日本救命医療学会雑誌
Online ISSN : 2758-1055
Print ISSN : 1882-0581
37 巻
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巻頭言
疫学調査
  • 浦瀬 篤史, 上田 敬博, 生越 智文, 岩本 博司, 福田 隆人, 一ノ橋 紘平
    2023 年37 巻 p. 1-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/08
    ジャーナル フリー
    【背景】
     全国的に熱傷患者はIH (電磁誘導加熱 : induction heating) や温度設定式給湯器などの普及や, 安全技術の進歩により減少している. 熱傷センターを開設して1年が経つが, 南河内地域を診療圏とする当センターには多くの小児熱傷の患者が受診・搬送されている. 熱傷患者が減少している昨今, なお発生する小児熱傷の原因を精査して発生予防や啓発のためこれらを分析した.
    【対象と方法】
     2018年9月から2019年9月までに当センターに搬送された熱傷患者は60例で, そのうち18歳未満の23例の小児熱傷について就学児と未就学児の2群に分けて, 性別・TBSA (熱傷面積 : Total body surface area), 受傷時間, 受傷機転について有意差の有無を評価した. 全ての検定はEZR (埼玉, 日本) を用いて行った.
    【結果】
     主要評価項目として, 未就学児と就学児間で, TBSA には有意差を認めなかった (P=0.78) . しかし, 未就学児に比べて就学児では男児の割合が多かった.
     23例の受傷機転としては高温液体によるものが16例と最多であった. 高温液体による受傷の多くは食事時間と重なっており, 夕食時が最多であった.
    【考察】
     小児熱傷では重症例は少なかった. 未就学児童が多く, 食事時間帯に好発し, 高温液体による受傷が最多であった. これらの情報を基に注意喚起するべきだと考えた.
症例報告
  • 佐藤 健太郎, 北野 夕佳, 遠藤 渉, 吉田 徹, 藤谷 茂樹, 平 泰彦
    2023 年37 巻 p. 7-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/08
    ジャーナル フリー
     壊死性筋膜炎の死亡率は高く, また18.4%の症例で患肢切断が選択され, 機能予後も不良となりやすい. 今回, S.pyogenesによる若年女性の急速に進行する下肢壊死性筋膜炎に対して, 患肢を切断せずに温存した症例を経験した. 来院後, 速やかに患肢の大腿近位部に対してデブリードマンをしたが, 感染範囲拡大の為, 同日にデブリードマンを追加した. 感受性が判明し次第, ペニシリンGに変更した. その後, 炎症が下腹部に波及し股関節離断術検討されたが, 患者のQOLおよび股離断の予後が不良であるため, 整形・泌尿器・消化器・婦人科合同の徹底的なデブリードマンを行い, 患肢を温存した. 多剤耐性P.aeruginosaが創部から検出されたが, 全身状態, 創部状態の悪化がなく定着と判断し抗菌薬を温存することで, さらなる耐性菌の出現を防ぎ植皮術を施行できた. 本邦の報告では, 下肢から体幹へ感染が進展した症例のうち, 切断せずに救命できた症例は存在しなかったため, 下肢を温存して社会復帰しえた壊死性筋膜炎の一例を経験したので報告した.
解説
  • 大野 雄康
    2023 年37 巻 p. 14-22
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/10
    ジャーナル フリー
     Physician-scientistとは,臨床現場で医師として働きながら基礎医学研究を行い,基礎と臨床の橋渡しをする研究者である.救命救急の臨床現場で日々患者に向き合い,真剣に臨床に取り組んでいると,ふと「この生命現象はなぜ起きるのだろう」と疑問が湧いてくる事がある.第一線の臨床現場から出てくるこのような疑問こそが,真に重要な「問い」であり,この「問い」の検証こそがphysician-scientistが行わなければならない研究である.基礎医学と実臨床を橋渡しするためには,両方の世界を知っていなければならない.救命救急医がやらなければならない基礎研究は,確実に存在している.
     筆者は救命救急医としてのキャリアを積むなかで,「なぜ重症患者に骨格筋萎縮が発生するのだろう」という臨床的な疑問を抱くようになった.この疑問を解決するために,薬理学の大学院に入学し基礎研究を進め,この「問い」に自分なりの回答を見出すことができた.そこで得た経験と,仲間と「一緒に大切な事を成し遂げた」経験は,自分にとってかけがえのない財産である.
     基礎研究の醍醐味は,分子レベルから疾患のメカニズムを明らかにし,その本態にせまり,このような「問い」にクリアに答えることにある.臨床研究よりもデザインの制約は少なく,自由度が高い.さらに処置群と対照群の背景をそろえることができるため,きれいな結果が期待できる.
     しかし基礎研究の大部分は,実験室での地道な手作業に費やされ,時間も費用も労力もかかる.多大なコストを払って行った実験が結果にたどり着かず,失意を味わうこともある.筆者自身「こんなこと,やめてやる」と思ったことは,1度や2度ではない.しかしそれでもなお,地道な努力や苦労の結果得た,「新しい発見」の喜びは何にも代えがたいものである.
     輝かしい「救命医療の未来」を作るために,そのようなphysician-scientistの存在はかかせない.さて,あなたにとってphysician-scientistは良い選択だろうか? 本稿では,筆者の経験を踏まえ判断材料を提供する.
原著
  • 清水 光治, 若杉 雅浩, 渕上 貴正, 波多野 智哉, 川岸 利臣, 松井 恒太郎
    2023 年37 巻 p. 23-28
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル フリー
    【目的】
     院外心肺停止への器具を用いた気道確保の是非や最適なタイミングには, いまだ十分なエビデンスがない. JRC蘇生ガイドライン2020では初期心電図波形と関連づけての器具を用いた気道確保の実施タイミングの検討が必要としている. そこで実際の病院前救護での器具を用いた気道確保完了時間に影響を与えている因子を明らかにする目的で本研究を実施した.
    【方法】
     2013年1月から2021年12月の9年間に白山野々市広域消防本部管内での全心肺停止事案のうち, 外因性を除き内因性かつ器具を用いて気道確保された事案を対象とした. 気道確保完了時間に影響を与える可能性のある因子 (電気的除細動適応可否, 発生場所, 出動隊員数, 救急救命士乗車数, 実施特定行為内容) について, 気道確保完了時間の中央値を算出し, 求めた中央値を基準に器具を用いた気道確保完了時間が短時間群と長時間群の2群に分けて比較検討した.
    【結果】
     調査対象となった全心肺停止傷病者事案は880件, うち検討対象となった事案は542件であった. 器具を用いた気道確保完了時間の中央値は4分 (最小値1分-最大値24分) であった. 単変量解析では救急救命士2名以上乗車群は救急救命士1名乗車群に比べて (p<0.01), 活動隊員4名以上群は3名群に比べて (p<0.05), 有意に器具を用いた気道確保完了時間が早い結果となった. さらに, 多変量解析を行ったところ, 救急救命士乗車数2名以上 (vs 1名, オッズ比2.809 [95%信頼区間1.889-4.179]) が気道確保完了時間に影響していることが明らかとなった.
    【考察】
     救急救命士が2名以上乗車することで, 並行して器具を用いた気道確保および静脈路確保・薬剤投与の処置を行えたため, 1名乗車に比べて器具を用いた気道確保完了時間が有意に早い結果となったと考えられる.
    【結語】
     病院前救護における気道管理戦略において, 単に乗車人数を増やすのではなく, 救急救命士の乗車人数の増加が迅速な器具を用いた気道確保に繋がることが示唆される.
症例報告
  • 一番ケ瀬 博, 上田 敬博, 松尾 紀子, 松田 健一, 大河原 悠介, 山本 章裕, 木村 隆誉, 亀岡 聖史, 吉岡 早戸, 生越 智文 ...
    2023 年37 巻 p. 29-34
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/15
    ジャーナル フリー
     世界的に報告の少ない高濃度酢酸の誤飲中毒症例を経験したので報告する. 患者は70歳の男性で, 高濃度酢酸 (99%) を酩酊状態で50mL程度誤飲した. 炎症反応と腎障害の悪化をきたしたため当院に転院搬送となった. 初診時にはバイタルは安定していたが, 喉頭浮腫があったため気管挿管を実施した. 腐食性食道炎による穿孔リスクを考慮して転院日 (摂取3日目) の内視鏡検査と経鼻胃管の挿入は差し控えた. 腹部造影CT検査では食道壁のびまん性肥厚と胃壁の菲薄化があった. 急性腎障害に対して腎代替療法を導入したが, 3日間で離脱した. 入院9日目に初回の上部消化管内視鏡検査を行い腐食性食道炎はZargar2Aで, 胃内は体部から前提部にかけて広範な潰瘍形成があった. 支持療法継続により入院17日から嚥下リハビリを開始し, 入院30日に全身状態良好で当院消化器内科への転科となった.
症例報告
  • 一番ヶ瀬 博, 上田 敬博, 松尾 紀子, 松田 健一, 大河原 悠介, 山本 章裕, 亀岡 聖史, 木村 隆誉, 吉岡 早戸, 生越 智史 ...
    2023 年37 巻 p. 35-40
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/15
    ジャーナル フリー
    本邦では報告の少ないネコ咬傷により発症したと考えられるCapnocytophaga による敗血症性ショックを経験したので, 治療の変遷と反省を踏まえて報告する. 症例は69歳男性で受診の4日前に自宅で飼っているネコに右手背を噛まれた. その後, 自宅で経過観察していたが, 発熱などの全身状態悪化を認めて救急搬送された. 初診時は発熱を伴うショック状態であったが, 右手背の咬傷創の局所所見は軽度であった. 当初はパスツレラ感染症を念頭に治療を行っていたが, 臨床経過が一致しないことと, 後の血液培養での菌種の形態学的特徴が一致しない点から疑義が生じた. あらためて病歴と臨床像, 検出菌の形態学的特徴を考慮して検討し, Capnocytophaga 感染症を治療対象とした. Capnocytophaga 感染症は重症感染症を引き起こすことがあり, 本症例でも昇圧薬を要するショック, 播種性血管内凝固症候群, そして急性腎障害をきたした. 初診時からカルバペネムで治療を開始しており, Capnocytophaga もカバーされていたことから全身状態は軽快し, 16日目に自宅退院となった.
症例報告
  • 稲田 雅美, 大野 雄康, 山田 勇, 小谷 穣治
    2023 年37 巻 p. 41-47
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/17
    ジャーナル フリー
     胃大網動脈瘤は腹部内臓動脈瘤の中でも, 最も稀なタイプである.その希少さゆえ, 胃大網動脈瘤破裂のマネージメントは確立していない.
     顕微鏡的多発血管炎を持つ64歳女性が免疫抑制療法強化のために入院中, 腹痛を訴えショックに陥った. 造影CT検査で右胃大網動脈瘤破裂と大量腹腔内出血を認めた. 血管造影室に到着後まもなく, 心肺停止に移行した. 直ちに胸骨圧迫, 人工呼吸, 大動脈内バルーン遮断 (resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta, 以下REBOAと略す) による一時止血, 右胃大網動脈塞栓術による止血を行い蘇生した. 胸骨圧迫の合計施行時間は約35分であった. 経過を通してREBOA関連合併症は出現せず, 術後11日目, 中枢神経学的後遺症なく集中治療室退室した.
     REBOA併用下に経カテーテル動脈塞栓術を行い,心肺停止に陥った右胃大網動脈瘤破裂症例を予後良好に蘇生できた.内因性腹部内臓動脈瘤破裂の蘇生に,REBOAを積極的に考慮すべきである.
症例報告
  • 松本 尚也, 森田 知佳, 林 伸洋, 山下 光, 坂平 英樹, 高岡 諒, 酒井 哲也
    2023 年37 巻 p. 48-53
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル フリー
     肋骨骨折に対する疼痛管理は非常に重要であるが, 肋骨骨折に対する肋間神経ブロックの報告はあまりされていない. 肋間神経ブロックが有効であった肋骨骨折の4症例について報告する. 非ステロイド性抗炎症薬, アセトアミノフェン, オピオイドにて疼痛コントロールが十分ではなかった症例に対してエコー下に肋間神経ブロックを行った. エコーにて骨折部を確認, その中枢側の肋間神経周囲に局所麻酔薬を注入した. いずれの症例もブロック後に疼痛は軽減し, 鎮痛剤の増量を必要とした症例はなかった. 神経ブロックによる合併症は認めなかった. 作用機序が異なる鎮痛によるmultimodal analgesiaにより良好な疼痛コントロールが得られたと考えられる. 肋骨骨折に対する肋間神経ブロックは, 周術期の疼痛コントロール, 非手術症例における疼痛コントロールの手段の一つとして有用な可能性がある.
症例報告
  • 濱口 満英, 北岸 英樹, 末岐 浩一朗, 田中 敬祐, 坂田 育弘
    2023 年37 巻 p. 54-58
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル フリー
     症例は40代男性. 仕事中に突然の激烈な腰背部痛が出現し, 二次救急病院である当院へ救急搬送となった. 来院時は, 意識レベルは清明であったが, 血圧は181/120mmHgで冷汗を伴う状態であった. 詳細は不明であるが腎機能障害を指摘されているとの報告があり, 生理食塩水で静脈路確保を行い採血にて腎機能評価を行いながら診療を行った. 胸部X線写真, 心電図, 腹部超音波検査で異常所見を認めなかったが, ソセゴン (ペンタゾシン) 15mg投与でも症状軽減を認めなかった. 大動脈解離などの血管病変を疑ったが, 造影剤腎症の発症を懸念し造影CT検査施行の判断に難渋した. 正確な診断が必要であること, 緊急度が高いと判断したことから腎機能評価前であったが, 本人に造影剤腎症に関する説明を行い, 造影CT検査を施行し, 上腸間膜動脈解離の診断に至った. その後は, 入院にて降圧療法を行い, 結果的に造影剤腎症は発症しなかった.
症例報告
  • 杉本 貴史, 大野 雄康, 安藤 維洋, 関 恒慶, 山田 勇, 小谷 穣治
    2023 年37 巻 p. 59-65
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル フリー
     フクジュソウの全草には, 強心配糖体構造をもつシマリンやアドニトキシンが含まれている. フクジュソウ中毒の報告は少なく, その臨床像は十分に理解されていない. 腎機能障害のない54歳の邦人女性が, ホームセンターで購入したフクジュソウ全草2株を風乾させ, 煎液を自殺目的に摂取した. 摂取8時間後, 嘔気嘔吐を主訴に当院に救急搬送された. 来院時心拍数40回/分の徐脈を認め, 興奮し多弁であった. 12誘導心電図でMobitz II型の2度房室ブロック, およびⅡ, Ⅲ, aVf, V2–4誘導にジギタリス効果様のST盆状低下を認めた. 摂取11時間後, 心拍数25回/分の徐脈と血圧低下を発症したが, アトロピン硫酸塩1.0mg静脈内投与により改善した. 摂取24時間後, 中枢神経症状が軽快し, 次いで摂取72時間後, 消化器症状およびジギタリス中毒様の心電図変化が改善し第5病日に後遺症なく独歩退院した. フクジュソウ中毒では,ジギタリス中毒同様の重症不整脈が起きる可能性があり, 注意が必要である.
症例報告
症例報告
  • 村上 博基, 佐藤 聖子, 小林 智行, 白井 邦博, 小濱 圭祐, 平田 淳一
    2023 年37 巻 p. 70-74
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/25
    ジャーナル フリー
    目的: 膵仮性動脈瘤は膵炎のまれな合併症であり, その発生時期は数日から数年のものまであり診断に注意を要する. 今回, 当院で経験した6症例を対比し, 膵仮性動脈瘤の発生する症例の特徴を明らかにすることを目的に検討した. 方法: 2016年1月から2022年4月までに当院で経験した膵仮性動脈瘤症例6例を対象とした. 結果: 発生要因は4例が膵炎, 2例が術後膵液瘻であった. また, 膵頭部近傍の膵仮性動脈瘤に破裂する症例がみられた. 全例血管塞栓術で治療されていた. 結語: 膵頭部近傍の仮性動脈瘤は破裂の危険性が高いが, 早期発見により動脈塞栓術で対処できる可能性が高い.
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