小児理学療法学
Online ISSN : 2758-6456
2 巻, Supplement_1 号
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発達障害
  • 前重 壮寿, 植田 健稔, 下地 千織, 白井 若奈, 伊藤 詩奈, 伊藤 香織, 室下 明子, 森川 敦子, 飯田 忠行
    原稿種別: 発達障害
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 108
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    【はじめに、目的】

    日本では,発達障害と診断された者の数 (推計値)は481千人とされている1)。発達障害児において,運動をはじめとする課題の要求レベルや複雑性が増すと運動計画や協調運動に問題がみられ,学校で困難感や劣等感を感じ自己肯定感が低くなる。そして運動に関連して姿勢制御にも影響している。これらを予防する意味でも,発達障害の有無における姿勢不良,姿勢制御の差を明らかにし,姿勢不良を改善するリハビリテーションのアプローチが重要だと考える。そこで,本研究では,思春期児童の発達障害の有無における姿勢制御について,姿勢分類,理想的姿勢の入力 (イメージ,理解)・出力 (再現),身体測定値と静的・動的 (聴覚・ジャンプ動作)条件で測定した重心動揺解析値をもとに姿勢制御の特徴を明らかにした。

    【方法】

    対象は,児童発達支援事業所に通う発達障害 (以下,DD)児10名 (平均12.5±0.5歳)および 地域サッカークラブに所属する定型発達 (以下,TD)児37名 (平均13.5±0.5歳)とした。身体的特徴として,身長,体重,BMI,関節弛緩性,四肢周径,握力,膝伸展筋力を測定した。姿勢の入力と出力では,入力は画像から一番良い立位姿勢を選ばせ,出力は姿勢分析器 (高田ベッド)を用いた矢状面の立位姿勢を撮影し,比較した。静的・動的 (聴覚・ジャンプ動作)条件の比較では,重心動揺としてフォー スプレートSS-FP40AOを用いて,開眼 (楽な姿勢,良い姿勢),閉眼 (楽な姿勢),聴覚,ジャンプ動作の5条件で立位姿勢を30 秒間測定した。統計処理は,姿勢の入出力の比較はカイ二乗検 定,身体特徴の比較は一元配置分散分析,Kruskal-Wallis検定, Welch検定を用いた。重心動揺解析値の各条件での群間比較は Kruskal-Wallis検定,群内での各条件間の比較はFriedman検定 を用い,多重比較はBonferroni法を用いた。

    【結果】

    身体特徴において,DD児群で握力と膝伸展筋力がTD児群より有意に低かった。姿勢の入出力は,DD児とTD児群で有意差はなく,両群ともに約半数は再現において不良姿勢であった。開眼 (良),閉眼,聴覚,ジャンプ動作条件でDD児の重心動揺が有意に大きかった。 両群で開眼 (楽)より閉眼および聴覚条件で重心動揺が有意に大きく,DD児群のみ開眼 (良)条件での重心動揺が有意に大きかった。

    【考察】

    DD児において理想的姿勢に対する認識はあり,再現ができた。静的・動的立位保持における重心動揺はTD児より大きかった。 DD児の姿勢制御は感覚運動特性による影響があることが示さ れ,今後,学校環境等を考慮した個別支援の介入をおこなっていく必要があると考えられる。

    【引用文献】

    厚生労働省:平成28年生活のしづらさなどに関する調査結果の概要:P5,平成30年

    【倫理的配慮】

    本研究は県立広島大学の研究倫理委員会の承認 (承認番号:第19MH054号)を得たものであり,対象児・保護者には研究協力にあたって書面および口頭にて説明を行い,書面での同意を得て行ったものである。

  • 栗田 梨渚, 藤田 和樹, 菅野 智也, 川端 香, 小林 康孝, 平谷 美智夫
    原稿種別: 発達障害
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 109
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)は、社会性・対人関係の障害や反復的な行動を主症状とする発達障害であるが、その多くに運動の苦手さが併存する。ASD児の基本的な運動技能については、姿勢制御の低下や両側協調性の障害が報告されており、上下肢の協調的な活動が要求される縄跳びの苦手さも指摘されている。縄跳びは学校体育の教材として取り入れられているが、ASD児の縄跳び動作の苦手要素に着目した報告は少ない。本研究ではASD児と定型発達(Typical Development:TD)児の前跳び動作を解析し、ASD児の縄跳び動作の特性を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象は7~9歳のASD児(7歳2名、8歳1名)とTD児(7歳2名、9歳1名)それぞれ3名。Bruininks-Oseretsky Test of Motor proficiency Second Edition Short Formにおける標準スコアは、 ASD児35-62(3例の範囲)、TD児56-72であった。三次元動作解 析装置には、VICON-NEXUS(赤外線カメラ8台、VICON社製)と床反力計(AMTI社製)を用いた。赤外線反射マーカーの貼付位置はPlug-in Gait Full Body Modelに準じて計39箇所に貼付した。対象者は水着を着用し、室内空間にて視線を固定したうえで前跳びを連続20回以上実施した。測定したマーカー座標データは Woltring Filter(10Hz)に通し、床反力データはlow-pass Butterworth filter(25Hz)に通した。次に、開始と終わりの各5 回を除いた連続する5回(1周期:足先接地~足先接地)を解析区間として加算平均した。動作時の身体中心(CoM)の変動係数(CV)および下肢関節の可動範囲とCVを算出し、ASD児とTD児で比較した。

    【結果】

    CoMのCVについて、左右方向はASD児0.67-0.82、TD児 0.68-0.81、前後方向はASD児0.53-0.79、TD児0.45-1.21、垂 直方向はASD児0.04-0.20、TD児0.03-0.04であった。左股関節内外転のCVは、ASD児0.64-1.54、TD児0.31-1.23、右股関節はASD児0.42-1.92、TD児0.18-0.32であった。左膝関節屈伸の可動範囲はASD児27.7-78.1、TD児28.1-44.0、右膝関節はASD児52.8-66.9、TD児23.6-55.4であった。

    【考察】

    ASD児はTD児に比べて膝関節屈伸の可動範囲や股関節内外転 の変動が大きい傾向があった。ASD児は感覚入力の処理と調節が困難であり、同年代のTD児と比較して運動の感覚的側面に対する低反応や過反応を示す。そのため、ASD児は前跳び動作において下肢の動きが一定ではなく、膝関節屈曲角度を過剰に調節する可能性がある。その結果、縄を跳び越える際に膝が深屈曲すると考えられる。これは、ASD児における垂直方向CoMの変動の大きさにも関連している可能性がある。

    【倫理的配慮】

    本研究は、新田塚医療福祉センター倫理審査委員会の承認を得た(承認番号 新倫2022-30号)。ヘルシンキ宣言 に基づき、対象児とその保護者に対し、本研究の目的および方法、参加の撤回、フルライハリシー保護、成果の公表について、口頭 および書面にてインフォームドコンセントを得た。

  • 米山 優里花, 横山 美佐子, 瀧川 涼太, 神谷 俊介, 中井 昭夫
    原稿種別: 発達障害
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 110
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    【はじめに、目的】

    自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)の子供たちに、発達性協調運動症 (Developmental Coordination Disorder: DCD)と呼ばれる身体的 な不器用さ、協調運動の困難さが併存することが知られている。 DCDとは協調技能の獲得や遂行が年齢や学習の機会に比べて明 らかに劣っており、そのことが日常生活の活動に支障をきたしているという神経発達症のひとつである。国際推奨では、 Developmental Coordination Disorder Questionnaire(DCDQ)、 Movement Assessment Battery for Children-second Edition(M-ABC2)がエビデンスのあるDCDのアセスメントとされている。しかし、本邦ではDCDの認知度が未だ低く、その現状やASD児におけるDCDの併存状況、DCDQとM-ABC2の関連についても十分には検討されていない。本研究は、日本人ASD児におけるDCDの併存状況および、DCDQとM-ABC2の関連について明らかにすることを目的とする。

    【方法】

    対象は、本大学病院精神科に通う5歳から15歳のASD児22名。保護者に対しDCDQ日本語版を実施し、運動機能測定を希望した児に対してM-ABC2を行った。検討にはDCDQの総得点とM-ABC2の合計点および標準得点を用いた。Nakaiら (RIDD,2011)の日本人6,330名における年齢・男女別のDCDQ総得点の平均値と標準偏差から-2SD、M-ABC2の合計点の5パーセンタイル以下をDCD併存のカットオフ値とした。正規化さ れたDCDQの総得点のSD値とM-ABC2の合計点、標準得点との関連をPearsonの積立相関係数を用いて検討した。統計学的解析にはEZRを使用した。

    【結果】

    22名のASD児は、男児20名、年齢6-15歳、中央値11歳とほとんどが男児であり、その内11名でM-ABC2を実施した (男児11名,年齢6-13歳,中央値11歳)。ASD児におけるDCDの併存割合は、DCDQ総得点で-2SD以下の児が32%、M-ABC2で5パーセンタイル以下の児は55%であった。DCDQ総得点と M-ABC2の合計点および標準得点において、有意な相関はみられなかった(それぞれr=0.519,p=0.12.r=0.609,p=0.062)。

    【考察】

    本邦のものを含めた先行研究の結果と異なり、本研究ではASDにおけるDCDの併存状況は比較的低く、DCDQと M-ABC2の相関は見られなかった。症例数が少ないこと、 DCDQは保護者から見た日常での困難さを評価しており、個別検査であるM-ABC2の各課題に比べより高度で複雑な協調の項目を含んでいることなどが要因と思われる。今後、更に症例数を増やし、DCDQの下位項目とM-ABC2の下位検査との関連など含め、詳細に検討していく必要がある。

    【倫理的配慮】

    本大学医学部・病院倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:B21-139)

  • 山内 良祐, 牟禮 努, 小寺 晶子, 木村 あずさ, 大角 しずか, 池尻 生実, 伊藤 大輝, 村田 伸, 兒玉 隆之
    原稿種別: 発達障害
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 111
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    【はじめに、目的】

    精神運動発達遅滞児 (以下、児)に対するリハビリテーション においては、児のモチベーションを引き出すことが重要とされ、その向上には適切な声かけが必要であると報告されている。こ れまで、コミュニケーション時の脳活動領域として、ウェルニッケ野等を中心とした言語領域が報告されているが、一方で声かけを行う他者の違いにより脳神経活動領域に違いを認めることも報告されている(山内ら,2023)。さらに前頭極や帯状回等 を中心とした共感に関わる脳内ネットワークも関与する。そのため、言語発達が未熟な児では、対象者の違いでコミュニケーションを遂行する脳機能処理過程に差異が生じており、双方の理解や共感のための戦略を変化させることが必要となる可能性が考えられる。そこで本研究の目的は、コミュニケーションを図る対象者の違いにより、児の脳内ネットワークがどのように変化するのかについて検証し、リハビリテーションにおけるコミュニケーション能力の基盤形成を図る上で必要な心的要素を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象は、当院の通院患者のうち、精神運動発達遅滞の診断を受けている者7名 (男児4名、女児3名:平均年齢4.9±2.9歳)を対象とした。声かけの条件は、母 (母条件)もしくはセラピスト (PT条件)が児に声かけを行う二条件とした。声かけ内容は両条件とも、カウント、名前等の日頃のリハビリの際に用いる内容とした。評価は児が声かけに反応している際の脳波活動を計測した。計測は、ポリメイトMP6000 (ミユキ技研社製)を用いて国際10-20法に準じ頭皮上脳波(19部位)からサンプリング 1024Hzにて導出した。解析として、バンドパスおよび眼電位除去処理によりノイズ処理された脳波データに対して脳機能イメージングフィルターeLORETA解析を行った。本解析にてICA周波数分析を実施し、脳機能ネットワークを算出同定した。

    【結果】

    解析の結果、PT条件では、前頭葉におけるβ波減衰、後頭葉におけるθ波減衰、頭頂葉におけるα波減衰、β波増幅の同期的なネットワーク活動を認めた。一方、母条件では、前頭葉におけるθ波、α波及びβ波増幅、頭頂葉におけるα波増幅の活動を認めた。

    【考察】

    PT条件の結果から、児にとってのセラピストの声かけは、注意や集中を高めることを示す後頭葉θ波減衰および頭頂葉α波減衰と、注意や行動制御に関与する前頭葉β波減衰と頭頂葉β波増幅から「認知-行動制御」の協応的なネットワーク活動を高める可能性が示唆された。一方、母条件の結果は、児のリラックス状態を示す前頭葉α波活動増幅と、行動発現に向けた前頭葉β波活動増幅から「情動-実行機能」の協応的なネットワーク活動を高める可能性が示唆された。以上より、同言語内容による声かけにおいても、母親は児の情動や能動的な理学療法への取り組みをサポートする要素を持ち、セラピストは認知機能や運動能力を制御促進させるための要素を有する可能性が示唆された。声かけ時の脳内ネットワークを評価することは、児自身がコミュニケーションを通じて捉える他者への心的要素を捉えることを可能にし、効果的な理学療法への一助となる可能性を示唆した。

    【倫理的配慮】

    本研究は、京都橘大学研究倫理委員会 (承認番号:20-39)の承諾を得て実施した。対象者とその保護者には書面と口頭にて十分に説明を行い、同意を得て実施した。

発達障害―症例報告
  • 宇田 紗彩, 堂面 勝哉, 後藤 颯人, 橋本 咲子, 楠本 泰士
    原稿種別: 発達障害 ― 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 112
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    自閉スペクトラム症 (以下ASD)はコミュニケーションの困難やこだわり、常同行動が行動の特性として見られる神経発達症の1つである。ASDには運動の障害である発達性協調運動障害が頻繁に併存し、粗大、微細運動、姿勢制御の問題があると言われている。運動の障害は日常生活や学校での活動への参加に支障をきたすことが示唆され、支援の必要性があると考えられる。また、昨今では新型コロナウイルス感染症の影響もあり、オンライン等での遠隔の支援ニーズを聞く機会が増えている。今回、オンラインビデオ通話での運動への介入により、本児が目標にした「前転運動」の目標を達成する事例が得られたので報告する。

    【方法】

    対象はASD、軽度知的障害の診断がある10歳女児。親御様の主訴としては運動の不器用さや参加の難しさ、疲れやすさなどが挙がった。初回面談日 (X日)より8か月の間、月2回オンラインでの理学療法士が担当するレッスンに参加した。介入は母親とカナダ作業遂行測定 (以下COPM)を用いて設定した目標に沿って、オンラインかつ自宅内で取り組めるメニューの実施、ホームプログラムの提案を行った。

    【結果】

    X日に行った面談時に母親と共に「前転できるようになる」を目標として設定した。遂行度、満足度はそれぞれ1、2であった。介入初日は前転をするための準備姿勢を取ることも難しく、回転の際には頭頂部が床に接地し回転することが難しかった。介入時は動画を用いてメニューを提示し、重点的に行たいものはスロー再生や動画を細切れにした。その結果、X+4か月の介入後に行った面談では遂行度、満足度はそれぞれ7、8に向上した。しかし回転後の起き上がりが難しく、目標を継続し、回転を早くすることを意識した練習や上体起こしなど体幹の筋力トレーニングで継続的に介入を実施し、X+7か月に行った面談では遂行度、満足度はそれぞれ9、9に向上した。

    【考察】

    本症例ではオンラインビデオ通話での理学療法士の介 入により、前転運動のCOPMの向上が見られた。本症例は動作のイメージをすることの困難さから、メニュー動画の提示の工夫で、動作のイメージができ、COPMの向上に繋がったと考えられる。X+4か月以降は体幹の筋力トレーニングなどの介入を加え、起き上がりの際にタイミングよく体幹を収縮することができるようになった。また、毎回のレッスン前に週に複数回自宅練習をする様子があり、試行回数も確保することもできた。 ASD児は、集団での指示行動の困難さがあり、オンライン環境は、個別でサポートでき、動画やスロー再生などその児にあった方法で提示することができる。また、自宅のため周囲を気にせず、運動に参加しやすくなることもある。本症例においても、理学療法士が本児にあった運動のメニュー提供と提示の工夫により目標の運動への参加機会が増え、運動学習が進んだと考えられる。オンラインビデオ通話を用いた運動面への介入事例は少ないが、オンラインならではの提示の工夫や環境設定により、参加機会の増加や成功体験を積む機会の提供ができることが示唆される。

    【倫理的配慮】

    本報告は当社の規定に基づき、個人を特定できないよう配慮し、研究以外の目的で患者データを利用しないこととした。また、症例の家族に対して本報告の趣旨を伝え、ウェブ上のフォームにて同意を得た。

  • 堂面 勝哉, 後藤 颯人, 宇田 紗彩, 橋本 咲子, 楠本 泰士
    原稿種別: 発達障害 ― 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 113
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    令和4年の文部科学省の調査で、小・中学校の普通級に在籍する児童のうち8.8%が学習面又は行動面で著しい困難を抱えていることが示された。学習や行動面の障害のある児童の中には協調運動の課題が併存することが多いことも指摘されており、運動の困難さにより日常生活や学校での活動への参加に支障をきたすことから運動面の支援の必要性が示唆される。また、昨今は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、オンライン等での支援のニーズを聞く機会が増えてきている。今回、オンラインビデオ通話を使った運動への介入により、児童が設定した目標を達成する事例が得られたので報告する。

    【方法および症例報告】

    対象は普通級へ通学中の6歳女児。現在診断はついていないが親御様より「落ち着きがなく、習い事で座っていられない」「運動全般があまり得意ではない」「友達よりできなくて泣いてしまった」などが挙げられていた。初回面談日 (X日)より6か月の間、月2回オンラインで理学療法士が介入を行った。介入は母親とカナダ作業遂行測定 (以下COPM)を用いて設定した目標 に沿って、オンラインかつ自宅内で取り組めるメニューの実施、ホームプログラムの提案を行った。

    【結果および経過】

    X日に行った面談時に母親と「①縄跳びを10回」「②跳び箱を 3段」「③自転車を補助輪なし乗る」を目標として設定した。それぞれの遂行度、満足度は①が2、5、②が6、7、③が1、1で平均遂行度3.0、平均満足度4.3であった。縄跳びは一回のみで連続飛びが難しい、跳び箱は3段を大人のサポートがで跳べることもある、自転車はサドルを跨ぐことはできるがも漕ぐことが難しい状況であった。X+6か月の介入後に行った面談時にはそれぞれの遂行度、満足度は①9、9②10、10、③10、10で 平均遂行度9.7、平均満足度9.7に向上した。縄跳びは連続40回、跳び箱は4段、自転車は自立で漕ぐことができた。また、本児 より「高い段の跳び箱を飛びたい」「あや飛びをやりたい」などの次の目標を要望する様子も見られるようになった。

    【考察】

    本症例ではオンラインビデオ通話での理学療法士による運動の介入により、設定した目標のCOPMの向上が見られ、本児から次の目標を要望するなど運動に対して前向きになる様子が見られた。介入は縄跳びから開始された。縄跳びは上肢の回旋運動や跳躍、縄に合わせた協調運動が必要と言われている。本症例は初めにタオル等を用いた協調的な動作練習など縄跳びに必要な動作の要素を分解し、少しずつ成功体験を積むための介入を行った。その結果、苦手な運動への参加機会が増え、縄跳びの COPM向上に繋がったと考える。また、本児からの運動へ意欲的な発言や週3回以上のホームプログラム実施など習慣的に運動をする機会が増え、一つの目標の成功体験が運動に対しての意欲向上や習慣化したことで他のCOPMの向上に繋がったと考える。オンラインビデオ通話を用いた運動介入は、児童ごとにあった運動の機会を提供することで成功体験を積め、日常生活での運動機会を増やし、困難な運動の改善に繋がることが示唆される。

    【倫理的配慮】

    本報告は当社の規定に基づき、個人を特定できないよう配慮し、研究以外の目的で患者データを利用しないこととした。また、症例の家族に対して本報告の趣旨を伝え、ウェブ上のフォームにて同意を得た。

  • 佐藤 奏枝
    原稿種別: 発達障害 ― 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 114
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    【はじめに、目的】

    今回,放課後等デイサービスを利用している子どもの保護者から非利き手の不器用さに関しての相談を受ける機会があった.そこで,対象児の日常生活で非利き手の不器用さを感じる場面を明らかにし,体幹を使う活動と両手を使用する活動を取り入れることで,非利き手の不器用さの改善を図ることを目的とする研究を行ったため報告する.

    【方法】

    対象は週1回放課後等デイサービスを利用する,発達障害の診 断を持つ小学3年生の男児1名とそのご家族.方法は①介入前評価としてビーズ通しと片脚立位時間の測定を実施.介入プログラムとして週1回の個別療育の時間にトランポリンキャッチボールと両手連続円運動を実施.トランポリンキャッチボールは対象児に1分間トランポリンを跳んでもらいながら,キャッチボールを行った.両手連続円運動は左右の手に鉛筆を持ち,同時に円を外回り・内回りそれぞれ1分間書き続けてもらった.介入期間終了後に再度ビーズ通しと片脚立位時間の測定を実施. ②ご家族には対象児の利き手を確認するため,大久保らの日本語版FLANDERS利き手テストを記入していただいた.また,日常生活においてどの動作で非利き手が気になるかについて質問用紙を用いたアンケートに回答いただき,介入期間後も同様のアンケートを記入していただいた.

    【結果】

    介入前評価では片脚立位保持可能時間が左右ともに15秒未満,右片脚立位時間は10秒未満であった.ビーズ通しは左手でビ ーズを持って紐に通す際に,右手でビーズを持つ時より20秒以上時間がかかり,途中左右の手の役割が入れ替わる様子が見られた.介入前にご家族に記入いただいたアンケートより,日常生活の中で食事の場面,特に左右で異なる動きが必要な時に非利き手 の不器用さが気になるということがわかった.計4回の介入では,両手連続円運動では1回目と4回目を比較して左右ともに円を大 きく書くようになり,左手は1回目では円の形を書き続けることが難しかったものの,4回目では右手の動きにつられることも減り,円の形を書き続けることができるようになった.介入後評価では片脚立位が左右ともに15秒以上保持可能であった.ビーズ通しは左手でビーズを持った際の時間が20秒近く速くなった.しかし,介入後にご家族に記入いただいたアンケートより,非利き手の不器用さの改善を感じていただくことはできなかった.

    【考察】

    介入前評価の片脚立位時間が短いことからバランス能力の低さがあり,ビーズ通しの結果から非利き手の不器用さがうかがえた.両手連続円運動より両手間の協調運動が向上,トランポリンを用いた介入により体幹機能も向上したことで,非利き手の巧緻性の向上につながったと考えられる.今後は生活場面での実用性につなげるために左右交互の両手動作や左右の役割が異なる両手動作に関するアプローチとより日常生活場面を想定した介入も行っていきたい.

    【倫理的配慮】

    本研究に対して,対象児とそのご家族に口頭と紙面で説明を行い,同意を得た.また,株式会社リニエR倫理委員会の承認を得た. (承認番号:2036)

  • 石野 愛実, 羽鳥 航平, 横山 浩康
    原稿種別: 発達障害 ― 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 115
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
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    【はじめに】

    発達性協調運動障害(以下、DCD)児にみられる運動機能の緩慢さや不正確さ、不器用さは日常生活や学業成績に影響を与えるとされる。本症例は、対象児家族から「短縄跳び 」に関して相談があり、介入開始となった。相談から初診(X日 )までの期間で短縄跳びが獲得できていたが3ヶ月後には短縄跳びの技能低下が観察された。今回は、発達性協調運動障害を呈し、短縄跳びの技能低下を示した症例の経験を報告する。

    【症例報告】

    初診時、普通級へ就学中の7歳男児、自閉症・発達性協調運動障害。既往歴に川崎病・冠動脈瘤があり、4歳頃には運動制限があった。現在、理学療法・作業療法介入し、頻度は1回/週。協調運動障害評価目録とJapanese Sensory Inventory Revised(以下、JSI-R)使用して評価した。身体機能は、腹部低緊張で下肢の柔軟性が低く、両足関節背屈制限(右<左) があり内反足傾向。筋力は腹筋・背筋ともにMMT2~3。四つ這い位やバードドック等の姿勢保持は困難。上下肢の位置覚や手の巧緻性、運動企画、前庭覚を中心に低下がみられた。 JSI-Rの結果では前庭感覚はYellow、ほかの項目はGreenであった。

    【経過】

    X日の短縄跳びの観察では、縄回しは両肩関節軽度外転位(右>左)・肘関節は軽度屈曲が出現。縄回しの速度に左右差があり左上肢優位に動作する。跳躍は、両脚で踏切、前足部で着地して膝を屈曲させリズムをとっている。開始位置からのズレも少なく、連続試行回数は最大で8回。介入は、ストレッ チ、筋力増強運動、バランス練習を中心に評価と並行して実施。 X+3ヶ月の観察では、縄回しと跳躍の技能低下がみられた。 回数を重ねると縄回しの速度も徐々に加速し、連続動作が困難 となった。練習中、連続でできないことが嫌になり途中でやめてしまうことがあった。対象児自身は短縄跳びへの意欲は低く、短縄跳びの練習もX日以降、自宅や病院含めてあまり行えてい なかった。

    【考察】

    DCD児の運動スキル獲得には、定型発達児よりも時間を要することが報告されている。短縄跳びのような運動スキルの学習は、手続き記憶に分類され獲得した動作は失われにくいと考えられている。本症例は、DCD児の運動スキルの獲得の特性から短縄跳びの獲得には時間を要することが推測された。また、X日での段階では「短縄跳びの動作をなんとなく掴めた」という状態であったと推察する。運動スキルの習熟度は高くなく、身体の運動要素を調整でき始めた学習の初期状態で手続き記憶として保存されていなかったことが考えられる。加えて、短縄跳びへの意欲も低いため練習に対してモチベーションも保てていなかった可能性がある。今回の介入は、短縄跳び動作を獲得できていたと考えていたためフォローが不十分であった。さらに、対象児自身の短縄跳びへの意欲も低く、動作練習に対する動機付けも不十分であったと考える。今後の介入は、「縄回し」・「跳躍」それぞれの運動要素を段階的に練習し「短縄跳び」の反復練習により動作の再獲得を目標とする。

    【倫理的配慮】

    本報告は当院の規定に基づき、個人を特定できないよう配慮し、研究以外の目的で患者データを利用しないこととした。また、症例の家族に対して本報告の趣旨を伝え、書面にて同意を得た。

  • 多賀 咲帆, 遠藤 壮馬, 佐々木 弘之
    原稿種別: 発達障害 ― 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 116
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    転びやすさを主訴に理学療法を開始した協調運動障害の男児に対して、動的バランストレーニングに加えて眼球運動トレーニングを行ったところ、バランス能力が向上し転倒が減った症例を経験したため、経過とともに報告する。

    【方法および症例報告】

    症例は、地域小学校普通級に通学する6歳2ヶ月の小学1年生の男児である。「転びやすい」、「転んだときに手をつけない」という母の主訴から来院し、協調運動障害と診断され理学療法 (PT)を開始した。運動発達歴は定頸2か月、寝返り6か月、座位 8か月、四つ這い11か月、つかまり立ち1歳1か月、伝い歩き1歳2か月、独歩1歳4か月であった。理学療法開始時点での片脚立位保持時間は最大10秒であった。全体像として、PTで運動課題を行っている間でも他児やおもちゃに気を取られやすいことや、セラピストが母と話している間にじっと座っていることが困難な様子が見受けられた。父母から、「音読でどこを読んでいるのか分からなくなることがある」、「ショッピングセンターなどを歩いていると周りのものに気を取られて転ぶことが多い」ということが聞かれた。 期間は約6か月間、1回40分、2週間に1回の頻度でPT介入を全 12回行った。介入5回目までは動的バランストレーニング(一本橋、はしごまたぎなど)を行っていたが、転びやすさに変化は聞かれなかった。介入6回目に眼球運動評価を行ったところ、輻輳の困難さと頭部と眼球を独立して動かせない様子や、注視や追視自体は可能だが、途中で目線が別の方向へ向いてしまう様子がみられた。そこで、7回目に眼球運動トレーニングを指導し、ホームプログラムとして家で行ってもらい、トレーニングを行った日をカレンダーに記録してもらった。行ってもらった内容は、眼球を1:左右に動かす、2:斜めに動かす、3:上下に動かす、4:円をえがく、5:寄り目にする、の5項目とした。7回目以降のPTは、40分のうち眼球運動トレーニングを 10~15分行い、残りの時間で動的バランストレーニングを行った。

    【結果および経過】

    片脚立位保持時時間は、介入7回目10秒、8回目10秒、9回目 31秒、10回目22秒、11回目20秒、12回目(最終)40秒に向上した。眼球運動では、輻輳の困難さに変化はなかったが、上下左 右の方向に頭部と独立して眼球を動かせるようになった。また、眼球運動課題中に、目線が別の方向に向くことが減り、注視や 追視の持続時間が延びた。母からは「転ぶことが減った」との話が聞かれた。

    【考察】

    今回、症例に眼球運動トレーニングを追加して介入を行ったことで、頭部と眼球の分離運動が可能となり、眼球運動の制御の能力も向上した。頭部と独立して眼球を動かせるようになったことで、眼球を動かしても頭部の位置が安定し、バランス能力が向上したことが考えられる。また、眼球運動は注意機能を評価する指標として用いられている。眼球運動の制御能力が向上したことで、注意機能が向上し転倒の回避に注意を向けることができるようになったことが考えられる。眼球運動トレーニングと動的バランストレーニングの併用はバランス能力の向上と転倒の軽減につながる可能性があることが示唆された。

    【倫理的配慮】

    対象児と対象児の保護者に症例報告の趣旨・個人情報保護について十分に説明し同意を得た。

  • 東 周平
    原稿種別: 発達障害 ― 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 117
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    乳幼児への早期介入において家族の関与や目標指向,子ども自身が能動的に学習するための課題設定,最小限の徒手介入は重要な要素と考えられている.今回,発達の遅れに対し自発性を重視した介入を実施し独歩獲得に至った一症例について報告する.

    【方法および症例報告】

    症例は運動発達の遅れと強いかんしゃくを主訴に1歳時に当センターを紹介され理学療法外来 (外来)が開始された.運動発達歴は頚定4ヵ月,座位6ヵ月,寝返り7ヵ月,腹這い11ヵ月であった.1歳時の遠城寺式乳幼児分析的発達検査 (遠城寺)は移動運動7ヵ月,手の運動8ヵ月,社会性10ヵ月,Alberta Infant Motor Scale (AIMS)は総スコア38であった.初回の外来では母の膝に座り人と場所を警戒する様子がみられ,セラピストが近 づくと啼泣した.そこで,児から離れて母と遊ぶ様子を見守り,児が母の膝から下り腹這いで玩具に向かって移動した後に声掛 けすると,児が手に取った玩具の受け渡しを繰り返すことができた.また,問診より,腹這いを獲得するまで自ら動いて物に触れることがなく移動が非常に少なかったとの情報を得た.これらのことから,児にとって安心できる環境の中で,自発的に移動する動機付けを行うことが重要だと考えた.家庭での関わりとして,腹這いで大人の脚を乗り越え四つ這いを促すこと,四つ這い位の視線の高さに玩具を置き上方への注意を促しつかまり立ちへと誘導することを伝えた.外来頻度は月1回とした.

    【結果および経過】

    その後3回の外来では外来時間の半分で啼泣し児の発達を観察することが困難であったため,外来頻度を週1回へ変更した.すると,次の外来から警戒する表情はみられるも啼泣せず,問 診上の家庭での様子と同じ運動や遊びがみられるようになった.理学療法介入は,身体への徒手介入は転倒のリスク管理に留め,玩具の受け渡しや,操作が成功した際の称賛の声掛けなど,遊びを介したコミュニケーションを重視した.玩具は発達段階と児の嗜好を考慮して選択し,自発的な移動につながる玩具の配置を考え環境を設定した.そして,つかまり立ちから床に座ることが可能な台の高さや,つかまり立ちで数分間遊んだ後に玩具の位置を移動させると伝い歩きの頻度が増加することなど,設定の工夫により児は移動能力を発揮することを母に示し家庭での実践を依頼した.また,玩具棚から関心のある物を選択したり,室内を自由に移動して部屋中を探索したり,児が自身で行動を決定する機 会を設けた.母からは家庭での実践と児の行動変化の報告を受け,積極的に関わる様子を確認した. 児は1歳7ヵ月で独歩を獲得した.この時の遠城寺は運動と社会性が1歳2ヵ月,AIMSは総スコア57であった.母からは昔とは性格が変わったように積極的に移動するようになったという回答を得た.

    【考察】

    今回の介入では外来頻度の変更が大きな転機となった.外来では,児が安心できる場を提供し,能力を発揮し得る環境設定を行うことが重要であり,それは家庭における家族の関与の向上に寄与するものと考える.

    【倫理的配慮】

    症例の家族へ本報告の趣旨と内容,個人情報の取り扱いを説明し,同意を得た.

脳性麻痺
  • 仲村 真哉, 木元 稔, 川野辺 有紀, 三澤 晶子, 坂本 仁
    原稿種別: 脳性麻痺
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 118
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    脳性麻痺 (cerebral palsy ; CP) 児は同年齢の典型発達 (typically developing;TD)児よりも筋量が減少しているとされ る。筋量の減少は筋力に加え、粗大運動能力とも関連するため、重要な評価指標の一つである。 筋量の計測には、得られた値に体格が影響することを考慮する必要がある。特にCP児は同年齢のTD児と体格が異なるため、筋量の値の解釈に注意を要する。筋量計測に使用される生体電気インピーダンス法は、骨格筋指数 (skeletal muscle mass index;SMI)と細胞外水分比 (extracellular water / total body water;ECW/TBW)を計測でき、これらは体格差の影響を軽減して筋量の指標となるとされている。粗大運動能力が低いCP児はTD児よりも、さらにCP児内でも粗大運動能力が低い症例で は、SMIが低く、ECW/TBWが高くなる可能性がある。しかし、 CP児とTD児のSMI、ECW/TBWの比較検証は未だなされていな い。 本研究の目的は、CP児の筋量と体格に関連があるか、また体格の影響が小さい筋量の指標であるSMIとECW/TBWはCP児の筋量が減少していることを示すかを明らかにすることとした。

    【方法】

    被験者は35名 (CP児19名、TD児16名)とし、粗大運動能力で3つのサブグループに分け、軽度CP群 (粗大運動能力分類システム (gross motor function classification system ; GMFCS)level I-II)、重度CP群 (GMFCS Ievel III-V)、TD群とした。InBody S10を使用し、体格指数 (body mass index;BMI)、筋量、SMI、 ECW/TBWを求めた。統計解析は、CP児の体格と筋量の相関関 係を分析するためにPearsonの積率相関係数を算出した。3つのサブグループの比較を実施するために、多重比較法 (Bonferroni法)を用いた。有意水準は5%とした。

    【結果】

    CP児のBMIと筋量に有意な相関関係が存在した (r= 0.72、 p< 0.001)。 SMIは、軽度CP群 (4.8 kg/m2)と重度CP群 (3.2 kg/m2)はTD児 (6.1 kg/m2)よりも有意に減少した (軽度CP;p= 0.030、重度 CP;p< 0.001)。さらに重度CP群は軽度CP群よりも有意に減少した (p= 0.009)。 ECW/TBWは、軽度CP群 (38.6%)と重度CP群 (39.9%)はTD児 (38.0%)よりも有意に増加した (軽度CP;p= 0.042、重度CP;p < 0.001)。加えて重度CP群は軽度CP群よりも有意に増加した (p < 0.001)。

    【考察】

    本研究においてCP児はBMIと筋量に有意な正の相関関係があった。これは体格が異なる個人間では筋量を単純に比較することが難しいことを示す。 一方、CP児のSMIは健常児よりも有意に低値であり、逆に ECW/TBWは有意に高値であった。さらに粗大運動能力で比較 すると、重度CP児は軽度CP児よりもSMIが有意に低値であり、 ECW/TBWは有意に高値を示した。SMIとECW/TBWは体格の 影響を受けにくくSMIが低値、ECW/TBWが高値を示すと筋量の減少が生じているとされている。そのため、CP児はTD児よりも筋量が減少し、CP児内においても粗大運動能力が低いほど筋量が減少している可能性が示唆された。 本研究の知見は、CP児とTD児の筋量を比較する際に単純な筋量のみを比較するのではなく、SMIやECW/TBW等の指標も比較する必要性を示すものである。これら指標を改善する方法は今後の検討が必要である。

    【倫理的配慮】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき、所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した (承認番号:2023-3)。研究開始前に対象者とその保護者に口頭及び文書で研究の説明を行い、文書で同意を得た上で実施した。

  • 城井 麻美子, 松田 雅弘
    原稿種別: 脳性麻痺
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 119
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    痙直型脳性麻痺児(CP児)を対象とした研究では歩行に関する文献は数多くみられるが、座位から立位動作(STS:sit to stand)に関する研究は多くない。しかし、STSは移乗動作などで日常生活の多くの場面で必要な重要な動作である。したがって、 STSの自立の有無、介助量の程度は介護者の負担を大きく変える要素の一つとなる。本研究は、現在までに研究されてきたCP児の STSの運動学的特性と、今後の研究課題を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    PubMedを論文データベースとして用い、「cerebral palsy」 and「stand」and「sit」の検索式にて検索を行った。得られた 結果から、検索結果の重複があるものを除外した。「動作の分類(patternizing)」、「運動学的特性(kinematics and kinetics)」について述べているものを抽出し、研究の目的に直接的に関係しない文献を除外した。抽出した文献の記述内容のみを客観的に把握するため精読した内容を検討した。

    【結果】

    方法に記載した検索式で文献検索を行った結果、121件が該当した。その中からSTS動作について述べている文献は43件であった。得られた文献を分類すると、運動の特徴、装具やテーピングを用いた文献、椅子の高さなどの環境設定の文献、理学療法やトレーニングの介入を行っている文献、バランスや姿勢制御に関する文献、STS動作の能力からの予後予測に関する文献に分類できた。方法に記述した方法にて分析対象として得られた文献は、運動の特徴について述べている文献7件のうち5件であった。そのなかで今回の研究目的と合致するのが、STSの動作のパターン化を行っている文献が1件あり、同一著者による先行研究も精読した。該当の文献と先行研究の2つの共通点としては、STSの動作を座位から離床と離床から立位の2段階に分けていること、観察された動作からCP児のSTS動作の特徴を分類していることであった。CP児のSTS動作の特徴として、体幹を前傾するグループと前傾しないグループの2つに分類していた。また、STS動作時の運動学的特徴について述べている文献が4件該当し、多くの文献で、定型発達児(TD児)と比較して STS動作の遂行時間の延長、CP児のSTS動作中の股関節屈曲増大、最大骨盤角度の増大、膝伸展モーメントの減少、動作遂行時間の延長が挙げられた。

    【考察】

    CP児のSTS動作の特徴として、股関節屈曲や体幹前傾などが挙げられることから、これらで動作の代償を行っていると考えられる。また、代償動作によって動作の効率低下が考えられるため、動作時間の延長の要因の一つと考える。さらに、両麻痺CP児の特徴として膝関節の急な伸展が挙げられていたことから、動作時の筋活動をさらに研究する必要がある。 CP児のSTS動作に関する研究は少なく、分野が多岐に渡っていた。さらに、CP児の運動学的特徴は歩行に関して多いものの、 STS動作そのものについての文献は、あまり見られなかった。 また、文献ではCP児のSTS動作のTD児との違いについて先行文献をもとに推測していたが、筋電図などを使用していないため、運動学的特徴に加えて筋活動も明らかにすることで、今後のリハビリテーションの知見になり得ると考える。

    【倫理的配慮】

    人を対象とした研究ではないため倫理的配慮が生じないが、著作権、盗用、剽窃などの倫理問題 (出版・公表に関する倫理)は生じるため、その点に関して配慮して文献をまとめた。

  • 杉本 路斗, 堀本 佳誉, 大須田 祐亮, 佐藤 一成
    原稿種別: 脳性麻痺
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 120
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    子ども・家族と共同で目標設定を行い、どのような活動を中心に介入すべきかを決定する介入は、様々な名称が用いられているが、その共通点は、子どもと親が協力して機能的な目標を設定すること、子どもが機能的な目標に内在する運動の問題を積極的に解決すること、目標とする課題を実際の生活環境の中で繰り返し構造的に練習することであり、Goal Directed Training (GDT)とまとめられている。本研究では、本邦での GDTに関する認知度を検証するためアンケート調査を実施した。

    【方法】

    本研究は「本邦における脳性麻痺児に対するリハビリテーションの実践に関するアンケート調査」の一部である。研究対象は 小児関連施設に所属する、理学療法士 (PT)、作業療法士 (OT)、言語聴覚士 (ST)とした。調査内容は、複数のシステマティック レビューおよび文献検索により抽出したGDTに関する介入法で ある、goal-directed therapy、task-oriented therapy、 functional therapy、family-centered functional therapy、 child-focused therapy、context-focused therapy、Cognitive Oriented to daily Occupational Performance (CO-OP)を対象として、これらの介入について「よく知っている」を5点、 「全く知らない」を1点として点数表記することとした。フリードマン検定を用いて7つの介入の認知度を比較した。また、クラスカルウォリス検定を用いて各介入に対するPT、OT、ST間の認知度を比較した。

    【結果】

    研究に同意を得られたのは23施設、167名のセラピスト (PT 83名、OT 51名、ST 33名)であり、回答率は49.6%であった。認知度は、goal-directed therapyは全セラピストの中央値は1点 (四分位範囲1点-2点)、task-oriented therapy は1点 (1点-2点)、 functional therapyは2点 (1点-3点)、family-centered functional therapy は1点 (1点-3点)、child-focused therapyは 1点 (1点-2点)、context-focused therapyは1点 (1点-1点)、 CO-OP は2点 (1点-3点)であった。フリードマン検定の結果 p<0.05であったが、事後検定の結果、各介入間の認知度の差は認められなかった。クラスカルウォリス検定の結果、全ての介入法でp<0.05であったが、事後検定の結果、各セラピスト間の認知度の差は認められなかった。

    【考察】

    子どもと親が協力して機能的な目標を設定する介入であるGDTについて、Novakらは、GRADE システムによる推奨度の高さを報告している。GDTが実施されない理由の一つとして、系統立てた知識の伝達が行われていないことが挙げられている。本邦でも、GDTに関する介入の認知度は低いものであった。しかし、有意ではないものの、functional therapy、CO-OPの認知度の中央値は2点「少し知っている。名前のみ知っている。」であった。この2つの介入については、その内容に関して翻訳された書籍が出版されており、認知度に影響を与えていると考えられた。今後、GDTが本邦で実施されるために、系統立てた知識の伝達が必要であると考えた。

    【倫理的配慮】

    本研究は、千葉県立保健医療大学倫理委員会の 承認を受け実施した。リハビリテーション部門責任者宛に本研究に関する資料を送付し研究協力に同意が得られた場合は、オンラインにて同意をした旨と、施設情報 (各療法士数)に関する 回答を無記名で頂いた。同意を得られた施設のセラピスト全員に、同様の資料を回覧して頂き、各個人に同意の得られた場合、無記名でのオンラインベースのアンケート調査に協力をして頂いた。

  • 石田 優樹, 楠本 泰士, 木村 優希, 儀間 裕貴
    原稿種別: 脳性麻痺
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 121
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    脳性麻痺 (以下、CP)患者の日常生活動作 (以下、ADL)が制限される一因として姿勢障がいやアライメント不良がある。しかし、臨床で簡易的に姿勢を評価できる尺度が無く、姿勢とADLの関 係について着目した報告は少ない。姿勢の評価尺度には Posture and Postural Ability Scale (PPAS)があり、本学会にて日本語版PPASの信頼性や妥当性を報告予定である。PPASは背臥位、腹臥位、座位、立位の各姿勢にて、姿勢能力 (どのような運動が可能か)と姿勢の質 (前額面と矢状面の静的アライメントなど)を観察する。ADLの評価尺度にはPediatric Evaluation of Disability Inventory (PEDI)があり、脳性麻痺患者のADL評価として、多くの研究で信頼性や妥当性、反応性が報告されている。今回、PPASとPEDIを用いて姿勢能力や静的アライメントとADLの関係の特徴を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象は東京と神奈川の小児関連の2施設に通院しているCP患者 37名 (26.4±15.8歳、GMFCSレベルⅠ:5名、Ⅱ:10名、Ⅲ: 7名、Ⅳ:9名、Ⅴ:6名、痙直型両側性麻痺:31名、痙直型片側性麻痺:1名、アテトーゼ型:1名、失調型:2名、混合型: 1名)とした。PPASは姿勢能力をレベル1~7 (レベル1が最低、レベル7が最高)で採点し、姿勢の質は前額面および矢状面から頭部・体幹・骨盤・下肢のアライメントや体重分布など計6項目を「対称・中間位 (1点)」または「非対称・正中からの逸脱 (0点)」で評価し、合計はそれぞれ最高6点となる。PEDIは移動とセルフケアの項目とし、各項目の機能的スキルと介助者による援助尺度の尺度化スコアを算出した。PPASとPEDIの各項目の関係性をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。

    【結果】

    PPASとPEDIの相関係数の結果をPPASの姿勢能力、姿勢の質 (前額面)、姿勢の質 (矢状面)の順に示す。移動の機能的スキルは、背臥位は0.74、0.66、0.58、腹臥位は0.74、0.67、0.62、座位は0.86、0,71、0.74、立位は0.82、0.73、0.69であった。移動 の介助者による援助尺度は、背臥位は0.75、0.54、0.52、腹臥位は0.75、0.52、0.56、座位は0.79、0.62、0.68、立位は0.70、 0.60、0.61であった。セルフケアの機能的スキルは、背臥位は 0.76、0.55、0.51、腹臥位は0.76、0.55、0.61、座位は0.73、 0.59、0.64、立位は0.70、0.59、0.57であった。セルフケアの介 助者による援助尺度は、背臥位は0.73、0.48、 0.45、腹臥位は 0.73、0.48、0.55、座位は0.69、0.55、0.61、立位は0.62、0.56、 0.53であった。

    【考察】

    今回、PPASとPEDIのスコアはいずれも中程度以上の相関関係を認めた。PEDIとの相関係数はいずれの姿勢においても、姿勢能力が姿勢の質 (前額面)、姿勢の質 (矢状面)よりも高い傾向にあった。静的アライメントなどを評価する姿勢の質よりも、姿勢能力がADLと強い関連をもつ可能性が示唆された。

    【倫理的配慮】

    本研究は東京都立大学荒川キャンパス研究倫理委員会 (承認番号:22037)の承認後、対象者と代諾者には口頭と書面を用いて研究の概要を十分に説明し、同意を得た上で実施した。本研究への協力を断っても、今後の診療や通院には何ら支障のないこと、一度同意した後でも同意を撤回できる旨を口頭と書面にて伝えた。

  • 井上 孝仁, 和泉 裕斗, 樋室 伸顕, 西部 寿人, 井上 和広, 藤坂 広幸, 大西 浩文
    原稿種別: 脳性麻痺
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 122
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    脳性麻痺 (Cerebral palsy: CP)児の介助のしやすさは介助者の身体的・心理的健康に影響を与えるため重要な問題である。介助のしやすさは子どもが日常生活活動を安全に送れるように手助けすることの難しさを表しており、多くの因子が相互に関連している。先行研究では介助のしやすさは介護負担に影響を及ぼす下位概念であると示されている。したがって、介助のしやすさは介護負担よりもCP児と家族の生活に密接に関連しており、理学療法による直接的な介入の対象となる。しかし、介助のしやすさと介護負担の概念はしばしば混同されて考えられてきた。そのため介助のしやすさにどのような因子が関連しているのかは整理されていない。そこで本研究では、 CP児の介助のしやすさに関連する因子を明らかにするためのシステマティックレビューを行った。

    【方法】

    検索データベースはPubMed, CINAHL, MEDLINE, Web of Science, Cochrane Libraryとした。レビューは Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses (PRISMA)のガイドラインに従って行われた。また、レビューのプロトコルはPROSPEROに登録した (CRD42022359355)。取り込み基準は、原著論文、査読付き雑誌に全文掲載された論文であること、CP児またはその親や主な介助者を対象としていること、介助しやすさを測定していること、観察研究であることとした。除外基準は、ケースレポートやシステマティックレビュー、または介助のしやすさが測定されていないものとした。各論文における介助のしやすさの関連因子を抽出し、内容の類似した因子ごとにカテゴリー化を実施した (子どもの因子、介助者・家族の因子、外的・社会経済的因子)。

    【結果】

    33,096論文が検索され、重複した論文、原著論文で ないものを削除した。一次スクリーニングでタイトルと抄録からスクリーニングし85の論文が残り、二次スクリーニングで全文をレビューした結果31の論文が採用され、33種類の因子が特定された。子どもの因子として、粗大運動機能、上肢機能、 コミュニケーション機能、体幹機能、呼吸筋力、両手動作機能、年齢、体重、知的障害、体脂肪、機能的自立度、微細運動、健 康関連QOL、疼痛、バランス能力、感覚処理、股関節脱臼、視覚障害、麻痺の分布、子どもの数が特定された。介助者・家族の因 子として、年齢、遊びや余暇活動に参加するための介助者の援助、日常生活におけるタスクの量、BMI、痛み、抑うつ、 健康関連 QOL、身体的健康、心理的健康、不安、時間的プレッシャー、介 助に関連する身体的動作、学歴が特定された。外的 ・社会経済的因子は特定されなかった。

    【考察】

    本研究は全ての言語で書かれた研究論文を対象としていないという限界はあるが、介助のしやすさに関連する因子が明らかになった。CP児の介護負担に関連する因子を検討した先行研究と比較すると、介助のしやすさには子どもの身体機能に関連する因子がより多く関連していることが明らかになった。また、介助のしやすさと外的・社会経済的因子との関連を検討した報告は少なく、今後明らかにしていく必要がある。

    【倫理的配慮】

    該当せず。

  • 大須田 祐亮, 堀本 佳誉, 杉本 路斗, 佐藤 一成
    原稿種別: 脳性麻痺
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 123
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    子どもとその家族が重要と考える日常活動に参加できる動作戦略を考案するという考え方に基づいたリハビリテーションでは、療法士は子どもと家族と共同で目標を設定することが重要となる。しかし、臨床現場では目標設定の過程が一貫した方法で実施されていないことが指摘されている。そこで、本研究では脳性麻痺児に対するリハビリテーションの目標設定に関する調査を行い、実態を明らかにすることを目的とする。

    【方法】

    小児関連施設に所属する理学療法士 (PT)、作業療法士 (OT)、言語聴覚士 (ST)を対象にアンケート調査を行った。聴 取内容は目標設定に関する教育経験、目標設定を行う際に使用している法則、統一された方法とマニュアルの有無、目標設定を行う際の評価尺度、目標設定に関する知識と実施に関する自信、目標設定に関与する人物、目標設定の共有とした。結果は単純集計およびクロス集計により分析を行った。抄録には文字数の関係上、単純集計の結果のみ記載した。

    【結果】

    研究参加に同意が得られたのは23施設、167名の療法士 (PT 83名、OT 51名、ST 33名)であり、回答率は49.6%であった。養成校や卒後教育、職場での目標設定に関する教育経験があるとの回答は71%であった。使用している法則はSMARTが最も多く14%であった。病院内・施設内で統一された目標設定の方法とマニュアルやルールの有無に関してあると回答したのは共に8%であった。使用している評価尺度はGMFM 42%、 PEDI 16%、COPM 15%、GAS 7%であった。知識と実施に関する自信がないと答えたものはそれぞれ34%、28%であった。目標設定に関与する人物については母、本人、父の順で多く、それぞれ84%、75%、68%であった。また目標設定については同職場セラピストとの間で84%、医師や看護・介護職員との間 で89%が定期的または不定期であるが共有していると回答した。

    【考察】

    子どもと家族が目標設定に関与していると回答した割合が高く、子どもと家族と共同で目標を設定していることが推測された。目標設定に関する養成校や卒後教育などでの教育経験の割合も高く、認識度も高いと考えられた。目標設定の過程が一貫した方法で実施されていない点は、先行研究と同様の結果であった。Novakらは子どもと親が協力して機能的な目標を設定する介入をGoal Directed Training (GDT)とし、推奨度の高さを報告している。GDTを実施する際の目標設定はSMARTに従うこと、GASを用いて評価してCOPMで本人と家族も満足度を調査することが推奨されている。これらの法則・評価を使用していると答えた割合も低かったことから、GDTを適切に実施していくためにも、卒前・卒後教育の中で、これらの法則・評価を一般的なものにしていく必要があると考えた。

    【倫理的配慮】

    本研究は、千葉県立保健医療大学倫理委員会の 承認を受け実施した (2022-04)。リハビリテーション部門責任者宛に本研究の説明文書を送付し、研究協力に同意する場合は、 Webにて同意をした旨と、施設情報 (各療法士数)を無記名で回答頂いた。同意が得られた施設のPT、OT、ST全員に説明文書 を回覧頂き、同意の得られた療法士には無記名でのWebベースのアンケートに回答して頂いた。

  • 堀本 佳誉, 杉本 路斗, 大須田 祐亮, 佐藤 一成
    原稿種別: 脳性麻痺
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 124
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    脳性麻痺 (CP)児に対するリハビリテーションでは、子どもの動作を正常にする (normalize)という考え方と、子どもとその家族が重要と考える日常活動に参加できるような動作戦略を考案する (optimize)という考え方がある。本研究では、本邦で実施されているリハビリテーションの介入方法の考え方、実際に行われている介入を明らかにするためにアンケート調査を行った。

    【方法】

    本研究は「本邦におけるCP児に対するリハビリテーションの実践に関するアンケート調査」の一部である。研究対象は小児関連施設に所属する、理学療法士 (PT)、作業療法士 (OT)、言語聴覚士 (ST)を対象とした。調査内容は、先行研究と 同様に、小学生の脳性麻痺児に対して運動発達を促すリハビリテーションを実施するに際に最も重要視している発達理論、介入に対する考え方、代償性運動戦略に対する考え方、介入方法、介入方法と期待される結果の関係性であった。アンケートの調査結果は単純集計およびクロス集計により分析を行った。抄録には、文字数の関係上、単純集計の結果のみ記載した。

    【結果】

    研究に同意を得られたのは23施設、167名のセラピス ト (PT 83名、OT 51名、ST 33名)であり、回答率は49.6%であった。重要視している発達理論については「特になし」が67%、介入に対する考え方では「持っている能力を最大限に利用する 」が77%で最も多かった。代償動作については「典型的運動パターンの代わりとして代償性運動戦略を認める」が52%で最も多かった。介入方法については、「身体の機能や構造のトレー ニング」が31%で最も多く、介入方法と期待される結果の関係性では「身体機能・構造の構成要素に介入し、身体機能・構造の構成要素の改善を図る」、「身体の機能・構造の要素に介入し、活動の構成要素の改善を図る」は多く行われる傾向があり、 「参加の構成要素への介入し、参加の構成要素の改善を図る」はあまり行われない傾向が認められた。

    【考察】

    本邦では、代償運動を認め、持っている能力を最大限に発揮するためのリハビリテーションが実践されていることが推測された。GRADE システムにより、推奨度の高さが報告されているGoal Directed Training (GDT)においても、代償運動を認め、optimizeという考え方を重要視している。介入方法と期待される結果の関係性では、本邦では運動学習の転移を期待する傾向が認められたが、GDTでは転移は起こりにくいと考えられている。身体機能・構造の構成要素に介入の多さと参加の 構成要素への直接的な介入の少なさは他国の報告と同様であり、 参加の構成要素への直接的な介入は今後の課題であると考えた。

    【倫理的配慮】

    本研究は、千葉県立保健医療大学倫理委員会の承認を受け実施した (2022-04)。リハビリテーション部門責任者宛に本研究に関する資料を送付し、研究協力に同意してもらえた場合は、オンラインにて同意をした旨と、施設情報 (各療法士数)に関する回答を無記名で頂いた。同意を得られた施設のセラピスト全員に、同様の資料を回覧して頂き、各個人に同意の得られた場合、無記名でのオンラインベースのアンケート調査に協力をして頂いた。

  • 浅野 大喜, 武田 真樹, 阿部 広和, 儀間 裕貴, 信迫 悟志
    原稿種別: 脳性麻痺
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 125
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    脳性麻痺 (以下,CP)を呈する子どもは,運動障害に加えて行動やメンタルヘルスの問題を示す.過去の我々の予備研究において,CPでは抑うつ傾向が高く,なかでも日々の活動や楽しみの低下が要因であることが示されている(Asano et al., 2020).また最近の研究 (Cribb et al., 2023)では,スポーツへの参加や身体活動の頻度がCP児の抑うつを減少させる可能性が報告されている.本研究の目的は,脳性麻痺を呈する子どもの抑うつ傾向について定型発達児と比較し,問題行動との関連について調査することである.

    【方法】

    対象は,6~18歳の脳性麻痺児51名 (以下,CP群,平均年齢 12.5±3.9歳,GMFCSレベルI:20名, II:11名, III:8名, IV: 12名)と定型発達児36名 (以下,TD群,平均年齢12.3±3.4歳) であった.評価は,対象児本人にバールソン児童用抑うつ尺度 (以下,DSRS),対象児の母親に子どもの強さと困難さアンケート (以下,SDQ)の回答を求めた.DSRSは,“活動性および楽しみの減衰”と“抑うつ気分”の下位尺度で構成され,総合点は抑うつの程度を表す.SDQは,“行為の問題”,“多動・不注意”,“情緒の問題”,“仲間関係の問題”,“向社会 性”の下位尺度があり,総合点は行動の総合的な困難さを表す.データは,DSRSとSDQの各尺度得点を算出し,SDQの結果は カットオフ値をもとに高低の2群に分類された.データ分析は,まずSRS,SDQの得点について2群で比較し,CP群のDSRSと SDQ得点間の相関分析を行った.その後,全対象児のDSRSの 二次元についてクラスター分析を実施し,DSRS得点が高いグループにおけるCPの割合とSDQの各下位尺度の高低の割合について χ2検定を用いて比較した.さらに年齢と性別を調整変数とし,クラスターを目的変数,CPの存在,SDQの下位尺度を説明変数としたロジスティック回帰分析を実施し,抑うつ傾向と関連する因子を検討した.統計学的有意水準は5%とした.

    【結果】

    DSRSの群間比較では,“活動性および楽しみの減衰”,総合点においてTD群と比較してCP群のほうが有意に高い得点であった.またSDQの群間比較では,“行為の問題”,“多動・不注意”,“情緒の問題”,“仲間関係の問題”で有意にCP群の得点が高かった.これらの結果は,予備研究の結果と一致していた.CP群のDSRSとGMFCS,SDQの各項目の間に有意な相関関係はなかった.クラスター分析の結果,DSRSの2つの下位尺度得点がいずれも高いグループと低いグループの2グループに分けられたため,高いグループに属する各属性の割合を分析した結果,CPの存在 (p<0.01),“行為の問題” (p<0.01),“仲間関係の問題” (p<0.01)の割合が有意に高か った.多変量ロジスティック回帰分析の結果,CPの存在 (OR 2.96, p<0.05), “行為”の問題 (OR 7.04, p<0.05)が有意な関連因子として抽 出された.

    【考察】

    CP児は抑うつのレベルが高い傾向があり,普段の活動に対する楽しみの減衰が関連していた.また抑うつ傾向の高さには,CPの存在だけでなく行為の問題が関連していることが明らかとなった.

    【倫理的配慮】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき行われた.本研究の目的・方法・結果の公表について,対象児と保護者に口頭及び書面にて十分な説明を行い,保護者の同意書への署名により同意を得た. なお,本研究はデータ収集を行った3施設の倫理委員会の承認を得て実施された.

脳性麻痺―症例報告
  • 小川 智美, 大矢 祥平, 川原 佑亮, 田邉 良
    原稿種別: 脳性麻痺 ― 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 126
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    海外では脳性麻痺片麻痺児の上肢を対象とした運動学習に基づく目標指向型集中トレーニングHand Arm Bimanual Intensive Therapy(以下HABIT)の介入報告があり、高いエビデンスも報告されている。またHABITに姿勢制御と下肢体幹活動を含めた HABIT Including Lower Extremity (以下HABIT-ILE)の介入では、集団かつキャンプ形式で実施した場合、通常の理学療法より下 肢体幹機能の向上を認めるという報告があるが本邦での報告は 少ない。今回当センターに複数で入園してHABIT-ILEを実施し、機能改善や自身の身体の気づきに繋がった2症例を経験したの で報告する。

    【方法および症例報告】

    症例1は脳性麻痺痙直型右片麻痺を呈する12歳男児 (GMFCSⅠ MACSⅡ)。介入前後にBox and Block Test (以下BBT)、簡易上肢機能検査(以下STEF)、GMFM-66、ABILOKO-Kidsを評価した。目標はカナダ作業遂行測定(以下COPM)を用いて聴取し、袖のボタンを留められる、靴下・靴の時に右手を使って履く等挙げられた。 症例2は海綿状血管腫術後左不全麻痺を呈する12歳男児。介入前後にFugl Meyer Assessment (以下FMA)、BBT、STEF、片脚立位時間を評価した。目標はCOPMを用いて聴取し、Proコントローラーの操作が上手になる、お椀によそうことが上手になる等挙げられた。 介入前評価後、同期間同部屋で入園しHABIT-ILEを実施した。入園期間は11日、PTOT介入は1時間ずつ9日間、PTでは麻痺側を積極的に使用する全身運動を行った。また毎日2~3時間の自主トレはCOPMに合わせた課題指向練習で10個程用意し必要な道具を自室管理とした。課題は本人が選び、実施した課題内容等を、トランスファーパッケージを用いて本人たちに記録させ、PT時間内に行った内容の振り返りを行った。介入後評価は退園1週間以内に行った。

    【結果および経過】

    両者のPTOTと自主トレの合計時間は43時間だった。症例1は BBTが28から37、STEFが58から71となった。GMFM-66は歩行項目で76から78.3、COPMは遂行スコアが4.7から8.6、満足スコアが5.4から8.7となった。症例2はBBTが27から31、 STEFが49から52、FMAの下肢は35から37となった。片脚立位は右が46秒から1分以上へ、左が10秒から12秒、COPMは遂行スコアが2.1から8.8、満足スコアが2.4から9.1となった。 PTでは、2人がやりたい運動を本人たちの機能に合わせて難易度を調整し、達成感を得られる活動を心がけた。PT終了時は常に「楽しかった」という発言があった。麻痺側上肢のADL上の使用の記録では、開始時は2.3個の記録が、3日目以降は10個以上記録されており、ADL内で麻痺側上肢の参加の気づきが増加していた。

    【考察】

    症例1はGMFM-66の歩行項目で改善が見られ、症例2は片脚立位時間が延長した。これらはキャンプ型HABTI-ILEは下肢体幹機能向上するという海外の報告(Yannick2015)と一致している。また、学齢期の児たちが目標を決め、一緒に自主トレやPTに取り組むことで切磋琢磨し、時には内観することで自己の気づきを促すことも出来たと考える。思春期を迎える学齢期児に対する入園でのHABIT-ILEは、身体機能だけでなく、情緒面にも好影響があると考えられる。

    【倫理的配慮】

    症例報告について当センター倫理委員会の承認を得た (承認番号:医療5-7)。またヘルシンキ宣言に基づき倫 理的配慮等について本人、ご家族に説明し書面にて同意を得た。

  • 大嶋 志穂, 榎勢 道彦
    原稿種別: 脳性麻痺 ― 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 127
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    頭部サスペンションシステム (Head Suspension System、以下 HSS)とは、頭部の重さを前頭部、後頭部、下顎をベルトで受け、頭頂部からワイヤーで吊って免荷する器具である。 今回、重度の運動障害により頭部コントロールが困難なGMFCSレベル5の重度脳性まひ児8名に対して、HSSを用いた理学療法を1年間実施した前後の変化と日常場面への機能の汎化について考察を加えて報告する。

    【方法】

    対象は、頭部の空間保持が困難なGMFCSレベル5の脳性まひ児 8名 (男6名、女2名)。平均10歳0か月 (7歳0か月~17歳6か月)。評価にはThe Head Control Scale(以下、HCS)を用いた。HCSは 0点から4点の5段階に点数化された尺度であり、今回は Supported Sittingの項目を用いて、介助座位時の①HSS非使用時と②HSS使用時、③理学療法場面で1年間使用した後の HSS非使用時、④1年後のHSS使用時の4回測定し評価結果を比較した。内3名 (事例A、B、C)については、頭部コントロール 機能が向上し、日常場面にHSSを導入した事例として報告する。

    【結果】

    対象児8名のHCSの点数は①HSS非使用時が平均1.12点であり、 ②使用時は平均3.37点であった。③1年後の非使用時の結果は平均1.62点で、8名の内3名が1年前と比較し点数に向上を認めた。④1年後の使用時の点数は平均3.62点で8名の内2名が1年前と比較し向上を認めた。事例Aは、低緊張により抗重力姿勢において随意運動が困難であり、嚥下障害による気道クリアランス不良を認めた。1年後の評価でHCSはHSS非使用時が0点から2点となり頭部保持機能の向上を認めた。現在はHSS付きの座位保持装置と立位保持具を学校へ導入し授業内で使用している。事例Bは、低緊張性と頭部運動時の過剰な筋緊張の亢進 により非対称姿勢の増加と頭部コントロールの困難さを認めた。 1年後の評価で頭部運動時の筋緊張の亢進が軽減し、HSS使用 時に頭部運動範囲の拡大を認めた。HCSがHSS使用時に2点から3点、非使用時に1点から2点へと向上し頭部保持機能の向上を認めた。現在自宅でHSS付きの座位保持装置を使用している。事例Cは、低緊張と四肢の痙性により食事場面での頭部コントロールと口腔機能、上肢活動の困難さを認めた。1年前と比較し HCSではHSS非使用時が2点から3点へと向上し、食事介助場面でHSSを使用することで食物の取り込みと口唇閉鎖、スプーン操作において代償動作が減少し、本人の動作が行いやすくなった。

    【考察】

    今回の結果から、重度脳性まひ児において頭部の重さを免荷し頭頸部の運動を保障することにおいてHSSの使用は有用であることが確認できた。理学療法場面でのHSSの使用により、非使用時においても頭部コントロールの改善がみられた事例はあったが、日常的に「動くこと」に環境支援が必要な重度脳性まひ児においては、HSSを日常場面で使用し、頭部コントロールを発揮する機会を保障し、さまざま活動を促進することがより重要であると考える。

    【倫理的配慮】

    本研究はヘルシンキ宣言を尊守し使用した個人情報や画像等は当法人の倫理委員会の承認を得ており、対象者と保護者に説明の上同意を得ている。

  • 杉本 恵, 村澤 穂南, 岩佐 一彦
    原稿種別: 脳性麻痺 ― 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 128
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    小児リハビリテーションにはICFの考え方が求められるが、外来リハビリにおいて日常生活動作 (ADL)の状況は、保護者からの聞き取りが多く実際の生活の流れの中で指導や練習は行えて いない。今回学童期の脳性麻痺児の単独リハビリ入所を経験し、 ADL向上とGMFMの変化が認められ、それが児の自信と、家族の児に対する接し方の変化に繋がったため報告する。

    【方法および症例報告】

    症例はGMFCSレベルⅢ、MACSレベルⅢ、EDACSレベルⅡ、 CFCSレベルⅠのPVLによる痙直型両側性脳性麻痺児の7歳男児。肢体不自由特別支援学級に所属する小学2年生。両親と兄弟と の5人暮らし。他施設にて4歳1か月で両股関節周囲筋 (腸腰筋、内転筋、大腿直筋)の解離術、内側ハムストリングス延長術、 両腓腹筋にボツリヌス療法施行。術後10週間の親子リハビリ入院と5歳後半で10週間の単独リハビリ入院を同施設にて経験。移動能力はFMSでC/1/1。今回7週間の単独リハビリ入所前に、 COPMを用いて母親と本人、OT、PT間で話し合い、食事、更衣、トイレの移乗動作及びAFO装用下での日常的なセブンクラッチ (SC)歩行を生活支援として取り組むこととし、GASにて 詳細に目標設定を行った。入所前後にてGMFM、WeeFIM、 ROMtest、MMT、MAS、10m歩行テスト、SC歩行距離の評価を行った。

    【結果及び経過】

    児は入所中、平日は隣接する特別支援学校に通った。PTは週5日2~6単位/日、OTは週2日2~3単位/日実施。PT/OTでは、主に目標のADLを環境設定と動作指導をした上で生活の流れの中で繰り返し実践した。その内容は病棟生活と学校生活に可能な範囲で取り入れられた。介助は最小限、見守りや適宜口頭指 示のみ。週末は自宅に外泊し、成果を家族に確認してもらった。 3週間後、母親からは「箸を使って食べるようになった」等の 感想があり、児からも前向きな発言が増えた。退所時評価では GMFMの点数は四つ這いと膝立ち領域で3点、立位領域で10点、歩行領域で4点上がった。WeeFIMは食事、更衣 (下)、トイレ動作、移乗動作の項目で計7点上がり合計98点となった。 ROMtestは肩関節の屈曲150°/140°→180°/170°に改善。 MMTは股関節屈曲、膝関節伸展で2→3と向上。MASは股関節外転と膝関節伸展2/2、足関節背屈3/2以外は0/0となった。 10 m歩行は歩数57歩→34歩、所要時間1分52秒→30秒。SC歩行は日常的に20m→120m安定して可能。COPMは遂行・満足スコアとも4.75→7。GASのT値は更衣動作、移乗動作、歩行の項目で50,重みづけが大きい食事動作で54.8。

    【考察】

    ICFの考えのもとリハビリ単独入所の目的を、児の環境因子としての保護者が本児のADLに対して獲得を希望し、かつ本児が活動・参加で自主性を発揮できるものとした。家庭生活の流れでは取り組み難いが、適切な環境と指導の下、繰り返し実践す る場を7週間提供することで、比較的短期間でADLが向上した。目的動作を通して本児は自身の体の動きや姿勢の取り方に意識を向け、繰り返すことで学習した。結果姿勢コントロールが向上したことで過緊張が軽減しROMや筋力、GMFM及び歩行能力の向上につながったと考える。それは児の自信につながり、保護者の過介助を見直すきっかけとなった。

    【倫理的配慮】

    本研究は、岐阜県立希望が丘こども医療福祉センターの倫理審査委員会にて承認を得た。また、対象者と保護者には口頭と書面にて説明を行い、書面にて同意を得た。

  • 千葉 彩加, 小川 智美, 大矢 祥平, 工藤 大弥, 鶴岡 弘章
    原稿種別: 脳性麻痺 ― 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 129
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    立位・歩行の可能な脳性麻痺を有する児は10歳頃に運動機能向上がプラトーになり、成長期の身長や体重増加で立位・歩行能力は低下し、痙縮や筋力不均衡により側弯や股関節脱臼などの二次障害につながるとされる。これに伴い、ADL機能低下が生じ、集中的なリハビリや手術などを行い、機能改善を図る例は多くある。しかし、成長期に伴う二次障害が生じる前に、外来リハビリを通して、運動機能改善を図った具体的な報告は少ない。今回成長期による運動機能低下を伴ったCP児に対し、 6F-wordsの考え方を組み込み、目標設定の共有と日常生活に沿った活動提案に注目した外来リハビリを行い、運動機能・ADL改善を認めたため報告する。

    【方法および症例報告】

    症例は脳室周囲白質軟化症と診断された痙直型両麻痺を呈する 11歳男児 (GMFCSⅢ、MACSⅠ、CFCSⅠ)。特別支援学校で学習指導要領に準じた教育を受けている。2歳より当院にてPT、ボツリヌス療法を開始した。現在も月1回のPT・OTを他病院と併用し同じ頻度で実施している。体格変化として、X年9月から X+1年9月にかけて、身長が10cm、体重4kg増加し、身長 144cm、体重40kgとなった。また、X+1年9月のGMFM66-IS (item3)は、56.6、PEDIの尺度化スコアは機能的セルフケア 70.8、移動 58.2、社会的機能 73.4、介護者による援助 セルフケア 76.7、移動 78.3、社会的機能 100.0、FMS 5m C、50m 2点、500m 1点だった。母からは成長期に伴い、姿勢の崩れ、体力・歩行能力低下を感じ、本人も困りごとはないが、足がつるとの発言があった。本人のやりたいこと、セラピスト視点か ら必要なことを考慮し、姿勢の崩れ予防、活動・歩行量の維持、アクティビティへの挑戦を目標共有した。自宅で筋力トレーニングを最初提案したが、継続できなかったため、6F-wordsの身体 (Fitness)ではなく、日常生活機能 (Functioning)の視点から 立位での家事の手伝い、ペットとの遊び等を提案した。

    【結果および経過】

    X +2年には身長がさらに3cm、体重2kg増加した。一方、 GMFM66 63.3、PEDIの機能的セルフケア 73.6、社会的機能 73.4と向上が認められた。介護者による援助やFMSに変化はなかった。しかし母からは手引き歩行時の介助量軽減、立位で階段を上る機会が増え、本人からはペットと遊ぶことや立位の機会が増えたと発言があった。

    【考察】

    脳性麻痺児・者においては活動量増加により身体機能向上が認められた報告 (Damianoら、2006)がある。本症例では、生活面における行動変容の提案を促すことや、月1回の外来リハビリ頻度でも本人・家族と目標設定を行い、環境変化に合わせた活動の提案をすることが身体活動量を増加させたことで運動およびADL機能改善につながったと考える。

    【倫理的配慮】

    本研究は、当院倫理委員会の承認を得て行い、本人に紙面および口頭での同意を得た (承認番号:医療5-15)。

  • 前多 千春, 舟橋 吉美, 堀田 昌志, 藪中 良彦
    原稿種別: 脳性麻痺 ― 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 130
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    Cognitive Orientation to Occupational Performance (以下、 CO-OP)は作業療法分野で発達性協調運動障害児を対象に開発されたクライアント中心の問題解決型アプローチである。今回その CO-OPを参考に、子どもがやりたいと思う活動を明確化し子ども主体に問題解決を行うことで子ども参加型の理学療法を実施することができ成果が得られたので報告する。

    【方法および症例】

    症例は介入時7 歳5 ヶ月の脳性麻痺痙直型両麻痺の男児 (GMFCSレベルⅡ、MACSレベルⅡ)。通常学級に在籍する知的な遅れのない小学2年生。介入期間は20XX年6月~8月の2ヶ月間。週1回、40分で実施。 評価指標にはカナダ作業遂行測定 (以下、COPM)とGoal Attainment Scale (以下、GAS)を用いた。最初にCOPMを用いて達成目標と「重要度、遂行度、満足度」を確認し、GASにて達成目標の段階付けを行った。児が達成したい目標は「1人でチーズケーキをつくりたい」であった。その中で児と話し合って「一連の作業を立位で疲れずに成し遂げる」「フードプロセッサーから焼き型へ一人で移し替える」の2項目が短期目標になった。

    【結果および経過】

    本児と考えた作戦「休憩するタイミングをみつけていこう」 「何度もつくってみよう」「足台をしっかりしたものに変えよう 」を実践した。その結果「一連の作業を立位で疲れずに成し遂げる」 (遂行度6→1、満足度5→0)、「フードプロセッサーから焼き型へ一人で移し替える」 (遂行度5→6、満足度1→2)に変化した。目標としていたケーキは自分でつくることができるようになった。また、立位バランスへ注意が向きやすくなり、児自ら休憩をとることや道具の工夫なども考えていけるようになった。加えて、介入結果に対する母親の満足度は高かった。

    【考察】

    今回疲労に関する遂行度、満足度が介入前に比べ低下した。この結果は、介入の進行とともに全ての工程を初めて一人でやり遂げる中で作業の大変さや疲れを感じたことが原因と考える。しかし、実際の生活に近づけた支援を取り入れたことで、生き生きと通ってくる姿や「こんな風にやってみよう」と自分で考えていくことが増えたと実感している。 今回の経験を通して、①PT室内と実際の生活場面の姿が違うのでは?②本人が「やりたい」こととPTの目標は違っている?ということを考えさせられた。今後子どもたちの生活上の困り感や児のやれるようになりたいことを大切に支援していきたい。今回の「ケーキ作り」という活動は、一見OTが取り組む課題でありPTの課題としてはあまり考えられてこなかった課題であるが、その中にPTとして促したい運動の要素を含めることが十分にできた。また、運動パターンの改善を主眼に置いたアプローチよりも、活動の成功を目指した介入の方が細かい成功を見つけて褒めることができ、子どものモチベーション及び子どもの問題解決能力向上の援助を行うことができた。CO-OPを参 考にしたアプローチは、簡単ではないがPTにおいても非常に有用であると考える。

    【倫理的配慮】

    今回の発表にあたって、児および保護者に発表の内容を丁寧に説明後、書面を用いて同意を得た。

  • 渡邊 多佳子, 柘植 孝浩
    原稿種別: 脳性麻痺 ― 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 131
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    脳性まひの痙縮に対する治療の1つにボツリヌス療法があるが、ボツリヌス療法を有効とする報告もあれば、効果がないとする 報告もあり、その効果は明らかになっていない。今回、患者、患者家族と理学療法の過程でShared Decision Making (以下 SDM)を行い、ボツリヌス療法導入に至り、主観的改善が得ら れた一例を経験したため、報告する。

    【症例報告】

    脳性まひ痙直型両麻痺の12才男児 (GMFCSレベルⅢ)、周産期の異常はなく出生した。理学療法は2歳3ヶ月より開始した。現在、特別支援学校 (肢体不自由部門)通学中であり、金属支柱付き短下肢装具とロフストランドクラッチを使用し、近位監視で歩行が可能で、長距離移動は車椅子を併用している。 本人の希望として「杖で転ばないように歩きたい、歩ける距離を伸ばしたい」という思いが聞かれた。母からは「足が固くて装具が履きにくく朝の支度に時間がかかり、本人がイライラしている」という話しが聞かれていた。これらの原因の一つとして痙縮の影響があると考え、痙縮の治療として下腿三頭筋へのボツリヌス療法を検討した。治療内容を伝える際にはSDMを意識し、本人、母にボツリヌス療法の情報共有を行った。その際にメリットとデメリットを説明し、質問があった際には理解ができるまで、繰り返し丁寧に説明を行った。また必要に応じて医師の診察に同席し、本人、母の理解度を確認しながら、追加の説明を行った。母からは「手術の方法しか知らなかったので注射でできるならしてみたい」という返答であった。そして、本人からも「やってみたい」という意思決定があり、ボツリヌス療法導入に至った。

    【経過および結果】

    ボツリヌス療法と併用してストレッチや筋力運動などの理学療法を実施した。 ボツリヌス療法後より母や本人から「朝の支度の時間にかかる時間が短くなった。」、「装具が履きやすくなった。」、「歩きやすくなった。」、「トイレを立ったままで出来るようになった。」と主観的改善が得られていた。学校の先生からは、 「転ぶ回数が少なくなった。」など良好な反応があった。 ボツリヌス療法施注前後の客観的評価は、Modified Tardieu Scaleを用いて、腓腹筋を評価した。R1-fast stretch施注前 (右/ 左)‐35°/-35°、施注1ヶ月後-20°/ -10°、施注3ヶ月後-20° /-25°、R2-slow stretchは、施注前 -15°/-15°、施注1ヶ月後 -5°/-5°、施注3ヶ月後-5°/-10°、Timed Up and GO Testは、施注前21 .3秒、施注1ヶ月後19.4秒、施注3ヶ月後20.7秒であ っ た。

    【考察】

    SDMを意識して患者、患者家族に情報共有することで、痙縮に対するボツリヌス療法を導入するという、患者、患者家族の意思決定を援助することができた。ボツリヌス療法導入の結果、機能的な改善は十分得ることができていないが、主観的改善を得ることができ、患者、患者家族の治療への満足度は向上したと思われる。

    【倫理的配慮】

    本症例発表は、倉敷成人病センター倫理審査委員会の承認を得て、実施した。

  • 髙木 秀明, 武藤 真里
    原稿種別: 脳性麻痺 ― 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 132
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    リハビリテーション (以下:リハ)において,目標設定を患者と共に実施することは重要である.日常生活動作 (以下:ADL)の自立は本人の自己肯定感を向上させ,介助者の介助量軽減につながる重要な課題である.その中でも入浴動作は心理的要素として他者に見られたくない・介助されたくない課題であり,成長に伴い介助者の介助量が増加する課題の一つである. 今回,入浴動作自立に向けて,カナダ作業遂行測定 (以下: COPM)とSMARTモデルを用いて本人・家族と目標を設定し共有したことで,能動的に課題に取り組み自立に至った症例を報告する.

    【症例報告】

    症例:13歳7か月男児.脳室周囲軟化症による脳性麻痺 (痙直型両麻痺).在胎27週840gにて出生.GMFCSⅢ,MACSⅢ, CFCSⅡ,EDACSⅠ,VFCSⅡ. 介入前評価は,GMFM̶88:64.8% (A:100%,B:96.7%, C:76.2%,D:51.3%),FIM:清拭動作1,移乗動作 (風呂・シャワー)3.入浴の全工程に介助を要していた.COPMで「風呂に一人で入れるようになりたい」重要度8,遂行度2,満足度 1.理由は「恥ずかしい.でも怖い」と表現した.

    【結果および経過】

    COPM実施後,SMARTモデルを用いて,本人と共に「14歳までにひとりで洗体・浴槽跨ぎ・浴槽につかる・浴槽から出ることができるようになる.」と設定し,家族と共有した.練習方法は,外来リハの際に課題確認・整理を行い,次回まで複数回自宅で実施することとした. 当初は,実施前に「できない」という発言が散見された.そのため,入浴課題を洗体,浴槽跨ぎ,浴槽内保持と課題を細分化し本人と課題を整理した.すると,浴槽内での姿勢保持に恐怖感が強く,ひとりで実施することに苦慮しており,その点に恐怖心が強いことが分かった.そのため外来リハ時に,浴槽内座位を想定し実施可能な座位を整理し床上で実施,それをもとに家族とともに自宅浴槽で試行を進めた.結果,浴槽に対して横向きでの正座・縦向きで片手支持での長座位・縦向きでの正座の3パターンであれば可能と本人が認識できた.認識後は,浴槽姿勢保持に特化し,家族が浴室内で一緒に見守る/脱衣所で待つ (短時間から長時間へ)など,監視のレベルを段階的に変更した. 初回評価から5か月後 (14歳時点)で浴槽内姿勢保持は自立し, FIM:清拭動作7,移乗動作7となり入浴動作全工程で自立となった.COPMは遂行度9.5,満足度10となった.目標達成時の GMFM̶88:68.14% (A:100%,B:100%,C:92%,D: 48.7%)となり,座位・床上の姿勢保持能力が改善した.

    【考察】

    明確な目標はモチベーションを向上させ結果の改善につながる (Sigrid,2008).また,目標とした行動に焦点を絞り,できたことや上達していることを子どもや親にフィードバックすることは重要である (倉,2021)今回,COPM・SMARTモデルで目標を具体化し毎外来リハで本人の心理的な不安点や課題の遂行状態を整理しフィードバックを行ったことで,課題を明確化でき,モチベーションを維持しながら課題に取り組めたと考える.目標設定し,継続的なモニタリングを行うことは本人が率先して課題に取り組む環境を提供できることを示唆できた.

    【倫理的配慮】

    発表に際して,ヘルシンキ宣言と当院規定に基づき,書面にて本児・保護者に「報告の趣旨」と「目的」, 「プライバシー保護」について説明し両者から同意を得た.

  • 島 恵, 立松 さゆり, 北井 征宏, 荒井 洋
    原稿種別: 脳性麻痺 ― 症例報告
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 133
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    片側性痙性脳性まひ (以下片まひ)児において、青年期にまひ側下肢の相対的な筋短縮をきたすことを経験する。一方、日本では療育資源が限られており、歩行可能な脳性まひ児に対する理学療法の提供機会が少なく、ボツリヌス毒素療法以外に拘縮予防の手段が乏しい。神経筋電気刺激 (Neuromuscular electrical stimulation:以下NMES)は、脳性まひ児に対する保険適応はないが、安全かつ日常生活の中で使用可能である。我々の試行において、6例の青年期以降の片まひ児に対し、3ヶ月の使用により、まひ側足関節背屈可動域および足の選択運動の維持・改善を認めた (第8回日本小児理学療法学会学術大会)。今回、青年期に、まひ側足関節の背屈可動域が低下した女児に対して、 2年6ヶ月間で合計1年3ヶ月にわたり、断続的に自宅でNMESを用いた結果、足関節背屈可動域、足の選択運動および歩容の改善を認めたので報告する。

    【症例報告および方法】

    症例は、右片まひ児 (女児、GMFCSレベルⅡ、MACSレベルⅡ)。 12歳9ヶ月から1年間で身長が3cm伸び、右足背屈可動域が10 °から0°に悪化、また歩行時の体幹側方動揺が強くなったため、 NMESを導入した。以後2年6ヶ月の間に、3ヶ月の使用を3回、 6ヶ月の使用を1回行った。トレーニングモードはいずれの期間でも1回20分、1日1~3回、週6回施行された。理学療法 (3単位)は、導入時に入院にて8日間、導入1年後に週1回10回施行された。有効性は右足関節背屈可動域 (膝伸展位)、右Selective Control Assessment Lower Extremity (以下SCALE)の足関節・足部・足趾の合計点、10m歩行試験、Timed up and Go test (以下TUG)、右片脚立位時間、右片脚跳び回数、Edinburgh Visual Gait Scale (以下EVGS)を用いてNMES使用前後に評価した。

    【結果および経過】

    2年6ヶ月の間に、身長が5cm、体重が7kg増加した。足関節背 屈可動域は使用開始時0°であったが、2年半後に5°になった。 NMES休止期間に5~15°悪化、使用期間に5~10°改善した。 SCALEは開始時0点で足の運動性はなかったが、初回使用後に2点に向上し、最終評価時は3点であった。10m歩行試験および TUGにNMES使用前後で変化は見られず、全期間を通してほぼ一定であった。右片脚立位時間は開始時4秒から最高8秒に伸び、開始時にできなかった右片脚跳びはNMES導入後に数回可能と なった。EVGSは全期間を通じて14点から11点に改善した。

    【考察】

    NMESの長期の断続的な使用により、足関節背屈可動域制限の 進行を予防でき、足の選択運動が出現し維持できた。その結果、動的なバランスが向上し、片脚跳びができるようになり、 EVGSでは体幹の側方動揺が軽減、膝関節伸展の改善が得られた。しかしながら、10m歩行試験およびTUGの改善は得られなかった。NMESの断続的な使用は、身体構造・心身機能の改善に有効な可能性が示唆された。

    【倫理的配慮】

    写真・動画撮影、電気刺激装置の利用について、ご本人およびご家族に口頭で説明し、同意を得た上で実施して いる。 また電気刺激装置の利用および症例報告につき、社会医療法人大道会倫理委員会の承認を得ている。

成人期
  • 佐藤 優衣, 田代 英之, 広崎 蒼大, 土岐 めぐみ, 小塚 直樹
    原稿種別: 成人期
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 134
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    成人脳性麻痺 (CP)者における低体重およ び過体重は、心大血管疾患など生活習慣病のリスクを高め、骨粗鬆症、サルコペニアは骨折や転倒などの有害事象を引き起こす可能性がある。これらの有害事象を予防するためには、生涯的な健康管理が必要と考えられるが、実際に成人CP者における低体重および過体重、骨粗鬆症、サルコペニアの割合やその特徴は明らかとなっていない。そこで、本研究は成人CP者の粗大運動能力分類システム (Gross Motor Function Classification System:GMFCS)に焦点を当て、成人CP者における低体重および過体重、骨粗鬆症、サルコペニアの割合とGMFCSレベルごとの特徴を検討した。

    【方法】

    対象者は18歳以上の成人CP者33名とし、脳性麻痺以外の神経、整形、内科疾患を有している者は除外した。低体重および過体重の指標には、体格指数 (BMI)を用い、低体重 (<18.5 kg/m2)、標準 (18.5~<25 kg/m2)、過体重 (≦25 kg/m2)の割合を算出した。骨粗鬆症の指標には、若年成人との比較値であるTスコアを用い、超音波骨密度測定装置 (日立製作所)にて測定した。Tスコアが80%未満の場合を骨粗鬆症とした。また、サルコペニアの指標には、握力および骨格筋指数 (SMI)を用い、握力はデジタル握力計 (竹井機器工業)、骨格筋量はIn Body S10 (In body社)にて測定した。Asian Working Group for Sarcopeniaの基準を参考とし、男性は握力<26kgかつSMI<7.0kg/m2、女性は握力<18kgかつSMI<5.7kg/m2であ る場合をサルコペニアとした。対象者をGMFCSレベルⅠ/Ⅱ群、 Ⅲ群、Ⅳ群に分類し、各群における低体重および過体重、骨粗 鬆症、サルコペニアの割合をχ2独立性の検定にて比較した。 また、各群の男女比と年齢の違いを確認するためχ2独立性の検定および一元配置分散分析を用いて比較した。統計処理は SPSS (ver. 25)を用い、危険率は5%とした。

    【結果】

    対象者は33名 (35.2±13.7歳、男:女=12:21、 GMFCSレベルⅠ:Ⅱ:Ⅲ:Ⅳ=1:11:10:11)であった。BMIによる分類の割合は、低体重9名 (27.3%、Ⅱ:4名、Ⅳ:5名)、標準18名 (54.5%、Ⅰ:1名、Ⅱ:6名、Ⅲ:6名、Ⅳ:5名)、 肥満6名 (18.2%、Ⅱ:1名、Ⅲ:4名、Ⅳ:1名)であった。また、骨粗鬆症は16名 (48.5%、Ⅱ:2名、Ⅲ:6名、Ⅳ:8名)、サル コペニアは14名 (42.4%、Ⅱ:4名、Ⅲ:3名、Ⅳ:7名)であった。各群の低体重および過体重、サルコペニアの割合に有意差は認められなかった。一方で、骨粗鬆症の割合はGMFCSレベル Ⅰ/Ⅱ群と比較し、Ⅲ群、Ⅳ群で有意に高かった (p=0.018)。また、各群の男女比と年齢に有意差は認められなかった。

    【考察】

    本研究で対象となった成人CP者では骨粗鬆症、サルコペニアの割合が全体の4~5割程度を占めており、成人CP者のより注意深い健康管理が重要と考える。また、骨粗鬆症の割合は身体機能障害が重症なほど高い傾向にあり、高齢者と同様に日常的な身体活動などが影響している可能性がある。

    【倫理的配慮】

    本研究は、事前に札幌医科大学倫理委員会および札幌医科大学附属病院倫理委員会の承認を受けた上で実施した (承認番号1-2-29、312-3509)。対象者には口頭と文書で研究内容を十分に説明し、研究協力同意書へのサインにて同意を得た。また、全ての対象者に同意後も撤回が可能であることを伝えた。

  • 髙田 琳, 横井 裕一郎
    原稿種別: 成人期
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 135
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    脳性麻痺は知覚・認知の障害を持つことが定義の中に加えられ,近年の脳性麻痺の研究では運動イメージ障害の特徴が報告され ている.脳性麻痺の運動イメージ研究は心的回転 (Mental Rotation : MR)課題を用いた片麻痺脳性麻痺児を対象とする研究が散見されるが,両側性麻痺を対象とした研究や二次障がいのある成人期を対象とした研究はない.そこで本研究では脳性麻痺に対する理学療法介入の一助とするために,麻痺の影響を取り除く選択課題を用いた上で成人の痙直型両側性脳性麻痺の運動イメージ特徴について検討した.

    【方法】

    対象者は運動イメージ介入の経験が無い成人期痙直型両側性脳性麻痺者 (以下CP群)18名 (平均年齢:50.6±9.7歳)と健常者22名 (平均年齢:41.1±11.9歳)とし, PCを用いてMR課題と選択課題を実施した.MR課題では左右の手足の画像を用い,指先 が上を向いた状態から母指方向に90°ずつ回転させた4つの角度の画像を提示した.また選択課題には右左の漢字を用いた.反応時間 (Reaction Time : RT)とエラー率を算出し,さらに選択課題RTをMR課題RTから減算し,純RTを算出した.純RTとエラー率に関し,疾患の有無,手足,表裏 (手背が表)のそれぞれ2水準,角度4水準で4要因の線形混合モデルを分析し,手足と利き手2水準を入れ替えた4要因の線形混合モデルも分析した.交互作用が認められた場合は下位検定を行い,下位検定には Holm法の多重比較を用いた.

    【結果】

    RTは両群間で有意な差は認められなかった.CP群では手掌よ り手背が早い,手背では180°より0°,270°が早い,0°では裏より表が早い,0°と90°では非利き手より利き手が早いという結果であった.エラー率は手足ともに全ての角度で有意に CP群が高かった.また手足ともに表より裏が高い,手掌より足 底が高い,180°を除く3つの角度で裏より表が早い,180°が最もエラー率が高いという結果だった.さらに利き手のみ表より 裏が高く,表裏どちらでも利き手と非利き手に有意な差は認められなかった.

    【考察】

    両麻痺児を対象とした先行研究ではRTの遅延とエラー率の増加が報告されている.本研究では,CP群は運動イメージ想起が可能でRTは健常者と差はないものの,エラー率はCP群の方が有意に高かった. CP群の運動イメージ想起能力の低下が考えられるものの,小児期から成人期にかけて緩やかに運動イメージが発達している可能性が考えられる.また脳性麻痺群では利き手の手背における運動イメージ想起能力が高く,非利き手,足に関しては運動イメージ想起能力が低いという結果であった.可動域や手足の視認経験,使用頻度がMR課題における運動イメージ想起能力と関連があるという先行研究の結果を支持する結果となった.以上から,発達的な視点で考察すると,運動イメージと運動機能の向上のためには,理学療法実施前,実施中に運動イメージの想起を随所に入れ,また手足など身体活動に対して,視認経験を増やすことが効果的であると考えている.

    【倫理的配慮】

    本研究は北海道文教大学研究倫理審査委員会よる審査,承認を得て実施した (北海道文教大学承認番号:第 03021号). 対象者には,書面および口頭で研究の目的と方法,プライバシー保護に関して十分な説明を行い,書面にて同意を得て実施した.身体の障害により承諾の記載が困難な場合は代筆にて同意を得た.

  • 仲村 我花奈, 小口 和代, 後藤 進一郎, 姫岩 奈美
    原稿種別: 成人期
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 136
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    脳性麻痺者において30歳前後で能力の低下が始まること (諸根ら,2001)や,体重の増加により,運動機能は後退することがある (江口,1991).今回,体重増加により歩行能力が低下し た症例に対し減量,歩行能力の改善目的で訪問リハを実施した.減量,歩行能力の改善には難渋したが,ADLは維持可能だった ため報告する.

    【症例報告】

    20歳代の女性でGMFCSⅢレベルだった.グループホームに入所中だが,1週間に5日就労支援施設に通っていた.支援学校卒業時は装具や補助具を使用せず歩行可能だったが,体重が1年で15㎏増加し,週に3回程の頻度で転倒するようになった.その頃,居室の窓を閉めようとして転倒し左中手骨を骨折した.骨折後は活動範囲の縮小で更に体重が4㎏増加した.訪問リハは通院リハが終了した骨折の受傷後4ヵ月目に開始した.開始時の評価は,体重65㎏,BMI:25.5,脂肪率42.3%,筋肉量右下肢5.63㎏,左下肢5.44㎏, (脂肪率,筋肉量はIn body社製 In bodyS10を用いて計測),歩行速度0.6m/sec,GMFM項目D立位:25点,項目E歩行:28点,屋内は伝い歩き,屋外歩行は歩行車を使用し見守りだった.歩行が不安定なため,公共交通機関を利用して通う就労支援施設から送迎付きの就労支援施設に変更した.

    【経過】

    介入当初の目標は環境調整による転倒予防だったが,急激な体重増加で環境調整では転倒のリスクが軽減できなかった.開始から3か月後に,目標を減量・下肢筋力の増強・安定した歩行に変更した.療法士は訪問リハで週2回,屋外歩行を20分から 30分実施した.自主トレは,好きな歌手の動画を観ながら,座位 (立位)での足踏み,腕上げ,起立,立位保持を指導し,実施内容,回数を自主トレ用紙に記録させた.食事はグループホームや就労支援施設で提供される食事のみで,目立つ間食はない状況はなかった. 訪問リハ開始から1年後,体重64㎏,BMI:25.7,体脂肪率42.9 %,筋肉量右下肢6.25㎏,左下肢5.83㎏,歩行速0.6m/sec, GMFM項目D立位:27点,項目E歩行:31点,歩行手段に変化はなかった.動画に合わせた自主トレの回数は1日平均2.7回であった.起立やスクワット等の運動は自主的に増えた.転倒頻度は3か月に1回程度であった.

    【考察】

    体重や歩行スピード,歩行手段に大きな変化はみられなかった.これは転倒の恐れがあり一人で外出が困難なこと,通勤時の歩 行機会が減ったことから減量に必要な運動量が十分に確保できなかったためと考えた.またグループホームや就労支援施設の食事は,平等の観点から,症例のみ変更することが困難で,食事での体重コントロールも有効ではなかった.しかし1年間の 関わりで,下肢の筋肉量は徐々に増え,GMFMの項目D,項目 Eの点は向上し,骨折前より転倒回数は軽減された.体重の増加抑制,ADLの低下抑制,運動機能の維持は訪問リハでの運動指導や自主トレの定着が要因の1つと捉えた.

    【倫理的配慮】

    本研究参加には,参加は自由意志で拒否による不利益はないこと,および個人情報の保護について,文書と口頭で説明を行い書面にて同意を得た.

  • 近藤 健, 山本 優, 大須田 祐亮
    原稿種別: 成人期
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 137
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    自力で左方向への寝返りが可能であったが全身運動機会の減少に伴い、二次的な変形増強が予測された脳性麻痺症例を担当した。日常生活における姿勢ケアを実施したことが変形・拘縮の進行予防につながった経験をここに報告する。

    【方法】

    施設入所中の50代女性で、在胎40週、3,300gにて出生。 GMFCSレベルはⅤであった。自力で左方向への寝返りが可能であったが、二次的な変形の増強や姿勢変換等の自力での全身運動機会の減少による筋力低下が生じてきていた。共同運動パターンとして頚部伸展、体幹伸展、右回旋・側屈、骨盤の前傾を伴う股・膝関節屈曲が行われており覚醒時には常時このパターンでの運動が繰り返されていた。左凸側弯 (胸腰椎カーブ)、右への風に吹かれた股関節変形 (以下、WHD)を呈していた。 個別での理学療法場面においては介入しているセラピストの衣服をつかんでしまうため、個々の関節に対する他動運動が困難であった。このことから他動運動を中心としたアプローチではなく、日常生活における姿勢ケアにより全身的な変形に対してアプローチできないか検討した。体交用のクッション等を用いたポジショニングは自身の上肢動作にて取り外してしまうことや、共同運動パターンの出現により全身の非対称性を強めることから実施困難であった。しかし、全身を乗せることができるサイズのパウダービーズクッション上で下腿を下垂する背臥位を設定したところ、上肢動作に伴う共同運動パターンと非対称性の増強が減少した。そのため同一の姿勢が日常的に設定できるよう症例専用の臥位保持具を作製して、平日の日中に4~5時間実施する姿勢ケアを病棟スタッフと連携して実践することとした。

    【結果】

    姿勢ケア実施直前に計測したGoldsmith Indexは右に81度であり、姿勢ケアを1か月継続した後のGoldsmith Indexは右に57度であった。

    【考察】

    Goldsmith Indexについて最小可検変化量を超える24度の変化を認めたことから、WHDの進行予防に対して姿勢ケアの導入が一定の効果を果たしたことが示唆された。支持基底面が多く安定した安楽な姿勢を提供できたことが共同運動パターンの軽減につながり、動作時の過剰な筋緊張亢進を軽減できたことが理由として考えられた。その結果、全身の非対称性が強まることのない臥位保持が長時間可能となり、関節拘縮に対して予防効果があると言われている30分間の持続的な伸張がWHDの進行に関与する筋群に対してもたらされたと考えられた。このことから臥位保持具を使用した日常的な姿勢ケアによりWHDが改善した結果であると考えられ、実施した時間や頻度・期間についても一定の効果をもたらす上で適当であったことが示唆された。 この結果を受けWHDの進行を予防することが更衣や排泄のケ アへの困難性を軽減していくことにもつながるという理由から、日常生活姿勢として病棟生活の中に取り入れられることとなっ た。

    【倫理的配慮】

    本報告は口頭、書面にてご家族に対して内容説明を行い、代諾を得た。また、開示すべき利益相反はない。

  • 安部 千秋, 髙橋 良輔, 阿部 正之, 白坂 智英
    原稿種別: 成人期
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 138
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに, 目的】

    立ち上がり動作が困難な脳性麻痺 (以下 CP)者の理学療法において, 課題指向型アプローチに基づいた 反復した動作練習を行うことは多い. CP者の立ち上がりが困難な理由の1つに筋力低下が挙げられ, 粗大運動能力分類システム (以下GMFCS)が低い群ほど筋力が低値であるとされている.筋張力を構成する因子として, 運動単位のFR (以下FR), 動員数,動員されるタイミングが関連し, 先行研究ではCP者の随意運動における運動単位のFRが健常者より低値であることが報告されている. 健常者ではFRを向上させるツールの1つとして神経筋電気刺激が有効であるとされるが, CPでは運動単位の動員に関する報告はされていない. 今回, 立ち上がり動作の介助量軽減を目標とするCP者への立ち上がり動作への機能的電気刺激 (FES)の効果検証を目的として,即時的に立ち上がり動作時の筋活動および運動単位のFRの変化を評価したため報告する.

    【方法および症例報告】

    対象はGMFCSレベルⅣの痙直型四肢麻痺を呈する30歳代男性である. 立ち上がり練習中に使用する FESは, 神経筋電気刺激装置NM-F1 (伊藤超短波社製)を用いて,右側の大腿四頭筋に電極を貼付した。刺激強度は, 完全強縮が誘発される強度 (刺激強度25-28mA, 周波数50Hz, パルス幅300 μs)にてOn:Off時間を7秒:5秒に設定し, 電気刺激に合わせて前方のテーブルを使用した立ち上がり動作を実施した. 介入及び評価は, 介入前評価 (A)後, 電気刺激を使用しない立ち上がり練習を30回実施した後に再評価 (B)を実施, 最後に電気刺激を併用した立ち上がり練習を30回実施した後に最終評価 (C)を実施した. 30回の動作練習は10回毎に休息を行った. すべての評価は5回のFESなしの立ち上がり動作を評価した. 筋電図評価はDelsys社製表面筋電計のGalileoセンサーを使用し,サンプリングは2000Hz (Band-pass: 20-450Hz)とした. 運動単 位の分析はDecomposition法により推定し,表面筋電図は両側の大腿直筋から記録した. 筋電図からは筋活動量 (立ち上がり動作中の実行値 (RMS)の最大値)と最大FR, 平均FRを算出し, 5回の動作の平均値を左右ぞれぞれで求めた.

    【結果および経過】

    RMS〔左/右μV〕はA:36. 6/24. 9, B :34. 9/25. 9, C:38. 1/35. 3, 最大FR〔左/右pps〕はA: 12. 5/14. 9, B:15. 4/13. 9, C:15. 6/17. 4, 平均FR〔左/ 右pps〕はA:10. 4/10. 3, B:10. 1/ 8. 4, C:11. 4/13. 0であった. 立ち上がり動作はA, Bで座位時の膝関節屈曲角度を維持した状態で離殿したが, CではA, Bよりわずかに離殿時の下腿前傾と膝関節屈曲及び離殿後の膝関節伸展運動が見られた.

    【考察】

    A-B間でRMSは±5%以内の変化であったが, B-C間で左9%, 右が36%増加し, 最大FRでは特に右下肢が25%の増加と平均FRはA‒B間で左は維持, 右で低下したが, Cでは左右共に最も高値であった. これより電気刺激を併用した立ち上がり練習は下肢の運動単位のFRが改善し, 活動が動員されやすくなり,運動学習にも寄与したと考える. 本症例は電気刺激を併用した介入の継続を希望した. 2ヶ月程度の使用により上肢の代償が軽減し, 家族は介助量軽減を実感したケースである. 電気刺激の併用は, 通常の介入に更なる価値をもたらす可能性がある.

    【倫理的配慮】

    今回の介入,評価にあたってはヘルシンキ宣言に基づき,対象者および保護者に対して目的と方法,協力の任意性,撤回の自由と個人情報に関する説明を実施し,両者から書面にて同意を得ている.

  • 間地 伸吾, 江川 奈美, 安倍 千秋, 白坂 智英
    原稿種別: 成人期
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 139
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    成人期脳性麻痺の問題点として,就学時と比較すると,日々の活 動量,リハビリの頻度減少,個々のコンディショニング管理能力 (家族、周囲の協力、関心なども含む)などの環境・個人因子が,身体機能,日常生活活動 (activities of daily living;以下,ADL)の低下に結びついている可能性がある. 今回,学校卒業後,運動量や活動量が減少したことから,身体機能の低下や体重増加による ,ADL介助量が増加傾向にあった成人脳性麻痺患者を外来リハビリで担当した.そこで,身体機能,ADLの向上を目的に栄養指導,体重管理,筋力増強運動を中心とした自主トレーニングを14週間実施したため経過とあわせて報告する.

    【症例情報】

    一般情報:20歳代,男性,身長164.5cm,体重85.5㎏,BMI32.6.診断名:痙直性両麻痺(GMFCSレベルⅢ) 個人的・社会的背景:高校生活は,高等養護学校での寮生活を送っていた.卒業後は,地元の企業に事務職として就職し,両親と同居.高校卒業時は体重68㎏→現在85.5㎏と約17㎏の増加.高校時代に比べて,運動機会は減少傾向.卒業前まで車椅子と併用してロフストランド杖での移動が可能であったが,現在は電動車椅子主体の生活となっている. HOPE:動きやすい身体になりたい.

    【介入方法】

    体重増加と身体機能の低下に着目し,自主トレーニングの指導 (筋力増強運動を中心に),栄養指導(体重管理,食事内容の記載,管理栄養士からの栄養面でのアドバイス)を14週間実施した.

    【結果】

    開始時→14週後の結果を記載.体重:85.5㎏(BMI32.6)→75.7㎏ (BMI28.9),握力(右/左)21.4kg/20.1kg→24.5kg/21.3kg,身体 10m歩行テスト:21.3秒(20歩)→15.3秒(15歩),6分間歩行テスト:開始時は3分地点でリタイア→195m,TUG:59.9秒→43.1秒 ,FIM:110点→111点(社会的交流の項目で加点,加点には至らなかったが更衣,トイレ動作,移動面での円滑性,動作のやりやすさが聞かれた).

    【経過】

    (体重と日常生活の変化) 開始時(85.5kg):毎食時の飲料をミルクテイーから無糖飲料に変更.自主トレーニング開始.4週目(80.5kg):朝食を開始,公営プールでの歩行練習開始.8週目(80.3kg):30分早く起床するようになった (7:45→7:15).10週目(78.9kg):便秘症の緩和.13週目 (75.7kg):パラスポーツ,ファッションショーなどのイベントに参加するようになった.

    【考察】

    今回の結果として,体重の減量,身体機能の向上に加え,生活面における行動変容も見られた.特に,FIMの評価に著変な変化はみられなかったが,体重,身体機能の変化,ADLの動作の質や円滑性が向上したことで,運動や活動に対しての自信が生まれ,パラススポーツやファッションショーの参加などQOLにも繋がったと考える.成人期は脳性麻痺患者に限らず健常者も含めて,個々のコンディショニング管理能力が体重増加や身体機能,ADLの低下に結びついていると考えられる.外来リハビリでの直接的な介入と併せて,食事や運動習慣などの生活指導も理学療法士には求められていると考える.

    【倫理的配慮】

    本発表にあたり、個人情報とプライバシーの保護に配慮し、症例より同意を得た。

  • 平岡 司, 石川 朋裕, 知花 朝恒, 森川 菜津, 石垣 智也
    原稿種別: 成人期
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 140
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    脳性麻痺患者は就学期を過ぎると身体活動量が低下するとされており,少ない身体活動量は機能低下のリスクになると考えられる. 脳性麻痺患者について,就学期から卒業後にかけた身体活動量の縦断的変化は明らかとなっておらず,この変化に影響を与える要因も十分に検討されていない. 本報告の目的は,特別支援学校在籍時から卒業後までの身体活動量の変化とその関連要因について,学校と通所施設の利用に着目した事例考察を行うことである.

    【方法および事例紹介】

    脳性麻痺痙直型両麻痺と知的障害を有するGMFCSレベルⅢの 1 8歳男性.X年4月の特別支援学校高等部2年時に母親から,卒業後に利用する施設や移動能力低下への不安が聞かれた. GMFMは領域D:17.9%,領域E:27.7%で上肢の支えがないと 立位保持困難であるが,機能的移動能力評価尺度(以下,FMS) は50mの移動がスコア3で,クラッチ使用で屋内移動可能. MACS(Manual Ability Classification System)レベルⅡ,CFCS (Communication Function Classification System)レベルⅢで簡単な言語的理解や表出可能,知能指数29で重度. 生活状況把握のため,理学療法評価として高校2年時に2回 (Ⅰ期:X年4~5月の学校,Ⅱ期:X年8月の放課後等デイサービス ),高校3年時に1回 (Ⅲ期:X+2年2~3月の学校),高校卒業後に1回 (Ⅳ期:X+2年6月の就労継続支援事業所)の合計4期の身体活動量を計測した. 身体活動量の測定は活動量計(Active style Pro,オムロンヘルスケア社)を用いて起床時から就寝前から装着し,10~20日間測定した.1.5METs以下は座位行動とし、身体活動は低軽強度活動 (1.6~1.9METs)、高軽強度活動 (2.0~2.9METs)、中高 強度活動 (3.0METs以上)の1日あたり時間を算出した.さらに,座位行動の中断回数の1日あたりの平均値 (回)を算出し,座位 行動時間で除すことで座位行動1時間あたりの回数へと標準化したBreak頻度を算出した。また,活動量計記録日誌を母親に渡し,一日毎に行った活動について記録した.

    【結果および考察】

    GMFM,FMSは学校在籍時から卒業後まで変化はみられなかった.身体活動量は,座位行動(Ⅰ期:574分・68%,Ⅱ期:522分・ 63.5%,Ⅲ期:625分・72.0%,Ⅳ期:546分・67.5%) ,軽 強度活動 (Ⅰ期:233分・27.6%,Ⅱ期:274分・33.3%,Ⅲ期:216分・24.9%,Ⅳ期:251分・31.0%),中高強度活動( Ⅰ期:37分・4.4%,Ⅱ期:26分・3.2%,Ⅲ期:27分・3.1%, Ⅳ 期:12分・1.5%),Break頻度 (回/座位行動1時間)はⅠ期: 8.92, Ⅱ期:11.24,Ⅲ期:8.69,Ⅳ期:13.45であった. 中高軽度活動は学校在籍時が最も多かったが,卒業後は軽強度活動とBreak頻度が増加していた.

    【考察】

    本事例は,学校卒業後の中高強度活動が減少した一方,軽強度活動とBreak頻度が学校在籍時よりも増えていた.このことが,卒業後短期間ではあるものの,活動の変化が移動能力の維持に影響した可能性があり,背景には通所施設の利用という環境要因があると考えられた.また,身体活動量計は生活全体の活動を捉える事ができ,卒業後の環境に応じた身体活動量の適正化を考察するために有用であった.

    【倫理的配慮】

    本報告にあたり,事例の個人情報とプライバシーの保護に配慮し,保護者に充分な説明を行った後に口頭および書面で同意を得た.

  • 正木 光裕, 花岡 伸一, 内川 ほのか, 内川 雄貴, 平岡 司, 北村 由季, 長谷川 拳, 窪田 祐美, 山本 達也
    原稿種別: 成人期
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 141
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    本研究の目的は中高齢の脳性麻痺 (cerebral palsy: CP) 者を対 象とし、超音波画像診断装置にて評価した多数の体幹・下肢筋の筋量および筋内非収縮組織を運動障害の重症度間で比較することとした。また、群間にて安静腹臥位での姿勢アライメント、下肢筋の痙性も合わせて比較した。

    【方法】

    中高齢のCP者42名を対象として、Gross Motor Function Classification System (GMFCS) を用いて評価した運動障害の重症度によって、GMFCS Ⅲ・Ⅳ群7名 (年齢: 50.1±7.9歳)、 GMFCS Ⅴ群35名 (年齢: 54.2±7.6歳) に群分けした。体幹・下肢筋の筋量評価として、超音波画像診断装置 (GE Healthcare 社製) を使用し、胸・腰部脊柱起立筋、腰部多裂筋、腰方形筋、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋、大殿筋、中殿筋、小殿 筋、大腿直筋、中間広筋、外側広筋、大腿二頭筋長頭・短頭、半腱様筋、半膜様筋、前脛骨筋、腓腹筋内側頭、ヒラメ筋、後脛骨筋の筋厚を左右測定した。結合組織や脂肪組織といった筋内非収縮組織の評価として、画像処理ソフト (NIH製) を用いて 各筋の筋輝度を算出し、筋厚、筋輝度は左右の平均値を求めた。姿勢アライメントの評価として、スパイナルマウス (Index社製 ) を使用し、安静腹臥位での胸椎後彎角度、腰椎前彎角度、仙骨前傾角度を測定した。また、痙性の評価として、Modified Ashworth Scale (MAS) を用いて股関節屈曲・内転筋、膝関節伸展・屈曲筋、足関節背屈・底屈筋を評価し、左右の平均値を 算出した。さらに、粗大運動能力、日常生活動作の評価として、 Gross Motor Function Measure (GMFM) を用いた総合点、臥 位と寝返り、座位、四つ這いと膝立ち、立位、歩行・走行とジ ャンプの%点数、Pediatric Evaluation of Disability Inventory (PEDI) を用いた機能的スキルの合計点、セルフケア、移動、社会的機能の点数を算出した。 統計解析にて、体幹・下肢筋の筋厚および筋輝度、姿勢アライメント、痙性、年齢、身長、体重、粗大運動能力、日常生活動作はMann-Whitneyの検定を用いて群間で比較した。性別は Fisherの正確確率検定を用いて群間で比較した。

    【結果】

    GMFCS Ⅴ群の中殿筋、小殿筋、大腿直筋、ヒラメ筋の筋厚は GMFCS Ⅲ・Ⅳ群よりも有意に低く、小殿筋、大腿二頭筋短頭、ヒラメ筋の筋輝度が有意に高かった。一方、GMFCS Ⅴ群にお ける腰部多裂筋の筋厚はGMFCS Ⅲ・Ⅳ群よりも有意に高かった。GMFCS Ⅴ群の股関節屈曲・内転筋、足関節背屈筋のMASは GMFCS Ⅲ・Ⅳ群よりも有意に高く、GMFMの総合点、臥位と寝返り、座位、立位、歩行・走行とジャンプ、PEDIの機能的スキルの合計点、移動が有意に低かった。その他の項目に有意な差はみられなかった。

    【考察】

    GMFCS Ⅴの中高齢CP者の股・膝・足関節筋の筋量はGMFCS Ⅲ ・ⅣのCP者よりも低く、股・膝・足関節筋の筋内非収縮組織が高いことが示唆された。GMFCS Ⅴの中高齢CP者における体幹 ・股関節の姿勢・運動制御に寄与する腰部多裂筋の筋量は、 GMFCS Ⅲ・ⅣのCP者よりも高いことが示された。GMFCS Ⅴの中高齢CP者において、腰部多裂筋は姿勢保持・動作の間に、股関節に作用する下肢筋の筋機能低下を代償している可能性がある。

    【倫理的配慮】

    対象者の両親、兄弟姉妹または後見人に本研究の内容についての説明を行い、書面にて同意を得た。大学における倫理委員会の承認を得た上で本研究を実施した。

発達・運動科学
  • 儀間 裕貴, 藤井 進也, 新屋 裕太, 渡辺 はま, 多賀 厳太郎
    原稿種別: 発達・運動科学
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 142
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    新生児や乳児が示す多様な自発運動のなかで最も頻繁に出現す るGeneral Movements (GMs)は,脳の自発活動が生み出す運 動であり,ヒトの初期発達過程に重要な役割を担っている.特に GMsの一種であるFidgety Movements (FMs)の質的特性は,後の神経学的発達を予測するマーカーとして注目されている.近年,身体運動学や運動制御研究の分野では,身体情報の可聴化によるフィードバックが身体感覚への気づきを促し,運動学習を促進する手段として有用であるとされている.本研究では, 3次元動作解析装置で計測した乳児の四肢自発運動データに身体運動可聴化技術を適用し,GMsの特性を反映した音を作成する.GMsの可聴化は,全身性自発運動の質的特性を観察評価する際の補足情報や,児のGMsを促進するための聴覚フィードバック音源として利用できる可能性がある.

    【方法】

    2 ~3ヵ月齢児を対象に四肢の自発運動を3次元動作解析装置で計測したデータセットから,GMs観察評価による印象が異なる 3ケース (①FMsがよく出現している (continual),②FMsが時折出現している (intermittent),③FMsの出現がほとんどない (sporadic))を選定し,その四肢運動座標データを可聴化に用いた.可聴化にはデジタルオーディオワークステーションソフトウェア (Ableton Live 11 Suite)とその内部で動作する開発環境ソフトウェア (Max for Live)を使用し,四肢座標データから算出した加速度と曲率値を音響パラメタに関連付けて音として表現した.四肢それぞれに個別のInstrument (楽器)を割り当て,座標データから算出した加速度の増減に対して音量が上下する持続音に変換した.また,座標データから曲率の値を算出し,その値が一定の閾値を超えた時に鈴の音を付加した.鈴音には四肢で共通したInstrumentを用いたが,エフェクトによって音高を変化させるよう工夫した.

    【結果】

    四肢運動の加速度データを音量に反映させ,四肢それぞれに異なるInstrumentを割り当てたことによって,広がりのある音が生成された.また,音が持続するエフェクトを付加したことにより,急に音が鳴ったり途切れたりすることのない柔らかい背景音となった.曲率値を反映した鈴の音は四肢末梢の微細な運動特性を表しており,四肢全体の粗大運動が作る背景音の中に聞き取りやすいアクセントとなった.また,FMsの出現頻度が高い (continual)ケースでは,他の2ケース (intermittent, sporadic)に比べて鈴の音が多く聴取された.

    【考察】

    FMsが出現するとされる生後2~3ヵ月頃の四肢自発運動は,粗大な運動と微細な運動が同時に現れる特徴を有している.今回作成した音は,それらを反映し,運動特性を聞き取りやすく可聴化できたと考える.観察評価によってFMsがよく出現していると判定された児のデータでは,四肢末梢の微細な運動特性を表す鈴の音がよく聴取され,「四肢が速度を変化させながら,あらゆる方向で円を描くような運動」と定義されるFMsの特性を反映した音になっていると考えられた.作成された音や,そのスペクトログラムなどは,FMsの観察評価をする上で評価者にとって有用な補足情報になる可能性がある.

    【倫理的配慮】

    本研究は東京大学ライフサイエンス委員会 (承 認番号:13-35)の承認を得て行った.対象者と代諾者には口頭と書面を用いて研究の概要を説明し,同意を得た上で実施した.

  • Sermpon Nisasri, 根本 清香, 儀間 裕貴
    原稿種別: 発達・運動科学
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 143
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    乳児は手や足が正中線へ向かう自発的な運動 (Movement toward midline;MTM)を行っており、このような運動は抗重力運動の発達や体性感覚の獲得に寄与している。2D姿勢推定は、2次元の画像や映像から各関節のx、y座標を基にリアルタイムで人体の姿勢を推定する技術であり、低コスト、短時間で定量的なデータを得られる方法である。本研究の目的は、乳児のMTMにおける2D姿勢推定データから得られた身体各部の運動の特徴とMTMの相関関係を明らかにすることである。

    【方法】

    8~ 16週齢の満期産児20名について、背臥位での全身性自発運動を 2分間撮影した動画101本をデータ解析の対象とした。先 行研究に基づき、各MTMは1秒間継続することで出現と定義し、 1秒間で1回の出現とした。映像全体のMTM発生率と1分間あ たりのMTM発生率を算出し、後者についてはlower (下肢の運動)、upper (上肢の運動)、total MTMの3区分で算出した。その後、全ての映像に2D姿勢推定技術を適用し、得られた座標を用いて四肢と正中線との距離、両手関節と両足関節からなる四肢面積を算出した。また、身体中心点と両手関節からなる上半身面積、身体中心点と両足関節からなる下半身面積を算出した。統計解析では、手関節と足関節の正中線からの距離と、1分間あたりのMTM発生率との相関を算出した。さらに、各 MTM群 (lower, upper, total)内で、MTMを示した児とそうでない児の間における四肢面積、上半身面積、下半身面積の差を検討した。

    【結果】

    右手関節と正中線の距離と、total MTMの出現率、upper MTM ・total MTMの1分間あたりのMTM出現率に有意な負の相関が見られた。右足関節と正中線の距離、total MTMの出現率および1分間あたりの出現率に有意な負の相関が見られた。各MTM群内でMTMを示す児と示さない児を比較すると、lower MTMでは下半身面積と四肢面積、upper MTMでは下半身面積、 total MTMにおいては上半身面積で有意な差が見られた。

    【考察】

    MTM出現率およびupper MTMとtotal MTMの1分間あたりの出現率と、左手関節と正中線の距離の間には正の相関が認められた。一方、右手関節と正中線の距離には負の相関を認め、これは左の非対称性緊張性頸反射の影響と考えられた。MTMを示す児と示さない児の間で面積を比較すると、lower MTMについては四肢面積と下半身面積に有意差が見られた。これは、 lower MTMには両足を持ち上げて体幹に近づける動作が含まれているためと考えられた。total MTMでは上半身面積に有意差が見られ、これはHand-to-trunk contact (HT) の出現頻度と関連していると考えられた。upper MTMでは下半身面積に有意差が見られた。これは、非対称性緊張性頸反射によるものであると考えられるが、上半身面積では有意差が見られなかった。 upper MTMでは、両手を合わせる、片手を離すなど上肢の位置が様々であり、このことが上半身面積を変化させる要因となった可能性がある。MTMの定量化は、乳児の運動発達を評価する一助となり得る。本研究で用いた手法は、家庭において特殊な計測環境を必要とせず、また、遠隔で実施することができるため感染予防の観点からも有用であると考えられた。

    【倫理的配慮】

    本研究は東京都立大学荒川キャンパス研究倫理 委員会 (承認番号:21092)の承認後、対象者と代諾者には書面を用いて研究の概要を十分に説明し、同意を得た上で実施した。

  • 成田 亜希
    原稿種別: 発達・運動科学
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 144
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    小学校の通常学級では7.7%の児童が学習または行動面で著しい困難を示すと報告されており、文科省より指導方法が示され特別支援教育体制の整備がなされてきた。そのような中、大西ら (2018、2019、2020)の研究において、小学生高学年児の協調運動とバランス能力の関係や、児童の行動特性と新体力測定との関連性が明らかにされている。一方、就学前の幼児については、5歳児で発達障害が発見された幼児が3歳児健康診査を通過していた報告があるなど、未だ充分な調査や支援体制が整っておらず、その実態が明らかにされているとはいえない。そこで、本研究では、幼児期における行動と運動特性の関係を明らかにし、保育時の適切な支援方法を探索した。

    【方法】

    A保育園に通う5歳児52名を対象に、行動特性とその背景にある運動特性の関連を調査した。実施時期は、202X年である。行動特性には、SDQ (Strengths and Difficulties Questionnaire)を用い、保育者に質問紙調査を実施した。質問内容は、行為の問題、多動/不注意の問題、情緒の問題、仲間関係の問題、向社会的な行動の 5 つの下位尺度、各5項目の計 25項目で構成されている。全ての項目について「あてはまる」、 「まああてはまる」、「あてはまらない」の3段階評定で行った。運動特性については、MKS幼児運動能力検査 (25m走、立ち幅跳び、ボール投げ、両足連続跳び越し、体支持持続時間、捕球の6種目)を用いた。分析は、MKSとSDQの間で相関分析を行い、相関の高い項目で正準相関分析を行った。

    【結果】

    多動/不注意の問題が、両足連続跳び越しと弱い正の 相関を示し、立ち幅跳びとは負の相関を示した。情緒の問題が、両足連続跳び越しや25m走と弱い正の相関を示し、立ち幅跳びやボール投げとは弱い負の相関を示した。仲間関係の問題が、両足連続跳び越しと正の相関を示し、立ち幅跳びとは負の相関を示した。第1正準変量では正準相関係数がr=.572で、両足連 続跳び越し、立ち幅跳び、25m走、ボール投げの順に仲間関係の問題への影響度が高かった。

    【考察】

    本研究では、幼児期の行動と運動特性の関係におい て、仲間関係の問題と運動との影響が明らかとなった。これは、文科 省の調査結果からの考察と合致している。MKSの体力総合評価結果が、多くの友達とよく遊んでいることや、友達が多いこととの関係性を示しているものであった。また、5歳児は、 自己中心的な世界から他者との関係を理解しはじめる時期であり、運動の特性と仲間関係の問題から発達的課題が窺える。特に、両足連続跳び越しのような「両足を揃えてつけて、10個の積木を1つ1つ正確にそして迅速に連続して跳び越す」「始め!の合図から、失敗せずに積木10個を跳び終わるまでの時間を測定する」課題にあっては、ルールの理解から始まり、身体機能面では、正常な筋緊張や身体感覚、視覚と運動の協調性、バランスなどが必要になる。保育者においては、これらの要素と行動特性から発達障害の可能性を視野に合理的配慮を含めた保育時の適切な支援方法の選択が促され、保育の質の向上や保育者の対応力の向上につながることが考えられる。

    【倫理的配慮】

    本発表にあたり、ヘルシンキ宣言に則って、保育園園長や保護者には主旨・倫理的配慮について書面および口頭にて説明し、同意を得た。

  • 根本 清香, 川野 晃裕, 儀間 裕貴
    原稿種別: 発達・運動科学
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 145
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    ヒト胎児における胎動数の減少は早産や胎児死亡などと関連が あり(Morita et al,2020; Stacey et al,2011)、胎児の健康状態を把握するための重要な指標とされている。しかしながら、胎 動数の減少は母体知覚という主観的評価が用いられることが多く、母親の注意や覚醒の程度による影響を受けやすい。また、胎児に 対する客観的評価の多くが超音波を用いたエコー検査により行われているが、これは診察時などの限られた時間で胎児の状態を観察する方法となっている。先行研究では、胎動数は母体の活動量と関連なく夜間に増加することが報告されている (竹下, 1983)。母体の概日リズムに関連せず夜間に胎児の活動 量が増加することは、発達において何らかの利益をもたらしている可能性がある。そのため、胎動の日内変動を縦断的に計測することは、胎児の発達を評価する上で重要な指標になると考えられる。今回、日中や夜間の胎動を経時的に計測する手法を検討するにあたり、胎動の客観的な測定方法について文献レビューを行った。

    【方法】

    胎児 (fetalなど)、運動 (movementなど)、計測 (measurementなど)の3つの概念に基づくキーワードを用いた検索式を立て、 PubMedにて、①英語で書かれた論文、②ヒトを対象とした研究、③臨床における研究を条件に検索を行った。検出された論文のリストを文献レビューツール (Rayyan)に取り込み、重複文献を除いた後、論文タイトルおよびアブストラクトを確認し てスクリーニングを行い、採用文献の発行年、胎動の計測方法、計測時間の情報等を抽出して検討を行った。

    【結果】

    1,727件がスクリーニングの対象となり、61件が二次レビューの 採用文献に含まれた。これらの発行年は1977年~2021年であった。胎動の計測には、超音波 (28件)、加速度計 (11件)、 phonograph (4件)、心電図 (4件)、心磁図 (4件)、陣痛計 (3件)、ひずみゲージ (2件)、圧電結晶 (2件)、サーモグラフィー (1件) などが使用されていた。計測時間は1時間未満が42件、1時間 以上が12件あり、1時間以上の計測にはphonograph (2件)、陣痛計 (2件)、加速度計 (3件)、超音波 (5件)が用いられていた。 計測時間の最長は6.2±1.3時間で加速度計による計測であった。

    【考察】

    客観的な胎動の計測には、超音波および加速度計によるものが約61%を占めていた。そのうち、2000年代までは超音波での計測による報告の割合が多く、2000年代以降は加速度計による計測の報告が増加していた。2020年以降は再び超音波での計測による報告が増加していたが、これは3Dエコーや4Dエコーなど新たなデバイスの開発・普及によるものであると考えられた。夜間の胎動を計測する場合には数時間から半日単位の記録が必要であるため、現状では加速度計による計測が実用的であると考えられた。また、最長の記録が行われた装置は高価であるため、より安価で簡易に胎動を計測できるデバイスの開発が必要である。

    【倫理的配慮】

    文献レビューであるため、特に記載する事項はありません。

  • 高橋 恵里, 楠本 泰士, 仲村 佳奈子
    原稿種別: 発達・運動科学
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 146
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【背景】

    発達障害児等が眼球運動障害を有することから、追視 や注視などの眼球運動の向上を目的としたゲーム技術を用いたアプリが使用されている。眼球運動は読字能力の向上のみならず身体運動に影響するため、眼球運動を向上させることでさまざまな動作能力向上が期待できる。その一方で、定型発達児の眼球運動の発達については明らかにされていない。定型発達児における眼球運動の発達や年齢ごとの特徴を明らかにできると、発達障害児等への介入における目標設定やプログラム内容に活かすことができる。 そこで本研究では、ゲーム施行中の定型発達児の眼球運動を観察することで、定型発達児の眼球運動の特徴を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    5歳以上の定型発達幼児・児童を対象とした。協力の得られた幼稚園、幼児・児童が集まるイベントにおいて参加者を募集した。弱視を有する児、眼球運動に影響を及ぼす可能性のある眼科疾患を有する児は対象から除外した。幼児 (6歳以下 )、低学年 (7,8歳)、中学年以上 (9歳以上)の3群に分けて分析を行った。 対座法での眼球運動検査にて、追視の左右差およびサッケードの有無を評価した。Tobii Eye Tracker 5 (Tobii社)を用い、的を注視するアプリ「視線でバキュン!」 (株式会社デジリハ)を1回施行する中での失敗回数と視線軌跡長を測定した。3群間で、追視の左右差等の有無、失敗回数、視線軌跡長を比較した。統計学的解析には、SPSS ver.29を用いてカイ二乗検定、 Kruskal-Wallis検定、一元配置分散分析を行い、有意水準は5%とした。

    【結果】

    対象児は89名の幼児・児童 (男児45名 女児44名,年齢5~14歳 平均±標準偏差7.6±2.2歳)であった。幼児41名、低学年21名、中学年以上27名であった。 追視に左右差等があった児は、幼児14名 (34.1%)、低学年1名 (4.8%)、中学年以上3名 (11.1%)であり、有意な関係があった (p=0.009)。明らかなサッケードが見られた児はいなかった。 失敗回数の中央値は、幼児16回、低学年12回、中学年以上11回であり、3群間に有意差はなかった。視線軌跡長の平均値は、幼児40.6±14.1mm、低学年37.5±11.5mm、中学年45.7± 19.5mmであり、3群間に有意差はなかった。

    【考察】

    追視に左右差等がある児は、幼児に多いことが分かった。視力は3歳ころまでに発達すると言われているが、本研究の結果から、運動に関わると考えられる円滑な眼球運動は幼児期においても発達を続ける可能性が示唆された。 的を注視するゲームにおける失敗回数は年齢が上がるにつれて減少する傾向にあったが有意差はなかった。また、視線軌跡長は年齢間で有意差がないことが分かった。視線軌跡長は個人間のばらつきが大きかったため、今後も対象者数を増やして検討したい。

    【倫理的配慮】

    本研究は福島県立医科大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。対象者には口頭と文書にて説明し、同意を得て実施した。本研究への協力を断っても、何ら支障のないことを書面にて伝えた。

  • 黒木 尭稀, 愛甲 拓海, 鞭馬 貴史, 萬井 太規
    原稿種別: 発達・運動科学
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 147
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    縄跳び動作とは,上肢と下肢を運動させ,縄を飛び越える動作である.縄跳び動作は多くの小児が経験するが,動作の獲得に運動療法を必要とする児も存在する.適切な動作指導,運動処方を行うには縄跳び動作の運動学的な分析が必要である.これまで,成人を対象とした研究では,動作時間,体重心変位量,四肢の関節運動が重要だと示されている (Bruce et al., 2016; Chen et al., 2013; Kim et al., 2017).また,縄と足尖間のクリアランスも縄跳び動作の成功に必要な要素だと考えられる.しかし,このような変数を用いて,小児期の縄跳び動作の運動学的な特性を示した研究はない.本研究の目的は,動作時間,体重心変位量,縄と足尖間のクリアランス,および関節運動から 7~12歳児の縄跳び動作の特性を明らかにすることとした.

    【方法】

    10名の7~12歳の定型発達児 (7歳3名,9歳2名,10歳3名,11 歳1名,12歳1名)と17名の健常成人 (21.2±1.4歳)を対象とした.縄の長さは剣状突起の高さを基準に決定した.体表と縄に計30 個の反射マーカーを貼付し,床反力計と三次元動作解析装置 VICONを用いて縄跳び動作を測定した.対象者は足を並行にした立位をとり,任意のタイミング,快適速度で縄跳び動作を開始した.50回を上限とし,縄が引っかかるまで記録した.垂直分力より跳躍開始を算出した.跳躍開始から次の跳躍開始までを1周期とし,1周期の動作時間を算出した.また,三次元座標データより1周期の前後と側方の体重心変位量,縄と足尖間の最小クリアランスを算出した.さらに,1周期の肩関節,肘関節,股関節,膝関節,足関節の運動範囲を算出した.6~15周期の平均値を算出した.15周期記録できなかった対象者は6周期か ら引っかかるまでの周期までの平均値を算出した.群間比較にはMann‒WhitneyのU検定を用いた.有意水準は5%未 満とした.

    【結果】

    7~ 12歳児は,成人と比較して1周期の動作時間が有意に長く (p = 0.027),体重心側方変位量が有意に大きかった (p = 0.003).体重心前後変位量は有意に大きい傾向であった (p = 0.066).また,7~12歳児は,成人と比較して全関節の運動範囲が有意に大きかった (p < 0.05).一方,縄と足尖間の最小クリアランスは,群間の有意差が認められなかった (p > 0.05).

    【考察】

    7~ 12歳児は,四肢の関節を大きく運動させて縄跳び動作を行っていることが示された.これは,7~12歳児が縄と足尖間のクリアランスを確保し,縄跳び動作を成功させるための戦略だと考 える.しかし,1周期時間は長く,体重心変位量も大きいため, 7~12歳児の縄跳び動作は不安定で,未発達であることが示唆される.今後は,年齢毎の特性を明らかにするために,サンプル数を増やし,縄跳び動作の分析を進めていく.

    【倫理的配慮】

    本研究は,大分大学福祉健康科学部の倫理委員会の承認を得て実施した (F200016).対象者及びその保護者には事前に,口頭と書面で本研究の目的,実験手順,考えられる危険性,論文・学会での公表について十分に説明し,署名にて同意を得た.

  • 内尾 優, 黒米 寛樹, 河野 龍哉, 笹野 真央, 白水 杏奈, 高岡 翼
    原稿種別: 発達・運動科学
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 148
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    乳幼児期に生じうる位置的頭蓋変形と発達との関連における報告はあるものの、その後のより高次な運動パフォーマンスに及ぼす影響については明らかにされていない。位置的頭蓋変形がその後の成長した運動に影響することが明らかになれば、位置的頭蓋変形は単なる乳幼児期の一過性の問題として捉えることはできない。本研究の目的は、位置的頭蓋変形の非対称性が運動パフォーマンスの左右差に及ぼす影響について明らかにすることである。

    【方法】

    対象は、現在整形外科的、神経学的疾患等による疼痛のない本 学在学中の大学生57名 (平均年齢20.5±0.7歳)とした。評価は、基本情報、身体機能評価、運動パフォーマンス評価を実施した。基本情報は、性別、年齢、身長、体重、利き足を調査した。また身体機能評価は、足関節背屈可動域、棘果長、握力、等尺性膝伸展筋力、頭部変形評価を実施した。頭部変形評価には、 3D画像撮影解析装置VECTRA®H2にて評価し、得られた後頭 部左右対称率の結果に基づき対象を頭部変形あり群17名、頭部変形なし群40名の2群に分類した。運動パフォーマンス評価は Modified Star Excursion Balance Testを実施した。床面の上に中心点を設定し、その点に片脚立位となり反対側の下肢で前方 ・後内方・後外方の3方向へ最大限リーチした距離を測定した。得られた各方向のリーチ距離から対象者の棘果長を100%として正規化した%下肢リーチ距離を求めた。さらに、前方・後内方・後外方の%下肢リーチ距離の左右差を絶対値にてそれぞれ算出した。解析は、頭部変形あり群と頭部変形なし群の2群に 分け基本情報、身体機能評価、運動パフォーマンス評価を比較した。さらに、運動パフォーマンスの左右差に影響を与える要因を明らかにするため、単変量解析にて2群間で有意差を認めた運動パフォーマンスと優位な相関関係を認めた基本情報、身体機能評価を独立変数、運動パフォーマンスを従属変数とした重回帰分析を行った。検定にはSPSS Version 28を用い、有意 水準は5%とした。

    【結果】

    2群間の基本情報の比較において頭部変形あり群は変形なし群に比べ男性が多く、身長が高く、体重も重かった。運動パフォーマンス評価では、頭部変形あり群は変形なし群に比べ後内方への%下肢リーチ距離の左右差が有意に大きかった (8.3 ± 6.9 vs. 4.7 ± 4.0)。他の基本情報、身体機能評価、運動パフォーマンス評価の左右差には有意差を認めなかった。後内方への %下肢リーチ距離の左右差と有意な相関関係を認めた基本情報、身体機能評価は、後頭部左右対称率 (r=-0.347, p=0.008)と身長 (r=0.281, p=0.036)であった。左右の後内方への%下肢リーチ 距離の左右差を従属変数とした重回帰分析では後頭部左右対称率 (p=0.041)のみが採択された。

    【考察】

    健常若年成人の運動パフォーマンスにおける左右差の偏りには、後頭部が左右非対称であることが影響する可能性が示唆された。乳幼児期に生じうる位置的頭蓋変形は早期より予防する必要性 が考えられた。

    【倫理的配慮】

    本研究は、東京医療学院大学研究倫理委員会 (承認番21-19H)の承認を得たのちに実施した。対象者には研究内容などについて文書および口頭で十分な説明を行い、書面にて同意を得た後に実施した。なお、同意説明文書には、研究参加は任意、同意しなくとも不利益を受けない、同意は撤回できること、研究の意義、目的等を明記した。

  • 石倉 英樹, 奥田 智沙, 白石 航史郎
    原稿種別: 発達・運動科学
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 149
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    療育やリハビリテーションの臨床では、重度の肢体不自由者に 対して、玩具などの様々な物品を通して介入が行われている。物品を通した介入では、対象者が上肢のリーチや把握動作などを獲得していく必要があり、上肢の巧緻性や動作の遂行能力が様々な形で評価・検討されている。身体の動作遂行能力は、骨格筋の構造が関係していることが報告されているが、近年では超音波画像を用いた骨格筋の評価により、日常生活機能や筋力などとの関連性が報告されており、リハビリテーションの臨床でも有効な評価方法として挙げられる。小児の分野でも健常者を対象として、四肢の骨格筋を超音波画像で評価している報告があるが、肢体不自由者などについて検討した報告は少ない。超音波画像による評価では、骨格筋の量的な側面だけでなく、筋束や筋膜の配列、筋内の結合組織など、質的な評価にも用いることができる。そこで本研究では、超音波画像による評価を用い、重度の肢体不自由者に対し、上肢の動作遂行能力と上肢骨格筋構造の関係性について検討し、知見を得たので報告する。

    【方法】

    対象は、6-15歳までの肢体不自由者6名とした。上肢の動作遂行能力の評価として、物品の掴み方と把握様式について評価を行った。また、把握の可否で群分けを行い、物品の把握ができなかった群を把握不可群 (3名)、何らかの形で物品の把握ができた群を把握可能群 (3名)とした。骨格筋形態は,超音波画像診断装置 (FAMUBO-W,誠鋼社)を用い,上腕と前腕の筋群を撮影して評価を行った。評価は、撮影した写真による筋の形態観察と、画像解析ソフト (image J, NIH)を用いた筋厚・筋輝度測定を行った。

    【結果】

    上肢の動作遂行能力では、把握様式:把握できない3名・手掌把握可能2名・指先つまみ可能1名であった。骨格筋の筋厚は、前腕屈筋:把握不可群11.0±5.0mm・把握可能群21.0± 2.5mm、上腕二頭筋:把握不可群15.7±6.0mm・把握可能群 16.5±6.5mmであった。筋輝度は、前腕屈筋:把握不可群 100.9±34.4・把握可能群61.3±31.4、上腕二頭筋:把握不可群98.8±27.2・把握可能群62.5±19.3であった。骨格筋の形態観察では、把握不可群で筋表層と皮下組織の境界面が不明瞭となり、筋膜が不明瞭な部位のある画像が描出された。

    【考察】

    筋厚について調査を行った先行研究では、健常者において筋厚 の発育に部位差があることや動作に影響することが報告されている。本研究の筋厚結果では、上腕の筋で大きな差がなかったが、前腕屈筋で把握可能群の方が大きい傾向にあった。これは、把握可能群で上肢の動作遂行能力が高いことにより、手指の動きを日常的に使用することが増え、前腕の筋群の発達に影響したと考えられる。筋輝度について調査を行った先行研究では、筋輝度の上昇が筋力低下や病変の早期から生じることや、筋内脂肪・結合組織の増加などを反映していることが報告されている。本研究の筋輝度結果では、把握不可群で上腕・前腕の輝度が高値となっていた。このことから、動作遂行能力と筋の質的変化の関連性が示唆された。

    【倫理的配慮】

    本研究は、発表者が所属する施設の研究倫理委 員会 (承認番号:2023003)の承認を得て実施した。本研究は、ヘルシンキ宣言に従い倫理と個人情報に配慮し、所属する施設と、対象者の保護者およびキーパーソンを代諾者として研究内容を書面および口頭で説明し、同意を得た上で研究を実施した。

  • 重島 晃史, 岩崎 史明, 片山 訓博, 山﨑 裕司, 大倉 三洋, 嶋田 進, 篠田 かおり, 吉村 知佐子, 岡林 輝
    原稿種別: 発達・運動科学
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 150
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    10か月児の乳幼児健康診査 (以下、健診)では所定の調査票を用いており、医師や保健師などと多職種で情報が共有できる。調査票にある発達検査項目を運動発達の予測に活用できれば、多職種で連携して発達を支援することが可能になると考える。また、10か月児は運動発達の個人差が大きくなる時期でもあり、発達遅延が疑われれば育児不安に陥る可能性が高くなる。そのため、発達の見通しを与えることができれば育児不安を軽減できると考える。そこで、本研究では乳児のひとり歩き獲得に着目し、10か月児健診の調査票からひとり歩き獲得に関わる要因と予測の判断基準を検討したので報告する。

    【方法】

    対象は土佐市の10か月児健診に参加した241名の乳児のうち、早産児や低出生体重児、調査票への未記入等を除外した151名であった。データは調査票から、健診時月齢、性別、身長、体重、カウプ指数、発達検査項目の回答を収集した。ひとり歩き獲得の月齢は1歳6か月児健診の調査票から情報を得た。発達検査項目は運動や言語、社会性等に関する14の質問項目から構成され、回答は「はい」「いいえ」の2件法であった。データ処理ではひとり歩き獲得遅延の有無について、ひとり歩き獲得の月齢が16か月未満を健常群、16か月以上を遅延群と分類した。データ解析では、2群間において健診時月齢、性別、身長、体重、カウプ指数、各発達検査項目で2群の差の検定およびフィッシャーの直接確率法にて比較検討した。また、発達検査項目からひとり歩き獲得を予測するにあたり、段階的な判断が可能かどうかを検証するため決定木分析 (CART法)を行った。決定木分析では各発達検査項目で有意差があった項目を独立変数、ひとり歩き獲得の月齢を従属変数として解析を行った。統計解析ソフトにはR Ver4.0.2を使用し、すべての統計学的解析において危険率5%を有意水準とした。

    【結果】

    性別や身体発育面では2群間に有意差は認められなかった。一方、発達検査項目の「つかまり立ちあがり」「つたい歩き」 「一人立ち (フリーハンドでの立ち上がり)」「両手引きでの歩行 」の4項目では、可となった割合は遅延群と比べ健常群で有意に多かった。これらの項目を独立変数として決定木分析を行った結果、ひとり歩き獲得に特に強く影響を与える因子として「一人立ち」が抽出され、次いで「つたい歩き」が抽出された。すなわち、10か月児健診の時点で一人立ち可であればひとり歩き獲得が最も早く (平均11.5か月)、次いで一人立ち不可だがつたい歩き可の場合 (平均12.9か月)、最後に両者とも不可の場合 (平均14.5か月)と、発達検査項目の可否で段階的に予測できることが示唆された。

    【考察】

    10か月児健診時点でひとり歩き獲得の予測には、一人立ちおよびつたい歩きの可否の重要性が示唆された。調査票の内容は多職種で共有できる資料であるため、発達検査項目からひとり歩き獲得の見通しがもてることは、多職種連携に有用な科学的資料となると考えられる。また、保護者の育児不安の解消につながる支援や助言の資料にもなり得ると期待される。

    【倫理的配慮】

    本研究の実施にあたり高知リハビリテーション専門職大学倫理委員会に承認を得た (承認番号R1-12)。また、対象児の保護者に本研究の趣旨の書類を提示するとともに口頭でも説明し、同意書を得て実施した。

術後理学療法
  • 前田 伸也, 栗原 まり, 田中 有子, 重信 聖貴, 高杉 紳一郎, 武田 真幸
    原稿種別: 術後理学療法
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 151
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    当センターは脳性まひを持つ方に、整形外科的選択的痙性コントロール手術 (OSSCS)を実施しており、術後理学療法は重要な役割を担っている。股・膝関節OSSCSを実施した例では、対象筋の筋緊張低下、関節可動域拡大とともに、手術対象ではない下腿三頭筋の緊張が減弱し、足関節背屈可動域や歩容の改善を散見する。そこで股・膝関節OSSCSのみを実施した歩行可能な方に他動的膝伸展足関節背屈角度 (DKE R2)を計測し、三次元動作解析装置にて、歩行時の足関節の動きを調査したので報告する。

    【方法】

    対象は股・膝関節OSSCSのみを実施した脳性まひ児・者14例 27肢、手術時年齢9.9±8.4歳、GMFCSレベル1:7名、2:3名、 3:4名であった。歩行分析機器は、ノラクソン社製の三次元動作解析装置マイオモーションで手術前後に計測した。術後までの平均計測日数は105.6±83.4日であった。歩行手段は独歩11名、PCW歩行3名であった。計測は8m×1往復を3回実施し加 算平均後、歩行スピード、1歩行周期中の立脚期の割合、ケイデンス、1歩行周期中の立脚期足関節最大背屈角度とその時の股・膝関節屈曲角度 (°)を算出した。また立脚期足関節最大背屈角度までに起こる背屈運動が、1歩行周期に占める割合を立脚期背屈運動期 (%)とし、この時期の背屈角速度 (deg/s)を算出した。遊脚期の背屈運動を評価するため、遊脚期背屈運動中の背屈角速度を算出した。足関節可動域テストでは、DKE R2 ( °)を計測した。統計処理は対応のあるt検定にて有意水準を5%未満とした。

    【結果】

    歩行スピード、立脚期の割合、ケイデンス、立脚期最大背屈角度、遊脚期背屈角速度に差はなかった。一方、立脚期最大背屈時の股・膝関節屈曲角度は、それぞれ40.2°→35.1°、40.7° →24.9°と減少した (p>0.05)。立脚期背屈運動期は17.2%→ 22.6%と増加し (p>0.05)、立脚期背屈角速度は74.1deg/s→ 53.3deg/sと低下した (p>0.05)。DKE R2は8.2°→12.4°に増加した (p>0.05)。

    【考察】

    股・膝関節OSSCSと術後理学療法にて、股・膝関節可動域改善はもとより、足関節背屈可動域が改善した。歩行時では、立脚期足関節最大背屈角度に変化はないが、この時の股・膝関節屈曲角度が減少することでアライメントは、より伸展位になっており、更に立脚期に背屈運動する割合が増えることで、背屈角速度が減少し、立脚期の足関節はゆっくりと背屈運動が起こる。以上により歩容が改善したようにみえると推察する。また遊脚期の背屈角速度には変化がなく、歩行時の背屈随意運動の変化は難しいことが示唆され、トゥクリアランスの改善は、股・膝 OSSCSのみでは困難であると考える。本研究の限界として、歩行分析を実施した例のみで限定的な調査であったため、今後はより包括的に調査していく。

    【倫理的配慮】

    情報提供に関しては、文書で承諾を得ており、データ取得後、個人が特定される情報は除去した。また本研究は当センター内の倫理審査会にて承認を得た。

  • 小野 泰輔, 上原 久人, 山田 知
    原稿種別: 術後理学療法
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 152
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    はじめに

    当センターは脳性麻痺児に対する選択的脊髄後根切断術 (Selective Dorsal Rhizotomy,以下SDR)後の集中リハビリテーションを行っている。SDRは脳性麻痺リハビリテーションガイドライン第2版より、対象の選択と目的を慎重に考慮すれば勧められる治療であるとされている。これまでSDR対象の選択基準については、独歩可能児に関する報告は少ないため、我々は独歩可能児のSDR前後の経過を追跡し、SDR前と術後1年の Gross Motor Function Measure (以下GMFM)パーセンタイル値の変化を参考に粗大運動能力の改善に関わる術前因子を検討した。その結果を報告する。

    方法

    対象:県内の3施設でSDR術後集中リハを受けた独歩可能レベルの22例を対象とした。 (GMFCSⅠ18名、Ⅱ8名、2002年9月 ~2021年10月までのデータを使用。その中で、術前のGMFMスコアが85%を超えた3名に関してパーセンタイル値の変化を見ることが難しい為除外した。また疼痛緩和などの目的以外では適応が限定的とされるため10歳以上も1名除外した) 評価項目:手術年齢および術前GMFCSレベルと術前後の GMFM-66値変化の関連。 分析:手術前と術後1年のGMFM-66スコア+20パーセンタイル以上を改善、-20パーセンタイル以下を悪化、その間を変化なしとして分析。対象者をGMFCSⅠ、Ⅱ群に分け、各群において術後改善あり/なし・悪化で平均手術年齢に差があるか分析した。また、両群間でGMFM-66術前・術後1年の値に改善が見られた割合を比較した。統計学的検定にはt検定を用いた。

    結果

    GMFCSⅠの平均手術年齢は5.3±1.6歳、GMFCSⅡの平均手術年齢は6.3±2.5歳、全体の平均手術時年齢は5.5±2.0歳であった。GMFCSⅠで+20パーセンタイルを超え、改善が見られた児は8名で平均手術年齢5.3±0.4歳、変化が見られなかった児は7名で平均手術年齢4.0±0.8歳と2群間で有意差がみられ、 GMFCSⅠにおいて術後1年で改善した群では手術年齢が高い傾 向がみられた。 (P<0.01)GMFCSⅡで改善が見られた児は1名、変化が見られなかった児は6名と、術後1年のGMFM点数は伸び ているが、パーセンタイル値では変化が見られず、手術年齢による有意差も見られなかった。どのレベルにおいても悪化した児はみられなかった。

    考察

    SDR前後でパーセンタイル値が改善したGMFCSⅠ児の平均年齢が約5歳、変化が見られなかった児の平均年齢が約4歳と、手術年齢に有意差が認められる結果となった。 GMFCSⅠ児のリハ場面では自発的に運動が出来るが故の難しさに直面する事も少なくない。特にSDR後の集中リハの重要性はコンセンサスであるが、目標設定や課題の共有において、幼少時よりもある程度の年齢に達した方がリハを行い易い印象を持っていた。エリクソンの発達段階では、5歳前後は言語能力や認識力が高まる時期で、様々な課題に取り組む、物事を達成す ることにより次の課題への「勤勉性」も見られるとされており、改善が図れた1つの要因になったとも考えられる。 今回の結果から独歩可能児でSDR術後1年の改善に関わる術前因子に年齢が示唆されたが、GMFCSⅠとⅡの改善度に違いが出た要因について十分な調査・検討が行えていない。今後さらに詳細なデータを蓄積していく必要がある。

    【倫理的配慮】

    この研究は沖縄南部療育医療センター院内倫理委員会の了承を得ている

  • 松本 菜々恵, 渡邊 聖奈, 阿部 広和
    原稿種別: 術後理学療法
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 153
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    選択的脊髄後根切断術 (selective dorsal rhizotomy:以下 SDR)と整形外科的な一期的多部位手術 (single-event multilevel surgery:以下SEMLS)を短期間に行う症例の報告は少ない。今回、SDR施行半年後にSEMLSを行った症例の術後 理学療法を行い、短期的に移動機能が改善したため、報告する。

    【方法および症例報告】

    症例は脳性麻痺の痙直型両側性麻痺 (GMFCSレベルⅡ)、 MACSレベルⅡ、CFCSレベルⅡの男児。1歳時から他施設で理学療法を受け、2歳2か月で独歩獲得。尖足歩行あり、ボツリヌス治療を行っていた。5歳2か月当院初診時、独歩可能だが裸足では踵接地なく、立位は常に尖足位で静的立位保持は10秒未満であった。術前、SDR術後9か月(SEMLS後3か月)でMTS、 ROM、 GMFM、PEDI (移動)、COPM、EVGSを評価した。術前のMTS ・ROMで内転筋・ハムストリングス・下腿三頭筋の痙縮と足 関節拘縮を認め、DKE (右/左)-20°/-10°であった。COPMは母が改善を期待する作業項目を評価、重要度の高い順に「長距離歩行(1km)獲得、転倒回数減少、トイレでの開脚座位安定、カ ートの乗り降りの易化」であった。5歳4か月でSDR、5歳11か月で選択的筋解離術 (内転筋、大腰筋、大腿直筋、内側ハムストリングス)、Vulpius法施行。SDR後2か月間、SEMLS後1か月間入院し、理学療法を行った。

    【結果および経過】

    SDR後はアライメント矯正のためHKAFOを使用した立位・歩行練習を行った。また、痙縮筋の拮抗筋の活動を促すため、後ろ歩き練習を行った。術後50日で独歩再獲得、術後3か月時点で ICは前足部接地であった。SEMLS後は体幹・下肢の筋の協調を促すために下腿前傾を強調した起立練習を行った。日常生活に筋力強化の機会を組み込めるよう、退院前に家族と方法を検討した。MTSはSDR後にslow-fast stretchの差が減少し、 ROMは SEMLS後にDKE (右/左)10°/15°となった。SDR術前→術後9か月でGMFM-66B&Cスコアは65.3→68.3、PEDI尺度化スコアは66.2→75.2、COPMの平均遂行/満足度は 4.25/4.75→ 7.25/7.5となった。COPMの満足度は長距離歩行獲得が2点減点、その他は2点以上改善した。歩行はEVGSが 46→13点となり、踵接地や立脚期の膝伸展、遊脚期の足関節背屈の項目が2 →0もしくは1へ改善した。静的立位保持は1分以上可能となった。

    【考察】

    SDRとSEMLSにより痙縮と関節可動域が改善し、それぞれの状況に即した練習を行い、かつ日常生活に汎化されるよう家族指導したことで、歩行パターン改善と短期間での日常的な移動スキル向上に繋がったと考える。PEDIは屋内の移動速度・物品輸送の項目が改善し、COPMの転倒回数減少の満足度の改善と合わせ、歩行安定性の向上を示していると考える。一方で長距離歩行の満足度が低下しており、今後は歩行耐久性も評価していく。

    【倫理的配慮】

    対象児の保護者に、症例報告の趣旨と個人情報の保護について十分に説明し、書面にて同意を得た。

  • 西川 良太, 佐藤 紗弥香, 小松 昌久, 増田 智幸, 夏目 岳典, 大多尾 早紀, 那須野 翔, 竹内 史穂子, 白井 真規, 本林 光 ...
    原稿種別: 術後理学療法
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 154
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに,目的】

    痙縮に対する髄腔内バクロフェン療法 (ITB)は,本邦では歩行困難患者への施行が大部分であり,歩行可能症例に対してITBを施行された場合でも,歩行能力の低下が報告されている.一方で,ロボットスーツHAL®(HAL)による運動療法の効果として,歩行能力が向上することなどが報告されている.今回,痙性対麻痺を呈する歩行器歩行が可能な男児に対し, ITBを施行するとともに,HALを用いた集中的な歩行練習により,歩行機能の向上を目指した症例について報告する.

    【方法および症例報告】

    対象は14歳男性.幼児期からの精神運動発達遅滞を認め,5歳時にペリツェウス・メルツバッハ病 (PLP1遺伝子変異)による痙性対麻痺と診断.6歳時に腸腰筋・内転筋の腱切り術,7歳時にアキレス腱延長術を施行.ITB施行前は,歩行器歩行可能で GMFCSレベルIII,GMFM-88は56.4%,WISC-IV FSIQ47,弱 視 を認めている.下肢痙縮に対し筋緊張緩和薬の内服やボツリヌス施注療法を行うも効果は不十分であった.13歳時にITBトラ イアルで効果が確認され,14歳時にITBポンプ埋込術を施行.バクロフェンは12.5μg/日でコントロールを行った.術後3日から離床開始し,術後10日からHALを用いた歩行練習を平日は毎日1回の頻度で開始した.術後18日から34日まで一時退院,再入院後,HALでの歩行練習を同様に再開し,術後50日で退院した.HALを用いた歩行練習は,1回あたりの介入時間を休憩含めて40分から1時間程度とし,免荷装置を用いて本人とHALを吊り下げながら,病院内の廊下にて行った.HALの設定については,本人の歩容を観察し,歩きやすさを確認しながら,連続歩行ができるように調整をしつつ,歩行練習を行った.

    【結果および経過】

    歩行機能は短下肢装具 (AFO)なし・ありで評価した.評価結 果 (ITB施行前:HAL介入後)は,歩行速度[m/sec]は0.76: 0.83(AFOなし) 0.75:0.89(AFOあり),cadence[step/min]は 77.4:60.5(AFOなし) 73.8:57.5(AFOあり),Stride length[m]は1.18:1.68(AFOなし) 1.23:1.80(AFOあり), Stride duration[sec]は1.55:1.99(AFOなし) 1.64:2.10(AFOあり), Edinburgh Visual Gait Score (EVGS)の総合点は36: 35(AFOなし) 30:23(AFOあり),Timed Up and Go Test (TUG)[sec]は 17.7:14.5(AFOあり).粗大運動機能の評価結果として, GMFM-88[%]は56.4:58.3.筋緊張はModified Tardieu Scale[ °]で股関節屈曲R55/L40:R50/L30,外転R15/L15:R0/L0,膝関節屈曲R105/L100:R65/L70.家族への質問紙調査では 「家族の満足度」「精神的変化度」に関する項目で良好な結果を得られた.

    【考察】

    ITB施行により痙縮が緩和され,HALによる集中的な歩行練習を行ったことで,ITB前と比較して歩行速度やTUGが向上し, CadenceやStrideの歩行パラメータが変化し,歩行パターンの定量的評価であるEVGSも改善した.ITBで痙縮を軽減することで,痙縮を利用した歩行様式を一旦解除し,新たな歩行様式を運動学習するために,HALによる歩行練習を集中的に行ったことで,歩行機能の向上が見られたと考えられる.

    【倫理的配慮】

    本症例報告について,ヘルシンキ宣言に基づき,対象者および保護者に対して,目的や内容,撤回の自由と個 人 情報に関する十分な説明を行い,書面にて同意を得た.またロボットスーツHAL®の適応外使用に関して,長野県立こども病院倫理委員会にて 承認を得た上で実施した(承認番号 S-02-81).

  • 川原田 里美, 横山 恵里, 下山 論史, 福士 千尋, 上里 涼子, 吉川 圭
    原稿種別: 術後理学療法
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 155
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【目的】

    歩行可能な脳性麻痺児 (以下,CP児)に対する下肢筋腱解離術は下肢関節可動域 (以下,下肢ROM)や粗大運動能力の維持・改善を目的として行われる.CP児の下肢筋腱解離術後の運動機能の変化に関する報告は,術後1年までの粗大運動能力や歩行能力,下肢ROMの改善を示しているものが多いが,その後の経年変 化を調べているものは少ない.術後,運動機能が改善し維持される期間を知ることができれば,術後の介入やフォローアップを適切に行うことが可能となる. 本研究の目的は,CP児に対する下肢筋腱解離術後の下肢ROM,粗大運動能力の経年変化を調査することである.

    【方法】

    対象の選択基準は当センターで2006年4月1日~2017年3月31日の期間に下肢筋腱解離術を受けた手術時年齢18歳以下の痙直型 CP児.粗大運動能力の重症度分類 (Gross Motor Function Classification System,以下GMFCS)レベルI~IIに分類される歩行可能なCP児で術前および術後5年以上継続的に理学療法評価を受けている児とした. 診療記録から手術時年齢,性別,麻痺型,術式 (手術介入した筋腱)を調査し,術前から術後5年まで1年ごとの理学療法評価結果から以下のデータを収集した. (1)トーマス肢位での股関節伸展ROM (以下,股伸展), (2)膝窩角, (3)膝関節伸展位での足関節背屈ROM (以下,足背屈).下肢ROMは麻痺がつよい側の測定値とした. 粗大運動能力尺度 (Gross Motor Function Measure, 以下GMFM)の (4) 立位領域, (5) 歩行・走行・ジャ ンプの領域. (1) ~ (5) の評価データについて,術前および術後1~5年の6時点の経年変化の統計解析はFriedman検定を行い,有意差が認められた場合,術前と術後1年,術後1年と術後2~ 5年を比較するためにWilcoxonの符号付順位検定を行った.統計ソフトはR ver.4.0.3を使用し,有意水準は 5%とした.

    【結果】

    選択基準に該当したCP児は20名 (男児11名女児9名),GMFCSレベルはIが18名,IIが2名,手術時年齢は平均7.3±3.0 (3~ 12)歳,麻痺型は両麻痺15名,片麻痺5名.手術は症例ごとに異なるが,腓腹筋は全例,ハムストリングスは19名で延長,解離等を受けていた.すべての評価データはFriedman検定で有意差が認められた.術前と術後1年,術後1年と術後2~5年の検討では,股伸展は術後1年で改善しその後は維持,膝窩角は術後1年で改善していたが術後2年以降は低下していた.足背屈は術後1年で改善し術後2年まで維持していたが術後3年以降は低 下していた.GMFMの立位領域は術後1年で改善し,術後3,4, 5年でさらに改善がみられた.歩行・走行・ジャンプの領域は 術後1年で改善し,術後5年まで改善が続いた.

    【考察】

    GMFMは術後5年まで改善していた一方で,膝窩角は術後2年,足背屈は術後3年で術後1年の改善を維持していなかった.その要因として,CP児の歩行では遊脚期の膝関節屈曲,伸展,足背屈,蹴り出し時の膝屈曲,足底屈が少なく,ハムストリングスや腓腹筋の筋力を発揮できないことが推察される.また,下肢 ROMの術後の経年的な低下は術後5年までのGMFMスコアには反映されず,歩行の質的変化や高度な運動能力を捉える評価を加え,より長期の経過を追跡する必要がある.

    【倫理的配慮】

    本研究は青森県立あすなろ療育福祉センター倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2022-15).

  • 佐藤 紗弥香, 西川 良太, 小松 昌久, 酒井 典子, 本林 光雄, 大場 悠己, 高橋 淳, 三澤 由佳
    原稿種別: 術後理学療法
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 156
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    当院では2020年9月より信州大学医学部附属病院と連携し、重症心身障がい児における側弯症手術の手術前の包括的評価、および手術後管理をチームで行っている。理学療法士は、術前の評価と術後の呼吸理学療法や離床、在宅移行のための移乗・移動等の見直しを行っている。今回、側弯症手術後に生じたシーティングの問題に着目し、傾向を調査した。

    【方法】

    本調査は、2020年9月から2023年6月までに、重症心身障がい児に対して、後方矯正固定術を施行した症例を対象とした後方視的調査である。①術前の股関節屈曲角度、②Cobb角の矯正率 (側弯矯正率)、③術前後の腰椎前弯角 (T12-S1前弯角)の変化と、手術後に実施したシーティング調整との関係についてそれぞれ調査した。

    【結果】

    対象は重症心身障がい児の13例。患者背景は全例GMFCSⅤレベル、手術時年齢平均14±3.6歳 (8~22歳)、手術固定範囲8~ 15椎間 (上端Th2~9・下端L4~5)、術前股関節屈曲角度平均 92.1±25.3° (35~130°)、うち90°以下が8例 (35~90°)、 術前Cobb角平均123.2±20.9° (84.4~156.0°)、術後Cobb角平均74.1±22.4° (41.2~125.8°)、側弯矯正率平均40.1± 13.9% (7.5~56.6%)、腰椎前弯の角度変化平均14.6±48.6° (-41.5~114.7°)であった。術後に座角調整を必要としたのは5 例であった。 側弯矯正率と術後のシーティング調整との関係は明らかではなかったが、全例が脊椎固定により座位姿勢における前額面での側屈方向への姿勢の崩れが軽減し、頭部位置の変化が生じた。術後に座角調整を必要とした5例は、全例が術前股関節屈曲角度90°以下、かつ腰椎前弯角が術後に増強していた。腰椎前弯が減少した6例は座角調整を必要としなかった。また、術前に腰椎が後弯していた3例のうち、2例は股関節屈曲角度が65°以下であった。この2例は、術前後で座角拡大の調整を含むシーティングの大幅な変更が必要であり、術前よりもリクライニング角度を起こすことが困難であった。

    【考察】

    今回の調査結果から、術前股関節屈曲角度90°未満の児は、本手術で腰椎前弯方向への矯正と固定による体幹矢状面でのアライメントの変化が生じる場合、腰椎前弯を増強する矯正により骨盤前傾の変化が生じ、相対的に股関節の屈曲角度へ影響し、それまで使用していたバギーの座角の調整が必要となったと考える。また、股関節屈曲制限が著明で腰椎後弯位で代償して座位を保持している児の場合には、座角調整に伴いリクライニングのギャッチアップ角度に制限が生じ、術前同様の座位が困難となり、QOLが低下する可能性があることが示唆された。本手術は、呼吸機能の改善のため胸椎を後弯位に矯正する際に、相対的に腰椎を前弯矯正することが基本となるが、腰椎の前弯矯正の程度は股関節屈曲制限の有無も考慮してもらう必要があることが示唆され、腰椎前弯矯正をどの程度行うかは座位能力の維持という観点も考慮して検討する必要があると考える。

    【倫理的配慮】

    本調査は、長野県立こども病院 倫理委員会にて承認を受けた。

  • 松永 彩香, 加藤 太郎, 山野 真弓, 上村 亜希子, 宮崎 裕大, 原 貴敏
    原稿種別: 術後理学療法
    2024 年 2 巻 Supplement_1 号 p. 157
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに、目的】

    小児難治性てんかんに対する半球離断術等の外科的手術は、てんかん発作が軽減する一方で術後に片麻痺後遺症が残存することがある。しかし、術後の身体機能や片麻痺後遺症の経過や、理学療法に関する報告は少ない。今回、ラスムッセン脳炎による難治性てんかん患児の機能的大脳半球離断術 (以下半球離断術)後の理学療法経験を得たので、片麻痺後遺症の経過とともに報告する。

    【方法】

    症例は5歳1か月女児。3歳9か月で胃腸炎、3歳10か月で右上 肢のつっぱりとガクガクとした動きがみられた。その後、数回同様のエピソードあり、他院受診し精査加療するも改善せず当院紹介受診。4歳9か月でラスムッセン脳炎と診断され、左半球離断術施行。術後17日に自宅退院し、術後3か月に術後評価目的で入院された。

    【結果】

    術前は、Brunnstrom recovery stage (以下BRS)右上肢Ⅴ手指 Ⅴ下肢ⅥではあるがADLは年齢相応で、Modified Ashworth Scale (以下MAS)右下肢1+、Pediatric Evaluation of Disability Inventory(以下PEDI) (機能的スキル/介助者による援助)ではセルフケア58/26点、移動58/35点、社会的機能52/19点であった。術後2日目から理学療法再開し、BRS右上肢Ⅰ手指Ⅰ下肢Ⅰ、MAS右足関節2でADL全介助レベルであった。その後は発熱や嘔吐あり介入困難となった。術後7日目になると少しずつ活気が戻り、介助下で胡坐坐位が可能となる。術後8日目では介助立位まで実施するも右下肢の支持性は乏しかった。術後9日目でBRS右上肢Ⅰ手指Ⅰ下肢Ⅱ、MAS右膝1足2となり歩行練習開始したが、膝折れあり数歩で終了した。一方でバギー離床を開始した。術後10日目で短下肢装具を装着して歩行練習を開始した。術後14日目で起居が可能となり、装具なしでの歩行練習を5~6m実施した。術後15日目でBRS右下肢Ⅲとなり、歩行も後方介助で60~70m程度可能となった。座位が安定したため、バギーから普通型車椅子に変更し、術後17日で自宅退院された。術後3か月では、BRS右上肢Ⅳ手指Ⅲ下肢Ⅲ、MAS右上肢1手指1足関節2、PEDIはセルフケア70/33点、移動59 /35点、社会的機能51/16点であった。右不全麻痺は残存しており、歩行は右尖足、走行はスキップであった。

    【考察】

    術後は、一時的に右弛緩性麻痺が生じ、その後痙性麻痺へ至った。装具療法を取り入れたが、本人の嫌がりや早期退院により継続できなかった。乳幼児期の半球離断術においては、脳の可塑性により健側半球の代償で機能回復が見込まれる場合があるが、術後3ヶ月後評価では退院時の麻痺の改善を認められず、 PEDI点数は一部改善したが代償動作が定着した。半球離断術後の自立歩行獲得において装具療法の重要性を説明した文献もあり、術後の装具療法について積極的に導入するべきだったかもしれない。そのためには、術前から保護者に対する装具療法の重要性の説明や患児が装具に慣れる練習が必要だと感じた。また、退院後は他院でリハビリテーション治療の継続を予定していたが、実施していなかった。そのため、退院後のフォローアップの重要性を感じた。

    【倫理的配慮】

    対象者および保護者に研究目的と内容を口頭で説明し、同意を得た。

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