長久手南クリニックでは2017 年4 月から認知症外来初診患者に対して分子栄養学に関わる
血液検査を施行して,各項目に対する血中濃度に基づき,薬物補充治療および栄養食事指導を開始し
た.【方法】血中アルブミン,ビタミンB1,ビタミンB12,葉酸,鉄(フェリチン,TIBC),亜鉛,
コレステロール,中性脂肪値を測定して,測定値に応じた分子栄養薬物補充療法,分子栄養食事指導,
「リーキーガット症候群(腸漏れ症候群)」の合併が疑われる患者に対してグルテン・カゼイン除去食
事指導を行った.【結果】ビタミンB 群については,認知症患者4 人に1 人はビタミンB1欠乏症,10
人に1 人はビタミンB12欠乏症,5 人に1 人は葉酸欠乏症を合併すること,典型的な症状を伴わず認
知症のみが主訴であるビタミンB 欠乏症が存在した.ビタミンB1欠乏症の薬物治療による補充療法
を行うことで易怒性を改善することが出来,ウインタミンなどの抑制系薬剤を減量出来た.ビタミン
B12欠乏症は,ビタミンB12を含む肉や魚介類などの食事量低下が原因であり,メチコバール内服で治
療出来ることも少なくなかった.しかし,胃癌や胃潰瘍などに対して胃全摘を行った場合は,メチコ
バール内服では治療出来ず,シアノコバラミン筋注が必須であった.ビタミンB12欠乏症・葉酸欠乏
症は血中ホモシステインを増やすため全身血管で動脈硬化の原因になる.亜鉛欠乏症は,92%(289
名中269 名)に認められた.認知症専門外来初診患者289 名について亜鉛血中濃度(正常値80~130
μg/dL)を測定すると平均63 μg/dL,92% で80 μg/dL 未満,すなわち,亜鉛欠乏症と診断された.
鉄欠乏症(フェリチン正常値50~100 ng/dL)は,TCA サイクルによるATP 合成阻害だけでなく,
B3・B6・葉酸(B9)欠乏と共にドーパミン・ノルアドレナリン合成阻害によるパーキンソン症状・発
達障害,セロトニン・メラトニン合成阻害による鬱病・パニック障害・不眠症を引き起こす.中性脂
肪(TG;正常値30~149 mg/dl )高値は,パンや麺,スイーツなど糖質過剰摂取による高血糖が原
因であり,TG 高値が続くと動脈硬化,脂肪肝および皮下脂肪として体重増加,最終的にはHbA1c
高値を伴う糖尿病に繋がる.最近ではリーキーガット症候群(LGS)に対するグルテンフリー・カゼ
インフリー(GFCF)ダイエットを分子栄養学的食事指導に加えている.グルテンおよびカゼイン除
去食により認知症,発達障害,パーキンソン症状,自己免疫疾患,アレルギー症状,消化器症状,肥
満随伴症状の改善が得られた症例を多数経験した.一方で除去食による低タンパクにより鬱症状や語
義失語が悪化した症例も経験した.認知機能低下血中アルブミン(正常値4.1~5.0 g/dl )は分解され
てアミノ酸となり脳神経伝達物質が作られるため4.3 g/dl 以上を食事指導している.コレステロール
の4 分の1 は脳に存在する.コレステロール低下はミエリン鞘および細胞膜の機能低下を介して認知
機能低下の原因になる.従って,65 歳以上高齢者には高脂血症治療薬スタチンは投与してはならな
い.総コレステロールは200 mg/dL 前後を維持すべきである.【結論】以上から,認知症の発症や
悪化は,ビタミン欠乏症,亜鉛欠乏症,鉄欠乏症,アルブミン欠乏症,医原性コレステロール欠乏症
などの何らかの脳の栄養障害が契機と言える.認知症改善のためには抗認知症薬を投与する前に分子
栄養学に基づく薬物補充療法・食事指導およびグルテン・カゼイン除去を行うことが必須である.
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