時間学研究
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5 巻
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  • 森野 正弘
    2015 年 5 巻 p. 1-13
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー
    『源氏物語』松風巻には、光源氏が大堰で暮らす明石の君のもとを訪問する条がある。その出発に際し、京で待つことになる紫の上は、今回の旅行が「斧の柄が朽ちる」ほど長い期間になるであろうと、漢籍に見える「爛柯」の故事を引用して皮肉を述べる。この故事は、異郷を訪れた者が束の間の経験をして現実世界へ戻ってみると、世代が替わるほど長い時間が経過していたというもので、異郷での時間がゆっくり進む話として捉えることができる。従来はこの引用について、典拠の指摘や紫の上の発言の解釈など、局所的な問題として論議される傾向にあった。これに対して本稿では、この故事の引用が光源氏の旅行の最終日にも認められる点に着目し、旅行全体が「斧の柄の朽ちる」時間として形象されている可能性について考察を展開することになる。 旅行中に描かれてくる人物たちの動向を観察してみると、光源氏をはじめとして、明石の君、頭中将、なにがしの朝臣といった人々がみな一様に失速している様子をうかがうことができる。加えて、「二三日」の予定であった旅行の日程は四日間に延長し、京にいる帝や紫の上を待たせる結果となる。光源氏は「爛柯」の故事さながらに、異郷で間延びした時間を過ごし、京という現実世界へ戻ってくるのである。「爛柯」の故事引用は、単なる修辞的次元に止まらず、そこに展開される異郷訪問譚の構造や時間の歪みをも組み込む契機として機能していると言える。
  • 青年期を対象として
    村上 勝典
    2015 年 5 巻 p. 15-26
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は青年期男女の時間評価の相違について探索的に検討することであった。20名の対象者(男性10名,女性10名)は5水準(15秒,30秒,1分,3分,5分)の課題時間に対して各々の評価時間を産出するように求められた。これらの手続きを1回として,日を変えて,1人の被験者につき合計3回実施した。(1)被験者ごとに1回目から3回目の平均値と中央値を表し,これらの平均値と中央値に男女差があるかを検討するために,性別×課題時間の2要因分散分析およびMann-WhitneyのU検定を行った。また,1回目から3回目のそれぞれの評価時間が課題時間よりも長い場合には過大評価,短い場合には過小評価とし,3回のうち2回以上過大評価の場合に「過大評価」,2回以上過小評価の場合に「過小評価」と分類した。課題時間ごとに人数に男女で偏りがあるか否かを検討するために,χ2検定を行った。(2) 1回目から3回目の測定は,別の日に実施しており,実験条件が異なるため,個別のデータとして扱い,同様の分析を行った。その結果,(2)の分析を行った結果でのみ有意な差および偏りが示された。この相違は,被験者内で得られた1回目から3回目の評価時間の日間変動に帰せられた。また,時間評価および過大評価の頻度の男女差が松田の4要因乗法モデルに基づいて討論された。
  • 佐用商店街と厚狭商店街を事例として
    小林 北斗, 山本 晴彦, 原田 陽子
    2015 年 5 巻 p. 27-36
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー
    現在、小売業や商店街の店舗数は大型スーパーマーケットの存在や後継者不足等の要因で衰退の一途をたどっている。それらに加えて洪水による被害も衰退加速の要因となる場合があり、結果的に多くの店舗で廃業せざるを得ない状況に陥ってしまうこともある。特に、商店街における高齢化は深刻な問題である。そのため、自然災害の被害を受けた店舗への実態を把握し、様々な方面から支援を行うことが大事である。本内容では、現在の商店街における状況把握や今後の防災対策、避難行動へと還元することを目的に、自然災害、特に豪雨によって被害を受けた二つの商店街(2009年台風9号によって8月9日に兵庫県で発生した豪雨の被害を受けた佐用郡佐用町の佐用商店街と、2010年梅雨前線によって7月15日に山口県で発生した豪雨の被害を受けた山陽小野田市厚狭地区の厚狭商店街)についてアンケート調査を実施した。その結果、両商店街において回答の違いが見られ、浸水深の違いが影響していると推察される。また、住民と行政間でコミュニケーションを取り合うことが重要であり、高齢化の進む商店街への対策も併せて考える必要がある。
  • 「同期」と「物語」から考える時間系
    野村 直樹, 橋元 淳一郎, 明石 真
    2015 年 5 巻 p. 37-50
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー
    本稿は、時間を存在するもの、すでにあるものとしてではなく、むしろ作られていくもの、つまり、区切り、記述として見ていくことで、どのようにわれわれの時間概念が書き換わるかを説明しようとする。すべての時間が何らかの区切り(punctuation)をもとにするところから、区切るという行為やリズムから時間論を組み立てていく。区切る、リズムを刻む、記すという行為をとおして世界を秩序立てていくという意味で「物語としての時間」という呼び方をする。人間世界、生物の世界のみならず、物理的世界(例、振り子の同期)にも共通してある同期という現象に焦点を当てることで、新たな時間が立ち現れることを、マクタガートの時間論をベースに理論化していく。この時間世界を拡張していく主役は、E系列と呼ばれる時間であり、詩人やアーティスト、宗教家の直観として古来より語られてきたものではあるが、これを科学の枠組みの中に位置づけようとするのが本稿の目的である。相互作用し、同期するものが作る「生きた時間」という視点がもたらす広がりを説明したい。
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