読書科学
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原著論文
  • 批評文の構成モデルと評価の枠組みの開発を通して
    林 一 晟
    2023 年 64 巻 3-4 号 p. 113-129
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究は高校生が産出した批評文の分析を通して批評文を産出する学力を検討したものである。分析の結果,高校生の批評文はⅠ.記述-解釈-推論-総合,Ⅱ.反論-論駁-推論-総合,Ⅲ.背景-推論-総合の3つの相を持つことが明らかになった。さらに相Ⅰにおける学力水準を検討したところ,読みと論証の論理性,抽象性,包括性によって階層化されることが判明した。

  • 中国との比較研究の土台構築を視野に
    CHEN XIN
    2023 年 64 巻 3-4 号 p. 130-147
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究は中国との比較を視野に入れ,「基礎基本」と「情操態度」という二つのカテゴリーを用いて,戦後以降の日本国語教育課程を4つの時期に分け,それぞれの古典,とくに漢文教育の扱い方をまとめ,「変化」と「不変」を通時的に捉えた。第一期から第四期まで,漢文教育の目標は「古典の読解」という基礎基本が維持される一方で,「古典を尊重・親近」という情操態度は「伝統や文化を尊重・親近」という段階を経て,「伝統や文化を継承・創造・発展」という方向性へ発展していた。それに伴い,教材選択・指導上の注意点における固定化されている規定があると同時に,「古典を学ぶ」から「古典で学ぶ」へと学びの方針が変化したとまとめられる。

  • 「走れメロス」の劇化学習における停滞に着目して
    下田 実
    2023 年 64 巻 3-4 号 p. 148-165
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は国語科の授業における「場」への参加を阻害する要因を明らかにし,参加を促す指導方略について考察することにある。研究方法としては「臨床教育学」の立場に立って,当事者(教師自身)が実践を物語る形式の「当事者参加型アクションリサーチ」を用いたが,学習者の内面に目を向けるために,テキストマイニングの手法を併用した。事例として取り上げたのは,「走れメロス」を劇化する学習である。研究の結果,「場」への参加を阻害する要因として,学習者間の関係の不調和が確認された。その上で,成立要件を満たすための指導の方略として「競合的文脈の排除」「多様な学習方法の提示」「『個』における特性の承認」の3点を提案した。

  • 尾矢 貞雄
    2023 年 64 巻 3-4 号 p. 166-180
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     小学校および中学校の国語教科書に採録される物語教材505作品を,エピソードの「三度の繰り返し」に着眼して読み,小学校と中学校の教材に見られる共通点や相違点を分析した。分析の結果,小学校と中学校ともに「単数型」が多いこと,その展開パターンは小学校よりも中学校が約2倍に増えることから,中学校の方が教材を読み解く難易度は上がること,教材の結末においては,小学校はハッピーエンドが約80%であるのに対し,中学校は約40%がソーリーエンドであることが分かった。ソーリーエンドは,その意味を多面的に問う機会が提供され,解釈は多義的になるため,中学校教材の方が解釈の多義性を有することが明らかになった。

  • J.S. Brunerの文化主義からの考察
    宮本 章子
    2023 年 64 巻 3-4 号 p. 181-193
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究は,学習環境の影響により意見文作成課題が脱文脈化し,学習者が主体的に意見を書くことが困難になっている可能性に着目し,ブルーナー(1991)の文化主義の議論を元に,意見文作成課題における学習者の主体性実現に必要な支援のあり方を吟味した。分析では,修辞表現提示による介入指導の問題点を明らかにし,(1) 学習者が自己省察する機会が少ないこと,(2) 指導者学習者間が主従関係にあること,この2点により意見書作成課題が脱文脈化し,学習者の主体性を制限する可能性を指摘した。考察では,学習者が意見を書くことの難しさと向き合い克服できるよう,指導者が対等な立場で対話に参加し,応答する重要性を論じた。

  • 中学校の授業における指さしと注視に着目して
    新居 池津子
    2023 年 64 巻 3-4 号 p. 194-207
    発行日: 2023/10/20
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

     本研究では,中学校の生徒の指さしや注視に着目し,印刷と電子のメディアにより生徒の読書行為がどのように異なるのかを授業の文脈に即して明らかにした。公立中学校において,15日間のフィールドワークを通して,9時間の授業を参与観察し,ビデオデータを収集した。教科書以外の多様な印刷メディアと電子メディアを利用する生徒の読書行為を観察する場所として適切であると考え,学校図書館を活用した授業を分析の対象とした。まず,1クラス33名の3年生を協力者としたビデオデータより,各メディアの共有場面を1秒間隔で静止画像に切り出し,印刷メディア31シーン(3,611枚),電子メディア49シーン(2,394枚)の合計6,005枚の静止画像を5つの読書行為に分類し,印刷と電子メディアを利用する際の連鎖パターンの特徴を捉えた。次に,マイクロ・エスノグラフィーの手法を応用し,各メディアの特徴的な読書行為の連鎖パターンがどのように生起しているのかを分析した。その結果,以下の2点が明らかとなった。第一に,生徒は,メディアに応じて読書行為の連鎖パターンや生起時間を秒単位で調整していた。第二に,生徒は,読書行為において,注視を有効に活用していた。これらのことは,生徒がそれぞれのメディアを共有する際に示す読書行為には,お互いの文章理解を示す指さしや共同注視だけでなく,個別の生徒の沈思黙考を表す単独で行われる注視も含まれ,授業において重要な機能を果たしていることを示している。したがって,授業においては,特定のテキストに着目させる場合には電子メディア,テキスト理解を踏まえた話し合いを行う場合には印刷メディアを用いるといったような,メディア選択や生徒が個別にメディアと向かい合うことができる時間を確保するといった配慮が必要であることが示唆された。

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