IMF(国際通貨基金)及びEU(欧州連合)の執行機関であるEC(欧州委員会)においては,一国の財政の持続可能性やソブリンリスクを定量的に評価する取組みが行われているが,その評価手法は,過去20年間にわたり,現実に生じた様々な財政面のショックに対応するために大きく変化してきた。2000年代初頭には,分析の時間的視野や評価に用いる指標等は,それぞれ全く異なるものであったが,近年は,財政の持続可能性やソブリンリスクの評価手法について,ある程度まで収斂する方向での動きが見られるようになっている。
短期的なソブリンリスクの評価に当たっては,様々な財政や経済の指標を組み合わせた指標によってリスクを機械的に評価する手法が採用されている。また,中期的なソブリンリスクの評価にあたっては,現実的な前提に基づく政府債務見通し(DSA)や確率的に計算された政府債務見通し(SDSA)を用いることが,IMFとECのいずれにおいても基本とされている。また,IMFでは,ソブリンリスク発生に対する予測力を踏まえて,機械的にリスクの大きさを評価した上で判断するアプローチが積極的に採用されている。長期的な財政の持続可能性については,ECにおいて,年金・医療・介護等の年齢関係支出の見通しを踏まえた定量的指標(S1,S2)を用いた評価が行われている。
財政の持続可能性について,IMFやECで採用されているフレームワークに基づく評価の結果は,あくまでもあるべき政策を考える際の出発点にすぎないものであるが,現在の政策の将来に向けた持続可能性を考える上での重要なインプットと言える。過去に生じたイベントの発生予測力に基づいて計算される機械的評価の結果は,将来のソブリンリスクを完全に予測できるものではないことには留意が必要であるが,中期的なソブリンリスクの評価にあたり,「ベースライン」の政府債務見通しについて様々な手法に基づき現実妥当性を確認することや代替的なシナリオを設定すること,確率的な政府債務分布を作成してベースラインの現実妥当性を確認することや将来の政府債務の大きさの取り得る幅を示すことは,様々な可能性の下でのリスクの大きさを可視化することに資するものであり,日本における財政の持続可能性を評価する上でも重要な示唆を与えるものである。
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