時間学研究
Online ISSN : 2424-208X
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3 巻
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
  • 前5世紀終わりのアテナイの暦について
    安永 信二
    2013 年3 巻 p. 1-19
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー
    前424年、喜劇詩人アリストファネスは『雲』の中で、市民たちを前に「暦が月齢に合ってない」と月の不満をこぼさせた。この一節と前5世紀終わりのアテナイの暦をめぐって、これまでMerittとPritchettをはじめ多くの研究者たちが当時の暦について議論してきたが、説得的と思われる論はまだ出されていない。そこで本論は、これまで議論の根拠とされてきた碑文史料と文献史料を再検討することとした。  当時、暦は1年を10に分けたプリュタネイア暦(評議会暦)と、月齢に即した祭祀暦の2つがあり、始まりも終わりも同じ日になることはなかった。これまで研究者は、どちらかが規則性を持っているが、もう一つは不規則だったために「月の不満」になったと考えてきた。しかし、IG i3 369、i3 377などの碑文を再検討することにより両暦ともに一定の規則性を持っていた可能性があることを発見したのである。しかしこの規則性は前5世紀終わりを通して続いたものではなく、少なくとも1回は改訂されていた。改訂後も一定の規則性を有しており、これが研究者を悩ましてきた問題ではないかと思われる。
  • 上野 敬介, 澤井 浩子, 石井 康晴, 宮井 早希, 小山 惠美
    2013 年3 巻 p. 21-34
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー
    現代のオフィスでは,VDT作業に代表される精神疲労を伴う知的作業が主流となっている.精神疲労を伴う作業が長時間に及ぶと,覚醒度低下,疲労増大,パフォーマンス低下などを引き起こす恐れがあるが,リフレッシュ行動(RF行動)によって,これらを軽減する可能性が示唆されている.本研究では,より効果的なRF行動の実施を目指すため,オフィスでの実態を反映した数分以内の短時間のRF行動における「自発性」に着目し,知的作業時に生じる座位でのRF行動に伴って心身の状態変化がどのような時系列的特徴を示すのか明らかにすることを目的とした. 結果として,自発的RF行動ではRF行動後に行動前よりも心拍数が減少する時間帯が数分間みられた.また自発的RF行動後では強制的RF行動後よりも,副交感神経活動の指標とされる心電R波間隔時間変動HF成分がより大きい時間帯が数分間みられた.このように,短時間の自発的RF行動に伴って,心拍数および心拍変動HF成分の特徴的な時系列(RF行動後に一時的に活性/緊張と反対方向に変化した後,元の水準まで回復する)変動が有意にみとめられた.よって,知的作業が主流となるオフィス業務では,短時間のRF行動が自発的に生じる環境要件を整えることで,これらの特徴的な時系列変動の振幅がより大きくなり,一時的な作業負荷軽減の効果がより増大する可能性が示唆された.
  • EOG時系列変動に着目した解析
    澤井 浩子, 渡守武 和音, 上野 敬介, 小山 惠美
    2013 年3 巻 p. 49-59
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー
    本研究では、漆器や染物の製作などにおける伝統技能の保存継承に向けた技能素の定量的抽出を目指し、技能習熟過程の定量的評価方法を時間学的な観点から、EOG(Electro-oculogram)時系列変動解析によって検討することを目的とした。 伝統技能として漆塗りを取り上げ、その基本動作の一つである平面の中塗り動作を模擬した作業における習熟過程初期段階について、EOG時系列変動を解析した。キャンバスを塗る課題を1日に3分間5回実施し、5日間繰り返すことで日ごとの習熟過程を評価した。EOGは斜め左右位置に電極を装着し、塗り動作中のEOG時系列変動を計測した。 作業量結果から、計測を通して増加傾向であった群(量上昇群)と安定傾向であった群(精度向上群)の2群に分類された。量上昇群では作業速度が速くなるほど、EOGの時系列変動周期が短縮し、変動が安定する傾向であった。精度向上群では、作業速度が速くなるほど、精度が向上するほどEOG時系列変動が安定する傾向であった。よって、作業量から量または精度の習熟過程分類を判定し、各習熟過程別に一定の動作単位でEOG時系列変動解析を行うことで、習熟過程における「間」や「按配」の変化を定量的に評価できることが示唆された。
  • 杉原 学
    2013 年3 巻 p. 61-71
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/02/28
    ジャーナル フリー
    明治以降の近代化とともに、かつて人々が生きた「共有された時間」は「個人の時間」へと置き換えられていった。このことは、人々の時間意識を「未来への関心」へと導いた。現代において、その影響は「未来への不安」として表れている。そこで本稿では、「人間の個人化」と「未来への不安」の関係性から、「現在を生きられなくなった人間」の問題を浮き彫りにする。内閣府の調査によると、およそ70%もの日本人が悩みや不安を抱えて生活しているという。このことは、コミュニティを失った個人が、自己責任において生きて行くことのストレスを表している。このストレスが、未来への不安を増幅させている。こうした傾向は若者の間にも顕著に表れており、自殺の増加にも関係していると考えられる。都市の若者を対象とした調査によると、彼らの多くが将来への不安を抱えているという。そのことが、現在を単なる「貨幣の獲得の手段」に貶めているという現実がある。ここに「疎外」の構造が存在している。もちろんこの構造は若者に限ったものではないことは言うまでもない。これらの論考から、「未来による現在の支配」から抜け出すための方法と、その可能性を模索したい。
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