インスリンの分泌は遺伝や肥満, 加齢といった各種の因子により影響を受けることはよく知られているところであるが, 咬合状態や咀嚼能力とインスリン分泌との関連についての研究はほとんどみられない.
そこで, われわれは食物摂取の最初の過程である咀嚼, 特に咬合状態の差によるインスリン分泌に着目し研究を進めてきたところ, 咬合状態の違いにより摂食時のインスリン分泌量, インスリンに対する感受性に差があることが示唆された.
しかし, この結果が咬合状態の不全に伴う食物の粉砕能の差によるものであるか, あるいは咀嚼能力そのものの違いによるかは明らかとなっていない.
今回, 健常で肥満でない被験者に甘味料, 香料を含まないガムベースを咀嚼させ, その間の血中インスリン値を測定することにより, 咀嚼の刺激がインスリン分泌に及ぼす影響について検討した.
その結果, 血糖値には咀嚼開始前から咀嚼開始15分後までの間大きな変化はなく, コントロール群とガム咀嚼群の推移には交互作用が認められなかった.
血中インスリン値は咀嚼時間による推移に有意差が認められた. また, 対照群の推移とガム咀嚼群の推移の間には交互作用が認められた.
これらの結果から, 咀嚼による刺激はインスリンの分泌に関与することが示唆された.
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