ではいずれも有意な相関を認めたが,分布にはばらつきがあり,相関が強いとは限らなかった.1波形当たりの積分値はtonicがphasicより明らかに大きかった.単位時間当たりでは,tonicよりもphasicの波形数が有意に大きかったが,積分値については,tonicのほうが有意に大きい,あるいは有意差はないが中央値はtonicのほうが大きいという結果であり,波形数のようにphasicの占める割合が優位であるという傾向は示されなかった.

     積分値による評価でのphasic波形とtonic波形が占める割合は,波形数による評価とは傾向が異なることが示され,評価パラメータとして,波形数だけでなく積分値も用いることの重要性が示唆された.

  • 後藤 崇晴, 市川 哲雄
    原稿種別: 研究論文
    2021 年27 巻2 号 p. 8-12
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー

    本研究では,歯根膜の触・圧覚への感覚刺激と前頭前野の活動の関連性を明らかにすることを目的とした.健常有歯顎を有する若年者11名を対象とし,対象歯は,上下顎左側中切歯および第一大臼歯とした.歯根膜触・圧覚の測定にはvon Freyの刺激毛を用いた.精神物理学的手法として,マグニチュード推定法を用い,Stevensのべき法則より歯根膜触・圧覚感受性値を算出した.前頭前野の血流量の測定には,ウェアラブル光トポグラフィーを用い,実験タスクとして,咬合力維持タスクを設定した.歯根膜触・圧覚の刺激物理量と感覚量の対数値はほぼ直線の関係を示し,有意に高い相関係数を示した.歯根膜触・圧覚感受性値に関しては,前歯と臼歯の間で有意な差は認められなかった.臼歯においてはすべての測定野で感受性値と血流の変化量との間に負の相関関係が認められた.また咬合力に関しては,臼歯のほうが前歯と比較し,有意に低い値を示した.以上の結果より,歯根膜触・圧覚において「Stevensのべき法則」が適用できることが示され,臼歯においてはその法則から導き出される感受性値が,前頭前野の血流量と咬合力の抑制に関連することが示され,咬合力維持というタスクにおける感受性値の部位特異的な重要性が示唆された.

  • 小見野 真梨恵, 志賀 博, 上杉 華子, 中島 邦久, 荒川 一郎, 仁村 可奈
    原稿種別: 研究論文
    2021 年27 巻2 号 p. 13-17
    発行日: 2021/11/30
    公開日: 2021/12/25
    ジャーナル フリー

    重心動揺計を用いた重心動揺検査は,直立姿勢に現れる身体制御機構の障害による動揺を観察し,平衡機能を評価するため,主に耳鼻咽喉科,神経内科,眼科などで普及しており,歯科においても,顎口腔機能と全身機能の密接な関係を調べるために用いられてきている1〜16).咀嚼運動時の身体重心動揺を調べた研究では,重心動揺は,閉眼時よりも開眼時のほうが安定すること,安静時よりも軟化したチューインガム咀嚼時,特に片側咀嚼時に最も安定することが報告されている16).しかしながら,咀嚼側の違いが重心動揺に及ぼす影響については,明らかにされていない.

    そこで,本研究では,咀嚼側の違いが身体重心動揺に与える影響を明らかにする目的で,健常有歯顎者25名の各種咀嚼(軟化前後の自由咀嚼と右側と左側の片側咀嚼)時の重心動揺を足圧分布測定システムを用いて測定し,身体動揺の総軌跡長を算出し,咀嚼側間で比較した.総軌跡長は,軟化後自由咀嚼のほうが軟化前自由咀嚼よりも有意に短く, 身体重心動揺は,軟化後自由咀嚼のほうが安定していた.右側咀嚼と左側咀嚼との比較では, 両咀嚼間に有意差が認められず,利き手側と身体重心動揺との間に関係がなかった.主咀嚼側咀嚼と非主咀嚼側咀嚼との比較では, 主咀嚼側のほうが有意に短く,身体重心動揺は,主咀嚼側咀嚼のほうが安定していた.

    咬合が身体重心動揺に及ぼす影響を調べた研究では,偏心咬合位よりも咬頭嵌合位5),スプリントや義歯の装着 4, 6, 7, 10, 14)で身体重心動揺が少なくなることが報告されている.これらは,咬合が安定していると身体重心動揺が少なくなることを示している.このことから,咀嚼運動においてもより安定した咀嚼時に身体重心動揺が少なくなることが予想される.

    咀嚼運動に関するこれまでの研究で,被験食品や咀嚼方法などの咀嚼条件が咀嚼運動に影響を及ぼすことが明らかにされており18),通常の食品では,咀嚼中に大きさや硬さが変化し,それに対応して咀嚼運動も変化するため,不安定になってしまう.したがって,咀嚼中に大きさや硬さが変化しない軟化したチューインガムが被験食品として適切であり,グミゼリーがそれに準じることが明らかにされている19).軟化前後の自由咀嚼の身体重心動揺を測定した本研究の結果では,総軌跡長は,軟化後自由咀嚼のほうが有意に短く,身体重心動揺は,軟化前自由咀嚼よりも軟化後自由咀嚼のほうが安定していた.軟化後のチューインガムは咀嚼中に大きさや硬さが変化しないが,軟化前のチューインガムは咀嚼中に大きさや硬さが大きく変化するため,咀嚼運動が変化し,不安定になることは容易に推測でき,このことが身体重心動揺に影響を及ぼしたものと考えられる.

    右側咀嚼と左側咀嚼との比較では,総軌跡長が右側咀嚼(9.06cm)と左側咀嚼(8.99cm)とで近似し,両咀嚼間に有意差が認められなかった.なお,利き手が咀嚼運動に及ぼす影響を排除するため,本研究では,右側が利き手の者を被験者に限定した.また,利き手の影響を調べた研究ではないが,安静時の総軌跡長は右利きが7.5cm,左利きが7.7cmであったと報告されている20).これらのことから,利き手側と身体重心動揺とは関係ないと考えてよいように思われる.

    ヒトには嚙みやすい側(主咀嚼側)があり,非主咀嚼側との間に機能的差異があることが明らかにされている21, 22).咀嚼運動においても主咀嚼側咀嚼のほうが非主咀嚼咀嚼よりも有意に安定することが報告されている21).本研究では,総軌跡長は, 主咀嚼側のほうが非主咀嚼側よりも有意に短く,身体重心動揺は,主咀嚼側咀嚼のほうが安定していた.著者らは,身体重心動揺は自由咀嚼よりも片側咀嚼のほうが有意に安定することをすでに報告16)していたが,本研究の結果により,片側咀嚼の中で,非主咀嚼側よりも主咀嚼側のほうが有意に安定することを示すことができた.これは,咀嚼運動が主咀嚼側で最も安定することに起因しているものと考えられる.

    これらのことから,身体重心動揺は,利き手側と無関係であり,運動が最も安定する主咀嚼側咀嚼時に最も安定することが示唆された. 注:本文中の文献番号は,英論文中の文献番号と一致する.


    ※内容の詳細は英論文になります.
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