小児理学療法学
Online ISSN : 2758-6456
2 巻, Supplement_1 号
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心疾患・がん
  • 金田 直樹, 西部 寿人, 和泉 裕斗, 酒井 渉, 市坂 有基, 名和 智裕
    原稿種別: 心疾患・がん
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 158
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    当センターでは、2018年から先天性心疾患(CHD)患者に対し多職種により手術後の早期離床・リハビリテーション(以下術後早期リハ)を実施している。介入前の開始基準の他、実施中の中止・中断基準を用いて安全性に対して配慮する事が重要である。しかし、CHD患者の術後早期リハ介入時の中止・中断の状況報告はない。

    【目的】

    当センターにおける術後早期リハ介入時の中止・中断に影響する要因を調査する。

    【対象】

    2018年5月~2022年12月、手術及び術後早期リハを実施したCHD患児とした。PICU入室後48時間以降の介入患児や、診療録上の記録不備は除外した。

    【方法】

    当センター術後早期リハの件数、中止・中断に至った件数、発生頻度、中止・中断に至った患児の患者背景、介入時の離床内容、中止・中断の理由を診療録より後方視的に調査した。介入時の離床内容は、当センター早期離床・リハビリテーションにおけるプロトコル表のClass分類を用いた。

    【結果】

    429人が対象となり、術後早期リハ実施件数は1201件であった。中止・中断に至った件数は37件、発生率は3%であった。年齢 (月):3[1-0.5]、性別 (男/%):23/62、術前肺体 血流比:0.8[0.7-0.9]、術前心胸郭比 (%):51[47-56]であった。手術時間 (分):266[224-326]、人工心肺使用時間 (分):139 [ 108-192]、心停止時間 (分):62[45-87]、Risk Adjustment in Congenital Heart Surgery System (RACHS)-1-categoryでは、 category-3:3人、category-4:8人、category-5:8人、 Category-6:3人であった。介入時の術後日数(日):3[1.5-11.5]、介入時の呼吸管理状況は挿管管理者 (%):84%、介入時の鎮静状況はState Behavioral Scale:-3が50%を占めていた。 離床内容はClassA(体交不可)12件、ClassB (側臥位体交)18件、 ClassC (ギャッジアップ)5件、ClassD(バギー座位)2件であっ た。中止 ・中断に至った理由は、PHクライシス様のバイタル変化/中心静脈圧や心拍数の許容範囲外の変化/新規不整脈の出現など循環関連項目が49%、鎮静状況変化等の神経関連項目24%、人工呼吸器とのバッキングやファイティング増加等の呼吸関連項目 9%、その他が18%であった。

    【考察】

    CHD手術後患児の介入時に中止・中断した患児の背景として、重症度指標別でcategory4以上の患児、ClassAからBへの体交可能期に生じている件数が多く、更に循環関連項目が半数を占めていた。術後早期リハ介入時において、特に留意を必要とする可能性がある患児の特徴を示した。今後も術後早期リハの安全性や効果を検討する為、客観的な評価と症例蓄積が必要と考える。

    【倫理的配慮】

    早期・離床リハビリテーション介入時の同意書と共に、ヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意した。

  • 古俣 春香, 西部 寿人, 金田 直樹, 井上 和広
    原稿種別: 心疾患・がん
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 159
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    感覚運動発達に遅れを有する拡張型心筋症(Dilated Cardiomyopathy:DCM)児の発達介入を経験した。感覚発達の偏りによる不快啼泣が心負荷増大に繋がりやすく、心負荷に配慮した感覚運動介入と環境設定を行い、心不全治療と並行して発達向上に繋げる機会を得たため報告する。

    【症例報告及び方法】

    1歳女児。在胎38週1日、3065g。周産期に特記なし。 11ヶ月時発育不良、運動発達遅滞、陥没呼吸あり保健センターから紹介。胸部レントゲンで心胸郭比72.7%、肺野透過性低下。心不全マーカー高値でDCMによる急性心不全と診断された。小児集中治療室にて鎮静、高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)、 強心薬の心不全治療開始。2病日よりPT開始。8病日一般病棟へ転棟し付添入院。発達経過をKIDS乳幼児発達スケール(以下 KIDS)で評価した。

    【結果および経過】

    11ヶ月時入院前KIDSは、運動0:3 操作0:10 理解言語0:9 表出言語0:11 対成人社会性1:0 で運動領域の遅れあり。 11ヶ月~1歳:寝返り不可でセット座位可。腹臥位、手掌足底接触、介入される事を拒否していた。安静時陥没呼吸を認め、不快啼泣で心拍数(以下HR)は120から136へ上昇し発汗と努力呼吸の心負荷症状が増大した。SpO2100%で不整脈なし。介入は快適な母の抱っこから前傾座位、前もたれ四つ這いを段階的に行い、HR増加を10%内に抑え心負荷症状があれば中断した。 1歳1ヶ月~1歳3ヶ月:ベッド上シャッフリング獲得。セット 立位で足を引っ込め手掌足底支持の拒否していた。安静時努力 呼吸は軽減するも心不全増悪あり、介入を座位静的活動にした。心不全寛解後に寝返り、腹臥位→開脚座位、座位→腹臥位を獲 得。介入は寝返りや抱っこ腹臥位、いす座位足底接地や姿勢変換の動的活動を漸次行なった。遊びや保育のいす座位で足底接地を増やした。 1歳4 ヶ月~1歳7ヶ月:自座位獲得。手掌足底支持の拒否は持 続していた。介入は手支持起き上がり、座位足底支持を行なった。経鼻酸素離脱と病室外許可出るも、心不全再増悪と運動量減少あり安静度は縮小。介入を座位主体とし、いすの変更で生活場面の足底支持と手の使用を促し、看護と手が使いやすい末梢ルート固定を工夫した。心不全寛解後、手づかみ食べや手内操作が増え、セット立位やいす座位で足底接地が増加した。 1歳6ヶ月時KIDSは運動0:8 操作1:1 理解言語1:4 表出言語1:0対成人社会性1:6 食事2:2 概念2:0 しつけ1:6 。運動の遅れは残存したが全領域で発達向上した。

    【考察】

    DCMは心不全増悪寛解の慢性経過を辿り、運動負荷にはきめ細かな対応が必要とされる。本症例は、感覚発達の偏りが運動発達の阻害因子となっていた。介入は不快啼泣や心負荷症状が生じない感覚刺激量、姿勢選択、内容、頻度、タイミング、量、環境設定を多職種連携しながら調整変更して継続した。結果、母子が安定して発達支援を受け入れ、新しい感覚運動経験を積み重ねる事ができ、発達向上が緩徐ながら進むことができた。

    【倫理的配慮】

    ヘルシンキ宣言に沿って発表の主旨と目的について保護者へ説明し、同意を得ている。

  • 陽川 沙季, 山西 新, 﨑田 博之, 脇田 媛加, 中村 達志, 田村 太資
    原稿種別: 心疾患・がん
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 160
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    先天性心疾患(CHD)患者に対するリハビリテーション(リハ)報告は近年増加している。多くは術後早期の症例であり、退院後フォローを継続したものは少なく、成人 CHD患者の心臓リハ(心リハ)報告はほとんどない。当センターでは2022年12月より心肺運動負荷試験(CPX)が可能な小学校高学年以上の先天性及び後天性心疾患慢性病態の患者で、主治医が選択し本人や両親が希望した症例を対象に、心リハ入院及び外来での定期的な運動機能評価、理学療法介入を個別に行う取り組みを開始した。今回、その対象となった一症例の経過を報告する。

    【方法および症例報告】

    症例は25歳女性である。作業所に週5日勤務している。現病歴は生後12日に心室中隔欠損症、大動脈狭窄に対して根治術を施行、大動脈弁狭窄の進行あり4歳でバルーン大動脈弁形成術、10歳で大動脈弁輪・弁下拡大、人工弁置換術を施行された。また8歳に右片側肥大症の脚長差に対し 40mmの左下腿延長術を施行された。今回、心不全の急性増悪で入院したが内科治療で心不全症状が軽減し、その入院中から心リハ導入目的での理学療法が開始となった。開始時、身長 139.4cm、体重53.0kg、BMI27.3kg/m2、BNP139.6pg/mL、心胸郭比56.5%、6分間歩行距離(6MD)は335mであり、胸部疲労よりも下肢疲労が優位であった。適切な負荷量での運動習慣を身に着けることと減量を目標とし、2日目にCPX(トレッドミルRamp負荷)を実施し、AT値を参考にしたエルゴメータでの 有酸素運動やレジスタンストレーニング(RT)を開始した。退院後も継続できる内容で、スマートウォッチの心拍数やBorg scaleを用いた回数やインターバル調節も指導した。また、回 数等を記載できるチェック表を作成した。42~60日目に心リハ及びカテーテル検査目的の入院をはさみ、その後は外来診察に合わせて月1~2回の理学療法を継続している。

    【結果および経過】

    外来リハ時はエルゴメータでの有酸素運動 を継続し、ストレッチやRTはフォームや疲労等正しく行えているかを確認した。外来診察でも内服調整があったため心拍数は参 考値とし、自覚症状やペダル回転数等で負荷量を調整した。また、ホームエクササイズはそれまでの生活や遂行度を聴取し、必要で あれば適宜内容も修正した。開始5ヶ月時点で、6MD は400mに向上した。ホームエクササイズは継続できており、作業所からの帰りを歩く、母の買い物や犬の散歩についていくなどの行動変容も起きたが、体重は53.2kgと減量には至っていない。

    【考察】

    成人CHD患者に対し、入院と外来での心リハを導入した。介入後約5ヶ月時点で、運動耐容能の向上を認めた。心不全急性増悪後で内服調整をしている例であったが、CPXを実施し定期診察に合わせて個別的な評価や介入を継続することで、モチベーションを保ちながら有害事象なく運動習慣をつけることができている。しかしながら、減量の効果は5ヶ月時点では見られていない。カロリー制限が難しく、もともと運動習慣のない下肢手術既往のある患者であり、今後運動療法の継続による筋量の増加の可能性も示唆されるため、体重の推移には注意しつつ、長期的なフォローが重要と考える。

    【倫理的配慮】

    ヘルシンキ宣言に基づき、患者と保護者に発表の主旨を説明し同意を得た。

  • 長島 史明, 小林 明弘, 後藤 晴美, 山岸 康幸, 前田 浩利
    原稿種別: 心疾患・がん
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 161
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    当法人は在宅療養支援診療所、訪問看護ステーションを擁し、多くの小児がん患者の自宅療養を支援し、看取りまでを行っている。リハビリテーション (リハ)部門の訪問エリアは東京23区および多摩地区の一部、千葉県北西部の東葛飾地区であり広範囲に渡っている。スタッフは現在12名、担当制はとらず、患者宅へは複数のスタッフが訪問している。情報共有はモバイル対応電子カルテ、ビジネスチャットツール等を使用。小児がん患者に対する訪問リハに関して、一定の指針や手順は示されておらず、ケースごとに悩みながら対応しているのが現状である。そこで今回、当法人の小児がん患者に対するリハについて、実施内容やスタッフの考えを把握し、今後の課題について検討することを目的として本研究を実施した。産後休業中1名、新入職者1名は対象から除外した。

    【方法】

    当法人のリハスタッフにGoogle フォームによる無記名 Web アンケートを実施した。調査項目は、小児がん患者に対する「評価」、「評価法」、「子どもが自ら活動できる時期に実施するリハ内容」、「子どもが自ら活動できない時期に実施するリハ内容」、「小児がんのリハで重要と思うこと」、「小児がんのリハで実際にしていること」とした。項目を複数提示し、それぞれ段階評定法で回答をもとめた。また「小児がんのリハで悩んだこと」に関して自由回答法で答えてもらった。

    【結果】

    回答者は8名 (回答率80%)。回答者の経験年数中央値は18年 (13~33年)、小児がんの経験人数は5~9人が5人、10人以上が 3人であった。 小児がん患者に対する「評価」は、心身機能・身体構造、活動、参加の領域で多岐に亘っていた。なかでも、ADL、呼吸機能、 福祉用具・補装具の適合とした回答が多かった。「評価法」は、ペインスケールは半数が使用すると回答したが、他は特定の評価法は使用していなかった。「子どもが自ら活動できる時期のリハ 内容」は、歩行練習、起居動作練習、筋力練習の回答が多かった。 「子どもが自ら活動できない時期のリハ内容」は、リラクゼーション、呼吸リハ、コミュニケーション支援の回答が多かった。 「小児がんのリハで重要と思うこと」は、多様な項目があがっていたが、リハスタッフ間の情報共有、子どもとのコミュニケーション、保護者とのコミュニケーションの回答が多かった。「小児がんのリハで実際にしていると思うこと」は、 「重要と思う」項目であっても「していると思う」と回答した人数は少なかった。なかでも、疾患の理解、治療内容の理解は人数が少なかった。「小児がんのリハで悩んだこと」は、急変対応・看取り・グリーフケア、リハ内容に関する内容が多かった。

    【考察】

    小児がん患者の「評価」および「リハ内容」については病期や症状の変化に対応しながら実施されていた。「重要と思うこと 」と「実際にしていること」には相違がみられ、疾患の理解お よび治療内容の理解に関しては十分でないことがうかがえた。また「悩んだこと」は急変対応・看取り・グリーフケアが多く、スタッフ間の密な情報共有やケースごとの振り返りが必要になると考えられた。

    【倫理的配慮】

    以下をリハスタッフへ十分に説明した。①アンケート調査への協力は自由意志であり、アンケートへの回答を以て同意を得たものとする。②回答内容はすべて統計処理を行い、個別のデータは公表しない。③回答された調査データは目的以外に使用することはなく、またデータを保存する場合は、パスワードをかけ外部に漏洩しないよう厳重に管理する。④アンケートの実施やデータ分析の過程では、個人情報の保護を徹底し、回答内容や個人が特定されないよう倫理的な配慮を十分に行う。

  • 小林 明弘, 長島 史明, 後藤 晴美, 山岸 康幸, 前田 浩利
    原稿種別: 心疾患・がん
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 162
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    【はじめに、目的】

    小児がんは小児期の重要な死因のひとつであり、年間500名程度が死亡している。しかし終末期に最後まで自宅で過ごすことができるケースは限られている (大隅2020)。当法人は在宅療養支援診療所、訪問看護ステーションを擁し、多くの小児がん患者の自宅療養を支援し、看取りまでを行っている。リハビリテーション (リハ)部門も小児がん患者に訪問し、リハを提供している。小児がん患者に対する訪問リハに関して、一定の指針や手順は示されておらず、当法人ではケースごとに悩みながら対応しているのが現状である。 そこで今回、当法人の小児がん患者の特徴を抽出し、リハの現状を把握するとともに今後の課題について検討することを目的として本研究を実施した。

    【方法】

    当法人の小児がん患者の特徴について、診療録より後方視的に 調査した。対象期間は2018年4月~2023年3月とした。調査項目は、性別、年齢、疾患分類 (脳腫瘍・固形腫瘍・造血器腫瘍)、初回リハ時の運動機能・コミュニケーション能力、訪問診療初診からリハ開始まで日数、訪問診療初診から永眠までの日数、看取り場所、リハ開始から永眠までの日数、リハ訪問回数、リハ終了から永眠までの日数とした。今回、小児がん患者のみではなく、AYA世代の患者も含むこととした。福祉用具貸与や調整のみで訪問した対象者は除外した。

    【結果】

    対象者は26名 (男性12/女性14)であった。 初回リハ時の年齢の中央値は8歳 (2~19歳)。6歳未満が9名、 6歳~14 歳が13名、15歳以上が4名。 小児がんの疾患分類は脳腫瘍19名、固形腫瘍5名、造血器腫瘍 2名。 初回リハ時の運動機能は、屋外歩行可能8名、屋内歩行可能3名、座位保持可能8名、座位保持不可能7名であった。コミュニケーション能力は、会話可能14名、単語でやりとり7名、ジェスチャーでやりとり4名、コミュニケーション不可能1名であった。 訪問診療初診からリハ開始までの日数は中央値14.5日 (2~451 日)。 全例亡くなっており、訪問診療初診から永眠までの日数は中央値173日 (24~459日)。 看取り場所は自宅22名、病院4名。 リハ開始から永眠までの日数は中央値116日 (8~798日)。リハ訪問回数は中央値18.5回 (2回~52回)。 リハ終了から永眠までの日数は中央値3日 (0~224日)。そのうち0日が5名、1日が3名、2日が4名、3日が3名であった。

    【考察】

    対象者の年齢は幼児、学齢、AYA世代まで幅広い。それぞれの発達状況や生活課題に対応する必要がある。疾患分類は脳腫瘍が多く、局所症状に注意しながらリハを進めていくことがもとめられる。リハ初回時の運動機能はさまざまであったが、コミュニケーションは比較的とりやすかった。対象者のニーズ、意思を尊重しながらリハを実施することが重要である。 初診からリハ開始までは約2週間程度であり、症状への対応に加えて自宅環境の調整も検討していく。リハ継続期間は約4か 月であり、対象者の急な状態変化に対応することが求められる。リハ終了から永眠まで、3日以内が半数以上を占めており、緊 急時対応や連絡体制を明確にする必要があると考えられた。

    【倫理的配慮】

    個人情報および診療情報などのプライバシーに関する情報は個人の人格尊重の理念の下、厳重に保護され慎重に取り扱われるべきものと認識し、個人情報の保護に関する法律、 ヘルシンキ宣言、 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に従った。本研究はカルテ情報を用いた後ろ向き研究であり、被験者に直接的な利益は生じない。研究の際、個人を直ちに判別できる情報 (氏名、住所など)は利用しなかった。本研究の目的以外に、本研究で得られた情報を利用しない。

  • 北村 憲一, 鈴木 暁, 稲員 惠美, 市川 沙希, 佐藤 奎至, 真野 浩志
    原稿種別: 心疾患・がん
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 163
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    【はじめに,目的】

    2022年に小児集中治療室 (以下PICU)で早期離床・リハビリテーション加算(以下加算)が開始された. 成人と異なり,小児は先天性疾患等が含まれ個別性の高い疾患が多く,発育や発達段階が様々で,ゴール設定が難しいため十分なエビデンスは確立していない.当院では加算の算定が可能になる前より,医師,看護師 (以下Ns),理学療法士 (以下PT)で共同して早期離床プロトコルを作成し, 2021年9月から重症例はリハビリテーション処方により PT,その他はNsが離床を進めた. 2022年5月以降は,基本的には 全例にPTが介入した.本報告では,PICU入室患者の加算前後の身体機能を比較し,小児集中治療領域での早期離床の効果と今後の課題について検討する.

    【方法】

    当院PICUに入室した患者のうち,入室後48時間以上PICUで治療した患者を対象として,2021年度の2カ月間 (加算開始前:以下 「加算前群」46例)および2022年度の2カ月間 (加算開始後:以下 「加算後群」61例)について調査した.疾患内訳,入室期間,安静度の経過 (①安静,②体位変換,③ベッド内活動:ベッド内で30°以上のヘッドアップや抱っこができるようになった状態,④立位 ,⑤歩行),入退室時の身体機能評価 (Functional Status Score: FSS),入室前および入退室時の9-grade mobility assessment scale (以下9-grade),PT介入の有無について診療録から後方視的に調査した.統計手法にはMann-Whitney U検定を用い,優位水準は5%未満とした.

    【結果】

    疾患内訳:「加算前群」術後36例,中枢運動障害4例,呼吸器感染2例,その他4例,「加算後群」術後42例,中枢運動障害9例,呼吸器感染5例,その他5例であった.年齢「加算前群」中央値8カ月 (2カ月-16歳),「介入後群」1歳0カ月 (4カ月-14歳)で有意差は認めなかった.PT介入は「介入前群」33%,「介入後群」95%で有意に増加した.入室期間は「介入前群」159 (66-474)時間,「介入後群」153 (48-744)時間で有意差を認めなかった.PICU入室中に「ベッド内活動」以上へ到達したのは「加算前群」46%, 「加算後群」64%であった.入室時のFSS合計点は「加算前群」 29 (6-30)点,「加算後群」29 (8-30)点と有意差を認めなかった が,退室時には「加算前群」14 (6-28)点,「加算後群」9 (6-30)点であり,「加算後群」が有意に低値であった.9-gradeは有意差を認めなかった.全例において治療や観察の強化が必要な重大インシデントなどは認めなかった.

    【考察】

    年齢,入室時FSSの値は有意差がなく,入室時の全身状態は2群 間に差を認めなかった.「介入後群」ではPT介入割合が増加したことで,早期から運動機能評価を行い,リスクを踏まえて抗重力位を設定しNsに伝達することで,「ベッド内活動」へ到達した患者の割合が増加したと考えた.退室時のFSS合計点は「加算後群」が優位に低かったが,「9-grade」は有意差を認めなかったことから,PICU入室中のPTの介入は自動運動よりもベッド上での早期のヘッドアップなどにより覚醒度やコミュニケーション,哺乳や摂食への介入による栄養摂取に効果があったと考えた.本研究の限界は遠隔期での運動機能評価を行っておらず,PICU退室後や退院後の経過が不明であるため今後の課題としたい.

    【倫理的配慮】

    本研究は後方視的調査のため,倫理的な配慮として個人を特定できないよう個人情報の扱いに配慮した.またオプトアウト手続きを行い,当院の倫理委員会の承認を得た (受付番号:14).

評価尺度
  • Zeidan Hala, Bandara Anuradhi, 入江 啓輔, 中田 咲来, 青山 朋樹
    原稿種別: 評価尺度
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 164
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    【はじめに、目的】

    未就学児の運動機能の発達にはばらつきがあり、運動機能の遅れや障害を評価することは容易ではない。幼稚園や保育園の先生や療育現場の先生は乳幼児期に子供たちと最も接触し、最も早い段階から介入に関与できると考えられている。幼児の運動機能の評価法は色々あり、国際的に運動機能の評価にはMABC-2が用いられているが、日本では標準化されていない。また、理学療法士や作業療法士などの専門職以外も簡単に運動機能を評価する方法が必要である。本研究においては簡易に運動機能を評価する「サーキットチェックリスト (CC)」を開発することを目的としている。

    【方法】

    はじめにサーキット運動として12個のセクションを組み、各セクションの細かな観察項目のチェック項目を作った。放課後等デイサービスで療育を受けている3~7歳の子供32人を対象に、サーキット運動を実施し、動画を撮像した。2人の理学療法士が、動画を使用しチェックリストの各観察項目にチェ ックを付けた。実行可能であった観察項目の合計点を算出した。またMovement Assessment Battery for Children - 2nd edition (MABC-2)で評価し、Aiming & Catching評価の2つの 項目とBalance評価の3つの項目のStandard Scoreをまとめて、 MABC-2のGross Motor Score (GMS)を計算した。CCの合計点 と GMSの有効性を分析するのにPairwise Correlationを使用し た。 CCの信頼性は評価者内の信頼性、評価者間信頼性と内的整合性のCronbach’s Alphaで分析した。本研究は所属施設の倫理委員会の承認を得て、両親の承諾を得て行った。

    【結果】

    GMSを弱い相関のあるCCの項目や教室で通常使用さ れないCCの項目を外し、CCをボールキャッチ、ボールキック、 手押し車、お手玉投げ、足形のカードの上にジャンプ、幅跳び、片足立ちの7個の動作に絞った 。チェックリストの観察項目は 98個から42個の項目に絞った。7個の動作項目の合計点とGMS は中程度の相関があった (0.6421, p<0.0001)。評価者間信頼性は、推定値の高い精度を示し (範囲: 0.589 ‒ 0.856)、内的整 合性は中程度であった (Cronbach’s Alpha: 0.666)。

    【考察】

    CCは教室環境において未就学児の粗大運動機能を簡易的に評価できると考えられる。今後は多職種で同様に評価できるか検証する必要がある。

    【倫理的配慮】

    本研究は京都大学の倫理委員会の承認を得た (倫理審査承認番号:R-2929)。 設備を利用する用事の両親に本研究の説明書やインフォムドコンセントを配り、両親の承諾を得て行った。

  • 木村 優希, 儀間 裕貴, 楠本 泰士, 林 寛人, 久司 夏井, 眞柴 知穂, 樋口 滋, 深澤 宏昭, 石田 優樹
    原稿種別: 評価尺度
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 165
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    粗大運動能力分類システム (Gross Motor Function Classification System; GMFCS)でレベルⅣやⅤに相当する重度脳性麻痺患者では、脊柱側弯や股関節脱臼、風に吹かれた股関節変形などの状態を複合的に指す“Postural deformity”が好発する。出生時には変形や拘縮は認めないが、経年的に非対称的な姿勢で長時間過ごすことで進行すると考えられるため、予防的観点から姿勢を評価することが重要である。本研究は、海外で脳性麻痺患者の姿勢の評価尺度として有用性が報告されているPosture and Postural Ability Scale (PPAS)の日本語版を作成し、その信頼性と妥当性を検討することを目的とした。

    【方法】

    本研究は横断研究とし、複数の小児関連施設で実施した。日本語版PPASは開発者から許可を得た後、順翻訳、統合作業、逆翻訳を行い、開発者の最終的な承諾を得て完成させた。PPASは背臥位、腹臥位、座位、立位の計4姿勢で姿勢能力 (どのような運動が可能か)と、姿勢の質 (頭部・体幹・四肢の位置関係や体重分布など)を前額面と矢状面よりそれぞれ採点する。今回、対象は脳性麻痺患者73名 (24.0±14.5歳)とした (GMFCSレベル Ⅰ:10名、Ⅱ:16名、Ⅲ:11名、Ⅳ:19名、Ⅴ:17名)。検者内信頼性の検討として、理学療法士1名 (3年目)が28名を直接観察で 1か月以内に2回評価した。検者間信頼性の検討として、 理学療法士2名 (13年目、23年目)が30名を写真・ビデオから1回ずつ評価した。各信頼性はそれぞれ重み付けしたkappa係数を算出し、構成概念妥当性はGMFCSとのSpearmanの順位相関係数を算出した。また、内的整合性の検討としてクロンバックのα係数を算出した。

    【結果】

    結果を姿勢能力、姿勢の質 (前額面)、姿勢の質 (矢状面)の順に示す。検者内信頼性のkappa係数は0.99~1.00、0.93~0.98、 0.88~0.97であった。検者間信頼性のkappa係数は0.96~1.00、 0.81~0.93、0.82~0.92であった。GMFCSとの相関係数は -0.77~-0.91、-0.67~-0.76、-0.37~-0.75であった (すべてp <0.01)。また、クロンバックのα係数は背臥位、腹臥位、座位、立位の順に0.87、0.90、0.88、0.85であった。

    【考察】

    今回、PPASは高い検者内・検者間信頼性を示した。PPASと GMFCSは1項目で弱い相関関係 (ρ=-0.37)を認め、その他すべての項目で中等度から非常に強い相関関係 (ρ=-0.66~-0.91)を認めたことから良好な構成概念妥当性が支持された。また、 クロンバックのα係数は一般的に0.8以上の値が推奨されており、今回すべての姿勢で0.8以上を示したことから、良好な内的整 合性が示された。

    【倫理的配慮】

    本研究は東京都立大学荒川キャンパス研究倫理委員会 (承認番号:22037)の承認後、対象者と代諾者には口頭と書面を用いて研究の概要を十分に説明し、同意を得た上で実施した。本研究への協力を断っても、今後の診療や通院には何ら支障のないこと、一度同意した後でも同意を撤回できる旨を口頭と書面にて伝えた。

  • -Posture and Postural Ability Scaleを用いた検討-
    眞柴 知穂, 木村 優希, 儀間 裕貴, 楠本 泰士, 石田 優樹
    原稿種別: 評価尺度
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 166
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    脳性麻痺 (以下、CP)患者は関節拘縮や骨変形による姿勢障がいが生じやすく、また下肢屈曲位の立位姿勢が観察されやすいと報告されている。しかし、臨床で簡易的に姿勢を評価できる尺度が無く、歩行可能なCP患者の立位姿勢に着目した報告は少ないのが現状である。姿勢の評価尺度にはPosture and Postural Ability Scale (PPAS)があり、本学会にて日本語版 PPASの信頼性や妥当性を報告予定である。PPASは背臥位、腹臥位、座位、立位の各姿勢にて、姿勢能力 (どのような運動が可能か)と姿勢の質 (前額面/矢状面におけるアライメントな ど)を観察する。今回、姿勢の評価尺度であるPPASを用いて、歩行可能なCP患者の立位姿勢の特徴を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    本研究は記述的研究とし、対象は小児関連施設に通院している CP患者とした。選択基準は粗大運動能力分類システム (GMFCS)レベルⅠ、Ⅱの者とし、GMFCSレベルⅢ-Ⅴの者は除外した。本研究の対象者は26名 (23.5±16.8歳、GMFCSレベル Ⅰ:10名、Ⅱ:16名、痙直型両側性麻痺:25名、痙直型片側性麻痺:1名)とした。PPASでは姿勢能力をレベル1~7 (レベル 1が最低、レベル7が最高)、姿勢の質は前額面および矢状面から頭部や体幹、骨盤、下肢、体重分布など6項目を「対 称・中 間位 (1点)」または「非対称・正中からの逸脱 (0点)」で評価し、合計はそれぞれ最高6点となる。今回PPASは立位の項目のみと し、測定は手順を十分に理解した理学療法士が実施した。

    【結果】

    結果を中央値[四分位範囲] (最小値-最大値)で示す。姿勢能力は7.0[7.0-7.0] (2-7)、姿勢の質 (前額面)は5.5[2.8-6.0] (1-6)、姿勢の質 (矢状面)は2.0[1.0-5.0] (0-6)であった。姿勢の質 (矢状面)における「対称・中間位 (1点)」が観察された割 合は、GMFCSレベルⅠ、Ⅱの順に、「頭部は正中位」: 90%、 56%「体幹は中間位」:60%、44%「骨盤は中間位」:60%、 31%「下肢は伸展位」:50%、6%「足部は中間位で全面接地 」:50%、19%「体重分布は均等」:30%、25%であった。

    【考察】

    今回、矢状面のスコアが前額面と比較して相対的に低値であり、姿勢の質 (矢状面)ではGMFCSレベルⅠよりもレベルⅡで採点が低い傾向が見られた。またレベルⅠは体重分布、レベルⅡは下 肢の項目が最も低い結果であった。歩行可能なCP患者では、腰椎過前弯や骨盤前傾による腰痛、立位・歩行時の膝関節屈曲位による膝関節痛などが報告されているため、臨床で立位姿勢を評価することは重要と考えられる。今回は記述的研究のため、今後は疼痛等の二次症状との関連や年齢を考慮した検討をしていく必要がある。

    【倫理的配慮】

    本研究は東京都立大学荒川キャンパス研究倫理委員会 (承認番号:22037)の承認後、対象者と代諾者には口頭と書面を用いて研究の概要を十分に説明し、同意を得た上で実施した。本研究への協力を断っても、今後の診療や通院には何ら支障のないこと、一度同意した後でも同意を撤回できる旨を口頭と書面にて伝えた。

  • 佐々木 優太, 中島 卓也, 依田 奈緒美, 楠本 泰士, 真野 英寿
    原稿種別: 評価尺度
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 167
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに,目的】

    発達障害児や診断名のついていない発達遅滞児では,Pediatric Evaluation of Disability Inventory(PEDI)やこどものための機能的自立度評価法(Functional Independence Measure for Children:Wee FIM)などの従来の評価方法で把握することが 難しい問題点が多く存在する.Canadian Occupational Performance Measure(COPM)では,様々な障害,すべての発達段階の患者(クライエント)を対象に,作業遂行に対する本人または家族の捉え方の変化を測定することができるとされ,クライエントの問題点を柔軟に把握することができる.COPMは身近にいる人を回答者にできるため,重症の障害をもつ場合やコミュニケーションが十分に取れない場合にも回答可能とされている.児の機能・構造上の問題点だけでなく,日常生活や活動・参加,社会生活上の問題点を把握するためにCOPMは有用とされているが,我が国での小児に対するCOPMを使用した報告はそれほど多くない.本研究はCOPMの変化から,小児の理学療法介入上での COPMの使用の有用性について検討することを目的とした.

    【方法】

    対象は2021年12月から2023年4月に,東京リハビリ整形外科クリニックおおたに外来通院している12歳以下の児の保護者とし ,COPMに回答していただいた.分析対象は30名の保護者とした. 1度目の回答から1年間介入を行った後に再評価を行った.測定項目は生活年齢, COPMの問題点抽出の際に最も課題であると回答した問題点の遂行度,満足度,分類,介入後の遂行度・満足度とその変化率とした.回答された問題点に関して,分類をもとに運動・活動・ADL群 (活動群15名,平均年齢7.2±1.9歳)と認知・言語・コミュニケーション群 (社会性群15名,平均年齢4.9±2.6歳)の2群に分け,介入前後の遂行度・満足度と分類の違いに対して反復測定二元配置分散分析を行った.また, 生活年齢と遂行度 ・満足度の変化率に関して,Pearsonの相関係数を用いて検定を行った.統計処理にはExcel Ver.2304を使用し,有意水準は5%とした.

    【結果】

    遂行度・満足度では介入前後に主効果を認めた.遂行度・満足度では,分類の違いと介入前後との間に交互作用は確認されなかった.また, 生活年齢と遂行度・満足度の変化率の間に相関関係は認められなかった.遂行度では活動群にて介入前後で4.13± 2.59から5.33±2.47, 社会性群にて3.47±1.64から5.87±2.23 と両群ともに介入後に有意に向上した.満足度では活動群にて介入前後で3.47±2.77から4.33±2.35,社会性群にて3.93±2.60から5.93±2.40と両群ともに介入後に有意に向上した.

    【考察】

    介入前後のCOPMの遂行度・満足度の変化から,小児の理学療 法介入上でのCOPMの使用は有用であると示唆された.また,介入前後での変化を本人やご家族と数値を用いて共有できる点が大きな利点ではないかと考える.

    【倫理的配慮】

    本研究はヘルシンキ宣言に則り実施した。対象である保護者には口頭と書面で説明し、承諾を得て実施した。本研究への協力を断っても、今後の診療や通院には一切の支障がないこと、一度同意した後でも同意を撤回できることを口頭と書面にて伝えた。

  • 仲山 玖未, 川瀬 麻理, 浅井 朋美, 田辺 仁彦
    原稿種別: 評価尺度
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 168
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    急性脳症児の理学療法に関する臨床研究はほとんど見られず運動機能評価も確立されていない.粗大運動能力尺度(以下, GMFM)は脳性麻痺に対する粗大運動機能評価であるが,脳外傷の評価としても使用されており,同じ後天性脳障害である急性脳症にも使用できると考えた.また,家族との協働や生活に基づいた目標設定のため,カナダ作業遂行測定(以下,COPM)を使用した.今回,痙攣重積型急性脳症を呈した児に GMFM・ COPMを使用し目標設定・理学療法介入を行ったため報告する.

    【症例報告】

    本症例は痙攣重積型急性脳症を呈した2歳4か月の男児である.発症前の運動発達に問題はなかった.発症後3か月で当院に母子入院し3か月間の介入を行った. 入院時より定頸しており左側への寝返りは自立していた.胡座位では上肢の支持は見られず,頭部と体幹は伸展し,後方へ傾倒していた.骨盤を介助すると頭部と体幹は前傾位で動揺するが胡座位を保持することは可能であった.端座位は体幹が前後に動揺するため胸部での支持が必要であった.音の鳴る物やボールには興味を示したがリーチングは見られなかった.GMFMは領域A:54.9%,領域B:8.3%,領域C-E:0%であった. 入院当初,母から「元のように走ってほしい」という希望があったがGMFMの結果を元に現状の運動機能を説明し, COPM(遂行度/満足度)評価時には,①普段の座位の安定(2/3), ②バギー座位の安定(7/8),③食事を落ち着いて食べる(2/2)と聴取できた.そこで,3つの目標の共通要素である座位保持獲得を目標とした.

    【結果及び経過】

    GMFMの項目である座位での前方や後方45°の玩具を触る課題は減点があった.そこで,骨盤介助をしたリーチング動作を通して胡坐座位での体幹保持練習を行い,介助量を徐々に減らした.玩具の配置は前方から開始し,体幹の回旋を促すために 徐々に後方へ設定した.また,上下肢支持なしでの端座位保持の項目は困難であったため,まずは,足底接地や机上で上肢を支持した姿勢での遊びを行った.動画撮影を行い,母に介助方法を説明した. 退院時,左右の寝返りや端座位が自立し,介助なし胡座位では玩具操作が可能になった.GMFMは領域A:86.3%,領域B:51.7 %,領域C:2.4%,領域D-E:0%に向上した.COPM(遂行度/満足度)は①(10/10),②(10/10),③(6/8)であった.母からは 「遊びや食事の介助がやりやすくなった」と聴取できた.

    【考察】

    後天性脳障害は家族が発症以前の運動機能への回復を期待するため現状と乖離を感じることがあり,家族・セラピスト間でリハビリの方向性に差異が生じる可能性がある.しかし,本症例ではGMFMを使用したことで母への児の運動機能の説明することができ,さらに,介入時に課題・難易度の設定を行う際の一助にもなった. また,GMFMに加えCOPMを用いたことで,現状の運動機能と日常生活動作から目標設定を行い母と共有することができた.これらが目標達成を目指した介入や円滑な家族への指導につながったと考える.

    【倫理的配慮】

    発表に際してヘルシンキ宣言に基づき,ご家族へ書面にて十分な説明を行い,同意を得た.

  • 菊次 幸平
    原稿種別: 評価尺度
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 169
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    Goal Attainment Scaling(以下:GAS)は、対象者の個別的ゴールが介入において達成した程度を点数化する方法である。今回、脳室内出血後水頭症と診断を受けた児に対して、GASを指標に座位活動と歩行器を用いた移動を目標に設定し、児とご家族と共有し理学療法を実施した。介入方法としてアウトソールを簡便に脱着・固定ができるプラスチック短下肢装具(以下:P-AFO)を作成し、座位や歩行などの運動に合わせてP-AFOの用途をアウトソールの有無で使い分けて理学療法を行ったところ、粗大運動能力の向上と理学療法目標の達成に繋がったのでここに報告する。

    【方法および症例報告】

    脳室内出血後水頭症と診断を受けた3 歳6か月の女児。横地分類はA1。当施設にて0歳11か月時に理学療法開始となった。初回評価時は未定頸でADLは全介助。身体機能面では痙性麻痺による両足部の筋緊張亢進(内反・底屈)が確認できた。今回、ご家族からの要望をもとにGAS案を作成。理学療法目標を「座位保持装置に座って食事ができること」「歩行器を使って屋外を散歩すること」「ずり這い・四つ這いができること」に設定し、ご家族と共有し合意を得て、GASの完成とした。 理学療法は月に2回60分3単位で実施。介入開始時(2歳0か月)のGASのベースラインのT値は36.4であった。理学療法では腹臥位での頭部挙上練習とずり這い練習、当施設に常備している底屈0度のP-AFOを装着した座位練習とSRCウォーカーでの移動練習を実施した。SRCウォーカーでの移動練習では両足のつま先のみが床に接地し前方への推進に繋がらなかった。移動開始時の姿勢は矢状面上で、床面と両足のつま先を支点とした傾斜角は40度であった。そこで両足底での体重負荷を目的に40度の傾斜をつけた硬質スポンジをP-AFOの足底面に固定し、歩行練習を実施した。2歳11か月には、40度の傾斜をつけたアウトソールを、面ファスナーでP-AFOに簡便に脱着・固定できる本児用の装具を作成した。P-AFOの用途を、座位や歩行などの運動に合わせてアウトソールの有無で使い分けながら当施設での理学療法と自宅、児童発達支援事業所等の生活場面で継続的に使用した。

    【結果および経過】

    3歳6か月には座位保持装置上で介助下での食事が可能となり、1時間持続的に座位を保持することができるようになった。移動は歩行器を使用し、能動的に10メートルの距離を移動することが可能となり笑顔が増えた。3歳6か月の GASのT値は68.7に向上した。今回作成したP-AFOに対する ご家族の満足度は10/10で「アウトソールを装着したことで歩 行器を使って交互に足を振り出し、移動ができるようになった。アウトソールを外すことで見た目も気にならず外出時も使いや すい」との言葉が聞かれた。

    【考察】

    補装具費支給事務ガイドブック(2018)では、使用目的に合わせて1個で兼用できるような構造の補装具を作製することも大切であると述べている。今回GASを用いて座位や移動などの目標を児やご家族と共有でき、目的の運動に必要である構造の補装具を使い分けができるように作成し、理学療法や生活場面で導入できたことが粗大運動能力の向上と理学療法目標の達成に繋がったと考える。

    【倫理的配慮】

    今回の発表についてはその旨をご家族に説明し同意を得た。

  • 浅井 朋美, 澤田 あい, 吉橋 学
    原稿種別: 評価尺度
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 170
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    当院では、回復期だけでなく医師の判断により集中リハ目的に慢性期にあたる患児の受け入れを行っている。今回、二次性徴後から動きが鈍くなったとご家族から訴えがあった低酸素脳症児を担当し床から立ち上がり椅子に座る動作の獲得を目標とした。一般的な理学療法評価に加え脳性麻痺児に使用される粗大運動能力評価のGMFMを用いたところ問題点の抽出、介入方法の検討、ご家族との情報共有に有効であったため報告する。

    【方法および症例報告】

    本症例は先天性心疾患を認め5歳時に心内修復術実施後、意識障害が改善せず、低酸素虚血性脳症の診断となった12歳の女児である。約2か月間に渡る今回の集中リハ終了時点で目標動作の獲得までには至らなかったが、退院後約1年の時点で目標動作を獲得した。入院時の身体機能評価は、不全四肢麻痺、 ROMは両股関節伸展0度、MMTは両股関節伸展、足関節底屈2 、それ以外は3、筋緊張は四肢が高筋緊張で中枢部が低筋緊張、 協調運動障害やバランス障害があった。GMFMの達成度はA 86%、B85%、C43%、D23%、E8%で総合49%であった。目標動作の分析は、動作開始肢位の設定、立ち上がり動作、方向転換に中等度の介助を要し、GMFMのC項目37は1点であった。また、目標動作の構成要素はGMFMの得点から検討し、片膝立ちを経由する方法とした。GMFMでの膝立ちの項目は2 点、片膝立ちの項目は1点、立位の項目は1点であった。また、膝立ちは GMFMで2点だったが、理学療法評価の動作分析では股関節の伸展不足、体幹の不安定性、バランス不良な点から膝立ち姿勢は不十分であると判断した。以上のことより、目標動作獲得における問題点を、理学療法評価や動作分析に加えGMFMの結 果から抽出し、抗重力伸展活動の低下、上下肢の支持性の低下、バランス能力の低下、膝立ち、片膝立ち、立位保持困難とした。

    【結果および経過】

    介入では、膝立ちや片膝立ち等のマット運動、ロボットスーツ HALを使用した起立着座練習、歩行器を使用した歩行練習や階段昇降練習を実施した。その結果、目標動作は動作開始時の片膝立ちが軽介助、それ以外は見守りで可能となりGMFMのC項目37は2点となり、動作分析では膝立ち姿勢は改善したと判断した。さらに、GMFMにおける点数の変化をご家族へ提示し、退院後も動作練習を継続できるように家族指導を行った。

    【考察】

    問題点の抽出に質的な理学療法評価と量的評価であるGMFMを併用したことで、点数と動作分析のギャップが明確となり、目標動作の練習だけでなく、姿勢改善や関連動作に対しても介入を行ったことが目標動作のGMFMの点数の向上に繋がったと考えた。さらに、GMFMから得られた結果から、目標動作の構成要素を症例に合わせて選択し、介助が必要な場面や今後の練習が必要な場面をより具体的にご家族と共有できたことが最終的な目標動作の獲得に至ったと考えた。以上のことから、GMFMは低酸素脳症児の運動能力の把握にも有効であり、また、理学療法評価と併用することで、問題点を抽出する手段や身体機能を家族と情報共有する手段としても有効であったと考える。

    【倫理的配慮】

    発表に際してヘルシンキ宣言に基づき、患児とご家族へ書面と口頭にて十分な説明を行い同意を得た。

  • 脇 遼太朗, 楠本 泰士, 加藤 愛理, 宮本 清隆
    原稿種別: 評価尺度
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 171
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    小児理学療法ガイドラインにおいて、粗大運動能力分類システ ム (以下、GMFCS)Ⅰレベルの脳性麻痺児の理学療法の最終目標として応用歩行が挙げられており、階段や不整地、物や人などの状況に応じた歩行など、より応用場面での歩行獲得に向けて、歩行パターンや速度、持久力、バランスなどの歩行機能を向上する介入が重要とされている。また、近年脳性麻痺児に対する歩行機能の評価尺度の信頼性・妥当性が多く検証されている。応用歩行の評価として、ABILOCO-Kidsが開発されており、階 段昇降や物を持っての歩行、同年代と同じ速度での歩行などの応用場面の歩行能力を質問紙で評価できる。これらの歩行機能の評価尺度を用いることで、応用歩行や歩行機能を客観的、包括的に評価でき、詳細な臨床推論に繋がる可能性が考えられるが、脳性麻痺児に対し応用歩行獲得に向けて歩行機能評価を用いた効果検証はほとんど報告されていない。今回、応用歩行の向上を目標とし、包括的な歩行機能評価を用いて理学療法介入を行った症例について報告する。

    【方法および症例報告】

    症例は、痙直型両麻痺を呈するGMFCSレベルⅠの7歳男児で、移動能力はFunctional Mobility Scaleにて5m、50m、500m全 て5点と屋内外で独歩が可能であった。小学校入学後に保護者の 方より集団登校の際に転んだり遅れたりするという相談を受け、カナダ作業遂行測定 (以下、COPM)を用いて目標を設定し、応 用歩行、歩行機能向上目的で理学療法介入を開始した。その際、応用歩行の指標としてABILOCO-Kidsの評価を行った。ま た、歩行機能の指標として歩行パターン (Edinburgh Visual Gait Score:以下、EVGS)、速度 (10 meter walk test:以下、 10mWT)、持久力 (1-minute walk test:以下、1MWT)、バランス (Timed Up & Go test:以下、TUG)の評価を行った。理学療法介入は外来リハビリテーションにて月1回の頻度で筋力増強トレーニング、歩行練習、ホームエクササイズの指導と確認を中心に行い、6ヶ月後に応用歩行と歩行機能を評価し、1年後に最終評価として応用歩行、歩行機能、COPMの評価を実施した。

    【結果および経過】

    初期評価時に比べて最終評価ではABILOCO-Kidsが12→17点と応用歩行の向上が見られた。歩行機能では、EVGSが19→11点、 10mWTの平均値が10.03秒→7.39秒、1MWTが55m→70mと 歩行パターン、速度、持久力に向上が見られた。TUGの平均値は 6.38秒→6.93秒と著明な変化は見られなかった。COPMは遂行度が4点→5点、満足度が4点→6点と特に満足度で向上が見 られ、本児や保護者からも以前より転んだり遅れたりせずに集団登校ができてきたとの話があった。

    【考察】

    本症例は理学療法介入により歩行パターン、速度、持久力に向上が見られたことで、集団登校を始めとした応用歩行の向上に繋がったと考えられる。一方、TUGの値が変化しなかった理由として、先行研究の同レベルの脳性麻痺児と比較し初期評価時から高い値であったためと考えられる。このことから、応用歩行を目標とした脳性麻痺児の理学療法では歩行機能を包括的に評価することでより詳細な臨床推論に繋がる可能性がある。

    【倫理的配慮】

    本発表にあたり、その内容と個人情報の保護について本児とその保護者に書面および口頭にて説明を行い、署名による同意を得た。

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