日本救命医療学会雑誌
Online ISSN : 2758-1055
Print ISSN : 1882-0581
36 巻
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巻頭言
原著
  • 田北 無門, 吉田 徹, 尾崎 将之, 川口 剛史, 森澤 健一郎, 平 泰彦, 藤谷 茂樹
    2022 年36 巻 p. 1-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/01
    ジャーナル フリー
    【目的】集中治療室Intensive Care Unit (ICU) を生存退室した高齢者のHigh Care Unit (HCU) 在室日数への影響因子とその対策について検討する.
    【方法】2014年4月1日から2016年3月31日にかけて, 聖マリアンナ医科大学病院ICUを生存退室し, ステップダウンユニットであるHCUに入室した65歳以上の患者を対象に, 死亡とHCU在室日数に関わる因子について検討した.
    【結果】対象患者は186例であった. HCUでの死亡率は14.0%であり, 多変量解析ではICU入室理由が心肺停止蘇生後であることが独立した予測因子であった (p<0.01). HCU在室日数は中央値で7.0 [3.0-13.3]日であり, 多変量解析では, 年齢が85歳以上であること・ICU入室理由が消化器系疾患ではないこと・ICU入室時のSAPSⅡが高いことが, HCU在室日数延長の予測因子であった (p=0.03, 0.01, 0.01).
    【考察・結語】ICUを生存退室できた高齢者群において, 年齢が85歳以上, もしくは重症度スコアが高い高齢者はステップダウンユニットであるHCUでの在室日数が長くなることが予想される.
症例報告
  • 柳澤 薫, 前田 敦雄, 柿 佑樹, 高安 弘美, 中島 靖浩, 佐々木 純, 土肥 謙二, 林 宗貴
    2022 年36 巻 p. 10-13
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
    症例は43歳, 女性. 意識障害を理由に救急搬送され, 直後に痙攣重積状態となった. ジアゼパム10mg投与で痙攣は頓挫した. 入院中はミダゾラムの持続投与による鎮静とレベチラセタム1000mgの点滴投与を開始した. 第2病日に40℃の発熱, 脈拍130bpmの頻脈と血中CK 4012 IU/L, 血中ミオグロビン7671ng/mLと筋逸脱酵素上昇を認めた. 翌第3病日にも発熱, 頻脈の遷延に加えて筋強剛が出現した. 血液検査でも筋逸脱酵素上昇が遷延しており, 抗精神病薬内服歴もあることから悪性症候群と診断し, 補液とダントロレンナトリウム40mgの投与を開始した. 第3病日に急激に心機能低下を認め, 経皮的心肺補助装置 (以下V-A ECMO) の導入準備中に心肺停止に至った. その後, 徐々に全身状態は改善し, 第8病日にV-A ECMOを離脱し, 第13病日からダントロレンナトリウムの減量を開始した. しかし, 第17病日に38℃の発熱と筋逸脱酵素上昇を認め, 悪性症候群の再燃と判断した. 減量していたダントロレンナトリウムを120mgまで増量し, ブロモクリプチンメシル酸塩は7.5mg×3回/日で投与を開始した. その後, 症状の再燃はなく全身状態が安定し, 第52病日に療養目的で転院となった. 悪性症候群では発熱, 筋強剛など非特異的な症状が散見されるが, 本症例のように心停止に至り, 再発することで全身状態悪化を呈した症例報告は少ない. 悪性症候群は体内のカテコラミン産生に寄与している可能性があり, たこつぼ心筋症を発症した際には循環動態が崩れる危険性が高い. そのため, 悪性症候群を考慮した際は早期から補液とダントロレンナトリウム投与を開始する. ダントロレンナトリウム投与にも関わらず, 身体所見と血液検査から効果不十分であると判断した際はドパミン受容体作動薬の追加投与も早期から行うべきである.
研究短報
  • 吉田 稔, 平 泰彦, 尾崎 将之, 斎藤 浩輝, 吉田 徹, 桝井 良裕, 藤谷 茂樹
    2022 年36 巻 p. 14-18
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
     集中治療領域での分離肺換気 (independent lung ventilation, 以下ILV) は稀であり, 適切な呼吸器設定は不明である. 近年, 人工呼吸器関連肺障害に関連する因子を統合したエネルギー量を示すMechanical power (以下MP) が注目されている. MPは駆動圧や1回換気量に加え, 呼吸数, 最高気道内圧から計算され, MPと死亡率の関連が報告された.
     われわれは片側に偏った重症肺炎2例に対し, double-lumen tubeを用いて左右別々の呼吸器設定で患側肺のrest lungを念頭においたILVを行い, 良好な結果を得た. ILVでの肺保護戦略を探索するため, MPを用いて後ろ向きに2例を検証した.
     ILV後の左右合計したMPはILV前に比べ低減した (症例1: 28.7 J/分→9.3 J/分, 症例2: 8.8 J/分→5.2 J/分). また, 障害肺のMPは1.0 J/分以下であった (症例1: 0.1 J/分, 症例2: 0.7 J/分).
     患側rest lungの設定では, 左右合計のMP はILV前と比較し低減, さらに, 患側のMPは1.0 J/分以下であった. ILVによる患側rest lungが健側に大きな影響を及ぼさずに管理でき, MPの観点からも, 適正な人工呼吸器設定であった可能性が示唆された.
症例報告
  • 吉直 大佑, 菅 重典, 高橋 学, 児玉 善之, 森野 豪太, 山田 裕彦, 眞瀬 智彦
    2022 年36 巻 p. 19-24
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/08
    ジャーナル フリー
     症例は58歳女性. 発熱, 倦怠感, 四肢のしびれを主訴に前医を受診し, 敗血症性ショックと診断されて当院へ紹介受診となった. 来院時の身体所見から末梢冷感著明で, 口唇や耳, 四肢末梢優位にチアノーゼや網状斑が散在しておりコールドショックが疑われた. 検査所見からは, 多臓器障害および播種性血管内凝固障害に至っていると考えられた. 当院にて尿中肺炎抗原陽性で前医からの血液培養でも肺炎球菌が検出された. CT画像で脾臓低形成を認めた. 以上より侵襲性肺炎球菌感染症に伴うコールドショック/敗血症性ショックによる電撃性紫斑病と診断した. 来院時よりコールドショックを認識して多角的に治療を行った. 入院後7日目には急性期治療を終了し, その後四肢末梢の壊死領域の固定化を待ち, 36日目に左第5足趾のみ壊死足趾として断端形成術を施行し, 51日目にリハビリ転院となった. コールドショックを早期に認識し治療することで救命できただけでなく左第5足趾切断のみで四肢を温存できた.
原著
  • 垂又 修一, 高橋 未来, 丹保 亜希仁
    2022 年36 巻 p. 25-34
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー
    【背景】新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の流行が続いている.当地域ではJPTECをはじめとする各コースを通じ, 救急医療に関わる消防職員と医療機関職員との間で顔の見える関係が構築され, 活発な意見交換を行っていた.しかし, COVID-19流行に伴いコースは軒並み中止となり, 以前のような日々生じる疑問の解決や意見交換の場は激減した.そこで, 代替手段としてオンラインでの意見交換会を実施した.本研究はオンライン意見交換会が消防職員と医療機関職員の日常業務に効果を及ぼすか否かを明らかにすることを目的として行った.
    【方法】対象は地域救急医療に携わる医療従事者12名 (消防職員7名, 医療機関職員5名) で, オンラインでの意見交換会は, 2020年5月~2022年5月の間に計10回実施した.内容は, 現場判断に苦慮した症例の検討, 災害発生時のオンラインシミュレーション, 後進育成に関する意見交換など, 多岐にわたった.効果の検討はアンケート形式で行い, COVID-19流行前後および意見交換会実施前後での主観的指標の変化を解析した.
    【結果】意見交換会の実施は日々の活動・業務の中で感じる孤独感や疑問・不安の低減および意欲の増加, 所属での教育・実務における知識の活用につながり, 参加者全員がCOVID-19流行収束後も継続することを希望した.
    【考察】COVID-19流行下においてオンラインを用いた意見交換会は, 孤独感の軽減や知識・技術習得への動機づけに一定の効果があることがわかった.また, この手法はCOVID-19流行収束後であっても場所に縛られず意見交換が可能であり, 特に人口密度が希薄で広い医療圏を有するわれわれのような地域においては有効な手段と考えられた.今後も活動を継続し, その成果を発信していきたいと考えている.
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