小児理学療法学
Online ISSN : 2758-6456
2 巻, Supplement_1 号
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装具・支援工学
  • 楠 拓也, 井上 あゆみ, 野村 穂乃香
    原稿種別: 装具・支援工学
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 58
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    15番染色体異常が原因とされるプラダ―ウィリー症候群 (以下、 PWS)の特徴は運動及び知的発達の遅れ、筋緊張低下、摂食障 害など多岐にわたる。運動発達の遅れは乳児期に顕著で、歩行開始後は目立たなくなることが一般的であるが、今回我々は歩行開始が遅く、改良成人歩行器を使用し、独歩を獲得したPWSの一例を経験したため報告する。

    【方法および症例報告】

    症例は当園に通園している7歳女児。出生後すぐに、PWSの診断を受け、現在は市内特別支援学級 (肢体不自由)に就学している。左股関節臼蓋形成不全を呈していたため、出生後リーメンビューゲル装具をしていた経過あり。また、左凸の側弯が顕著になってきており、Cobb角は38°と側弯症の診断を受けている。 小学校入学前の日常移動は、骨盤帯付ポスチャーコントロールウォーカー (以下、PCW)を3年間使用し、歩行していた。不安感を訴えるようになり、小学校入学を機に歩行器を変更することになり、成人歩行器松永製作所MV-100 (以下、MV-100)を改良し、日常において使用することとした。

    【結果および経過】

    小学校入学前の運動評価ではPCW使用で30mの歩行直線距離 で疲労感が増し、中断していた。10m歩行は、25秒を要した。入学後のMV-100を使用した10m歩行は、20秒を要し、歩行速度は増した。30mの直線距離においても疲労感はなく、中断せずに歩行は可能だった。 入学後は当園のリハビリを月2回実施し、学内においても積極的な歩行器使用及び全身の筋力増強トレーニングプログラムを作成し、自立活動時間及び体育の授業内に取り入れるよう依頼した。 小学2年生になり、独歩が可能になり、歩行器使用なしの10m歩行は、22秒を要した。

    【考察】

    小学校入学前におけるPCW使用時よりもMV-100での歩行速度が増す結果となった。PCW は、後方型歩行器に分類され、購入時の公的助成の対象であり、利点が多くあることから脳性麻痺児などには利用者が多い。児 にとっては後方重心になりやすく、前方に重心を偏位させることへの不安感が生じるため、歩行速度は低くなったと思われる。 PCWでは方向転換時は一度持ち上げる必要があるが、前方型歩行器として改良を加えたMV-100は、スムーズな方向転換を行 うことができ、学内における教室移動では利用しやすかったと思われる。また、荷物を同時に運ぶことができ、教具を持ちながら移動できる点としては、授業への参加意欲及び自立度が高くなったと思われる。主観的ではあるが、児自身もPCWよりも押して歩く歩行器の方が歩きやすいとのことだった。 今後、6分間歩行や歩数を計測し、経時的に検証を行う必要があると考えられる。

    【倫理的配慮】

    保護者に症例報告の趣旨および倫理的配慮について説明し、書面にて同意を得た。

  • 仲村 佳奈子
    原稿種別: 装具・支援工学
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 59
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    放課後等デイサービス等の障害児通所支援 事業において支援の質の向上は大きな課題であり、専門職の配置により加算が発生するなど、制度面での改善が図られている。一方で、児童分野の経験が少ない職員が多く在籍するという課題も指摘されており、理学療法士等の専門職が配置される際に、いかに専門的知識を伝達していくかということが重要な視点となる。本調査では、デジタルツールの導入が、障害児通所支援施設の支援の質向上という観点において、どのような影響を及ぼし得るか検証することを目的とした。

    【方法】

    デジタルツールとして、「デジリハ (Digital Interactive Rehabilitation System)」を導入している放課後等 デイサービスの中から任意の施設を4箇所選定。理学療法士4名、保育士1名の計5名に半構造化インタビューを実施。文字起こし した内容について、文脈に沿って意味を最小限の言葉で補い、コードとして抽出した。抽出されたコードは、意味的類似性に従って分類し、カテゴリー化を行った。

    【結果】

    対象となった4施設のうち、3施設は重症心身障害児を対象とし、残り1施設は発達障害児を対象にサービス提供を行っていた。各施設では、壁面やPC画面に投影したデジリハアプリを、集団及び個別活動において日常的に利用していた。5名の半構造化インタビューより、<専門性の違い・相互理解>、 <アセスメント及び支援方針>、<支援における試行錯誤>、 <職員間のディスカッション>、<働きがい及びチームワーク >、そして<デジリハの特性>に発言をカテゴライズした。特に施設全体として、児それぞれに対するアセスメント及びそれに基づく支援方針の不足について課題として感じていた発言が多く見られた。一方デジリハ導入前後の変化として、児に合わせていかに個別最適化した介入を提供するかについての職員間でのディスカッション増加が報告された。また、デジリハの特性としては、一定の難易度や設定をいつでも提供できる”再現性”と、児の微細な動きを大きなフィードバックに変換する”拡張性”が強調された。

    【考察】

    本調査において、障害児通所支援施設での児に対する 個別アセスメントや、それに基づく支援の実践が大きな課題であることが示唆された。専門的知識は他職種や経験年数の短い職員にとっては近寄りがたいものにもなりやすいため、いかに分かりやすく施設全体に伝達するかを多くの専門職が苦慮していることが伺える。今回インタビューを行った施設においては、デジリハ の利用をきっかけに職員間での児についてのディスカッションや、支援内容を試行錯誤する機会の増加が生じていた。これには、デ ジタルツールとしての再現性・拡張性により、職員が何度もアセスメント・介入という試行を繰り返すことが容易になった点が影響していると考えられる。誰でも一定の支援環境を提供でき、児の変化が大きなフィードバックとして得られるツールの活用が、障害児通所支援事業において理学療法士等の専門職の知識を効率的に共有し、支援の質を向上するための基盤となりうることが示唆される。

    【倫理的配慮】

    本発表において、当事者間で同意を相互に得て、実施した。

  • 吉野 ゆい, 楠本 泰士, 仲村 佳奈子
    原稿種別: 装具・支援工学
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 60
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    ゲーム技術は、小児患者や高齢患者問わずに、身体機能の向上や心理的な動機付けとして有用と言われており、未就学児から青年期まで幅広い子どもを対象とした、新しい技術を導入した機器開発が求められている。日本では特に障害児向けに開発されたリハビリテーションのためのゲーム技術に、2021年に発売が開 始されたDigital Interactive Rehab ilitation System(デジリハ)があ る。デジリハは、一般に販売されているセンサーを基にゲームが作成されており、小児期から高齢期まで、リハビリテーションへの応用性は高い。今回、眼球運動の感知センサーであるT obii Ey e Tracker(Tobii社製)を用いて、 3名の視覚関連の症状がある児童に対し、眼球運動を促すデジリハゲームを実施し、眼球運動や注意機能、日常生活に一定の効果を得たので報告する。

    【方法および症例報告】

    対象は放課後等デイサービスを利用し、視覚関連の症状がある児童3名(7~10歳)とした。研究デザインは、ABAデザインとし、介入期には眼球運動を促すデジリハゲームを1回5~ 10分、週に2~3回実施した。ベースラインを1~2週、介入期間を8週、経過観察期間を4週とした。評価項目は対座法での視野検査と注意機能検査であるTrail making test(TMT)、学童期用視覚関連症状チェックリスト(V APCL)として、ベースライン、介入6週後、9週後、12週後の計4回実施した。

    【結果および経過】

    介入前のVSPCLの総得点は平均58.7点であり、全ての児童がカットオフ値を越えていた。介入後は37.7点に低下し、日常生活での視覚関連の症状が軽減した。最も総得点が改善した児童は55点から29点に変化した。また、介入後の読み書き関連の視活動と注視関連の症状が、カットオフ値未満に改善した児童がいた。TMTが介入前後で改善した児童は2名であった。その内1名は、TMTーAにおいては22.2秒、 TMTーBにおいては83.4秒改善した。視野検査では3名に眼球運動の改善があった。

    【考察】

    視覚関連の症状がある児童に対して、デジリハゲームを活用した眼球運動を8週間実施した。その結果、3名とも眼球運動の改善があり、日常生活での視覚関連の症状が軽減した。また、 2名に注意機能の改善があった。視覚センサーを用いたことにより、より正確な視覚からのフィードバックを得られ、効果的な介入に繋がったと考えられる。デジリハゲームを活用することにより、日常生活での見る活動において何らかの困難を示す状態を改善する、効果的な介入が実施される可能性が示唆された。

    【倫理的配慮】

    本研究は福島県立医科大学倫理審査委員会の承認後(承認番号:一般2022‐006)、対象者である保護者には口頭と書面で説明し、承諾を得て実施した。本研究への協力を断っても、今後の診療や通院には何ら支障のないこと、一度同意した後でも同意を撤回できることを口頭と書面にて伝えた。

多職種連携
  • 中村 祐樹
    原稿種別: 多職種連携
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 61
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    児童発達支援の目的は、子どもが充実した毎日を過ごし、望ましい未来を作り出す力の基礎を培う為に、子どもの障がいの状態及び発達過程・特性等に充分に配慮しながら、子どもの成長を支援することである。今回、1歳8ヶ月より当施設の集団療育と個別リハを利用していた男児に対して誤嚥や変形・拘縮を予防し、健康状態を維持しながら継続的に集団療育に参加できることを目標に多職種で連携して介入を行い、介入開始から6歳までの児の変化と各取り組みの関連性について後方視的研究を実施した。

    【方法】

    症例は、水頭症、てんかん性脳症、脳性麻痺、両側性白内障による視覚障害、知的障害(重度)を呈する1歳8ヶ月の男児。麻痺のタイプは、痙性四肢麻痺、GMFCSレベルⅤ。運動機能としては、未定頸、座位、寝返り不能。当施設の利用状況は、個別リハ(PT、OT、ST )、保育での集団療育に参加。利用開始時には、姿勢の適応性の低さ、唾液処理の難しさや食べ物の誤嚥とそれに伴う体調不良で登園困難となる事が問題となっていた。集団療育での活動を通して、好きな感覚や遊びが分かり、これらの活動と組み合わせる中で受け入れられる姿勢が増加し、変形拘縮予防や姿勢保持の為の道具の導入に繋がった。誤嚥に対しても、ST と連携しながら、姿勢保持の為のウレタン椅子や腹臥位クッションを作製するなどの姿勢ケアと経口摂取量の調整、経鼻栄養の併用などの栄養摂取方法の見直しを実施。これらの経過を踏まえた身体状況の変化についてLIFE (Life Inventory to Functional Evaluation )を用いて継続的な評価を実施し、各時期の変化を明確にし、評価結果を職員間で共有しながら支援を行った。

    【結果】

    多職種での連携を通して、本児の健康状態が改善し、保育活動への継続した参加が可能となった。この期間に、声かけに笑顔で反応し、要求がみられるといったコミュニケーション面での発達や歩行器歩行や姿勢安定性の向上などの運動機能面の発達、行事への参加や外出機会の増加などの参加の幅も拡大した。1歳10ヶ月時と5歳8ヶ月時のLIFEの数値の変化をみるとPartⅠ:生命維持機能が35→40、PartⅡ:姿勢と運動が3→ 24、PartⅢ:日常生活場面における機能的活動が5→7、PartⅣ :生産的活動場面における参加が16→31となり、どの数値に関しても高くなった。数値の変化時期をみると、誤嚥が改善し、生命維持機能の数値が上昇した時期と同時期に姿勢と運動の数値と参加の数値が上昇した。健康状態の改善と姿勢運動機能の増加が生産的活動の場である保育への継続的な登園や外出機会の増加に伴う感覚経験の積み重ねに繋がり、PartⅢ内の他者への関心や要求の表出などのコミュニケーション面の発達へと繋がった。

    【結論】

    乳幼児期の子どもは、様々な運動感覚経験を通して発達していく。重度な障がいをもつ子ども達にとって、この時期に集団療育の中で、親子の関係性を構築する事や親以外の人との関わりの中で主体的に多様な運動感覚経験を積み重ねていく事が総合的な発達を促進し、その後の人生における基盤を作る上で重要となる。そのために、支援者間で連携して子どもの療育参加をサポートする事が重要と考える。

    【倫理的配慮】

    本報告は研究目的を対象児の保護者に対する口頭と文章による十分な説明を行い、同意を得ています。また、当福祉会が設置する倫理委員会の承認を得ています。

  • 中谷 知矢, 小柳 翔太郎, 藤本 圭司, 岩本 義隆, 田中 亮
    原稿種別: 多職種連携
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 62
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    【はじめに、目的】

    特別支援教育に携わる理学療法士 (PT)の役割は,障害を持つ児童生徒を対象に健康の質を向上させ,自立や社会参加に向けて学校生活や学習の支援を行うことである。PTは教員との連携が求められるが,PTと教員の連携に関する報告は少ない。そこで本研究ではPTと教員との連携・情報共有について,特に手段と内容に焦点を当て,既存の知見を網羅的に収集し,必要とされる研究を特定することを目的とした。

    【方法】

    本研究はスコーピングレビューのための報告ガイドライン (PRISMA-ScR)に準じて実施した。検索データベースは医中誌, CiNii,PubMed,The Cochrane Library,PEDro,Google scholar,国立教育政策研究所教育研究情報データベースを使 用し,gray literatureも検索対象とした。論文は“理学療法 士 ”,“特別支援教育”,“連携”で検索し,2007年4月から 2023年4月の期間に「PTと教員における連携・情報共有」 に関する記載があるものを取得した。除外基準は,対象地域が日本国外,2007年4月以前の実践内容に関する記載のみ,PTのみが行った連携が特定できない,具体的なもしくは実践された連携や情報共有に関する記載がない,抄録のみで本文がないものとした。論文選択は,2名の担当者がそれぞれ独立して行い,意見が異なった場合は第3の担当者を交えた合議にて決定した。情報共有の手段は,類似する内容で分類した。情報共有の内容は,国際生活機能分類 (ICF)を参考に分類した。

    【結果】

    2088編の論文が抽出され,111編の重複論文を削除した。タ イトルと抄録から1次スクリーニングを行い,76編の論文が残 り,それらを全文レビューした結果,26編の論文を対象とした。研究デザインは観察研究が7編,質的研究が3編,総説が16編 であった。情報共有の手段については92件の記述があり,学校訪問や会議などの「対面でのやりとり」が64.1%と最も多く, 「文書」が21.7%,「電話・メール」が6.5%であった。情報共有の内容については447件の記述があり,「活動・参加」が 49.4%と最も多く,「心身機能・身体構造」が23.3%,「環境 」が15.0%,「実態把握・支援の方針」が9.4%,「介助方法」が2.9%であった。また,情報共有に学校独自のツールや客観的評価を用いた論文は11編であり,内訳はICFを基にした「学校独自のツール」が3編,「Pediatric Evaluation of Disability Inventory (PEDI)」が3編,新体力テストを基にした「運動テスト」が3編,その他が2編であった。

    【考察】

    PTと教員の連携においては,ICFの「活動・参加」の情報を中心に,学校独自のツールだけでなく,客観的評価 (PEDI,新体力テスト)が用いられていることが明らかとなった。しかし,特定された客観的評価の種類は少なく,情報共有する手段が 「対面でのやりとり」であるため,主観的な情報による連携が多いと予想された。また,研究デザインでは対照群を設けた研究や,連携が児童生徒の学校生活に寄与したかなどの効果を検証した研究が少なく,連携の質の検討が必要であると考えた。そのため,今後は連携の効果検証や,特別支援教育の現場で用いやすい客観的評価を検討する必要があると考える。

    【倫理的配慮】

    本研究はスコーピングレビューであり,倫理的配慮,説明と同意を必要としないことを確認の上,実施した。

  • 森田 捷平
    原稿種別: 多職種連携
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 63
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    筆者は現在、兵庫県明石市内の肢体不自由児を対象とした特別支援学校にて、内部専門家として勤務している。学校理学療法士 (以下、学校PT)は、学校に在籍する児童生徒 (以下、生徒)の実態把握や自立活動の指導等に関わるとともに、教職員に対して指導を行うのが主な役割であるが、近年は本校でも口腔・鼻腔内や気管カニューレ内部の喀痰吸引などの医療的ケアの導入が進み、酸素投与のみならず人工呼吸器を装着した生徒も在籍しており、教育現場における医療的な支援の必要性が高まっている。本発表では、そのような状況下における学校PTの役割について、実情を交えながら報告する。

    【方法】

    現在、本校には全生徒36名 (小学部20名、中学部12名、高等部 4名)が在籍し、そのうち、喀痰吸引が必要な生徒は14名、学 校において人工呼吸器を装着している生徒は5名在籍している。医療的ケアを必要とする生徒は年々増加し、研修を受けた担任が一部の医療的ケアを担っているが、喀痰吸引の回数が多いことにより授業時間を確保しづらい実情が存在する。教員は、生徒に対して痰の貯留音を聴取し始めたらすぐに吸引している様子がみられた。本校では、学校PTが授業中に各教室を巡回しているが、痰の貯留音が聴取できる生徒に対して体位ドレナージを行い、痰の喀出量を増加させることで吸引回数の減少を試みることがしばしばみられる。そこで、夏季休暇中の時間を活用して、教員や看護師を対象に全体での研修会を開催した。具体的な内容としては、①体表面から視認できる胸部の解剖学的位置の確認方法、②呼吸の動きをみるポイント、③呼吸筋、呼吸補助筋の活動およびその筋の筋緊張の見方、④手掌を使った胸郭の柔軟性および痰の貯留部位の確認方法、⑤体位ドレナージを行うための適切なポジショニング方法、以上の5点を教授した。その後、2学期が始まってからは、対象とする生徒に合わせて担任とともに上記内容において生徒の状況を評価し、必要な時には担任により体位ドレナージを行うようにした。

    【結果】

    担任による胸部の観察や呼吸面の評価、必要に応じた体位ドレナージを行うようにした結果、1回あたりの痰の喀出量が増加したという声や、1日の吸引回数が減少したという声が聞かれるようになり、授業時間の確保に繋がった。担任によって知識や技術の習熟度に差はみられるが、呼吸面の取り組みについて学校PTに直接助言を求める実例が増えてきた。

    【考察】

    痰の喀出量の増加や吸引回数の減少に繋がった要因として、教員らが医療的な知識を習得できる機会を設けることができたのはもちろんのこと、内部専門家として生徒の授業状況を実際に観察できていることで、生徒の身体面での評価や経時的変化を追いやすく、適切な体位ドレナージのためのポジショニングや吸引のタイミングなどを適宜助言・指導できるからではないかと考える。学校教育や学校生活についての理解がしやすく、教員と意見を交換できやすい立場にいる学校PTとして、今回実践した取り組みは生徒が学校生活を過ごしやすくするものだけでなく、授業時間を確保することより教育的効果の向上に繋がる有益な実践となった。

    【倫理的配慮】

    本発表においては、児童・生徒の個人情報保護に十分留意することや、発表の主旨、内容について学校長および明石市教育委員会に説明し、承認を得た。

  • 川野 神奈, 島田 蕗
    原稿種別: 多職種連携
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 64
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    【はじめに、目的】

    学校に在籍する医療的ケアを必要とする児童生徒数は増加傾向にある。神奈川県立特別支援学校では『医療的ケア担当教員養成講座』を修了した「認定特定行為業務従事者 (教員)」 (以下認定教員)が看護師と協働し医療的ケアを実施している。この講座のうち「姿勢と呼吸について」の講座を自立活動教諭 (理学療法士 (以下PT))が担当している。受講者の経験やそれに伴う背景の変化、新型コロナウイルス感染症の流行等の中で講座 内容・実施方法をPT間で検討、改善しながら毎年実施してきた。県立特別支援学校の医療的ケアの現状と、医療的ケアを必要と する児童生徒の学校生活を支えるPTの役割について報告する。

    【方法】

    県立特別支援学校の、医療的ケアを実施している児童生徒の増加傾向や、講座の内容と方法、その変遷について、資料を基に調査した。また、医療的ケアに関わるPTの取り組みを各校PTに聞き取り、役割を整理した。

    【結果】

    平成15年度、県立特別支援学校における医療的ケア承認人数 51人、実施承認ケア数60件であった。令和4年度は医療的ケア承認人数が232人、実施承認ケア数は714件であった。喀痰吸引のケアに加え、気管切開のケア、酸素療法、人工呼吸器を使用した呼吸管理等を必要とする児童生徒も同様に増加している。 PTの担当する「姿勢と呼吸について」の講座は、実技や体験の 時間を多く取り、安心安全に学校生活を送れるよう、関わり方やリスク、喀痰吸引を実施する前にできることに重点をおいた内容である。若手教員、肢体不自由教育部門未経験者の受講が増加する中で動画や写真等を多く用い、呼吸のメカニズムや呼吸機能障害、支援方法がイメージしやすい工夫を行った。新型コロナウイルス感染症の流行禍では、オンライン講座への変更、講座時間の短縮、実技に変えて動画資料の使用、事例検討でのグループワークを加えた。実技や体験、事例検討は、「理解と実践に役立った」、「個人個人で違いがあることを感じることができた」「児童生徒の立場に自分の身を置くことで児童生徒の気持ちを実感できた」等、受講者に好評だった。一方で、講座全体を通し、「一回の講座では実際に行うには難しい」「また研修があれば参加したい」との感想もあり、PTは各配置校での実際の指導・活動場面において、講座内容を個々の実態に応じて落とし込み、実践に結び付けるための役割を担ってきた。

    【考察】

    児童生徒に関わる医療的ケアや支援は主として担任が行っている。PTの担当する講座や日々の関わりは、担任の児童生徒への理解を深め、支援方法を具体的に示すことで、担任を支え、児童生徒の教育機会を確保し、充実した学校生活を送るための一役を担っていると考える。受講者に応じて講座内容を構成し、学校現場に即した事例や支援例を提示できること等が、学校に常駐するPTが講座を担当する強みであると考える。 受講者の声にあるよう、実際の指導場面で生かしていくかという点が課題であり、PTの日常的な関わりと共に、実践につながる講座を今後も検討する必要があると考える。

    【倫理的配慮】

    平塚支援学校長の承認を得た。

  • 原 正樹, 今井 真紀, 鳥巣 直子, 神保 美喜, 中澤 充昭, 小玉 美津子, 本杉 直子, 田尻 晴美, 武田 知仁, 小泉 亜紀
    原稿種別: 多職種連携
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 65
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    【はじめに、目的】

    神奈川県立総合療育相談センターは、神奈川県教育委員会からの依頼で2003年より特別支援学校の自立活動医事相談事業(以下医事相談)に対して理学療法士等の外部専門家の派遣を行っている。神奈川県立特別支援学校では2008年より自立活動教諭(以下学校専門職)を採用している。学校専門職が常駐している中で外部専門家を活用する事業を行うのは、全国でも数少ない取り組みである。しかし医事相談の活用の有無や活用方法は各学校で違いがあり、学校現場レベルでの意見を抽出する機会がほとんどなかった。そこで本研究は医事相談の実態把握とともに外部専門家の役割や課題について明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    調査対象は神奈川県立特別支援学校28校に在籍する学校専門職 (理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士)、医事相談担当の教育相談コーディネーター(以下Co)、教員とした。方法は無記名のWebアンケート調査を実施した。質問内容は(1)基本属性、(2)医事相談の実施状況に関すること(活用状況、必要性、対象児童生徒の選び方、介入範囲)、(3)外部専門家に関すること(活用するにあたり重要点、効果、求めること、役立つ点、課題)であった。調査結果は全体集計及び医事相談の経験年数(5年未満と5年以上)と職種(学校専門職とCo、教員)のそれぞれで比較を行った。統計処理はカイ二乗検定またはフィッシャー正確確率検定を行い、有意水準5%未満とした。自由記載はカテゴリー別に整理・収束した。

    【結果】

    62名から回答が得られ、有効回答は60名であった。外部専門家の必要性や効果については、全体の6割以上が肯定的な回答だった。全体集計から外部専門家は、実態把握や指導方法など医療面からの専門的な助言・指導、外部からの客観的な意見、専門性の維持・向上に活用されている割合が高かった。経験年数による比較と職種による比較では、自立活動担当者 (学校専門職、Co、教員)の医事相談への介入範囲と連携に関する複数の項目で回答の割合に差を認めた。

    【考察】

    今回の結果から自立活動担当者はチームで学校内のコーディネ ートを行い、神奈川県の専門職活用システムの一つとして医事相談を活用していた。医事相談における外部専門家は、自立活動指導の充実や教員の専門性向上だけでなく、学校専門職にとっても専門性向上や多角的な意見交換の機会として有効であることが示唆された。連携に関する項目は、職種や経験による個人の考え方や学校としての活用方法の仕組みが回答の違いに影響したと考えられる。医事相談において自立活動担当者が実態把握、相談内容の抽出、相談後のフォローを担ってくれるため、外部専門家の助言・指導が十分に活かされていると考える。課題としては結果から学校の特徴や地域資源の違いにより、学校として医事相談を活用する仕組みが整っているか十分に確認できなかったことが挙げ られる。今後、医事相談の発展のためには(1)活用方法を共有し、コーディネートに活かす、(2)自立活 動担当者と外部専門家が連携・協働できる関係性を築く、(3)学校ごとに異なる医事相談の仕組みの整理、(4)医事相談の継続が必要であると考える。

    【倫理的配慮】

    本調査は神奈川県立総合療育相談センター倫理委員会の承認を得た (承認番号23001)。本調査と学会発表に関して、神奈川県教育委員会には口頭と書面で説明し、承諾を得た。また神奈川県立特別支援学校28校の学校長と調査対象者には書面で説明し、アンケートの提出をもって同意を得た。

  • 竹田 智之, 東城 真由美
    原稿種別: 多職種連携
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 66
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    【はじめに、目的】

    小・中学校に関わる理学療法士 (以下PT)は、対象となる学校の特色やカリキュラム・マネジメントの状況等について理解をもちつつ、個別の指導計画の内容についても共有をした上で専 門性を発揮することが期待されている。横浜市教育委員会では、市特別支援教育総合センター所属のPTおよび、PT資格を有す る指導主事が、小・中学校における肢体不自由児の活動参加および環境設定、施設改修に向けたアドバイスを行っている。今回は、教育委員会のPTが外部専門職として小・中学校の肢体不自由児の体育の授業参加に関わった複数ケースに関して、具体的な困り感や対応、合理的配慮の提供に向けた合意形成への関わりの状況を分析し、小・中学校での持続可能な実践に向けて PTに求められる役割について考察することを目的とする。

    【方法】

    横浜市教育委員会において、2019年度から2022年度までに市 立小・中学校からの学校支援として要請があったケースのうち、体育や関連する行事等への参加が主訴であったケースを抽出し、その具体的な困り感と介入経過、および結果 (解決策)について分析をした。また、小・中学校の担任教諭や特別支援教育コーディネーター (以下CO)に対して半構造化面接を行い、PTに期 待する役割について分析をした。

    【結果】

    該当ケースは4年間で18件であった。困り感の内訳としては「 ①安全な運動方法、活動時間等について」18件、「②活動場所 までの移動について」11件、「③参加しやすい設定について」 15件、「④疾患に関する研修について」9件、「ラその他」5件であった。①は全ケースで困り感として挙がっており、学校が保護者や主治医から事前に確認している禁忌動作、耐久性についての再確認も多かった。②はプール学習時の移動における相談が多く、プールまでの動線やプールサイドでの移動、入水方法についての困り感が主となっていた。③は、運動会での徒競走の距離設定やダンスの隊形について、また体育での球技や器械体操等での課題分析、教具の工夫についての相談が多かった。 ④は当該児童生徒の疾患についての研修依頼であり、特にデュシャンヌ型筋ジストロフィーに関しての依頼が多かった。担任教諭やCOへの半構造化面接からは「①②④については以前よりPTの専門性に期待するイメージがあったが、③についても効果的なアドバイスがもらえることを知った」「②③について、児童生徒本人・保護者との合理的配慮に関する合意形成において、どの程度の配慮が必要なのかについてのアドバイスが活きた」等の結果が複数得られた。

    【考察】

    小・中学校においては肢体不自由教育の専門性の担保に関して センター的機能等でも対応がなされているほか、各自治体においてPTの専門性を活用する動きが少しずつ進んでいる。一方で、本研究では活動参加に向けた合理的配慮の合意形成においても、児童生徒の運動面のアセスメントや予後予測についての知見が必要な場面があることが示唆されている。こうした局面でPTが専門性を発揮し、客観的な知見を示す役割を担うことで合意形成が図りやすくなり、児童生徒の充実した学校生活に繋がる可能性があると考えられる。

    【倫理的配慮】

    ヘルシンキ宣言に基づき関係者に対し本研究の主旨、個人情報保護を遵守することを口頭および書面にて説明し、承諾を得た。

  • 長谷川 大和, 中村 愛
    原稿種別: 多職種連携
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 67
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    小児経験のある理学療法士に、放課後等デイサービスでの多職種とのやり取りの中で、どのような知識や技術の伝達が求められているのか、当社の取り組みを報告し、セラピストのいない放課後等デイサービスの潜在的なニーズや、必要な支援などを検討する材料とすることと、放課後等デイサービスでのセラピストの役割について明確にする。 当社は、重症心身障害児を対象とした放課後等デイサービスを運営している。放課後という限られた時間で、児童指導員、看護師、理学療法士が様々な視点で支援を行っている。 今回、預かり中に、スタッフから相談されたこと、理学療法士 からスタッフへアドバイスを行った内容についてまとめたので、報告する。

    【方法】

    2023年4月1日から6月末日までに、小児経験のある理学療法士 2名が、スタッフから相談を受けた内容と、理学療法士から スタッフへアドバイスを行った内容について記録した。記録は、発信元 (スタッフ、理学療法士)、内容カテゴリ (運動、姿勢、 摂食介助、身体の特徴、補装具、呼吸)、詳細 (自由記載)と3つに分けて行った。

    【対象児童】

    2店舗あり、一日の預かり上限は10名。全登録児童は、約50名。

    【対象スタッフ】

    看護師7名、児童指導員4名

    【結果】

    スタッフからの相談は28件、理学療法士からのアドバイスは 21件であった。 内容カテゴリとしては①運動15件 (スタッフ発信9件)内訳:活動 (遊びの姿勢や、活動方法に関するやりとり)7件、ROM (身体の硬さを和らげる方法に関するやりとり)2件、介助方法 (立ち上がり介助方法や抱っこの仕方)3件、歩行器 (歩行器の調整 )2件、歩行 (転倒リスクへの対応)1件。 ②姿勢13件 (スタッフ発信9件)内訳:ポジショニング6件、立位台4件、座位保持装置車いす2件、カーシート1件。 ③摂食介助15件 (スタッフ発信 9件)内訳:食事介助11件、飲水介助4件 ④身体の特徴3件 (全てPT発信)新規利用者の初期評価や、呼吸状態の評価やリスク管理に対してのアドバイス ⑤補装具2件 (スタッフ発信1件 )補装具の適応確認 ⑥呼吸1件 (PT発信)肺痰介助に関するアドバイス

    【考察】

    食事介助と活動、ポジショニングに関する相談が上位に挙がった。 食事介助に関しては、一日預かり時など昼食をとるため必須の介助である。誤嚥のリスクや摂食方法の誤学習が起きないように食べさせることへのリスクを理解しているため、相談件数が高くなっていると考える。 活動に関しては、よりよい支援を行うために、身体の特徴に関する知識の補完や、活動のアイデアを求めていた。 ポジショニングに関しては、快適な姿勢や不快を取り除くための姿勢など、取らせたい姿勢をスタッフが設定することが難しく、相談が挙がりやすかった。 身体の特徴と、呼吸に関しては、スタッフに気付きが見られていないリスクに関してのフィードバックとして行っていたため理学療法士発信となっていた。

    【まとめ】

    放課後等デイサービスでの食事介助や活動、ポジショニングなどの技術・知識の向上に対するニーズが多くあることが示唆された。 今後、継続していくことで、当社の多職種連携の質の変化を追っていく。

    【倫理的配慮】

    ヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し、説明と同意などの倫理的な配慮を行ったうえで研究を実施したこと

整形外科疾患・染色体異常
  • 伊藤 智絵, 西坂 智佳, 藤原 清香, 衣斐 恭介, 緒方 徹
    原稿種別: 整形外科・染色体異常
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 68
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    骨形成不全症は骨の脆弱性および種々の結合組織の異常による易骨折性を主症状とする。予後はさまざまであるが全身多発骨折を認めた重症型骨形成不全症 (Sillence分類3型)のリハビリテーション治療に関する報告は少ない。今回重症型骨形成不全症児のリハビリテーション治療を経験したため報告をする。

    【症例報告】

    在胎22週にて当院を受診され、在胎31週に胎児CTにて膜様頭蓋、多発肋骨骨折、上腕・大腿骨骨折、下腿骨の形態異常があり骨 形成不全症の出生前診断となった。在胎38週、出生時体重 2677g、骨盤位経腟分娩で当院にて出生した。本患児の全身状態が安定してきた出生後183日目に新生児科・小児科・整形外 科医師、看護師、理学療法士で1回目の退院支援カンファレンスを実施した。カンファレンス結果を受け、リハビリテーション科としては主に移動面や母親の自宅での介助量軽減を目標として介入を開始した。 重症型骨形成不全症による頭蓋底陥入症を生じる恐れがあり、安静度としてヘッドアップが制限されていた。しかし、入院経過中に栄養の逆流や誤嚥を予防するため常時10-20度のヘッドアップが必要であった。また出生後265日目より離乳食を開始 し、食事の際には30度程度のヘッドアップ姿勢が必要となった。この際にベッド上でのずり落ち予防が必要となったが、大腿骨、下腿骨が骨形態異常あることや易骨折性を考慮すると下肢を積極的に支持脚とすることは困難と判断した。そこで陰圧式クッション(イーコレ・ベーシック(瀧野コルク工業株式会社製))を 使用し、ヘッドアップに伴う応力が一点に集中することを避けながらずり落ちを回避させることができた。また発達に伴い本患児の体動が増加していた時期でもあり、イーコレ・ベーシックを使用することで寝返りも無理なく制限することができ、転落などの恐れが減少したことで母のケアや経口摂取時のリスクが減少した。また、自宅退院後に使用予定のベッドやバギー内にも、必要とされる安静度としての傾斜をつけ、院内外泊で試用しながら、両親から意見を伺い自宅で実際に使用しやすいよう調整した。

    【結果および経過】

    退院後に使用する予定のバギーやベッドを使用し院内外泊を経たことで、退院に向けての問題点を事前に整理することができた。出生後312日目に訪問診療のスタッフと退院時カンファレンスを実施し自宅退院が可能となった。

    【考察】

    骨形成不全症による骨変形や易骨折性は個別性が高く、理学療法では骨折を生じないよう患児の表情やバイタルサイン等を確認しながら、慎重にヘッドアップ姿勢を評価・実施することが重要だった。また、自宅でヘッドアップ姿勢を維持することやベッド上でのずり落ちに対する予防策を解決するために時間を要したため早期からの退院準備が必要であった。両親の骨折リスクに対する不安に対しても、院内外泊を経たことで患児のケアを両親のみで実施することと訪問診療のスタッフの支援のもとで連携して実施すべきことを明確化できたことで、退院後の生活にむけて両親の不安の払拭につながったと考える。

    【倫理的配慮】

    対象者の家族に、口頭にてプライバシー保護に配慮する旨説明を行い同意を取得した。

  • 堀川 廉, 宮原 侑希, 都丸 洋平, 西須 孝
    原稿種別: 整形外科・染色体異常
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 69
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    先天性内反足に対するPonseti法による治療は90%近くの症例で良好な成績が報告されており、足部の変形が強く残らない限り運動発達にも大きな支障をきたさないことが明らかとなっている。当院では、2年前より新生児に対するPonseti法治療の中で理学療法士 (PT)がマニピュレーションを行うとともにギプス固定の補助を担当する取り組みを行っている。本邦において PTが新生児期の内反足治療の中で役割を持つことは一般的ではないこともあり、渉猟した限り関連する報告はない。今回、 PTが介入した上で経過を追うことのできた最初の1症例について報告し、今後のPonseti法治療へのPT介入の意義と課題について検討する。

    【方法および症例報告】

    症例は生後6日で右先天性内反足の診断を受けた男児である。重症度評価であるPirani scoreはmidfoot contracture score (MFCS)1.5、hindfoot contracture score (HFCS)3.0、total Pirani score (TPS)4.5であった。単純X線画像では、荷重時前後像にて距踵角(TC-AP) 15°、踵骨第5中足骨角(CM5-AP) - 3°、 側面像にて距踵角 (TC-L) 20°、踵骨第1中足骨角(CM1-L) 49°、最大背屈時の脛踵角 (TiC:DF)83°であった。マニピュレーシ ョンでは、一方の手で踵骨には触れないように距骨頭外側を支点とするよう把持し、もう一方の手で足趾と中足骨を把持し、踵骨に対して前足部を回外させた状態で他動的に外転方向へ1セット20秒間を目安として静的に伸長した。その際、舟状骨が距骨頭の前方をゆっくりと外転し、踵骨が立方骨に押され距骨頭の下で外転するように促した。これらは経験豊富な医師の指導の下で行われた。また患児が十分に安心できる環境で実施できるように、適時母親による抱っこなどの時間を取るように配慮した。マニピュレーション20分間とギプス固定を週1回のペー スで7回実施し、その後アキレス腱皮下切腱術が施行され、デニスブラウン装具着用へと移行した。

    【結果および経過】

    生後約12ヵ月の時点でPirani scoreはMFCS 0、HFCS 1.0、 TPS 1.0、単純X線画像はTC-AP 34°、CM5-AP 30°、TC-L 21°、 CM1-L 8°、TiC:DF 79°と改善が見られ、動作はつかまり立ちが可能となった。その後、21ヵ月時点の評価においては歩行 ・走行・しゃがみこみ・両足ジャンプが可能であり、膝過伸展や尖足などの異常歩行は見られなかった。

    【考察】

    一般診療所においては、医師の多忙な診療の中でPonseti法におけるマニピュレーションに十分時間をかけられないという側面がある。そのような中において、PTの介入は患者側と医療者側の双方にとって有益である可能性がある。今後は、PTがマニピュレーションを担当した際に、医師と同等の治療成績が得ら れるかということについて、症例を重ねて検討する必要がある。またその中で考慮すべき点として、内反足の再発リスクに関し てはデニスブラウン装具が正しく着用されないことが最も大きな要因であることが報告されている。よって、装具着用のコンプライアンス遵守に関しても、機能評価と合わせたPTによるサポートが必要であると考えられた。

    【倫理的配慮】

    ヘルシンキ宣言に基づき、保護者には本発表の目的と意義について十分に説明し同意を得た。

  • 阿部 純平, 小野 洋子, 楠本 泰士, 飯沼 香織, 宍戸 啓太, 大内 一夫, 佐藤 真理
    原稿種別: 整形外科・染色体異常
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 70
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    13トリソミーは、13番目の常染色体異数性疾患であり、出生児の約10,000~20,000に1人と言われている。先天性心疾患など多彩な合併症を呈し、1年生存率は約8~10%である。生命予後不良として、従来は積極的な治療が行われてこなかった。しかし近年、積極的な治療により生命予後が改善するとの報告が増 加しており、長期的に理学療法士が関わる事例もみられている。 13トリソミー児は、精神運動発達遅滞を呈する一方、精神発達 は生涯成熟し続けるとの報告もある。しかし、運動発達に関しての報告は少ない。今回、発達過程において生後6ヶ月で上肢 リーチング動作が出現した児を経験したので報告する。

    【方法および症例報告】

    在胎37週5日、体重3150g、自然分娩で出生の男児。Apgar score3/8、合併症は、臍帯ヘルニア、臍腸管瘻、左多指症、耳 介低形成、動脈管開存症、肺高血圧症、気管軟化症、てんかん。 手術歴は人工肛門造設、人工肛門閉鎖術、左多指症に対し結紮術、気管切開術。呼吸器設定SIMV、栄養は経管にて注入。眼 科は異常なし、聴覚検査は両側高度難聴。生後約12ヶ月で他院転院。

    【結果および経過】

    生後約1ヶ月から12ヶ月まで5/wの頻度で理学療法介入を実施。循環、呼吸状態が安定した生後3ヶ月時を初期理学療法評価と した。非対称性緊張性頚反射、把握反射+。固視、追視+。音に対する反応-。触覚刺激に対する反応+。ハマースミス乳幼児神経学的検査の合計スコアは20点で、特に姿勢、運動、反射と反応の項目において低値を示した。生後4ヶ月時に両上肢でのプレリーチングが出現。理学療法プログラムとして、四肢・体幹ROM̶EX、マッサージ、肺理学療法、頸部回旋練習、介助座位、上肢リーチング練習を行った。上肢リーチング練習では、座位保持装置を用い、体幹が安定した状態で、他動的なリーチングの後おもちゃを触るという触覚刺激が入るように行った。その後、自動的なリーチングを促すようにした。また、リーチング練習をご家族にも指導した。環境設定として、本症例が座位保持装置にて座位姿勢をとっている間、見える、触れる位置におもちゃをぶら下げるように設置した。生後6ヶ月時では、ハマースミス乳幼児神経学的検査の合計スコアは44点で、 姿勢、筋緊張の項目において顕著に向上し、視性立ち直り反射、体幹に働く体幹の立ち直り反射が出現した。また、頻度は少な く、流動的だがおもちゃへの片手リーチングが出現した。

    【考察】

    本症例は13トリソミーであり、一般的には重度の発達遅延を呈するが6ヶ月時にリーチング動作が出現した。要因として、一つ目は姿勢制御機構の構築である。二つ目は、単なるリーチングの反復練習ではなく、触覚や視覚などの外受容感覚を適切に利用したリーチング練習により運動感覚と外受容感覚の統合に寄与したためと考える。上肢のリーチング動作は、動作を通じて環境を探索し、認知的、知覚的、および社会的発達を促進させることができるため、動作獲得は非常に重要と思われる。

    【倫理的配慮】

    発表に際しヘルシンキ宣言に基づき、対象の親に説明し、同意を得た。

  • 松本 慎平, 毛利 雅英
    原稿種別: 整形外科・染色体異常
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 71
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    今回、13トリソミー児に対して居宅訪問型児童発達支援を利用し関わる機会を得た。本疾患は10,000~20,000出生に対して1人程度の割合で発生し、1年生存率が約10%である。合併症も多く、本症例は啼泣時に憤怒痙攣がみられ、数 10秒間呼吸停止を繰り返すため外出することが難しく、居宅訪問型児童発達支援で関わることとなる。介入後1年半かけて通所へ移行することができた。居宅訪問型児童発達支援から通所の療育へ移行できた報告は少なく、今回制度を利用して移行ができた症例であったため報告する。

    【症例報告】

    本症例は33カ月女児。生育歴は在胎36週、1681 gにて出生。特異的顔貌及び先天性心疾患 (心室中隔欠損、大動脈弓分枝異常)、先天性眼異常 (両白内障、緑内障)と合併症を認めたため、染色体検査を行った結果13トリソミーと診断される。墳怒痙攣もあり、啼泣時数10秒間呼吸停止する様子がみられ、屋外へ外出する事へのリスクが高く、通院にも保護者の不安感が伴っていた。その為、屋外に保護者と共に安心して出られるように居宅訪問型児童発達支援を利用し、理学療法を週 1回の頻度で開始した。

    【経過】

    16カ月時より発達支援を目的に介入。未定頸で仰臥位か保護者の抱っこで日中過ごす。寝返りも可能だが、腹臥位は 10秒程度の保持時間。全盲だが音に対しては反応よく、音楽などを聴いて周囲の状況を感じて楽しむことができる。しかし一定の場所に留まることへの不安もあり、座位保持装置は5秒程度しか使用できず、食事等は抱っこ介助が基本となる。また憤怒痙攣も度々起き、長い時には1分程度呼吸停止することもあった為、まずは「座位で好きなおもちゃで遊ぶ時間を増やす」ことを目標に介入する。22カ月時、30度程度リクライニングをかけた状態で座位姿勢をとることが可能となり、近隣をベビーカーで散歩する機会が増える。また憤怒痙攣も減少し、呼吸停止になっても10秒程度で戻ることができるようになる。1人遊びの時間も増加し、日中保護者も安心して過ごせる時間が増えたことから、目標も変わり「車で母親と2人で外出できる」へと変化する。その後、27~32カ月時の間に保護者と離れる機会を3回、約1~2時間ずつ実施。その間に母親から「通所への意向」が聞かれるようになり、3回目の前には車のチャイルドシートのポジショニングを実施し、近隣へ二人で出かける機会を持つことができた。通所移行時には頭部保持安定し、寝返りで周囲を探索する行動が増え、座位保持装置を使用した座位も 30分程度可能となる。車移動への保護者の不安感が軽減され、通所で過ごす時間を持つことができた。

    【考察】

    本症例は憤怒痙攣での呼吸停止や姿勢保持の問題が外出・通所移行を困難にしていたが、発達支援で関わる中で運動発達の変化が現れ、それに伴い保護者の気持ちの変化が認められた。また早期から在宅にて関わることでフェーズに合った関わりを保護者と確認し、細かく現状の課題や目標を共有していくことで保護者の決定できるタイミングを図ることができた。そのような積み重ねを関係機関と共有し連携することで段階を踏んで通所へ移行することができたと考える。

    【倫理的配慮】

    本報告はヘルシンキ宣言に基づき、対象児の保護者には口頭・書面にて説明を行い同意を得た。

  • 上條 貴弘, 椙田 芳徳
    原稿種別: 整形外科・染色体異常
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 72
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    ダウン症児 (DS児)は関節弛緩性により生じる扁平足に対してインソールを処方されることが多いが、治療経過と効果に関する報告は少ない。そこで、大久保らの足アーチ高測定法を用いて使用開始前と1年後の値を比較した。また、インソールの使用開始時期と足アーチ高率との関係性についても検討することとした。

    【方法】

    対象は当院にてPT介入を行っているDS児の内、独歩を獲得しインソール治療開始から1年以上経過した6名 (5.9歳±2.04、男児5名、女児1名)である。効果指標として、足アーチ高測定法により得られた値より足アーチ高率 (舟状骨高/足長×100)を 算出し、非荷重時/荷重時の作製前/1年経過後の値について、左右それぞれの値の差、及び変化率を算出した。統計学的検討に はWilcoxonの符号付順位検定を用い、有意水準は5%未満とした。また、足アーチ高率の1年間の変化率とインソール使用開始月 齢との関係をSpearmanの順位相関係数を用い検討した。

    【結果】

    非荷重時の足アーチ高率はインソール使用開始前/1年後の値の変化率は右-8.33%・左-8.32%となり有意差は認めなかった (右 :p= 0.269、左:p=0.124)。荷重時の足アーチ高率は使用開始前/1年後の値の変化率は右2.32%・左29.36%となり有意差は認めなかった (右:p= 0.794、左:p=0.269)。インソール使用開始月齢 (中央値29.5ヶ月、四分位範囲25.25-30.75ヶ月)と変化率の相関係数では、非荷重時右下肢が大変弱い相関 (rs=0.11429)、左下肢が弱い相関 (rs=0.22857)、荷重時右下肢が弱い相関 (rs=0.28571)、左下肢が中等度の相関 (rs=0.57143)を認める結果となった。

    【考察】

    効率的な歩行には足アーチの形成が重要である。多和田らによるとDS児の扁平足は非DS児と比べて改善されにくいとされて いる。また、山本らによるとDS児のアーチ形成率は装具の使用に関わらず低く、アーチの出現年齢も遅いため、独歩開始早期からインソールの使用と継続が重要であると述べている。今回の検討では足アーチ高率の改善は見られなかったが、アーチ高を維持できており一定の効果があったものと考える。また、インソール使用開始月齢と足アーチ高率の変化率との相関にて特に荷重時に認めたことから、インソールを早期から使用することでアーチ形成へ効果的な介入が可能であることが示唆された。

    【倫理的配慮】

    本研究はヘルシンキ宣言に則り、保護者に研究の趣旨を説明し同意を得て実施した。

  • 石田 輝也, 高橋 咲希, 本田 真美
    原稿種別: 整形外科・染色体異常
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 73
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    ドルフィン・アシステッド・セラピー (以下、DAT)は動物介在療法に水治療法、環境療法、家族療法の要素を取り入れ、身体 ・精神面での治療を目的とする。今回、所属法人と健康科学財団の共催で3泊4日のDATキャンプを沖縄県国頭郡で開催し、計5組の家族が参加した。その中での1症例について、理学療法士の視点から考察し報告する。

    【方法】

    期間:2023年7月14日~17日 対象: 10、18番染色体異常症と大動脈弁・僧帽弁狭窄症に対する弁置換術後の10歳男児。運動機能としては装具使用下での介助歩行が可能だが、自立した立位はできず、日常的には介助での車椅子移動。認知コミュニケーション面では、喃語やハンドサインを通じて表出が可能だが不明確。単語の表出不能。 評価:イルカキャンプ前に事前評価 (GMFM、KIDSスケール、感覚プロファイル)を行い、DAT前後での姿勢、DAT介入中の身体面と認知面の様子を記録し、口頭での家族インタビューと紙面によるアンケートを実施。介入内容:1日目と4日目はそれぞれ1回、2日目と3日目は午前午後1回の2回で計6回のDATを実施。1回あたりDAT時間は約45分。対象児家族から、『児一人で何かを達成してほしい』『イルカに乗ってほしい』という要望を得たため、医師、看護師、PT、OT、ST、臨床心理士とイルカトレーナーで協議し、最終的にイルカの腹の上に乗って移動することを目標とした。DATではイルカ及び海と水に慣れるところから始め、段階的にイルカに触れることや模倣などの活動を増やし、海中での介助量を下げ、実施する場所も海中に設置された台の上から、足のつかない場所へと移行。DATに加え、屋内プールを使い、防御的な過緊張を緩和するように介助泳ぎや水中での歩行練習も実施。

    【結果】

    5セッション目のDATにおいて、移乗介助した上で児単独でイルカの腹の上に乗り、10m程度、海上を移動することが出来た。またDAT後における数値面での粗大運度機能の変化はなかったが、姿勢面では座位と介助立位の両方で体幹の正中性が保たれやすく、四肢屈曲での固定も緩和され、運動面でもイルカに会える場面ではしゃがみ込むことなくスムーズな介助歩行が出来ていた。認知面で最初はイルカから臆病に身を引いていたが、DAT後半では、能動的にイルカに触れ、笑顔を見せ、ジャンプなどの行為に拍手をするようになった。

    【考察】

    DATでは、イルカという生態、海の中という特殊な環境に児を参加させることで、これまで動物介在療法での目的とされていた心理療法としての側面だけでなく、外的感覚入力につながることで身体機能面にも大きな影響・効果があると考えられる。また家族へのインタビューでは、『出来ないと決めすぎていた部分がある』と両親から発言があり、今後の生活や活動の幅を広げるという点では家族療法の意味も大きかった。そのため今回のDATを通して、運動療法としての効果を数値的に結びつけることや環境設定の難しさには課題があるが、内容には大いに期待ができると感じた。

    【倫理的配慮】

    本発表はヘルシンキ宣言に基づき、患者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し、家族から書面にて同意を得ました。

神経筋疾患 1
  • 味岡 祐美, 藪本 保, 藤井 浩史
    原稿種別: 神経筋疾患 1
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 74
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    脊髄性筋萎縮症(以下SMA) とは,脊髄前角細胞の変性による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする常染色体劣性遺伝疾患である.近年,新規治療法が承認され,治療が早期であればあるほど運動機能に著しい向上を認めるとされているが,経過について不明な点も多い.本症例は生後2ヶ月で遺伝子治療を行い,その後の発達経過と呼吸障害への対応について報告する.

    【方法および症例報告】

    本症例は現在1歳11ヶ月の女児で,在胎39週2日,2790gで出 生した.1ヶ月健診で筋緊張低下を指摘され,検査にてSMA I型(SMN1 0copy, SMN2 2copy)と診断された.生後1ヶ月26日にヌシネルセン,2ヶ月9日にオナセムノゲン アベパルボベクの治療が行われた.CHOP INTENDは治療前21点,治療後25点であった.2ヶ月22日に自宅退院し,奇異呼吸を認めるが room airで過ごし,食事は全量経口摂取可能であった.成長曲線は身長体重ともに-1SD~-2SD間で推移した.医療的ケアとして,必要時に口鼻腔吸引や酸素投与を行っていた. 退院後から週2回の頻度で発達促進を目的とした訪問理学療法を開始した.重力に抗した自発運動が少ない状態であったが,環境調整や補助する中で仰向けで足を持ち上げたり,腹臥位で頭部を持ち上げたりする経験を増やして胸郭の発育を促した.

    【結果および経過】

    発達について,CHOP INTENDは生後10ヶ月41点,1歳4か月 46点,1歳7ヶ月54点,1歳5か月で実施した新版K式発達検査 (DQ)はP-M:算定不可,C-A:68,L-S:91,Total:57であった.1歳6ヶ月で寝返り可能,1歳8ヶ月で手支持座位可能,腹臥位で頭部挙上不可,定頸は不完全だが正中位でコントロール可能となった.1歳0ヶ月で側弯 (cobb角8度)と胸郭変形を認めたため,日常生活で使用する座位保持装置や腹臥位クッションを導入した. 呼吸について,1歳0ヶ月にCOVID-19に感染し,その後も感染や誤嚥性肺炎疑いによる呼吸障害が原因の入院を現在に至るまでに6回繰り返した.4回目以降の入院は1ヶ月以上と長期化した.換気障害や排痰困難があり,4回目の入院で夜間の非侵襲的陽圧換気療法 (以下NPPV)と機械による咳介助 (以下MI-E)が導入された. 入院中,食事の時に窒息したことや誤嚥性肺炎疑いがあったこともあり,呼吸状態が不安定な時には経管栄養も併用することがあった.

    【考察】

    本症例は病型分類の中で最重度であるSMA I型だが座位が可能となり,遺伝子治療によって運動機能の向上を認めたと考えられた.介入当初より呼吸機能の維持・改善のために胸郭の発育促進や側弯予防を行ったが1歳の時点で側弯と胸郭変形を認めた.その後は寝返りなど自発的な動きが増えたこと,環境調整や腹臥位の導入によって著明な増悪なく維持されていたが,感染等の体調不良時には呼吸状態は容易に悪化した.在宅で NPPVやMI-Eが導入されて排痰促進や胸郭の拡張が可能となったことから,変形予防や呼吸筋疲労の軽減など予防的に早期から呼吸補助の導入を検討する必要がある可能性が示唆された.また,側弯・胸郭変形による呼吸状態の悪化を防ぐためにも早期に抗重力姿勢を促すとともに,適切な時期に姿勢保持具を検討していく必要があると考えられた.

    【倫理的配慮】

    症例および家族に対して,事前に目的と意義について十分に説明し,同意を得た.

  • 塚本 栞, 長谷川 三希子, 齋藤 潤孝, 北島 翼, 井上 建, 大谷 良子, 村上 信行, 作田 亮一, 上條 義一郎
    原稿種別: 神経筋疾患 1
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 75
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    近年、薬剤治療により脊髄性筋萎縮症 (以下SMA)Ⅰ型の運動機能が向上すると報告されている。しかし発達における座位・立位・歩行の獲得可否が中心であり、その機能獲得の過程および理学療法について詳細な報告はない。 今回、遺伝子治療薬オナセムノゲンアベパルボベクにて治療後 3年が経過した児の運動機能獲得の経過と理学療法についてまとめ、報告する。

    【方法および症例報告】

    症例は4歳女児。周産期および生後1-4か月健診で異常は指摘されなかった。10ヶ月で筋緊張低下が認められ、1歳0か月に SMAⅠ型( SMN1 0コピー/ SMN2 3コピー)と診断、1歳1か月にオナセムノゲンアベパルボベクが投与された。 遺伝子治療を行った本児に対して、運動機能における姿勢保持 ・姿勢変換・移動に関して経過をまとめた。3年の経過を、治療前を治療前期、治療-1年を1期、1-2年を2期、2-3年を3期とした。運動機能評価はChildren’s Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorder(以下CHOP INTEND)、 Hammersmith Functional Motor Scale Examination(以下 HFMSE)、Hammersmith Infant Neurological Examination Section2(以下HINE2)を評価した。

    【結果および経過】

    運動機能の獲得時期を[治療前期/1期/2期/3期]でまとめた。姿勢保持は[両手支持での座位/独/両肘支持での腹臥位 /両手支持での腹臥位、四つ這い]、姿勢変換は[背臥位から側臥位/寝返り・寝返り返り、あぐら座位⇄横座り・割座/座位 →臥位、臥位→座位/新規獲得なし (以下―)]、移動は[―/寝返りで平地移動、座位でプッシュアップ移動/―/腹這い]であった。 理学療法は1歳4か月より骨盤帯付長下肢装具を用いた積極的な立位練習の他、お風呂やプールで浮力を利用した立位の指導、免荷型玩具を使用した下肢伸展活動を促した。また上肢の支持性向上を図るため、装具装着下の立位にて壁を使用した腕立て伏せ様練習や、自重をサポートし両手・肘支持での腹臥位練習を行った。姿勢変換は、まず寝返りと寝返り返りの方法を指導した。座位⇄臥位に関しては、はじめに座位→臥位を後方のソファーに寄り掛かりながら横に倒れる方法から開始した。次に自立へ向け、床上座位で前方に手をつきながらクッションに寄りかかり倒れ起き上がる方法で反復して練習を行い、徐々にクッションの高さを低くしながら、その後自立した。移動は、腹臥位で台車に上半身の体重を預けながら下肢を動かす練習、摩擦が軽減する場所でプッシュアップを行いながら座位移動練習を行った。また、軽い力で進む足漕ぎ型乗用玩具や、2歳11か月からは自走式車椅子を使用した。 運動機能評価は治療直前/1年/ 2年/3年で、CHOP INTENDは 44/56/56/58、HFMSEは2/15/22/25、HINE2は9/16/19/20 であった。

    【考察】

    本症例は治療後、運動機能が緩徐に向上を認めた。疾患特有の 筋緊張低下と筋力低下により定型発達の順序とは異なるものの、自重の調整や浮力を利用した環境で積極的に身体活動を促すとともに機能に合わせた方法を提示したことで、運動機能の向上に繋がったと考える。

    【倫理的配慮】

    本発表に際し、患者の個人情報とプライバシ ーの保護に配慮し、説明を十分に行い、ご家族より同意を得た。

  • 長谷川 三希子, 塚本 栞, 齋藤 潤孝, 北島 翼, 井上 建, 大谷 良子, 荒川 玲子, 作田 亮一, 齋藤 加代子, 上條 義一郎
    原稿種別: 神経筋疾患 1
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 76
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【緒言】

    近年、脊髄性筋萎縮症 (spinal muscular atrophy:以下SMA)は薬剤治療が可能となり、特に乳児型の運動機能を大きく改善させる。そのため、理学療法は運動機能の促進を目的に介入する必要がある。しかし、実臨床におけるアウトカムやマイルストーンは明らかになっていない。本研究は、薬剤治療後の運動機能の変化について調べた。

    【方法】

    対象は、薬剤治療を開始・または実施後2年以上経過し、当院で運動機能評価を年に1度以上実施しているSMA患児16名である。運動機能評価はChildren’s Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders (CHOP INTEND)、 Hammersmith Functional Motor Scale Expanded (HFMSE)、 Hammersmith Infant Neurological Examination Section2、 WHO Motor Milestones、Motor milestone levelsを用い、この中から、Head controlからWalkingまでの12項目 (結果に示 す)をマイルストーンとした。マイルストーンの獲得の有無で、 ①治療開始時期、②CHOP INTENDとHFMSEを初回 (治療前もしくは当院初診)/1/2/3年後で比較した。それから③ SMN2 コピー数 (2/3コピー)でマイルストーンの獲得率を比較した。

    【結果】

    対象の年齢は3歳0か月 15歳3か月 (5歳4か月)〔最小‐最大 (中央値):以下同様に示す〕、Ⅰ型15名、Ⅱ型1名、 SMN2 コピー数は2/3コピー7/9名、治療開始はⅠ型が0-116 (10.5)か 月、Ⅱ型が26か月、観察期間は2年1か月‐7年2か月 (4年1か 月)、治療薬剤はヌシネルセン8名、オナセムノゲンアベパルボベク2名、ヌシネルセン後オナセムノゲンアベパルボベク6名であった。マイルストーン獲得有/無は13/3名、①治療開始月齢は、有で0‐29(8)か月、無で17‐117 (63)か月であった。②マイルストーン獲得有のCHOP INTENDは、初回/1/2/3年後が38/51/56/57点 (中央値:以下同様に示す)で、1年後以降は 50点を超えた。無は、7/17/24/30点であった。マイルストーン獲得有のHFMSEは、初回/1/2/3年後が3.5/12/13/19.5点と上昇を示し、無は、0点で変化がなかった。③マイルストーンの獲得率 (%) (2/3コピー)は、高い順にHead control(100/100)、Rolling(100/100)、Sitting(80/100)、 Pivot sitting (60/88)、Sit to lying (60/88)、Shuffling (60/75)、その後2コピーはStanding with assistance(60)、Lying to sit(40)、3コピーはLying to sit(75)、Crawling(63)、Standing with assistance(38)、 Hands-and-knees crawling(38) 、 Standing(13) 、Walking(13)であった。

    【考察】

    今回、薬剤治療後のSMA患児が新たなマイルストーンを獲得する可能性を示した。そのマイルストーンは定型発達とは異なる SMAの特殊性を示すこと、獲得順序が SMN2 のコピー数により異なること、CHOP INTENDが50点以上でマイルストーンが獲得される可能性あることが示唆された。一方、CHOP INTENDが40点未満ではマイルストーンの獲得には至らず、先行研究と一致している。しかし、薬剤治療により、年々スコア の上昇を認め、四肢・頭部・体幹の自発運動の向上が示された。

    【倫理的配慮】

    【倫理的配慮・説明と同意】

    本研究は獨協医科大学埼玉医療センター臨床研究倫理審査委員会の承諾を得て行い、保護者に書面を用いて研究内容と方法を説明した (研究番号20140)。

  • 福本 幹太, 三浦 利彦
    原稿種別: 神経筋疾患 1
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 77
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    脊髄性筋萎縮症 (Spinal Muscular Atrophy,以下SMA)は,体幹や四肢の近位筋優位の筋萎縮と進行性筋力低下を示す下位運動ニューロン障害である.SMAⅡ型患者は幼児期に発症し,起立や歩行は獲得せず,発育不全による脊柱変形や呼吸不全などの合併症が問題となる.特に呼吸障害は,呼吸筋力低下や咳嗽機能低下などによる排痰困難などが挙げられ、呼吸器感染や呼吸不全の増悪が死因となるケースが多い.これらの呼吸障害に対して、NPPVの導入や呼吸理学療法が行われる.近年では, 疾患修飾薬が開発され、筋機能の改善が期待されている.今後、疾患修飾薬の投与による様々な効果について検討されることが 予想されるが,SMAⅡ型の呼吸機能の長期的経過についての報告は少ないのが現状である.本研究の目的は,SMAⅡ型患者の呼吸機能と咳機能を評価し、長期経過のデータを把握することとした.

    【方法】

    本研究は,後方視的観察研究とした.対象は,当院およびNHO八雲病院の受診歴があるSMAⅡ型患者で,20歳未満の時点で初回評価を行っており,5年以上評価を行った者とした.評価項目は,各年齢の肺活量 (VC) ,咳のピークフロー (CPF) ,最大強制吸気量 (MIC) ,MICでのCPF (MIC-CPF) をカルテ記録より収集した.

    【結果】

    5名 (男性4名,女性1名) が対象となった.対象者の初回評価時年齢の中央値 (最小値‒最大値) は14歳 (7‒17歳),追跡期間の中央値は17年 (10‒21年) ,最終評価時年齢の中央値は29歳 (25‒38歳) であった.VCは,1例 (症例A) のみ20歳以降も 2,000 ml以上を示し,他の4例は1,500 mlを下回り,13歳頃には既に500ml程度であった.CPFはVCと同様の傾向を示し,症例Aは20歳以降も270 L/min程度を保っていたが,他の4例は年齢による大きな変化はなく,100‒150 L/min程度で経過した. MICは,全例で年齢による変化は見られず,症例Aのみ 3,000 ml程度で経過し,3例は1,500 ml程度で経過,1例は 1,000 ml程度で経過した.MIC-CPFは全て,CPFよりも高い 値を示した.MICと同様に,年齢による増減の傾向は見られず,症例Aのみ350 L/minを超え,他の症例はそれぞれ205‒260 L/min,140‒220 L/min,110‒180 L/min,85‒135 L/min の 範囲で推移した.4例は追跡期間中に疾患修飾薬エブリスディ®の内服を開始したが,開始前後で全ての評価項目に明らかな変化はなかった.

    【考察】

    本研究の結果は,幼少期から呼吸機能・咳機能が弱いことに加 えて,明らかなピークがなく,急激な低下もなかった.これは, SMAⅡ型は幼児期に発症し,歩行を獲得せず運動機能のピークを迎えることに起因する可能性がある.SMAは発育不全により,肋間筋の筋力低下や漏斗胸などの脊柱胸郭変形が生じ,さらに呼吸機能・咳機能が低下するとされるが,本研究では低下は見られなかった.これは,本研究の対象者は,NPPVが導入され,入院期間中の呼吸理学療法や習慣的な電動車椅子の乗車により,高い活動性を有することが呼吸機能の維持に寄与した可能性がある.また,エブリスディ®は2‒25歳のSMA II型患者の運動 機能改善への有効性は報告されているが,成人期の呼吸機能には明らかな有効性はないことが示唆された.

    【倫理的配慮】

    本研究は,国立病院機構北海道医療センターの倫理審査委員会にて承認を得ている (承認番号:2023-5-2).

  • 鈴木 みほ
    原稿種別: 神経筋疾患 1
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 78
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    脊髄性筋萎縮症 (以下SMA)I型では生後0~6ヶ月の間に発症し、人工呼吸器が必要となる症例が多い。フロッピーインファントを呈し、低下した骨間筋筋力に比して比較的保たれた横隔膜の働きにより奇異呼吸が認められ、ベル型胸郭や漏斗胸などの胸郭変形や未発達の原因となる1)。また、胸郭変形により呼吸循環機能や姿勢保持能力への影響がおこりやすい傾向がある。今回、人工呼吸器使用症例を担当し、在宅生活におけるリフターの導入に携わる機会を得た。スリングシート上での姿勢保持が困難であった症例に対し姿勢保持能力を促すアプローチとポジショニング、補装具の工夫により姿勢保持能力が向上し実用的なリフター使用が可能になった経過について報告する。

    【症例報告】

    SMA I型 男児 生後3ヶ月時、筋緊張低下・舌線維束攣縮・腱反射低下・呼吸状態悪化、気管切開となり4ヶ月 ~人工呼吸器装着。2歳喉頭気管分離術、胃瘻造設。 手指の屈曲動作、足部内反を伴う足趾屈曲の随意運動可能

    【経過】

    就学時リフター設置 フラットタイプのスリングシー ト背臥位が不安定になるため心拍数の上昇、酸素飽和度の低下が見られ、背シート内にアクリル板を挿入しての使用を開始。アクリル板の抜き差しが介助者の負担となっていた。 側臥位のポジショニングでは、短時間で心拍数が上昇するため日常的に背臥位でいることが多く、人工呼吸器の呼気時には前方の柔らかい胸郭が優位に膨らむことにより、肩甲骨が内転位となり、肩甲帯部分が接触支持面とならず、頭部が不安定となっていた。 週1回1時間の訪問PTにおいて①背臥位で肩甲胸郭関節の可動性を引き出し、②上部体幹の安定性に対して骨盤を安定させる、 ③肩甲骨を外転方向に引き出して側臥位姿勢を保持、④側臥位の角度にバリエーションをもたせ扁平胸郭の改善と側臥位姿勢における頭部と眼球コントロールを促した。 日常生活の中で心拍数の上昇なく、側臥位姿勢保持が可能となり、側臥位の機会が増えた。PT場面では随意運動が可能な手指の動作を目で確認出来る程に側臥位が可能となり、それを見るための頭部の保持、眼球運動も促すことができた。また、背臥位で足趾の屈曲の随意運動が可能で足底接地するとそれを股関節の内外転動作へと繋げることが可能であることから車いす乗車時にSHBの補高で足底接地し、オープンカイネティックの動きからクローズドカイネティックに変え、足趾の随意性を股関節、下部体幹の安定性へと繋げられる設定とした。

    【結果】

    介入から2年後、背臥位姿勢が安定しアクリル板がなくてもスリングシート内で安定して頭部を保持することが可能となり、日常的なリフターの使用が可能となった。

    【考察】

    SMAⅠ型では呼吸機能の維持のための呼吸理学療法、成長に伴うROM低下の予防やポジショニングアプローチが中心となるが、姿勢コントロールの潜在性を引き出し、それを日常に汎化することで、リフターの実用使用が可能になったと考える。姿勢の安定により頭部や眼球運動の向上を促すことができ、コミュニケーション能力や学習へ繋げられると期待できる。 引用文献:1)藪中良彦、木元稔、坂本仁:小児理学療法学 p363(2020)

    【倫理的配慮】

    当院の倫理委員会の承認を得ている (承認番号 :R05-02) 本人及び家族より写真等の使用については文書にて許可を得ている 対象者の顔写真はモザイク処理をし、個人の特定を防ぐ他、年齢や地域など個人を推測できるような情報の提示を避ける

神経筋疾患 2
  • 三木 麻有甫, 竹中(蜷川) 菜々, 後藤 萌, 吉岡ブルジョワ クレモンス紀穂, 青山 朋樹, 櫻井 英俊
    原稿種別: 神経筋疾患 2
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 79
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    デュシェンヌ型筋ジストロフィー (DMD)は、ジストロフィン蛋白(Dys)の欠損により、筋の壊死と再生が繰 り返され、筋萎縮・筋力低下を引き起こす疾患である。現在、新規治療法確立を目指した様々な研究が進められているが、 我々は「細胞移植治療」に着目し研究を進めている。これは、 DMDの骨格筋組織にDys発現が正常な骨格筋前駆細胞を移植することで、DMD筋にDysを回復させるという戦略に基づいている。すでに当研究室では、動物実験にて当該戦略の実現に成功し (Zhao et al., 2020)、さらに、細胞移植前にその対象筋へ等尺性収縮トレーニング (Tr)を負荷すると、移植細胞の生着率が向上し、Dys陽性線維数が増大することを示唆する実験結果も得られている。また、Dys陽性線維数の増大に伴い、運動機能が改善するという報告もある (Godfrey et al., 2015)。そこで本研究では、1)Tr負荷時期、2) Tr負荷量 (強度・頻度)の2点を至適化し、移植細胞の生着効率の最大化を目指すことを目的とした。

    【方法】

    1)Tr負荷時期の検討:5-6週齢のDMDマウスに対し、細胞移植の1 ・2 ・4日前にそれぞれTrを負荷する3群と、Tr非 実施群の計4群を設定した。Trは、麻酔下のマウスの下腿後面に経皮的に電気刺激を与えて強制的に等尺性収縮を負荷するシステムを用いた。負荷量については、足関節底屈トルク最大値の40%の力を発揮するように調整した電気刺激を50回繰り返すものとした。細胞移植2週間後に筋組織を回収して組織学解析を実施し、Dys陽性線維数を計測した。統計解析は、1元配置分散分析とTukey検定を用いた多重比較を行った。 2)Tr負荷量 (強度・頻度)の検討:5-6週齢のDMDマウスに対し、最大値40%の収縮を50回 (40%×50 Tr群)、最大値での収縮を 20回 (100%×20 Tr群)、最大値10%の収縮を200回 (10%× 200 Tr群)負荷する3群と、Tr非実施群の計4群を設定した。Tr 負荷時期は細胞移植の1日前とし、解析方法は1)と同様とした。

    【結果】

    1)Dys陽性線維数は、1日前Tr群において最も多く、その他の3群とのペアのそれぞれで有意差が認められた。 2)Dys陽性線維数は、40%×50 Tr群で最も多かった。40%× 50 Tr群と100%×20 Tr群、40%×50 Tr群とTr非実施群との間で有意差が認められた。

    【考察】

    移植1日前に40%×50回の条件でTrを負荷した際、 Dys陽性線維数が最も増大することが示された。また、Tr 2日後以降に移植した場合には、Tr非実施群と同等数であり増大効果は見られなかったため、Trによる移植効率促進効果は一過性の現象であることが示された。本研究では、DMDマウスへの細胞移植治療効果を最大化し得るTr条件の至適化に成功した。それにより運動療法の有効性が証明されたが、移植効率促進のメカニズムについては未だ未解明である。そこで、今後はメカニズムの解明を進めることで、DMDに対する新規治療法として、より安全で有効な細胞移植治療の確立を目指す。

    【倫理的配慮】

    本研究はCiRA動物実験委員会の承認(23-196)を受け実施した。

  • 広崎 蒼大, 宮城島 沙織, 小塚 直樹
    原稿種別: 神経筋疾患 2
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 80
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    Becker型筋ジストロフィー (以下,BMD)やDuchenne型筋ジストロフィー (以下,DMD)では,進行性の筋力低下から機能 障害が生じ,徐々に活動範囲が制限される.これらの疾患では,歩行不能となった時期より急速に体幹や四肢の変形・拘縮が進 行するため,リハビリテーション (以下,リハ)において歩行可能期間の延長が一つの目的となる.今回,ジストロフィン蛋白 の完全欠損を呈したBMD症例の歩行能力低下の過渡期において,歩行能力維持のため理学療法と装具療法について検討する.

    【症例】

    14歳男児.9歳頃より右ふくらはぎの痛みと共に歩行が困難となり他院を受診したところ高CK血症を指摘され,筋生検検査のため当院が紹介された.遺伝子パネルで新規変異 (Int62 c.9224+2T>C hemi接合)が同定され,BMDの診断となった (ウエスタンブロット法では,ジストロフィン蛋白完全欠損).以後,当院リハ外来にて隔週でのフォローを継続した.既往症に自閉スペクトラム症がああり,BMIは26.11kg/m2と肥満傾向であった.

    【経過】

    13歳8か月時点では,下肢,体幹に筋力低下があるが,上肢機能は保たれていた.膝関節伸展 (-15°/-10°)と足関節背屈 (5° /0°)の可動域制限,足関節内転 (50°/40°)の過可動性,軽度 の左右差を認めた.日常の移動手段は電動アシスト付きの車いすであるが独歩は可能で,歩容は内反足歩行で側方への動揺が大きく,全足底接地であった.6分間歩行距離は215mであった.理学療法介入では下肢・体幹のストレッチ,傾斜台,有酸素運動を行った.14歳2ヶ月では,歩行機能は保たれており, 6分 間歩行距離は210mだった.しかし,静止立位保持時に左踵部の接地が困難となった (荷重時,足関節背屈:5°/-5°).さらに,トゥクリアランスが低下,右立脚相での立脚側への動揺が増加した.そのため,立位アライメント・歩容の改善を目的として両側のタマラック継手付きプラスチック製短下肢装具を作成した.装具装着後は左の踵接地が出現し,歩行時のトゥクリアランスの向上と右側への動揺性の改善が見られた.

    【考察】

    一般的なDMDでは,平均9歳で歩行困難,平均15歳で座位保持が困難となる.一方で,BMDではジストロフィン蛋白の変性により,DMDに比べて長期の経過をたどり,高齢になるまで歩行が自立するケースもある.本症例は,Int62の塩基置換によるBMDと診断され,ジストロフィン蛋白は完全欠損しているこ とから,BMD症例の中でも比較的早い経過をたどると予想した.歩行不能となる原因としては筋力低下のほかに下肢可動域制限 と左右差の拡大が挙げられ,DMD症患者における傾斜台を使用した下肢可動域制限の改善は歩行速度と歩幅を改善させるこ とが報告されている.本症例では,ストレッチに加えて傾斜台を用いた介入を行い,歩行機能を維持することが可能であった.しかし,立位や歩行時に左踵部接地困難を認め,それによる左右差の拡大や下肢可動域制限の進行は,歩行不能となる時期を早める可能性があり,装具作成に至った.アライメントや歩容の改善により,左右差の拡大・下肢の可動域に与える長期的な影響については,今後の経過を観察する必要がある.

    【倫理的配慮】

    本学会で発表するにあたり,症例の保護者に対し,個人が特定されるような情報は公開しないこと,個人の不利益になることはないこと,同意後も撤回可能であることを口頭と書面にて十分説明し,署名にて同意を得た.

  • 齋藤 嘉彰
    原稿種別: 神経筋疾患 2
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 81
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー (MN-CMD)は本邦では稀な疾患であり,筋力低下,関節拘縮,脊柱側弯,呼吸障害といった臨床症状があり,理学療法が介入すべき点は多いが,症例数が少ないこともあり本法の理学療法に関する報告は少ない.今回MN-CMD児を2例担当したため身体の経時的変化および理学療法の経過を報告する.

    【症例報告および経過】

    症例1:8歳女児.出生時CK23340IL/L.関節拘縮を認め1歳か ら理学療法開始.1歳半で頸定,寝返りは頸部の反り返りで可能. 2歳でお座り可能.2歳6ヶ月から骨盤帯長下肢装具 (HKAFO)使 用で立位訓練を開始.膝屈曲拘縮進行予防のため膝装具を作成. 4歳でずり這い,座位でのいざりが可能となったが,座位での非 対称性姿勢が出現.両下肢の屈曲拘縮が進行し腹臥位保持や立 位訓練が困難となったため筋腱解離術を施行.自宅で装具等の使用ができず6歳で下肢屈曲拘縮が悪化し再手術.進学に伴い電動車椅子を作成.7歳で脊柱側弯の進行に伴い座位保持が不安定となりコルセットを作成,同時期に頸部の不安定感が出現.現在のROMは両下肢に屈曲拘縮が軽度,四 肢近位筋のMMTは2 レベル.胡座は不安定であり介助.脊柱側弯はcobb28.3°左凸.呼吸機能検査は正常範囲.知的発達は正常. 症例2:5歳女児.出生時CK41770 IL/L.筋緊張低下,下肢屈曲拘縮を認め3ヶ月より理学療法開始.5ヶ月で頸定.1歳で寝返 り,お座り可能.1歳6ヶ月からHKAFO使用で立位訓練を開 始.膝屈曲拘縮進行予防のため膝装具を作成.2歳で両下肢の屈曲 拘縮が悪化し腹臥位保持や立位訓練が困難となったため筋腱解離術を施行.2歳6ヶ月からHKAFO使用で歩行訓練を開始. 4歳で腹臥位で頭部挙上保持が可能.自宅で装具等の使用ができず 4歳6ヶ月で拘縮が悪化し再手術.5歳でずり這いが可能.現在のROMは両下肢に屈曲拘縮が軽度,四肢近位筋のMMTは 2~3レベル.胡座は自力で可能.脊柱側弯の兆候はなし.呼吸機能検査は未測定.知的発達は未評価だが低下を疑う所見はなし.

    【結果】

    2症例ともに両下肢の腸腰筋,ハムストリングス,長 母指屈筋に短縮を認めた.関節可動域制限がなければ腹臥位や装具使用での立位訓練が可能であった.筋腱解離術によって関節拘縮は改善するが,自宅での姿勢ケアが行えず,2例とも関節拘縮を再発した.下肢拘縮進行予防のために自宅での装具等の使用や腹臥位の保持時間が重要であったが,自宅で姿勢ケアを行うための工夫が必要であった.症例1では脊柱側弯を認め,症 状の進行とともに一度獲得した座位が自力ではできなくなった.

    【考察】

    2症例ともに背臥位や胡座で過ごす時間が多く膝屈曲位を好む傾向にあり,姿勢と拘縮の関連が示唆された.関節拘縮によって腹臥位や立位の姿勢をとれなくなるため,拘縮予防および発達支援を目的に早期からの理学療法介入と姿勢ケアが重要であると考える.生命予後の一因となる呼吸障害予防のためにも,関節拘縮と脊柱側弯の予防のための姿勢ケアは重要であり,理学療法介入が果たす役割は大きいと考える。

    【倫理的配慮】

    演題発表に関連し,開示すべきCOI関係にある企業などはありません.

  • 加藤 くるみ, 飛田 良, 和田 直美, 山中 峻吾, 井出 康介, 尾木 祐子, 西澤 侑香, 傍島 宏貴, 吉田 大輔, 西倉 紀子, ...
    原稿種別: 神経筋疾患 2
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 82
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    近年、NICUにおいて家族をチームの一員とし、児のケアや意思決定への参加を促すFamily-Centered Care (FCC)の理念が重要視されている。しかし、COVID-19感染拡大により、多くの施設で感染対策がとられたことで、特に医療的ケア児では限られた面会時間の中で、本来果たされるべき親子関係の構築よりも、医療的ケアの手技獲得を優先せざるを得ない。コロナ禍でのFCC実践について、多発関節拘縮症合併の先天性筋強直性ジストロフィー (Congenital Myotonic Dystrophy;CDM)に対する理学療法 (Physical Therapy;PT)を通して報告する。

    【症例報告】

    在胎32週6日、体重1728gで出生した多発関節拘縮症を有する男児。合併症として、重症新生児仮死、咽頭喉頭軟化症、リンパ管形成不全に伴う乳び胸、右難聴を認めた。

    【経過】

    出生直後より呼吸障害から人工呼吸器管理下となった。NICU入室後間もなく、両側気胸を発症し胸腔ドレナージ施行、日齢 27にリンパ管形成不全からくる乳び胸を併発したため、日齢 102まで続いた。日齢32に先天性多発関節拘縮症に対しPT介 入を開始した。両側下肢は常時開排位で、内転制限、膝関節- 90度の伸展制限、内反尖足をみとめた。介入時、鎮静管理下でドレーン等の留置物が多く、定期評価を行いながら、主に看護師向けのパンフレットを作成し、開排制限に対するポジショニングと関節可動域運動の指導に留めた。日齢75に遺伝子検査の結果からCDMと診断された。ドレーン抜去に伴い、日齢102から関節可動域運動の部位を股関節から四肢全体へと変更し、家族が参加できる内容のパンフレットへ変更した。また、鎮静管理終了後から座位練習を開始した。咽頭喉頭軟化症による気道障害のため、日齢137に気管切開術が施行され、日齢159の GCU転棟後からは、看護師・母親に座位練習を指導し、PT以外の時間でも積極的に実施された。この頃より、医療者が促さずとも母親から自発的に児とふれ合う機会が増えた。日齢195の一般病棟転棟から母児同室となり、両親にベビーカーの移乗およびシーティングの指導を行った。日齢208に医師付き添い下で院内散歩を実施した。退院前に訪問看護やPT、保健師との地域合同カンファレンスで担当者へ引き継ぎ、日齢227に自宅退院となった。

    【考察】

    CDMは、生後4週以内の新生児期に、全身の筋緊張や筋力の低下に加え、呼吸および哺乳障害を来たすとされる。出生直後に生命の危機に直面することが多く、本邦ではNICUおよび乳幼児期におけるPT介入に関する報告はない。 鎮静管理終了後早期に、肺許容量や気道クリアランスの増大、視線を変えることによる社会相互性を育む目的で座位練習を積極的に取り入れたことで、難渋していた在宅用呼吸器への移行につながったものと考える。 コロナ禍における面会制限で、本症例のように長期入院を強いられた医療的ケア児をもつ親は、面会時も医療的ケアの手技獲得に追われ、この時期に重要な愛着形成が進みにくいことが懸念される。その中で、本症例のようにFCCを意識したPTを医療者間で連携しながら行うことで、療育者が主体性を持って、児の成長や発達を感じてもらえる貴重な機会となったと考える。

    【倫理的配慮】

    発表にあたり、患者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し、家族から口頭にて同意を得た。

  • 山田 早紀, 高見 真帆, 古屋 真, 沖 侑大郎
    原稿種別: 神経筋疾患 2
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 83
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    福山型先天性筋ジストロフィー(Fukuyama congenital muscular dystrophy: FCMD)は20歳頃に呼吸器感染症などで死亡する例が多く、人工呼吸管理中の成人症例に対する長期的な呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)の効果を示した報告は少ない。今回、誤嚥性肺炎を契機に20歳で人工呼吸管理となった FCMDに対し在宅呼吸リハを行った結果、well beingが向上した1例を報告する。

    【方法および症例報告】

    本症例は21歳女性、身長: 133cm、体重: 35kg、生後まもなく FCMDと診断された。知的発達の遅れは軽度で意思疎通は良好、頭部保持は可能も、独座は困難で電動車いすで移動していた( 機能障害度分類: Stage VIII)。 2021年8月、初発の誤嚥性肺炎による入院を契機に在宅呼吸リハを開始した。同年12月、嘔吐後の誤嚥性肺炎の際に経口挿管となり、離脱困難のため気管切開、人工呼吸管理となった。約 1ヶ月の入院後、在宅人工呼吸、機械的排痰補助(Mechanical Insufflation-Exsufflation: MI-E)が処方され自宅へ退院した。退院時のMI-E設定は呼気圧: -20cmH2O、呼気時間: 1.5秒、吸気 圧: 20cmH2O、吸気時間: 1.5秒であった。本人は発声再獲得と祭りへの参加を、家族は発声再獲得と人工呼吸離脱を希望し、退院翌日より在宅呼吸リハを再開した。

    【結果および経過】

    MI-Eに対する本人の拒否が強く、退院後1ヶ月間はバックバルブマスク(Bag valve mask: BVM)を使用し排痰と最大強制吸気量 (Maximum insufflation capacity: MIC)の改善を図り、退院2ヶ 月後には日中6時間の人工呼吸離脱が可能となった。スピーチカニューレへの変更を目標に吹き戻しを使用した呼気延長や息止め練習、BVMとMI-Eを使用したMICの拡大を行った。退院8ヶ月後にスピーチカニューレの練習を開始し、吹き戻しは5秒、単語レベルの発話で同室内でのみ聴取可能な程度の声量があった。退院10ヶ月後にスピーチカニューレでの外出が可能となった。 退院10ヶ月後では、BVMを使用した換気では500ml程度の一回換気量(tidal Volume: Vt)が得られたのに対して、退院時の MI- E設定ではVt: 330ml、咳嗽時最大呼気流量(Peak cough flow: PCF): 85L/minと肺機能改善に対してMI-E設定が不十分となっ た。そのためPCFとMICの改善を目的に、呼気圧: -35cmH2 O、呼気時間: 1.5秒、吸気圧: 30cmH2O、吸気時間: 2.0秒に MI-Eの設定を変更した。変更後はPCF: 116L/min、Vt: 720mLまで改善した。また、同時期より容積式吸気訓練器を使用して開始した努力吸気練習では一回吸気量は300ml程度であった。退院12ヶ月後では一回吸気量450ml程度まで改善し、14秒の吹き戻し、長文レベルの発話や歌唱が可能となった。また、排痰練習を継続し、スピーチカニューレ装着下の自己喀痰が可能となった結果、MI-Eを携帯せずに外出が可能となった。退院 12ヶ月後には2泊3日の旅行が可能となり、1年3か月後にはスピーチカニューレ装着下で祭りへの参加が可能となった。

    【考察】

    人工呼吸管理中の成人FCMDに対する長期的な呼吸リハは肺機能や排痰能力を改善し、患者と患者家族のwell beingの向上に寄与する可能性がある。FCMDへの在宅呼吸リハは、個々の課題に合わせた対応と継続的な評価と介入が重要である。

    【倫理的配慮】

    本報告は患者の保護者へ本発表の趣旨、内容について文書および口頭にて十分な説明を行い、書面にて了承を得た。

  • 清水 梨奈, 大段 沙緒利
    原稿種別: 神経筋疾患 2
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 84
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    急性リンパ性白血病の入院加療中に化学療法関連末梢神経障害 (以下, CIPN)にて歩行障害を呈した症例を経験した. 入院中は 徐々に改善が得られたものの, 退院後は変化が乏しかった. 今回,外来理学療法を実施した結果, 足関節の機能改善が得られ, 転倒軽減と粗大運動機能の改善を得たので報告する.

    【方法】

    症例は5歳女児, 急性リンパ性白血病, 寛解導入療法中に前脛骨筋の筋力低下をきたし,CIPNと診断された. 入院中は廃用症候 群も加わり自立歩行困難となるも, 退院時には自立歩行, 段差昇降可能まで改善した. 退院から5か月経過したものの, 足関節内反底屈傾向と頻回な転倒があり外来での理学療法開始となった.理学療法は, 1回/4週, 6か月間実施した. プログラムは足関節ストラテジーと母趾側への荷重経験を目的とした運動療法(平均台歩行, バランスボード・ポール立位, 片脚立位)を実施した. 各々の課題は支持面や操作性の観点から容易なものから始め段階的にステップアップした. 加えて道具不要で取り組みやすい課題(かえる飛び, 後ろ歩き, 足趾ジャンケンなど, 足趾・足関節運動を促す課題)をホームプログラムとして指導した. 来院時に課題の取り組み状況と遂行度を確認し, ポジティブフィードバック後に修正点を伝え, スモールステップで難易度を変更した. 課題の遂行度はCOPMで確認した.

    【結果】

    初期評価, 足関節背屈筋力はMMT2/2, 足関節背屈可動域は他動で膝伸展位5°/5°, 自動で膝伸展位0°/0°であり前脛骨筋の筋力低下, 足関節背屈制限を認めた. 片脚立位時間10秒/10秒. 粗 大運動は支持なしでの起立と両足飛び可能, 走行, 連続跳び, ケンケンは困難であった. 歩容はIC時foot flat, 立脚相足部内反, 外側への下腿傾斜と骨盤の側方動揺が強く, 蹴り出しは母趾へ重心乗らず推進力低下, Tsw時に遊脚側骨盤挙上の代償を認めた .TUGは8.31秒. 転倒頻度は聴取にて大小問わずほぼ毎日認めた.最終評価, 足関節背屈筋力はMMT4/4, 足関節背屈可動域は他動で膝伸展位15°/15°, 自動で膝伸展位15°/15°と筋力, 可動域ともに改善を認めた. 片脚立位時間1分以上/1分以上. 走行, 連続跳び, ケンケンも可能となった. 歩容はIC時踵接地で立脚相足部中間位, 下腿傾斜と骨盤の側方動揺はほぼ認めず立脚相安定, 母趾で蹴り出し可能でTsw骨盤挙上の代償は改善した. TUGは 6.28秒. COPMの遂行度は常に10/10, 満足度も10/10と高い結果であった. 転倒頻度は月2回まで減少した.

    【考察】

    本症例は薬剤投与終了後もCIPNの自然回復が得られなかった.先行研究ではCIPNに対する運動療法の効果として感覚障害や運動障害の改善が報告されている. 今回足部に着目した運動療法は前脛骨筋の収縮を促し, その結果として前脛骨筋の筋力増強に繋がり, 代償にて固定されていた足関節運動の多様性を引き出したと考える. また, 外来での理学療法の頻度が少ない中でもより効果を得るにはホームプログラムと継続的に行える指導の工夫が必要であり, 加えてご家族の協力が重要だと考える.

    【倫理的配慮】

    本報告はヘルシンキ宣言に基づき倫理的配慮を行った. 尚, 対象児および保護者への説明と同意を得ている

  • 栗谷 彩, 古川 敦, 花房 伸子, 辻 紫帆里, 西村 淑子
    原稿種別: 神経筋疾患 2
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 85
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    FOXG1症候群は非典型的レット症候群の先天型で、重度の発達遅滞、筋緊張異常、てんかん、睡眠障害、突然の啼泣、摂食嚥下障害等を呈する希少疾患であり、理学療法(以下PT)の報告はほとんどない。今回、啼泣や反り返りにより生活での座位保持が困難であったFOXG1症候群の一例に対してPTを行い、認定こども園での活動参加や母の不安軽減に繋げられたため、入園前後の経過に着目して報告する。

    【症例紹介、方法】

    6歳女児、横地分類A1。在胎41週6日、体重3742gで出生。4か月で定頚なく反り返りあり、小頭症やMRIで脳梁の低形成・後方部分欠損を指摘。7か月で座位困難で口腔過敏あり、11か月で定頚なく体幹低緊張、上下肢の不随意運動を認め、PT・摂食機能療法開始。1歳2か月でてんかん、3歳4か月でFOXG1症候群と診断。PT開始から4歳で入園し就学に至るまでの経過を診療録から検証した。

    【経過】

    PTは外来に加え、1歳8か月から家族支援や発達促進を目的に定期的な親子入院にて行った。腹臥位で頭部挙上や上肢を前方についた座位が数秒可能となったが、言語表出はなく啼泣や反り返りがあった。3歳7か月、睡眠障害や日中の啼泣や反り返りが強く家庭では食事も含め1日中抱っこやおんぶが必要となった。母の負担軽減・他児との交流を目的に園への入園希望があったが、園で座って生活できるか母の不安があった。そこで、園で連続20-30分座位で過ごせるよう、啼泣せず座位で過ごすための評価や座位練習、環境調整を目的に、入園までの5か月間、外来及び入院で介入を行った。 大きな音や環境変化、不眠があると啼泣しやすく、個室など静かな環境で入院日数や前日の睡眠状況を考慮し介入内容を調整した。座位では不随意運動をきっかけに反り返り股関節屈曲困難となること、不快の表出が伝わらないことで啼泣し反り返りやすかった。広い支持基底面で体幹屈曲や股関節90°以上の屈曲を維持するよう後方から介助座位を行い、表情や声の変化を注意深く観察し介助量を調整すると啼泣なく過ごせた。家庭でも介助座位を取り入れると反り返っても自分で股関節屈曲できることが増え、母との関わり、入院中の保育や病棟預かりなど 1日の多くの生活場面で連続15-30分座位で過ごせるようになった。4歳0か月には座面角度やクッション、ティルト角度を調整した座位保持装置に30分座り食事も可能となった。入園前に園の職員にも環境設定や介助座位の方法を情報共有した。4歳1か月から入園し座位保持装置上での食事や座位で他児との交流を行うことができ、さらにSRC歩行器歩行やプロンボード立位も園に導入できた。6歳1か月には入園前より意思表出や環境適応がしやすくなり、母の不安は軽減した。

    【考察】

    本症例は重度の発達遅滞を呈し啼泣や反り返りが強く座位に難 渋したが、環境設定や睡眠状況、非言語的表出などを多角的に評価した関わりが重要であった。また、多職種や家族と連携し、生活で股関節屈曲を維持できる介助座位を持続して行うことで座位保持装置上の座位も安定し、園での活動参加や母の不安軽減に繋がったと考える。

    【倫理的配慮】

    本報告はヘルシンキ宣言に基づき、当センターの倫理委員会で承認を得た上、家族に症例報告の趣旨および倫理的配慮について説明し、書面にて同意を得た。

  • 竹中(蜷川) 菜々, 後藤 萌, 吉岡 クレモンス紀穂, 三木 麻有甫, 櫻井 英俊
    原稿種別: 神経筋疾患 2
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 86
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、ジストロフィン蛋白(Dys)が欠損することで、筋萎縮と筋力低下を引き起こす遺伝性筋疾患の一つであり、未だに根治療法はない。そこで、 Dys発現が正常な筋幹細胞(MuSC)を移植してDys発現を補う 「細胞移植治療」が、新たな根治療法の一つとして期待されている。当研究室では、健常ヒト多能性幹 (iPS)細胞から MuSC(iMuSC)を作成することに成功し、さらに、それらの iMuSCをDMDマウスへ移植すると、一部の筋線維でDysが補充されることを証明した (Zhao et al., 2020)。しかしながら、移植されて生着したiMuSCが、筋損傷などの刺激に応答して活性化し筋再生に寄与するという「幹細胞としての機能」を、ホストDMD筋組織中でも維持しているのかは不明であった。また、運動機能の改善を達成するためには、約10-30%の筋線維に Dysを補充する必要があることはすでに分かっているが、 iMuSC移植単独でその補充率を達成することは極めて難しい。そこで、本研究では、iMuSC移植の前後にDMD筋に対してトレーニングを負荷して筋再生を誘発することで、生着後の iMuSCの再活性化を促し、その結果としてDys補充率をさらに増大させられるか検証することを目的とした。この成果は、トレーニング負荷がDMDマウスに対するiMuSC移植治療を促進しうる有効な介入手段であることを証明し、それと同時に、 iMuSCの幹細胞としての機能を証明することにもつながる。

    【方法】

    DMDマウスの後肢に等尺性収縮トレーニング (Tr)を負荷し、その24時間後にiMuSCを腓腹筋内に直接投与した。さらに、移植 2週後には再度Trが1回 (移植後1回Tr群)、もしくは、週に一回の頻度で4回 (移植後4回Tr群) 負荷された。Tr肢の反対側肢には、移植後Trは負荷されず、対照 (control)群として比較検証実験に使用した。Trは、麻酔下のマウス下腿後面に、足関節底屈最大トルク値の40%の力を発揮するように調整した電気刺激を 50回加えることで負荷された。移植5週後には筋組織を回収し、 Dys陽性線維及び損傷筋線維を検出するための組織学解析を実 施した。

    【結果】

    移植後1回Tr群は、control群と比較してDys陽性線維数が増加する傾向にあったが、統計学的有意差は認められなかった。しかしながら、移植後4回Tr群では、control群と比較して有意に Dys陽性線維数が増大していた。また、Trにより、Dys陰性線維では損傷が惹起されたが、一方で、全てのDys補充筋線維は損傷を受けていなかったことが確認された。

    【考察】

    iMuSC移植後の繰り返しTr負荷により、Dys補充率が有意に増大することが示された。この結果から、iMuSCは、少なくとも移植後4週間は「幹細胞としての性質」を維持している可能性が示された。さらに、DMDマウスに対するTr負荷は、iMuSC移植によりDysが補充された筋線維を損傷することなく、移植治療を促進させうる有効な介入手段であることも証明された。

    【倫理的配慮】

    本研究は京都大学動物実験委員会の審査を受け実施した(承認番号:計23-196)

在宅・地域・理学療法管理
  • 内尾 優, 木庭 小百合, 齊藤 ゆう, 石沢 由香, 平原 真紀
    原稿種別: 在宅・地域・ PT管
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 87
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    乳幼児の頭蓋骨は成人とは異なり、骨と骨の固定性は低く位置的頭蓋変形の問題を生じやすい、これらは外見だけではなくその後の発達への影響が懸念されている。なかでも医療的ケア児は臥床する時間が長く位置的頭蓋変形の進行を助長しやすい。本研究の目的は、医療的ケア児の位置的頭蓋変形の発症状況と運動発達との関連について調査を行うことである。

    【方法】

    対象の選択基準は、乳幼児専門の訪問看護ステーションである 1施設において登録されている児、除外基準は、頭蓋骨癒合症、頭蓋骨手術、頭蓋内外傷、シャント術後の診断を受けた児とした。評価は、頭部変形評価、運動発達評価とした。頭部変形評価にはArgenta分類を用い、これは位置的頭蓋変形の重症度を 評価する観察的評価であり、1(軽症)~5(重症)に分類される。なお、本研究では分類1にも満たない場合0と定義した。運動発達評価にはアルバータ乳幼児運動発達検査法を用いた。また、母体、周産期の情報について診療録より調査した。解析は、対象を頭部変形の程度に基づき、頭部変形なし群、頭部変形あり 群に分け、アルバータ乳幼児運動発達検査法の腹臥位、背臥位、座位、立位の4項目の結果を2群間で比較した。検定にはSPSS Version 28を用い、有意水準は5%とした。

    【結果】

    解析対象となった児は51名 (平均年齢1.5±1.1歳)であり診断名は、脳原性疾患14名、染色体異常8名、遺伝子疾患6名、早産低出生体重児14名、その他9名であった。Argenta分類の結果は分類0:18名/1:15名/2:14名/3:4名/4:0名/5:0名であった。解析対象児は、Argenta分類に基づき分類0~1の変形がごく軽度な頭部変形なし群33名と分類2~5の頭部変形あり群18名に分類された。2群間における母体、周産期の情報、運動発達評価を比較した結果、母体、周産期の情報については差を認めなかった。運動発達評価において、頭部変形あり群は頭部変形なし群に比しアルバータ乳幼児運動発達検査法の腹臥位 (5.4±5.7 vs. 9.0±7.7)、座位 (2.9±3.2 vs. 5.3±5.1)、立位 (1.6±1.5 vs. 4.2±5.2)の項目の点数が有意に低かった。背臥位では差を認めなかった。

    【考察】

    結果より、医療的ケア児における位置的頭蓋変形は、Argenta分類1~3と軽症例が多かったが、発症頻度は高いことが明らかとなった。 頭部変形あり群と頭部変形なし群における運動発達の比較においては、腹臥位、座位、立位において有意差を認めた。頭部変形は頭蓋骨に対するいずれかの側の非対称な外力で生じることから、背臥位で過ごすことが多く腹臥位や抗重力姿勢の運動発達が遅い児に頭部変形は生じている可能性が考えられた。頭部変形を有するまたは予測される児には早期から腹臥位での抱っこや遊びを行うことを推奨することが報告されており、本研究結果による腹臥位の遅延はこれらの報告との関連があることが示唆された。今後、成長に伴う変化や発達にどのような影響があるのかについても検討していく必要があると考える。

    【倫理的配慮】

    本研究は、東京医療学院大学研究倫理審査委員会 (承認番号21-9H)の承認を得たのちに実施した。研究を開始するうえで、同意しなくとも不利益を受けないこと、同意は撤回できること、研究の意義や目的等を記載した同意説明文書を対象児の代諾者である家族に渡し、文書および口頭による十分な説明を行い、代諾者の自由な意思による同意を文書で取得した。

  • 鳴海 勝太, 井坂 友哉, 江藤 ひかり, 中川 由佳, 中川 将吾
    原稿種別: 在宅・地域・ PT管
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 88
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    小児整形外科領域でのリハビリテーションでは、子どもの発達や運動器の改善に努めるのみならず、患者家族の様々な困りごとに対して、必要に応じて子どもとの遊び方や課題設定などの家族指導を行うことが必要となる。昨今では情報リテラシーの問題があり、育児の情報はインターネット上では乱雑であり、専門家による確かな情報から経験談まで取捨選択が難しい。そのことによって育児に対する不安を増加させ、親子間の関係性構築の障害になっている例もみられる。当院では上記の問題に対して、育児の困りごとを相談しやすい環境を提供するために子ども食堂キッチンこんを開始した。これまでに4回実施した内容やアンケートで得られた当事者たちの意見をまとめて以下に報告する。

    【方法】

    スタッフ構成は医師、看護師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、公認心理師、教師、地域の子ども食堂や学習支援運営者など専門職をボランティアで配置した。対象年齢や障がいの有無による制限はつけていない。実施回によって子ども食堂と他のイベントを並行して実施した。 募集方法は、1、2回目は希望者へのチラシの配布とSNSでの告 知をした。3、4回目は同様の方法と予約制をとり、定員を10家族とした。実施内容は、参加者同士の交流、食事、離乳食相談、発達や育児相談、イベントを実施した。参加者の滞在時間は2 時間30分~3時間である。参加費は材料費のみ徴収している。これまでに実施したイベントは、室内遊具体験イベント、 離乳食や食形態相談会、ベビーバルシューレ体験会を実施した。すべての会において専門職へ声掛けがしやすいようにパラレル な場を設定している。

    【実施内容、結果】

    参加養育者年齢は平均35.17歳、こどもの年齢は平均2.39歳。 滞在時間平均は2時間45分。参加者の人数は1、2回は平均22人、 3、4回は平均15人。参加者の構成は、1家族のみ父と母、児で参加、その他は母と児で参加していた。アンケートでは自記式 質問紙を作成して実施。参加者の満足度は高く、再訪者は 7人。参加している養育者は食事やその発達、自身の子の心配な部分 の発達についてアセスメントを求めている傾向がある。発達変化に合わせた遊び方や課題設定の情報を欲している者が多い。

    【まとめ】

    育児の諸問題に対して相談しやすい場を作るために専門職の子ども食堂を開始した。養育者は平均35.17歳、子どもは平均 2.39歳、参加者の人数は1、2回は平均22人、3、4回は平均15人であった。参加者は子どもの発達や育児をめぐる困りごとを抱えている者が多く、専門職へ直接相談ができるキッチンこんの満足度は高い。本取り組みにより育児の不安を軽減することにつながり、養育者の養育モデルの再考や親子間の関係性構築に促進的に働くことが考えられる。また、小児リハビリテーションにおいて養育者の育児不安を軽減することは意義があり、本取り組みは一助になることが示唆される。

    【倫理的配慮】

    本調査への参加は自由意志での参加であり、参加しない場合でも不利益を受けないこと、 参加後もいつでも撤回でき、その場合にも不利益を受けないことを保障し、口頭での説明、書面での同意を得られた方のみ参加者とした。 個人情報は対象者が特定されることはないこと、厳重に保護することを伝える。調査用紙は無記名で個人が特定できないようにコード化して分析した。 さらに、参加中に体調不良となった場合には直ちに参加を中止し、適切な処置を受けられることも伝えた。

  • 楠本 泰士, 髙橋 恵里, 倉澤 茂樹, 田中 善信, 星 真行, 柴 喜崇, 岡崎 可奈子, 義久 精臣
    原稿種別: 在宅・地域・ PT管
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 89
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    近年、食育や眠育などの言葉が聞かれるように、小中学生のうちから、健康に気を付けることの重要性が見直されており、食育、眠育などの多角的な調査が、将来的なけがや生活習慣病の予防のために必要である。対策の一環で、福島市をはじめ全国の市町村で予防的な政策が始まっているが、医療専門職の関りは少ない。地域の小中学生を対象に健康に関連する多角的な調査を行うことで、学年ごとの違いや項目間の関係性が明らかになれば、有用な予防的な関わりが実施できる。 本研究では、「福島子どもコホート調査」として福島市在住の小学生の健康関連QOLや食に関するQOL、睡眠状況の調査を行い、学年ごとの違いや項目間の関係性を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    本研究は横断研究とし、福島市内の全小中学校の児童、生徒に募集チラシを配布し、対象者を募集した。75名が参加し、分析対象者は、データ欠損のある者、中学生、療育利用者を除外した53名の児童 (6~12歳)とした。 測定項目は、こどもの健康関連QOL、食に関する主観的 QOL、 睡眠調査とした。こどもの健康関連QOLは、日本語版 KIDSCREEN -27を用いた。KIDSCREEN -27は、身体的幸福感、心理的幸福感、親子関係と家庭環境、社会的支援と仲間、学校 の5領域、計27項目からなり、5段階で回答し、高得点であるほどQOLが高い。今回は、親子関係と家庭環境を除く4領域を採用した。食に関する主観的QOL (SDQOL)は、4項目計4~20点で採点し、高得点であるほどQOLが高い。睡眠調査は、小学生版子どもの眠りの質問票を用いた。質問票は、レストレスレッグズ症候群、 睡眠時呼吸障害、朝の症状、夜間中途覚醒、 不眠、日中の過度の睡眠、日中の行動、睡眠習慣、不規則・睡眠相後退の9つの下位項目で構成され、高得点であるほど睡眠状態が悪いことを表す。また、付随項目としてテレビや動画、ゲームなどのスクリーンタイムの1日の平均時間を聴取した。対象を学年によって低学年 (1、2年生24名)、中学年 (3、4年生 20名)、高学年 (5、6年生9名)の3群に分類し、一元配置分散分析とBonferroni法による多重比較検定にて検討した。また、全対象者で項目間の関係性をPearsonの相関係数にて検討した。統計処理にはIBM SPSS Statistics Ver.27を使用し、有意水準を 5%とした。

    【結果】

    低学年と比べて高学年において、睡眠習慣が有意に低く (p= 0.041)、スクリーンタイムが長かった (p=0.033)。SDQOLは、中学年と比べて高学年が低く (p=0.040)、KIDSCREEN -27の各項目は、学年間に差はなかった。 年齢はスクリーンタイムと0.434の正の相関、睡眠習慣と- 0.344の負の相関があり、SDQOLと相関はなかった。 KIDSCREEN -27はSDQOLと0.313~0.588の正の相関、日中 の行動と-0.357~-0.586の負の相関があった。

    【考察】

    今回、スクリーンタイムと睡眠習慣に相関関係はないが、低学年と比べ高学年の児童の方が、スクリーンタイムは長いが睡眠習慣は自立していた。KIDSCREEN -27とSDQOL、日中の行動との相関から、こどもの健康関連QOLが高いと、食事に関する QOLが高く、睡眠に関わる日中の行動 (問題行動)が少なくなる可能性が示唆された。

    【倫理的配慮】

    本研究は福島県立医科大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。対象者には口頭と文書にて説明し、同意を得て実施した。本研究への協力を断っても、何ら支障のないことを書面にて伝えた。

  • 堤崎 宏美, 齋藤 由希, 鳥井 智太郎
    原稿種別: 在宅・地域・ PT管
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 90
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    当センターでは、子どもと家族が一緒に入院する、肢体不自由児を対象とした一般親子入院 (3~4週間)や神経発達症児やダウン症児等を対象と短期親子入院 (5日間)を行なっている。 今回、2020年より新規事業として「パラスポーツ親子入院」を実施した。当センターに通院している児童を対象に、パラスポーツに接する機会の少ない子どもたちや家族に対し、スポーツの経験や紹介を通じ、スポーツの楽しさを感じ、活動性を高め社会参加を促すことを目的としている。今回は本事業の活動内容とその意義について検討したので報告する。

    【対象と内容】

    定員5組で、小学中学年までの肢体不自由児を対象。3泊4日の日程で、運動測定 (投球・10m走)・ボッチャ・プール体験・ 10mスラローム等のスポーツを親子で体験する。他に、整形外科医による講義、集団保育なども行った。入院最終日には、家族対抗ボッチャ大会を実施し表彰式を行った。退院時に参加者にアンケートを実施した。

    【活動報告】

    2020年3組、2021年は4組の参加者であった。年齢は3歳~6歳。低出生体重児や脳性麻痺、運動発達遅滞、知的障害を持つ子ど もたちで、運動レベルは、GMFCSLevel Ⅱ~Ⅲ。プログラム は、個別リハを実施後、集団活動として、徒競走、スラローム、玉入れ、フロアカーリング、トランポリン、ボッチャを親子合 同で行った。運動測定結果より各種目について、個々の能力に応じた方法で行ったが、個別差が大きく、ルール理解も難しいため、スポーツ要素を取り入れたレクレーション活動が多かった。ボッチャ大会や表彰式を企画することで本人だけでな く、家族・スタッフ全員で楽しみながらスポーツに取り組めた。

    【考察】

    通常のリハビリに加え、スポーツ活動を通じて、競争する雰囲気や達成感を感じている様子が見られた。2年連続で参加した児童については、歩行能力・距離の向上など運動発達の経年変化を見ることができた。しかし、参加者が低年齢でルール理解が乏しく、競技としてのスポーツを行うことは難しいため、スポーツ要素を取り入れたレクレーションやシンプルなルールに変更することで、楽しく取り組むことができた。また、参加者アンケートでは、「うちの子がスポーツできると思ってなかった」「参加できてよかった」「またやりたい」と高い評価を得たことからも、ニーズの高い事業であると実感した。今後、 COPMや活動・参加に対する評価も調査していきたい。早期にスポーツに出会えることで、チャレンジする心が育ち、子どもたちや家族の健康や社会参加へのきっかけ等QOL向上につながっていくと考える。さまざまな障がいを持つ子どもたちが楽しくスポーツに取り組める環境を整えるためにも、今後もパラスポーツ親子入院を発展させていきたい。

    【倫理的配慮】

    【倫理と同意】

    本発表にあたり、利用児童の保護者に説明し文書による同意を得た。

  • 長島 史明, 小林 明弘, 後藤 晴美, 寺原 由佳里
    原稿種別: 在宅・地域・ PT管
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 91
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    自宅で生活し、訪問看護を受ける小児利用者数は増加しており、訪問リハビリテーション (リハ)においても対象疾患は成人~小児まで広がりをみせている。さらに小児医療の進歩により、人工 呼吸器など濃厚な医療を必要とする医療的ケア児が増加している。しかし、卒前教育では小児疾患を学習する時間は限られており、 臨床で活用する知識や技術を十分に習得しているとはいえない。そこで我々は小児訪問リハ初学者のための講習会を考案・実施した。今回、講習会で実施したオンデマンド講義の効果と今後の課題について検討したので報告する。 <小児訪問リハ講習会> オンラインにて講義およびグループワークを2回実施、オンデマンドにて小児リハに関する講義動画を視聴学習する。 オンデマンド講義動画:テーマは、「発達と評価」、「疾患と 特徴」、「リスク管理」、「身体の扱い方とポジショニング」、 「呼吸と循環」、「摂食嚥下」、「補装具」、「コミュニケーションと遊び」、「連携」の9項目。小児リハ経験者が講師となり、1項目60分程度の動画を作成。動画はクラウド上で共有し、いつでもどこでも視聴可能とする。視聴期間は2ヶ月。

    【方法】

    受講者に、オンデマンド講義は十分に学習することができたかについて、そう思う、ややそう思う、あまりそう思わない、そう思わないの4段階で回答をもとめ、その理由について回答を例示し選択してもらった。また自由記載で講義に対する意見をもとめた。

    【結果】

    回答13名 (PT9、OT3、ST1)。訪問リハ経験年数は1年未満:1名、1年以上3年未満:8名、3年以上:4名。小児訪問リハ経験人数は0人:3名、1人:4名、3名以上:6人。医療的ケア児の経験人数は経管栄養の児:6名、酸素投与の児:4名、気管切開の児:4名、人工呼吸器の児:3名、全く経験なし:6名であった。オンデマンド講義は十分に学習することができたか:そう思う ;8名、ややそう思う;4名、あまりそう思わない;1名。回答 理由について、「講義の中に自分が知りたい内容があり、とても勉強になった」:11名、「講義の中に自分が苦手な内容や知らなかった内容があり、とても勉強になった」:10名、「講義の数が多く、幅広い内容を学習することができた」:5名。自由回答では、幅広い内容が学べたが、視聴時間や期間が短く十分に学べなかったという意見がみられた。

    【考察】

    小児リハ初学者に対して、オンデマンド講義は十分に学習がで きる内容であった。訪問リハ経験年数・小児経験人数が少ないセラピストにとって、小児リハを学ぶ一助となると考えられた。視聴時間や視聴期間など、より効果的な学習方法については更なる工夫が必要になると思われた。今回、講義内容を実際の臨床場面でどのように活用するかは、受講者自身に委ねている。臨床場面での課題解決のためには、長期的なフォローアップや小児訪問リハのクリニカルラダー等を検討していくことが必要である。

    【倫理的配慮】

    本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき、所属機関 の倫理委員会の承認を得たうえで実施した。本研究参加者には、研究参加時に目的、方法を説明し、同意を得た。個人情報の保護について回答者が特定されないよう配慮した。

  • 田中 あゆみ, 荒田 幸子, 野村 公子, 馬場 郁子, 小山 栄子
    原稿種別: 在宅・地域・ PT管
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 92
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    2018年に新設された医療的支援にとどまらず総合的な社会的支援への移行も視野に入れ、著しく外出困難な子どもに対して居宅を訪問し、児童発達を提供する居宅訪問型児童発達支援事業 (以下事業と略す)が5年目を迎える。京都府で初めて認可された当センターの個別支援計画にとり入れた理学療法実施例について述べこの制度の課題も提示する。

    【方法】

    当センターで支援介入したケースを後方視的に調査し特徴をまとめた。

    【結果】

    事業申込みから開始までの期間は平均16日で最長60日であった。4年間で15人が利用、診断名は、染色体異常、脳腫瘍 (ラブドイド腫瘍)、脊髄性筋萎縮症、ミトコンドリア心筋症と幅広い。 利用された子ども12人が障害認定等されていない1歳未満の低年齢児であり、開始時未定頸・寝返り困難でAlberta Infant Motor Scaleスコアから同年齢児に比較し粗大運動の遅れが示唆された。8人が低出生体重児で7人が経管栄養等の医療ケアが必要だった。また、全体で医療ケアが必要な子どもは10人、利用目的は感染リスクが高く外出困難なため自宅での子育て支援と児童発達支援 (本人支援)が主だった。 家族が困難を感じていた課題は、①注入後吐き戻す (7人)②泣く。緊張する。不機嫌でぐずる (5人)③夜眠れず生活リズムが整わない (7人)、他には遊び方がわからない、元気に育ってほしいという内容もあった。理学療法士は、家族との協業による目標設定を行い多職種で共有して介入した。 実際の症例を紹介する。 退院後、吐き戻しが続くAさん(10ヶ月)に対して、医師・看護師に治療状況の説明を依頼、吐き戻しの要因や呼吸状態等の確認後、呼吸理学療法と腹部の圧迫を防ぐ腹臥位姿勢での頭部挙上や回旋を促した。 腫瘍の治療と児童発達支援の両方が必要なBさん (5歳)には、学校・通所サービスへの保育所等訪問支援制度を併用して治療期に沿って支援を統一し、神経症状からくる不快の要因の整理と装具を使用した快適な環境設定を行い基本動作能力の向上を図った。 2例とも過ごしやすい姿勢環境での学習と感覚遊びを行い、苦痛を察知し解決する事で子育て上のコミュニケーションを築いた。体調に合わせ子どもの育ちと遊びの相談会に参加してもらい保育士と具体的な育児相談・保護者同士の情報交換の場を提供した。状態調整系 (栄養・呼吸)が安定し、子どもが楽しく小集団の活動に参加できたことが、保護者にとって大きな自信となり通所移行を助けた。 4年間で本事業を利用された子ども15人中9人が通所移行、うち 5人は本事業と保育所等訪問支援事業の両制度を併用して地域移行した。

    【考察】

    重度な疾病のため環境の変化に弱い子どもは状態調整系が不安定で、保育士でも不機嫌で遊びにくい状況であったが、理学療法士も共に関わることで希望する育児生活を送れる一助となった。 利用開始にあたり手続きが多く支給決定までの期間が長い。手続きの簡素化が望まれる。また、厚労省の調査では地域に事業のニーズがないという報告もあるが、居宅に訪問して遊びを主軸に行う本事業は医療だけでは解決できない包括的子育ての初期支援の一つとして有効であると考える。

    【倫理的配慮】

    ヘルシンキ宣言に基づき、本報告の主旨や内容、個人情報保護について、対象者のご家族に十分に説明し口頭と 書面にて同意を得た。 尚、当法人倫理審査委員会の審査・承認を得ている。

症例報告
  • 稲森 遥, 中野 有子, 日高 雅大, 小森 華穂, 平野 哲, 大高 洋平
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 93
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    急性横断性脊髄炎による、弛緩性麻痺を呈した小児に対して、装具作成を実施し歩行獲得に至った報告が少ない。今回は、早期から長下肢装具を使用した立位練習を実施し、短下肢装具 (以下、AFO)を作成し歩行獲得となった症例を経験したため、 三次元動作解析装置KinemaTracerを用いた歩行解析結果と共に報告する。

    【症例報告】

    5歳女児。発症前の発達は正常発達であり、入院前のADLは自立していた。腰痛を訴えてから歩行障害を呈し、MRIにて胸髄に横断性脊髄炎所見があり、両下肢弛緩性麻痺、膀胱直腸障害を認め、急性横断性脊髄炎の診断で入院となった。

    【経過・結果】

    第4病日から理学療法と作業療法を開始した。開始時の身体機能は、ASIA Impairment Scale (以下、AIS)はA、Neurological Level of Injury (以下、NLI)はTh9、ASIAの下肢運動スコア (以 下、LEMS)はRt/Lt=0/0であった。また、起居動作、座位保持、車椅子移乗は全介助であり、機能的自立度評価法 (WeeFIM :Functional Independence Measure for Children)の運動項目は 33/91点であった。 第9病日、骨盤帯付き長下肢装具 (HKAFO)や内側股継手付き長下肢装具 (Primewalk)を使用し立位・歩行練習を開始した。第 45病日より、徐々に左右AFOを使用した立位・歩行練習を組み入れるようにし、第68病日にPCW(Posture Control Walker)と左右AFOを使用し歩行は近位監視レベルとなった。 第91病日、AISはC、NLIはTh9、LEMSは7/7となり、筋緊張はハムストリングス、下腿三頭筋、内転筋群がMAS1と下肢痙縮を認め、WeeFIMの運動項目は77/91点ととなった。歩行は、キャスター付き4輪歩行器と左右AFOを使用し修正自立にて可能となった。また、同日三次元動作解析装置を使用し歩行計測を実施したところ、左右の膝関節屈曲位歩行、左右の内側ホイップ、左下肢優位のクリアランス不良を認めた。第117病日、両側ロフストランド杖と左右AFOで自宅退院となり、以降、更なる歩行改善・獲得に向け外来リハビリ継続となった。

    【考察】

    小児の横断性脊髄炎に対する症例報告は少なく、早期より、機能回復に応じた適切な課題難易度でリハビリ介入を行なったことが、順調な歩行獲得やADL向上に繋がったと考えられる。また、歩行分析において、主観的な評価で歩容の特徴を捉えることは可能であるが、三次元動作解析装置による客観的な評価を行うことで、より正確かつ定量的に評価をすること可能であった。歩行障害の要因を定量的に評価したことで、今後の理学療法介入に向けた問題点の抽出や患者との改善点の共有が可能となると考えられる。

    【倫理的配慮】

    本人及び保護者には、ヘルシンキ宣言に基づき本発表の趣旨を口頭及び紙面にて説明し同意を得た。

  • 松葉 建太, 伊藤 将平
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 94
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    小脳炎に対するリハビリテーション介入は、併存する無言症に対しての言語聴覚療法介入が散見される程度で、理学療法介入の効果や経過報告は乏しい現状にある。今回、発症早期から無言症に加えて失調症状を呈している症例に対し、基本動作練習 ・バランス練習などの理学療法や家族に対するセルフトレーニング指導を行うことによって自宅退院可能となり、外来リハビリテーションの継続によって保育園に通園再開できるADLを獲得することができたため報告する。

    【症例紹介】

    症例は5歳女児。X-3病日に39度の発熱と嘔吐を認め、X-2病日に発熱が持続し、腹痛が出現したため前医を受診された。X病日、朝と夜間に同様の発作があり前医にて痙攣重積発作と診断され、当院へ転院となった。採血結果は軽度炎症反応の上昇を認めた。頭部MRIにて両側中小脳脚、脳梁膨大部に拡散強調像高信号が認められ、小脳炎と診断された。

    【結果および経過】

    X+1病日から3日間のステロイドパルス療法が開始され、X+5病日には上半身を起こす程度の自動運動が可能となったが、コミュニーションは首振りでYes/Noによる表出のみ可能であっ た。X+6病日に理学療法評価を開始した。無言症を呈しており、興味関心のある話題をもとに関係性を作りながら実施した。身体機能では、筋力は体幹屈曲MMT:2、頭頚部屈曲MMT:3と低下を認め、Scale for the assessment and rating of ataxia (SARA): 28点と運動失調を認めていた。ADLはWeeFIM:47 点 (運動22点、認知25点)であった。X+9病日より歩行練習を 開始したが、独歩では上肢の筋緊張が高く、後方重心、股関節周囲の動揺が認められた。そのため理学療法以外の時間にも膝立ち姿勢で遊ぶことや膝歩きなどを家族指導しセルフトレーニングを導入した。X+10病日に歩行器歩行30mが見守りにて可能になった。X+12病日にはSARA:14.5点と失調症状の改善を認め、X+13病日に10m歩行自立 (10’81秒)、階段昇降も手す りを使用し見守りで可能となった。WeeFIM:92点 (運動60点、認知32点)と改善を認め、X+14病日に自宅退院となった。退院後も週2回の外来リハビリテーションを継続し、X+25病日には保育園へ通園再開となり、X+27病日に10m歩行が8’35秒、 家庭内で自発話も増えるなど無言症の改善を認めた。X+34病日に外来でのリハビリテーションが終了となった。

    【考察】

    今回、失調症状を呈した小脳炎患児に対して理学療法と家族指導を行い、急性期から外来までの集中的な介入にてADLの改善を図ることができた。小脳炎においては運動失調や無言症を合併することもあり、経時的な評価を効果判定に理学療法介入することや小児理学療法実施中は本人に加えて家族への指導が重要と考えられる。また小脳炎後の機能低下においては遷延することも報告されており、退院後のフォローアップが重要と考えられる。本症例においても入院中から家族に対してのセルフトレーニング指導を行い、外来移行後も継続的に介入をすることができたことがADL改善に寄与したと考えられる。

    【倫理的配慮】

    ヘルシンキ宣言にもとづき、保護者に対し症例報告の目的、公開方法、協力と取り消しの自由、個人情報の管理について説明した。その後、保護者より発表を行う同意を得た。

  • 滝谷 佳紀, 塩津 裕康
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 95
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    今回、胸髄損傷を呈した幼児の「杖で立てるようになりたい」などの目標達成にむけた実践の機会を得た。そこで、残存機能を生かし、目標を達成する為、課題志向型トレーニングの実施を検討した。二分脊髄・脳性麻痺児に対する課題志向型トレーニングは活動・参加レベルでの効果が報告されている為、肢体不自由及び、慢性的に症状が継続するという共通点がある胸髄損傷児においても有効と考え、特にCognitive Orientation to daily Occupational Performance (CO-OP)を参照し、介入効果を考察することを目的とした。

    【方法】

    5歳3ヶ月女児、第4~5胸髄損傷。ASIAはグレードA、介入頻度は、2~3回/月 (40分/回)であった。 目標設定のために児・母と面接評価を実施した結果、①両杖を用いた立位保持時間 (初回時目標は12秒)、母のニードであるセルフケアの意識づけとして②傷の確認、③ストレッチ (②・③ 初回時目標は1ヶ月に16回)の3点を目標とした。加えて、目標達成スケーリング (GAS)を用いて児・母と目標の明確化・段階づけを行った。①立位保持時間は9回の介入を実施し、②傷の確 認・③ストレッチの実施は3ヶ月間自宅内で実施・記録した。 CO-OPの特徴である、認知ストラテジーの使用、ガイドされた発見、可能化の原理を基盤とした関わりを実践し、児の問題解決スキルの促しを行った。 遂行の質評価は、遂行の質評定スケール (PQRS)および時間・回数を記録した。加えて、立位保持時間に関しては、CO-OP実施前後の変化を視覚分析によって正の介入効果が推論された場 合にNon-overlap of All Pairs (NAP)を用いて効果量を測定した。

    【結果】

    GASの変化は①立位保持時間、②傷の確認、③ストレッチの実施の全てにおいて-2から+2へ変化した (Tスコアは74.5点)。立位保持時間は介入前後でPQRSが1点から10点、時間が6秒から517秒と変化した。またNAPによる効果量は1.00 (SE=0.03, 95%CI [1.00, 1.00])であった。傷の確認・ストレッチの実践は PQRSが1点から10点と変化し、実施回数は1回から18回と変化した。

    【考察】

    CO-OPは自己効力感を促進するという報告がある。加えて、自己効力感が身体活動量の増加に影響を及ぼすとの報告もある。立位保持の実践では、児が主体的に取り組み、児自身の認知ストラテジーの使用による問題解決が出来たことで自己効力感を得たと考えられる。また、保護者より「訪問リハビリ時の立位練習を意欲的に取り組むようになった」「食事・余暇時に立位台で過ごしたいと言うようになった」との発言も聞かれた。以上より、本症例に対する介入は、自宅内における立位での活動を促し、立位保持時間の増加に繋がったと考えられる。 傷の確認・ストレッチの実践では、保護者が自宅内でCO-OPの関わりを実践できたことに加え、実際の生活場面で実施したことで、問題解決スキルを促進し、目標達成に繋がったと考えられる。

    【倫理的配慮】

    本症例は未成年であり、保護者に本報告の説明を行い、書面及び口頭にて同意を得た。

  • 笹川 古都音, 宮城島 沙織, 佐藤 優衣, 小塚 直樹
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 96
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    難治頻回部分発作重積型急性脳炎とは、極めて難治かつ頻回の焦点発作を特徴とする原因不明の疾患である。この度、回復過程における激しい体動やてんかん発作に対し、理学療法介入中のリスク管理に難渋した一例について報告する。

    【症例】

    症例は12歳女子。身長158cm、体重52kg、BMI20.8kg/m2であった。X日より発熱、X+5日目に間代性痙攣を認め救急要請された。前医へ入院後も痙攣発作が持続し、翌日、当院ICUに転院搬送、深鎮静、呼吸器管理となった。投薬加療継続され、 X +21日気管切開施行、X+22日より理学療法介入開始、X+ 23 日一般病棟へ転棟した。

    【経過】

    理学療法介入開始時、JCS10~20、随意運動はなかった。X+ 26日より手を動かす動きがあり、X+32日にはベッド柵に足をかけるなど危険な体動が増えた。安全確保のためベッド周囲の 環境調整を行い、離床はギャッジアップ座位に留めた。X+43 日、 呼吸器離脱。声かけに笑顔が見られるようになった反面、突如、起き上がり座ろうとするなど体動が激しさを増した。ベッド上での取り組みに限界があり、転落防止に体幹ベルトを追加したティルト・リクライニング式モジュール車椅子を用いて車椅子乗車を開始した。移乗には四肢を突っ張る、蹴る、大声を出すなど激し い抵抗があり、複数名の介助を要した。X+45日には訓練室にて、療法士複数名で座位やサドル付き歩行補助器を利用した歩行練習 を開始した。発語も増え言葉のやり取りが可能となったが、全般性注意障害、感覚性失語が認められた。 X+65日には独歩獲得、 ADLは改善したが、衝動的な行動が多く見守りは必須だった。またこの頃、理学療法介入終了後のてんかん発作が頻回となった。主治医と相談の上、介入時間を夕方から日中に、場所を訓練室から病室へ変更し経過観察とした。 X+84日より訓練室での介入 を再開した。周囲へ次々と声をかける、尿意切迫で突如走り出すなど、行動制御できず常に注意が必要だった。移動時は腕組み、運動は床上でのストレッチや筋力トレーニング、逃走予防に吊り下げ式の免荷装置を使用した歩行とした。X+101日、訓練室内でてんかん発作あり、意 識消失、息止めありチアノーゼが認められた。痙攣発作時の対 応を主治医、病棟と再確認し、紙面にまとめ周知した。また、予め対応に必要な物品を揃え、運動は発作発生時の転倒転落に備えた内容に変更、発作の兆候を見落とさないよう、より一層の注意を払った。その後も介入中の発作は続いたが、発作出現に伴う怪我はなかった。身体機能は回復したが、てんかん発作、高次脳機能障害は残存した。X+115日に地域、学校含めた多 職種カンファレンスを行い、X+131日自宅退院、X+155日より復学した。

    【考察】

    主治医、病棟、他療法士と緊密な連携をとることで、様々なリスクに対応しながら、回復に合わせた運動量を確保し続けた。その結果、薬剤調整終了時には通学に十分な身体機能を獲得しており、早期復学が叶った。学校へ通うことは思春期の患者にとって、学習面だけでなく社会性を学ぶ点においても非常に重要と考える。

    【倫理的配慮】

    本学会で発表するにあたり、症例の保護者に対し、これまでの診療記録を振り返り報告をまとめること、個人が特定されるような情報は公開しないこと、発表にあたり新たに行う治療や介入、評価などはないこと、個人の不利益になることはないこと、発表当日まではいつでも撤回可能であり同意撤回により、今後当院での加療を受ける上でいかなる不利益も被らないことを書面を用いて十分に説明した。検討期間を設けた後、同意書への署名、捺印をもって同意を得た。なお、演題発表に関連し、開示すべきCOI関係にある企業などはない。

  • 石原 怜奈, 根岸 悠理, 彦田 直, 小柴 輝晃, 藤田 雅子
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 97
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    抗N-methyl-D-aspartic acid receptor脳炎(以下,抗NMDA受容体脳炎)は,2007年Dalmauらによって提唱された卵巣奇形腫に随伴する傍腫瘍性脳炎であり,自己免疫性脳炎の一つとされている .Titulaerらは集中治療室(以下,ICU)入室の必要性がないことと早期治療が予後良好因子と報告している.今回,ICUに入室した学童期の抗NMDA受容体脳炎症例を経験した.本報告では入院中の理学療法介入の経験について報告する.

    【方法】

    症例は身体的に健康な学童期の10歳代女性.X日,意識障害や異常行動を伴う精神症状を発症し,症状発症3日目に抗NMDA受容体脳炎の診断となり入院.発症9日目より理学療法開始.理学療法開始時,Glasgow Coma Scale11点(以下,GCS), modified Ranking Scale5(以下,mRS),Barthel Index0点(以下,BI)であった.

    【結果】

    入院同日に左卵巣腫瘍摘出術とステロイドパルスを実施.発症6日目から免疫療法を開始した.統合失調様症状や精神症状などが強く持続的鎮静と身体拘束を行っていたが,発症9日目にてんかん発作と持続的鎮静に伴う徐脈により全身状態の管理が難しくなりICU入室.発症16日目に人工呼吸器管理となった.発症25日目に人工呼吸器から離脱しICU退室,一般床転床となった.発症 104日目に自宅退院となり,発症120日目に復学した.鎮静剤は発症3日目から25日目まで使用した.二次治療として発症15日目 と43日目にシクロホスファミドを投与した. 理学療法としてICU入室中は二次的合併症予防目的に介入.ICU退室後は動作能力に応じて段階的に運動療法を実施した.ICU入室後は鎮静剤増量の影響でGCS3点,ICU退室時の発症25日目は GCS10点,mRS5,BI0点.発症34日目にGCS15点,mRS4,BI45点に 改善.発症45日目に無杖歩行自立しmRS3,発症59日目に mRS2,BI100点となり身体的な問題は概ね改善.その後,発症68日目にmRS1となった.なお,発症94日目に評価した児童向けウェクスラー式知能検査において合成得点が視空間指標78点,処理速度指標78点であり,視空間認知や処理速度の低下は残存していた.

    【考察】

    Dalmauらは抗NMDA受容体脳炎の治療は,腫瘍の早期摘出と免疫療法の併用が最も有効であると述べている.Titulaerらの報告では中央値で腫瘍摘出までの期間1か月,免疫療法開始までは21日と報告している.本症例は発症3日目に腫瘍摘出を行い,発症6日目から免疫療法を開始しており,早期治療が行われたと言える .また,Titulaerは予後良好因子の一つとしてICU入室の必要性のがないことをあげている.DuanらはmRSを用いた予後調査においてmRSは0-1(軽度),2-3(中等度),4-5(重度)として分類している.本症例はICU入室時mRS5であったが,退院時mRS1で良好な転機となった.これは,早期治療と二次治療を受けたことが要因と考えている. 今回、抗NMDA受容体脳炎患者の予後調査と比較しながら理学療法を実施することを経験した. 自験例のみではあるが機能的自立度をmRSで定期評価しながら段階的に介入することの必要性を学んだ.

    【倫理的配慮】

    本演題はヘルシンキ宣言に基づき倫理的配慮を行った.発表にあたり,患者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し,十分に説明し症例家族から書面にて同意を得た.

  • 辻田 愛恵
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 98
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    重度心身障害者は,基礎疾患に加え,成長に伴いさまざまな二次障害を引き起こす場合が多い.本症例においても,二次的障害の影響で運動機能の低下が生じ,これまで出来ていた介助歩行が困難となった.姿勢管理と筋緊張,二次的障害増悪のリスクに配慮しながら,歩行練習の継続ができるよう検討した.

    【方法】

    対象は,難治性てんかん性脳症により重度の心身障害と知的障害をもつ20歳の女性.大島の分類2(座れる/IQ20以下).16歳時より,当院での理学療法を開始.ADLは全介助レベルで,トイ レまでの移動は介助歩行,下衣操作は立位にて介助で行っていた。また,歩行器にて歩行練習を行っていた.18歳時に食事摂取困難, 呼吸機能低下,てんかん発作にて入退院を繰り返し,19歳時に当院でのリハビリを再開するも,介助歩行は困難であった.保護者からは,「立位,歩行の練習は継続したい」との希望が聞かれた.これに対し,短下肢装具で脚長差を整えた状態での立位練習を開始.立位保持が安定したところで歩行練習へのステップアップを試みた.

    【結果】

    粗大運動能力尺度(GMFM):9,粗大運動能力分類システム(GMFCS):レベルⅤ.理学療法再開時,左凸の側彎(Cob角:50°),骨盤左前方回旋位の変形,右股関節後方亜脱臼あり.下肢長は ,SMD右:76㎝,左:79㎝で脚長差3㎝,関節可動域はSLR右:60°,左 :45°,足関節背屈右:0°,左:-5°.立位練習開始時,重心は左下肢 優位で右下肢への荷重が困難で,左下肢反張膝が出現していた.右下肢への荷重を誘導しながら立位練習を繰り返し行うことで,中間位での立位保持が可能となったため,歩行器での歩行練習を開始したが,自発的な下肢振出しは困難であった.そこで,免荷式リフトを使用して歩行練習を行うと,良姿勢での自発的な下肢の振り出しを促すことができ,保護者の希望でもある歩行練習を継続することができた.

    【考察】

    脳性麻痺患者に対する筋力増強練習の重要性が示唆される中、GMFCSレベルⅣ,Ⅴの脳性麻痺児は一般的な抵抗運動が困難な場合が多く,本症例も立位や介助歩行といった運動の中で筋力増強練習を行ってきた.この為,本症例が運動能力を維持していく為には,立位,歩行練習の継続が重要であった.症例は介助歩行を獲得したが,成長に伴い下肢,体幹の変形が出現し,変形した肢位での立位,歩行を学習していたと考えられる.これに加え,入院での長期臥床による筋力低下や変形の増悪,てんかん発作による脳への影響,栄養状態の低下等が重なり,介助歩行が困難となった.変形等の姿勢に対し,短下肢装具で脚長差を整え立位練習を繰返し行うことで,新しい姿勢での立位保持を学習できた.歩行器での歩行練習は,現在の本症例には負荷が大きく困難で,無理に歩行練習を行えば股関節の脱臼や変形の増悪を招く恐れもあった.免荷式リフトを使用して歩行練習を行うことで,適切な負荷量の中で歩行練習が行え,自発的な下肢のステップが出現し,歩行練習を継続することができた.

    【倫理的配慮】

    ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には研究の内容を説明した上で同意を得ており,当院の倫理委員会による承認を得た上で実施した.

  • 佐々木 優太, 中島 卓也, 依田 奈緒美, 楠本 泰士, 真野 英寿
    原稿種別: 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 99
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    近年,小児肥満の割合は増加しており,大きな問題となっている.小児肥満は成人肥満に繋がりやすく,学童期肥満で4割,思春期肥満で7割が成人肥満に移行するとされ,幼児期からの対応が重要とされている.肥満治療では運動療法・食事療法を併用し,生活習慣の改善が必要とされ,3歳から5歳までの児では1日3時間の運動が推奨されている.しかし今回,小児肥満児に対して運動量の確保と食事療法を行ったが,十分な改善に至らなかった症例を担当したため報告する.

    【症例紹介】

    症例は保育園に通う5歳の男児である.吸引分娩で37週,2846g で出生し,3歳時に言葉の遅れと体重増加を気にされ,月1回の療育施設利用を開始した.カウプ指数が19.2,成長曲線における体重の標準偏差(SD)値が+2.0SD以上であったことから小児肥満と運動発達遅滞と診断され,当院にて週1回40分の理学療法を開始した.介入期間は3歳9ヶ月より1年10ヶ月間であった.指示理解良好で,運動が大好きで活発に動いており,何にでも一生懸命取り組む性格であった.Thomas test・SLR testより,腸腰筋・ハムストリングスの短縮が認められ,立位姿勢は骨盤前傾位・腰椎過前彎が顕著であった.甘い物が嫌いであるが,白米が大好きで成人女性と同等以上に食べていた.おかずはあまり食べないとのことで,運動療法と共に食事指導を重点的に行った.

    【経過と結果】

    初回介入時に食事を出す順序の変更を提案したところ,おかずをきちんと食べるようになり,白米を食べる量は減少した. 理学療法は股関節周囲筋のストレッチと全身運動を促すレジスタンストレーニングとした.腸腰筋の短縮と筋出力の未熟さ(MMT3レベル)に加え,腹筋群の収縮が持続的に困難で,本人はおなかの力の入れ方がわからないと発言していた.骨盤の多様な動きを必要とするHip walkなどは困難で、運動時の骨盤前傾位・腰椎過前彎の姿勢修正は難しかった. 介入初期は3ヶ月で身長が2.4cm伸び,体重は0.8kg減少し,順調にウェイトコントロールができていたが,体調を崩すことが多く ,胃腸炎や新型コロナウイルスにより体重減少とその後増加を繰り返すようになり,介入後期ではカウプ指数が22.2と増加した.農林水産省が推奨する食事バランスガイドに基づき,1週間の食事内容をモニタリングしたが,偏食や過食の傾向はみられなかった.週6日以上運動を行っていたことから予測される活動代謝量は1761kcalであり運動量は充足していた.

    【考察】

    本症例は運動量の確保と食事療法の併用は出来ていたが,肥満改善には至らなかった.体調不良による体重増減頻度の影響もあるが,一番の要因は, 運動時の骨盤前傾位・腰椎過前彎が常態化し,骨盤周囲の動きが不足したことにより,運動時の筋使用に偏りが生じていたことであると.そのためハムストリングスの柔軟性低下,腸腰筋・腹部筋力の未熟さに繋がっていると考える. 小児では過度な食事制限はせず,必要量の栄養素を摂取し,身長の伸びに合わせた体重維持が重要視される.特に発達障害児・発達遅滞児では,食事や活動に偏りがあることが多く,将来的な肥満リスクが高くなっている.運動量の確保も重要だが,動作の質的な改善も必要となると考える.

    【倫理的配慮】

    本症例はヘルシンキ宣言に則り,発表を行うにあたり,個人情報保護への配慮,協力を断っても今後の診療や通院には一切の支障がないこと,対象者・その保護者に口頭と書面で説明し,承諾を得た.

家族・学校
  • 楠本 泰士, 髙橋 恵里, 浅尾 章彦, 遠藤 康裕, 小俣 純一, 横塚 美恵子, 矢吹 省司, 神先 秀人
    原稿種別: 家族・学校
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 100
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    小学生の約3 割が、ランドセルを背負って痛みを感じたことがあり、ランドセル症候群 (Backpack syndrome:BS)が懸念されている。BSとは、自身の身体に合わない重さや大きさのランドセルを背負ったまま長時間通学することによる身体と心の不調を意味する。2018年のセイバン社による2000組の調査では、 1週間のうち最も重い日の荷物の平均重量は4.7 kg、2022年のフットマーク社による1200組の調査では、ランドセルと荷物の平均の重量は4.28 kgと報告されている。BSの児童の心 身機能や荷物の有無による歩行、走行の特徴が明らかになれば、小学生への予防的関りが可能となる。 そこで本研究では、福島市内の小学生のBSの児童の足部機能と荷物の有無による歩行、走行の特徴を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    本研究は横断研究とし、福島市内の全小中学校の児童、生徒に募集チラシを配布し、対象者を募集した。75名が参加し、分析対象者は、データ欠損のある者、中学生、療育利用者を除外した51名の児童 (6~12歳)とした。通学時の肩腰痛、現在の肩腰痛の有無を調査し、対象を通学時と現在に肩腰痛の有る児をBSと定義し、その他を対照群とし、2群にて分析を行った。 測定項目は、フットプリントを用いて足幅、外反母趾角、座位と立位でのアーチ高率、足指筋力測定器 (竹井機器工業社製)を用いた足趾把持力、Gait up (Gait up SA社製)を用いて歩行・走行の速度、ストライド長、ケイデンス、踵接地角度、足底の離床角度とした。歩行・走行は、10m歩行テストと同様の設定で 16mの直線歩行路にて2回測定し、平均値を分析に用いた。歩行速度は快適速度、走行速度は最大速度とした。今回は、何も背負っていない歩行・走行と、セイバン社の調査を基に6kgの重さにしたランドセルを背負った歩行・走行の計4種類を測定した。 2群間の違いをt検定、カイ二乗検定、フィッシャーの正確確率検定、一般化線形混合モデル (GLMM)およびBonferroniの多重比較検定にて検討した。統計処理にはIBM SPSS Statistics Ver.27を使用し、有意水準を5%とした。

    【結果】

    BS群は15名 (29.4%)、対照群は36名 (70.6%)で、2群間で年齢や足部機能に差はなかった。GLMMの結果、歩行と走行の速度にて、ランドセルの有無に主効果があったが、走行時のみBSの有無とランドセルの有無に交互作用が確認された。歩行のストライド長は主効果と交互作用はなかったが、走行のストライド長ではランドセルの有無に主効果があり、交互作用が確認された。歩行と走行共に、踵接地角度、足底の離床角度は、ランドセルの有無に主効果があった。 BS有り群の走行ではランドセルの無し、有りの順に、平均速度は3.57、3.27 m/sec、平均ストライド長は2.15、1.93 m、BS無し群の平均速度は3.35、3.31 m/sec、平均ストライド長は 1.89、1.83 mだった。

    【考察】

    全対象におけるBSの割合は、先行研究に類似していたBSの2群間で、明らかな足部機能の差はなかったが、ランドセル有りの歩行走行で、立脚期のパラメータが変わること、ランドセル有りの走行では、BSの有無にて速度やストライド長は変化が異なることが示唆された。

    【倫理的配慮】

    本研究は福島県立医科大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。対象者には口頭と文書にて説明し、同意を得て実施した。本研究への協力を断っても、何ら支障のないことを書面にて伝えた。

  • 川野 晃裕
    原稿種別: 家族・学校
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 101
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに,目的】

    Family-Centered Care(以下FCC)は,小児リハビリテーションにおける最良の実践とされている.FCCは主に共有・尊重・協働の3側面が重要視され,その実践状況を評価するツールとして Measure of Processes of Care(以下MPOC)がある.MPOCは,家族が記載するMPOC-20とサービス提供者が記載する MPOC-SPがあり,両者間のケアに対する認識の比較が可能である.本邦におけるFCCの実践報告は,NICU等急性期は散見されるが,在宅医療における報告は見当たらない. そこで,今回MPOC-20・SPを用いて,当訪問看護ステーション (以下当事業所)におけるFCCの実践状況を分析することにした.

    【方法】

    MPOCは過去1年間のサービス提供状況から,各項目を1(全くあてはまらない)~7点(非常によくあてはまる),0点(該当なし)で回答する.MPOC-20の質問項目は「励ましと協力」「全般的な情報提供」「子どもに関する情報提供」「対等で包括的 な関わり」「尊重と支え」の5領域,MPOC-SPは「思いやり」 「全般的な情報提供」「子どもに関する情報提供」「敬意ある対応」の4領域に分類される. 当事業所の利用者家族にMPOC-20,当事業所スタッフに MPOC-SPの記載を依頼し,各項目・領域の平均点,標準偏差等を求めた.

    【結果】

    MPOC-20は149/151枚(回収率98%)を回収した.回答者は母親 (98%)が多く,利用者の年齢は0~21歳(平均7.44±4.02歳)であった.5領域の得点は「励ましと協力」6.13±1.16点,「全般的な情報提供」4.53±1.96点,「子どもに関する情報提供」 4.85±1.92点,「対応で包括的な関わり」6.19±1.15点,「 尊重と支え」6.07±1.30点であった. MPOC-SPは13/13枚(100%)を回収した.職種の内訳は看護師 5名,PT4名,OT2名,ST2名であった.臨床経験年数は5~23年(平均9.92±4.73年)で,小児分野の経験は1~18年(平均7.77 ±4.15年)であった.4領域の得点は,「思いやり」4.43±1.40点,「全般的な情報提供」3.57±1.56点,「子どもに関する情報提供」3.60±1.68点,「敬意ある対応」4.93±1.35点であった.

    【考察】

    MPOC-20では,先行研究と同様に「励ましと協力」「対等で包括的な関わり」「尊重と支え」の平均得点は6点台と高値であった.これらより当事業所は尊重・協働の側面は十分に実践できていると考えられた. 一方で,「全般的な情報提供」「子どもに関する情報提供」の 平均得点は3~4点台と低値で,先行研究と同様の結果であった.特に「全般的な情報提供」では他の親との接点のつくり方や地域サービスの情報提供が「十分ではない」と感じる家族が多く,ス タッフも不十分であると感じていた. MPOCを用いることは施設の強みや改善点を知ることに繋がる.今後当事業所ではより良い 「全般的な情報提供」の方法を多職種で検討していきたい.

    【倫理的配慮】

    対象者に口頭にて説明を行い,データ利用の同意を得た場合のみ記載を依頼した.評価用紙は無記名であり個人情報やプライバシー保護には十分に配慮した.また本研究はリニエR研究倫理委員会にて承認を得た (承認番号2060).

  • 仲村 佳奈子
    原稿種別: 家族・学校
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 102
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    長い歴史の中で医療従事者は障害という概念に大きな影響を与えてきている。多くの先行文献より、医療従事者が障害者を自己決定が困難なケアの受給者であると位置づけ、自律性を制限してきたことが指摘されている。これは、医療におけるパターナリズムや、障害の個人モデル等といった形で整理され、批判及び改善の対象ともなっている。さらに障害児を育てる保護者に医療従事者が与える影響も懸念され、共同意思決定の重要性が注目されつつある。本研究では、日本国内において医療従事者の言動や、障害児を育てる保護者にとってどのような影響を与えるか、探索的に検討する。

    【方法】

    本研究の対象は先天性疾患を有する児の母親5名とした。ライフコースに沿った半構造化面接を実施した。ライフコースは出生/診断/就学前/就学前後/現在の5つに分類し、それぞれの期間に分けて質問を行った。インタビュー内容につ いては文字起こし後、文脈に沿って意味を最小限の言葉で補い、コードとして抽出した。抽出されたコードは、意味的類似性に従って分類し、カテゴリー化を行った。また、当事者の視点を十分に研究に活かすため、インタビューは2セッション行われ、 2セッション目には1セッション目で得られた内容について参加者とインタビュアー間でディスカッションしながらフィードバックを受けた。

    【結果】

    母親の年代は全て40代、児の平均年齢は8歳であった。 5名中4名は、身体・知的障害を重複して有しており、特別支援学校に在籍している。また、3名は日常的に医療的ケアが必要 であった。ライフコースの中で、特に出生・診断の時期において多くの発言が見られた。同時期における医療従事者に対する印象はポジティブなものが大半であり、感謝の意が多く述べられた。一方で、医療・ケアにおける意思決定について、日常的に参加していると答えたのは1名のみであった。さらに、大半の 参加者は医療従事者を”先生”と呼び、医療従事者の発言を非常に重くとらえていると答えた。医療従事者の実施する治療内容に細かに質問をしたり、場合によっては意を唱えることには大半の参加者が抵抗感を示した一方、医療従事者と丁寧に質問・回答のプロセスを繰り返してきた母親は、自身の知識や決断に対し自信を持てるようになったと答えた

    【考察】

    本研究において、多くの母親は医療従事者に対しポジティブな印象を持ち、受けてきた医療についても満足度は高いことが伺えた。一方で、医療従事者と対等な関係を築き、意思決定を促されてきたかという問いに対しては否定的で、母親の主観的な満足度と共同意思決定が必ずしも関連しないことが示唆された。これは、医療従事者の方針や意見が、障害児の母親に与える影響力が大きいことを示している。適切な情報提供を行うことは大前提であるが、そのうえで障害者・家族の自律な意思決定を支援することも医療従事者にとって重要な役割である。本人・家族が治療に満足しているか、という1点のみで医療従事者が自身の治療の質の良し悪しを決定するのではなく、いかに意思決定を促せているかという視点でも自身を省みることが重要である。

    【倫理的配慮】

    本研究において、参加者は書面と口頭にて説明がなされ、書面にて同意を受けている。またUniversity of Leeds, School of Social Scienceの倫理委員会にて承認を受けているものである。

  • 年神 翼, 下畠 千恵, 小山 尚宏, 地原 千鶴
    原稿種別: 家族・学校
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 103
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    学校保健での健診は早期の運動器の健康に対する教育・指導や運動器疾患・障害の予防の発見の目的があり専門職の介入の必要性が言われている。また特別支援学校では障害の重度・重複化・多様化が進んでおり児童生徒の自立した社会参加には外部の専門家や関係機関との密接な連携を図った指導内容・方法が必要であるとされている。小児理学療法の終了目安は歩行獲得や就学が多い。当院でも就学を機に理学療法終了となることも多い。しかし、終了後に成長期を迎え脊柱側弯等運動器疾患が出現し理学療法を再開することも少なくない。そのため学校保健領域での予防的な介入の必要性を感じていた。2017年より当院リハビリテーション科医師が特別支援学校の校医となり医師より健診への帯同依頼があり介入に至った。今回2018年~ 2022年度の5年間の健診内容、理学療法士の取り組みや今後の課題について報告する。

    【方法】

    5年間で健診を受けた生徒のべ490名を対象とした。健診は年4回で1学期に3回 (小学部・中学部・高等部で1回ずつで全生徒を対象)、3学期に1回実施した。1学期は運動器健診の医師の補助 (関節可動域や姿勢・動作評価等)や評価結果に応じて生徒への運動指導を実施、運動指導はパンフレットを作成し事前に教員へ説明を行った。その際、運動器疾患等病院受診が推奨される生徒を医師とともに判断した。また3学期は健診後の状態確 認や困りごと等希望者に対しての健康相談であり生徒・保護者 ・教員の困り感への対応を行った。健診時は校医、養護教諭、担任教諭、理学療法士が参加し随時相談し意思決定を行った。

    【結果】

    5年間でのべ生徒490名中156名、全体の32%が病院受診促しとなった。受診促しの内容は脊柱側弯疑いが154名であった。受診促し者は小学部・中学部・高等部と学部間での著明な差はなかった。

    【考察】

    脊柱側弯等運動器疾患の疑いにより病院受診を促した生徒が全体の32%と多く認めた。運動器疾患の早期発見や障がいの状態や特性に合わせた運動・生活指導等を早期に行うことができ、予防や重症化予防に繋げることができたと考える。脊柱側弯症は一般的に小学部高学年から中学生時期に多いが、学部間での著明な差はなかった。健診結果として小学部で片脚立位保持困難等姿勢の保持の苦手さ、高等部では指床間距離検査で床に指が着かないことやしゃがみ込み困難等体の硬さを指摘する生徒が多くいた。そのため、生徒ごとでの個別的な運動指導や身長の伸び等成長に応じて対応するため定期的・継続的な介入の必要性を感じた。また今回の取り組みで教員との顔の見える関係性が作れ、学校での自発的な取り組みもみられた。内容として運動パンフレットを使用したクラス全体での運動実施や自立活動への応用、個別での運動内容をまとめた冊子を各家庭へ配布し継続的な運動の支援等が挙げられる。理学療法士の学校健診への介入により運動器の問題に対して早期から治療・予防ができる雰囲気作りの一助となったと考える。今後は地域の学校へ予防活動の紹介を行い地域全体 (普通学校や他特別支援学校)の活動となれるよう関係性作りを進める必要があると考える。

    【倫理的配慮】

    個人情報・プライバシーの保護に配慮し、発表に際して特別支援学校校長また施設長の承諾を得た。

  • 鞭馬 貴史, 今村 香奈, 谷口 直也, 指宿 立
    原稿種別: 家族・学校
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 104
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに,目的】

    当院では,約6年間,脊髄損傷児 (以下,SCI児)を治療している.新型コロナウイルスの国内感染防止策の緩和により,修学旅行 が企画された.修学旅行の効果は,ポジティブ感情, well-being等の精神状態を高めることが示されている (Uysal et al., 2016).理学療法士 (以下,PT)が帯同しSCI児が修学旅行へ参加した際の,日常生活活動 (以下,ADL)や,修学旅行前後の Well-beingの変化を調査した報告は少ない. 本研究の目的は,SCI児が修学旅行へ参加することによる, Well-beingの変化を調査し,PTが修学旅行に参加する意義を明らかにすることである.

    【方法および症例報告】

    本症例は,当院外来リハビリテーションに通う10歳代の女児である.幼児期に交通事故により第2胸椎脱臼骨折を受傷,SCIと診断された(Frankel分類:A, ASIA分類:A).修学旅行は,1泊2日でPT2名にて同行.複数回,小学校教員とミーティングを行い,導尿時間や班行動計画の情報を共有,身体機能に応じて修正した.身体評価として,Vital signs (血圧,脈拍,体温)を3時間毎の導尿時に評価した.さらに,Well-beingの評価として,The PERMA-profilerを修学旅行参加の1週間前後にて実施した.The PERMA-profilerとは,5つの領域から包括的に Well-beingを捉えることができる測度である(Butler J & Kern M, 2016).また,屋外ADLの状況をカメラで記録した.

    【結果および経過】

    Vital signs平均値は,収縮期血圧:102.8mmHg,拡張期血圧 61.8mmHg,脈拍:97.4bpm,体温:36.9℃で,修学旅行中に異常値は認めなかった.屋外ADLの課題として,導尿時間,急 勾配な坂・段差があげられた.The PERMA-profiler (Total score修学旅行前/後)は,ポジティブ感情 (15/12),関係性 (13/17),愛情心 (25/30),意味・意義 (0/4),達成 (20/16)で,ポジティブ感情および達成の下位尺度以外は点数が増加した.

    【考察】

    修学旅行でPTが,班行動を把握し介助を行い,友人と同様のアミューズメントを利用させることができた.屋外ADLでは,特 に導尿時間が課題であがった.女性胸髄損傷者は開脚での導尿が必要であり,トイレ内環境により時間を有した可能性がある.胸髄損傷レベルの屋外の自己導尿獲得は,デバイス使用および患者の個人特性により可否は分かれることを報告している (仙 石ら,2006;Kriz J et al., 2014).ゆえに,移動時間やトイレ環境に応じて間欠式バルーンカテーテル等を検討する必要がある.Well-beingは,修学旅行後で加点する傾向を示したが,ポジティブ感情,達成項目で減点する結果となった.達成は,修学旅行後で得点が高まり肯定的な反応が促されると報告されているが (Miyakaw E & Kawakudo A, 2019),パフォーマンスの期待が大きい程,否定的な反応となることが示唆されている (Scanlan et al., 2005).今回の修学旅行では,想定より介助が多く,自身の信頼感の損失,受動的な行動により,否定的な感情反応が促されたことが要因と考えられた. 本症例報告より,障がいのある児が修学旅行へ参加することで Well-beingを高める可能性が示唆された.またPTが参画することで,有意義な活動を提供できる可能性がある.

    【倫理的配慮】

    本研究は,明野中央病院倫理委員会の承認を得た.症例に本研究の目的,方法と参加する自由意志及び権利について,文書と口頭で説明を行ない書面にて同意を得た.

  • 大場 蕗子, 小篠 史郎
    原稿種別: 家族・学校
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 105
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    平成25年の学校教育法施行令の改正により、障害の状態や本人の教育的ニーズ等を踏まえ、総合的な観点か ら就学先決定を行うよう改められた。また、令和3年6月に「医療 的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」の成立に伴い、医療的ケア児及びその家族に対する支援に関し、国、地方公共団 体等の責務が明らかにされた。現在、小学校に入学する医療的ケア児が増加傾向にある。小児在宅医療支援センター (以下、当セ ンター)は医療的ケア児の入学支援等を行っており、今回、24時間気切下人工呼吸器を装着した小児の小学校入学支援を通し、地域の教育委員会 (以下、教育委員会)や学校と連携 した事例を報告する。

    【方法および症例報告】

    支援開始時、対象児は5歳。現病歴はミトコンドリア病で既往に低酸素脳症あり。医療的ケアは、人工呼吸器管理、吸引、排痰補助装置、胃ろう注入、導尿 (月1回程度)、てんかん発作時の坐薬挿入。身体機能は、重症心身障がい児であり随意運動は眼球運動可。自発呼吸はほぼ無し。 ADL全介助。

    【結果および経過】

    入学1年5カ月前、両親は教育委員会に小学校入学希望であることを伝達。支援者より相談があり、入学1年 2か月前に母と面談し当センターの支援開始。入学1年1カ月前 に教育委員会が自宅訪問し状況を把握、母より当センターが支援することを教育委員会へ伝達し了承を得た。入学11カ月前に教育委員会・保健師・当センターにて会議を実施。教育委員会内での協議の末、小学校入学決定。それに伴い、教育委員会 ・学校・保健師・当センターにて会議を行い、連携し準備を進めていくことになった。その後、看護師配置や必要物品・書類の確保、体制整備等の課題に対する準備のため、共に特別支援学校や他学校、他地域の教育委員会へ見学や情報収集に行き協議や、関係機関との会議を開催しながら入学準備を進めた。看護師は、対象児が通所している事業所からの派遣の1名と町の直接雇用の1名の計2名の配置となった。また、緊急時対応マニュアル作成や災害備蓄物品の確保などの体制整備を行った。入 学直前には学校看護師向け・全教員向けの実技研修会を開催し、学校全体で支援する体制を整えた。入学後、元気に登校し勉強 を頑張り、お友達や先生と交流を深めている。当センターは、学校訪問や質問への対応等にて支援・連携を継続している。

    【考察】

    入学準備を進める中で、様々な課題が次々に生じた。 しかし、その都度話し合い、共に先進事例である他学校や他地域の教育委員会から情報収集をすることで対応していった。共通認識を持ち、多職種の視点から情報を得るためには、同行することが大変重要と考える。今後は、地域の中に医療的な視点から助言を行える人材を育成していくことが課題である。また、様々な児童生徒の入学に備え、更なる体制整備が必要である。

    【倫理的配慮】

    本報告について、保護者へ説明し同意を得た。

  • 加藤 さくら, 仲村 佳奈子, 楠本 泰士
    原稿種別: 家族・学校
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 106
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    障害児の主たる養育者、特に母親のストレスレベルが高いことは多くの研究で報告されている。筆頭演者 (以下演者)は神経筋疾患をもつ児の母親であり、生活の中でも特に自宅での自主トレーニング (以下自主トレ)にストレスを感じていた。今回はデジタルアート・センサーを活用した「デジリハ 」の利用をきっかけに、自主トレにおけるエンターテインメントの重要性を認識するに至ったため、当事者の視点から考察を行う。

    【方法および症例報告】

    演者は次女 (13歳、福山型筋ジストロフィー)を養育する4人家族の母。次女は特別支援学校及び放課後等デイサービスに週5で通い、拘縮や変形予防のために訪問リハビリテーションや音楽療法 (各月2回)を受けつつ、幼少期より各施設の専門職より指導された手指や下肢のストレッチの自主トレを実施してきた。実施中の次女は「ヤダ」「痛い」等のネガティブな表出を示すことが多く、保護者である演者も非常にストレスであった (10段階で記録した自覚的ストレス度は 7̃8/10)。また、次女は疾患の特性上次女自身出来ないことが増えていることを自覚している様子で、様々な活動に対しイラつく様子が見られていた。

    【結果および経過】

    11歳時に自宅にて初めてデジリハを利用した際、普段と違い次女本人から「やりたい」という発言がよく聞かれた。表情にも 活気が見られ前向きな反応であった。拘縮のためセンサー操作が出来ない場面もあったが、手の角度や位置を試行錯誤しながら取り組む様子に、母である演者は「本人がやりたくないことを無理やり行わせる罪悪感」を抱かずに済んだと感じた。また、次女は普段様々な活動に対し消極的なことが多かったので、自身の身体機能と向き合って試行錯誤する姿に胸を打たれた。 それ以降、自主トレにおいて、次女本人が身体を動かしたくな るエンターテインメント性をもった絵具遊びや、ペンシルを活用したタブレット操作等の活動やアプローチを積極的に取り入れるようにした。結果、次女が自ら主体的に「やりたい」と活動に向き合ってくれるため、無理なく苦手な手指の動き等を引き出す機会を増やすことが出来た。また、「デジリハしやすくなるようにストレッチしようね」という形で説明すると、苦手なストレッチについても了承が得られ、嫌がらずに実施できた。これにより、保護者としての演者自身の養育ストレスも軽減が見られた (自覚的ストレス度2)。

    【考察】

    ペアレント・トレーニングの重要性は多く示されているが、次女のような重複障害をもつ児に対しての自主トレ方法についても、多様なアプローチが示されるべきと考える。ストレッチや筋力強化など機能に直接アプローチする方法も重要だが、間接的であっても本人が主体的に継続できるエンターテインメント性の高い活動を取り入れることが、家庭での継続においては最重要な要素の1つであろう。今回は、デジリハを導入したことをきっかけに保護者である著者の自覚的な療育ストレスの低下が見られたが、そのようなアプローチが自主トレにおける家族の療育ストレス解消や、親子間の信頼関係にまで影響を与える可能性がある。

    【倫理的配慮】

    本発表において、当事者間で同意を相互に得て、実施した。

発達障害
  • 伊東 祐恵
    原稿種別: 発達障害
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 107
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    運動発達遅滞児の理学療法において、粗大運動の獲得過程にシャフリングを行う児(以下、シャフリングベイビー)が存在する。シャフリングベイビーには、歩行獲得後に自閉スペクトラム症 (以下、ASD)の診断や感覚の問題を伴う場合があるとされる (Okaiら2021、伊東ら2020)。一方で、ダウン症候群(以下、 DS)のシャフリングベイビーにおいてもASD傾向を認められることが多いと報告されている(齋藤ら2016)。しかし、シャフリングベイビーとASDの関係について、基礎疾患の有無が粗大運動の獲得時期や行動特徴に影響を及ぼすかを比較した報告はない。本研究では、中枢性疾患や染色体異常など基礎疾患のない運動発達遅滞(以下、MD)児とDS児にそれぞれ着目し、ASDの有無による粗大運動の獲得時期と行動特徴の違いについて明らかとすることを目的とした。

    【方法】

    対象は、2016年8月までにA療育センターの小児科を受診し、 2004年4月2日から2014年4月1日に出生した10学年のシャフリングベイビーのうち、①MD児15名と②DS児25名とした。方法は、診療録より(1)粗大運動(定頸・寝返り・座らせ座位・ひとり座位・ずり這い・手膝這い・シャフリング・つかまり立 ち・伝い歩き・ひとり立ち・歩行)の獲得時期、(2)行動特徴、 (3)ASDの臨床診断の有無について後方視的に調査した。分析は、各群をASDの有無により分け、粗大運動の獲得時期を対応のな いt検定で比較した。SPSSversion20.0を用い、有意水準は5%未満とした。粗大運動の獲得時期は、在胎週数が37週未満は修正月齢を用いた。

    【結果】

    ①MD児15名のうち、ASD児が8名(53.3%)、非ASD児が7名 (46.7%)であった。対応のないt検定より、座らせ座位・つかまり立ち・伝い歩き・ひとり立ち・歩行において、非ASD児の獲得時期が有意に早かった。行動特徴は、MD群のASD児4名は 手足や身体の感覚過敏がみられ、2名は腹臥位を嫌がっていた。また、非ASD児の1名は足底過敏があり、靴を嫌がっていた。 一方で、②DS児25名のうち、ASD児が9名(36%)、非ASD児が 16名(64%)であった。対応のないt検定より、寝返り以外の粗大運動は有意差がみられなかった。行動特徴は、DS群のASD児 2名は手足の過敏がみられ、非ASD児の1名は足底接地を嫌がっていた。

    【考察】

    本研究のシャフリングベイビーにおいて両群ともASDを診断された割合は、ASDの有病率2.6%(Kimら2011)より高いことから先行研究と同様にシャフリングとASDの関連が示唆された。行動特徴は、両群とも手足など感覚過敏を伴う児が存在し、シャフリングの一要因であったことを考える。また、各粗大運動の獲得時期は、MD群は非ASD児の方が早く獲得しており、DS群は寝返り以外の獲得時期に差はみられなかった。これは、基礎疾患のないMD群は、粗大運動の獲得にこだわりなどASDの特性が影響を与えた可能性があるが、DS群は身体面に低緊張を伴いやすく精神面は頑固さを伴う児がいることから、ASD以外 に疾患由来の特徴が影響していたことを推測する。これらより、シャフリングはASDの早期兆候の一つとして考えられるが、染 色体異常など基礎疾患を伴う場合は疾患に由来した影響も関係していたことを推察する。

    【倫理的配慮】

    本研究は、横浜市リハビリテーション事業団研究倫理委員会に承認されている。個人情報とプライバシーの保障については、対象児 とその家族の情報が個人を特定されて明らかになることがないように調査を行った。また、得られた データはID番号で管理し、個人が特定できないように配慮した。 (承認番号:yrs0107)

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