一般に"おしゃべり"としての言語は1歳前後から観察されるようになる。しかしながらその基盤は生後まもなくからの日常生活での母子関係を通して築かれてきており,その基盤の豊かさがその後の発達全般を支えるくらい重要なことだということが最近わかってきている。
すなわち,子どもの泣く,ぐずる,あやすと笑うなどのサインにあわせ,親が日常的なせわをしているうちに,子どもの側には親への愛着心,信頼感,一体感などが育ち,親の側には自分の子どもであるという特別な気持や自信が感じられるようになってくる。そういう母子の強い"気持の絆"を通してみようみまねで身についてくるもののひとつがことばである。
口蓋裂の子どもも生まれつき裂のあることや,それに伴う種々の問題をもつとはいえ,基本的には言語の発達を支えている基盤は裂のない子どもと同じである。口蓋裂の子どもの場合でも親への愛着心がしっかり育っており,親子共に精神的安定が保たれている子どもほど言語発達も良好で,正常構音の習得も容易という臨床的印象をもっている。
二症例の経過に簡単に触れながら,望ましい言語発達を支えるためには口蓋裂児をとりまく人々が協力しあい,親子の不安や心配を軽減し適切な援助をしてゆくことが重要であることを述べた。
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