目的:先行研究では,高齢者における身体活動(physical activity: PA)と実行機能との正の関連が示唆されている。しかし,これまでの研究は,1日の時間の使い方やPAの蓄積パターンを十分に考慮していなかった。そこで本研究では,地域在住の高齢者において,日常のPA,座位行動(sedentary behavior: SB),睡眠の相互作用を考慮しながら,PAの強度や蓄積パターンと実行機能(抑制制御,ワーキングメモリ,認知的柔軟性)との関連を検討することを目的とした。
方法:本横断研究は,2021年から2022年にかけて実施された,認知機能に対する運動の効果に関するランダム化比較試験のベースラインデータを用いた。76人の地域在住高齢者のデータを解析に用いた。PAとSBに費やした時間は加速度計を用いて評価し,睡眠時間は自己申告とした。実行機能の評価として,ストループ課題(抑制制御),N-back課題(ワーキングメモリ),タスクスイッチング課題(認知的柔軟性)を実施した。PAと実行機能の関連性の検討および行動時間の仮想的な置き換えに対する実行機能の変化量の推定には,さまざまな潜在的交絡因子を考慮したcompositional multiple linear regressionとcompositional isotemporal substitution をそれぞれ実施した。
結果:残りの行動時間と比較して低強度PA(light intensity PA: LPA)の時間が長いほど,ストループ課題の成績が良好であった。更に,この関連は,散発的なLPAよりも10分以上続くLPAのほうが強かった。更に,30分 /日のSBまたは睡眠をLPAに仮想的に置き換えることは,ストループ課題の良好な成績と関連した(約5~10%の向上に相当)。一方,中高強度PAの時間と各実行機能課題成績との有意な関連性はみられなかった。
結論:LPAは抑制制御と正の関連があり,この関連性は散発的なLPAよりも継続的なLPAにおいて強かった。更に,SBまたは睡眠時間を減らし,LPA,特に継続的なLPAの時間を増やすことは,後期高齢者における抑制制御を適切に管理するための重要な対策となりうる。今後大規模な縦断的研究や介入研究により,これらの関連性を確認し,その因果関係や背景にあるメカニズムを明らかにすることが求められる。
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