フィナンシャル・レビュー
Online ISSN : 2758-4860
Print ISSN : 0912-5892
152 巻
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 中里 実, 神山 弘行
    2023 年 152 巻 p. 1-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/24
    ジャーナル フリー
  • ―Kaplow & Shavell の“double distortion” テーゼ再訪
    藤谷 武史
    2023 年 152 巻 p. 4-29
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/24
    ジャーナル フリー

     「法と経済学」(法の経済分析)の分野の古典的業績に数えられるのが,「厚生主義(welfarism)の下では,法制度は効率性のみを追求し,所得分配の不公平性の問題は専ら税制および財政的給付(tax and transfer)を通じた所得再分配によって対応すべきである」という命題を提出した,Kaplow & Shavell (1994)(以下,「KS1994」)である。KS1994は,米国を中心とする「法と経済学」の研究者に幅広く受容された一方で,所得分配の問題に関心の強い論者からは,法と経済学が専ら法の効率性の観点を重視し,所得分配の公平の問題を等閑視することに免罪符を与えるものとして,批判の対象となってきた。しかし,わが国では,こうした論争自体,必ずしも広く知られているとは言えない状況にある。

     本論文では,この缺を補うべく,関連文献を渉猟して,米国におけるKS1994をめぐる論争から得られた理論的蓄積を整理し(その際には,議論の拡散を避けるため,広い意味での厚生主義に依拠する陣営内部での論争に焦点を絞ることとした。),特に同論文の命題の射程を検討した。

     検討の結果,以下の諸点が明らかとなった。まず,厚生主義者でKS1994の成果を全面的に否定する者は見当たらず,批判のほとんどは,KS1994が理論モデルから言える範囲を超えて一般的な射程を持つ「かのように語られる」点に向けられていた。理論モデルから言える範囲では,KS1994の結論は穏当ですらある。たとえば,KS1994は,「所得」以外の不平等について法制度が対応することについては否定も肯定もしておらず,衡平を考慮した法的権原(entitlement)の分配もKS1994の理論モデルからは必ずしも排除されない。また,KS1994が成り立つ条件も実は限定されている。例えば,所得再分配の手段としてみた場合に常に「所得税+給付」が優れているとも限らず,政治的に利用可能な手段であるとも限らない。論争を通じて明らかとなったこれら諸点は,いずれもKS1994が十分に述べなかった理論モデルの留保条件や射程を明らかにし,KS1994を理論的に補完するものである。ただし,政策的指針として見た場合には,「これら理論的留保により補完されたKS1994」がそのオリジナルの形態に比べて,簡明さゆえの魅力を大きく損われたものになっていることは否定しがたい。

  • :GAFA 課税問題と才能課税問題との接点に関する試論
    浅妻 章如
    2023 年 152 巻 p. 30-56
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/24
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     国際租税法における企業課税をめぐり,伝統的には生産地基準で所得の地理的割当を観念してきた。そこでいう生産地基準とは,人,機械,工場等の有形の生産要素の稼働が from what の意味での所得源泉であり,その場所が from where の意味での所得源泉である,という考え方である。所得の地理的割当と,移転価格税制で独立当事者間原則により導かれる所得の人的帰属とは,異なる。しかし,21世紀に入り,独立当事者間原則を微修正し,有形の生産要素の稼働を重視する傾向が生まれつつある。他方,国家間課税権配分に需要地基準を取り入れようとする議論が,1990年代以降学界で,2018年以降は政府代表者レベルで,論じられるようになってきた。生産要素に着目して課税関係を決めることへの懐疑といえる。

     個人に関する最適課税論は,地理的な視点を含まない点で国際租税法と異なる。しかし,生産要素に着目する伝統的な考え方に対し,事後的な結果も考慮に入れる考え方の意義が論じられるようになってきた,という点で,共通点がある。また,国際租税法における需要地基準への期待の高まりも,個人の最適課税論における事後的な結果の重視の姿勢も,GAFAのような勝者総取り的な企業の所得や,個人に関するスーパースター効果のような勝者総取り的な所得への対応という観点から,正当化しうる。

  • 長戸 貴之
    2023 年 152 巻 p. 57-86
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/24
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     本稿では,わが国のイノベーション促進税制がスタートアップ企業によるイノベーション創出に資する設計になっているかを点検する。イノベーション促進のために税制上の対応をすることが正当化できる場合として,①イノベーションの正の外部性に起因する過少供給,②情報の非対称性に起因するスタートアップ企業の資金調達への制約,への対応,さらに,③累進税率構造・法人二重課税・実現主義に基づくキャピタルゲイン課税といった既存税制の基本構造がもたらす非効率性の改善,を取り上げる。次に,イノベーション促進税制の設計のあり方に関する留意点を,アメリカの理論研究や税制・実務の発展を参考に析出する。

     わが国のイノベーション促進税制の課題としては,①欠損や税制優遇措置に税還付が認められておらず,繰越も限定的であり,租税属性の移転に対する立法・司法上の制約も相まって,スタートアップ企業が十分に恩恵を受けられていない点,②幾度にもわたる改正の結果,制度が複雑化しており,資金的・時間的資源に制約のあるスタートアップ企業には利用しづらいものとなっている点,③起業家の参入・退出戦略に関し,労働所得を株式キャピタルゲインに転換することを可能にすることで起業の成功税としての性格を緩和し参入を促進しているとみることができ,また,退出段階でのロックイン効果を緩和していると理解できるが,同時に,個人所得税における累進課税の要請との緊張関係を孕んでいる点,を指摘する。

  • ―デジタルサービス税をめぐる論点を素材として―
    吉村 政穂
    2023 年 152 巻 p. 87-98
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/24
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     昨今,導入国が他国への波及効果を意図し,あるいは国際的な議論喚起の手段として税制を利用するケースが見られる。その結果,新たな租税立法と通商法との衝突が意識される事例が増えている。

     本稿ではフランスのデジタルサービス税を例として用いたが,現在の通商法の制約下では,サービスまたはサービス提供者間に差別的取扱いが存在するか否かによって条約違反の有無が判断される。そのため,通商法が過度な制約になることはないと思われる。しかしながら,伝統的な直接税・間接税という分類に基づく区別が採用されている点には注意すべきである。通商法上の性質決定によって税制の設計に違いが生じるのは,両者の合理的な調和のあり方ではないと考える。それを乗り越えるための多国間での議論の拡充が望ましい。

  • 藤岡 祐治
    2023 年 152 巻 p. 99-122
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/24
    ジャーナル フリー

     本稿は,租税の景気調整機能が今後どのような役割を果たしていくべきかを考えるに当たって,基礎的な検討を加えるものである。

     租税の景気調整機能は財政の機能とも重なりがあり,所得概念とも関わりがあるものである。これまでの税制改正の議論において,租税の景気調整機能は考慮がなされているものの,租税政策に具体的な影響は与えていない。むしろ抜本的税制改革後は,社会保障の安定財源を確保するために,租税の財源調達機能に重きが置かれることになり,租税の景気調整機能が注目されることはなくなっている。米国も同様の傾向にあるものの,世界金融危機後に再び租税の景気調整機能に関する議論が生じた点が注目される。

     本稿は,米国における議論を参考に,日本の現行法について景気循環を抑制又は増幅する効果がある規定をいくつか取り上げて分析した。

     広い意味での景気循環への対応としては財政政策や金融政策,さらには法制度それ自体を用いることも考えられるところ,これらを含めて経済の安定化に対する法制度設計を検討することが本稿の積み残した課題である。

  • ―租税・財政・社会保障―
    神山 弘行
    2023 年 152 巻 p. 123-142
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/24
    ジャーナル フリー

     本稿では,まず現在世代が将来世代に対してどのような責任を負っているのかという点について,財政問題を念頭に議論状況を概観する。そこでは,①不法行為法の視点,②契約法の視点,③人類の連鎖の視点,④私よりもよい状況に(better than me)という視点,⑤現在の中位層よりも良い状況に(better than our current median)という視点が検討の対象となる。その上で,各論として(1)危機対応とその財源としての税負担の世代間配分,(2)租税法と社会保障法の交錯領域といえる社会保険料の賦課対象である「所得」について検討を加える。国民健康保険料や後期高齢者医療制度の負担水準を決める場面では,賦課物件が個人住民税の「所得」と連動していることから,その範囲と捕捉方法について,世代間衡平の視点から検討を加える必要がある。

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