東日本大震災・福島原発災害から10年の節目を迎え、復興庁がさらに10年存続することは決まったものの、ふくしま復興を検証する取組みは進んではいない。例えば、原発事故災害については、事故後に政府、国会、民間、東電の4つ事故調査委員会が立ち上がり、それぞれ報告書を出した。しかし10年の節目では民間事故調査委員会が最終報告書を出すにとどまった 1)。
復興庁事務次官を務めた岡本全勝は、東日本大震災を契機とする行政の「哲学の転換」として、完全な「防災」から逃げる「減災」へ、「国土の復旧」から「暮らしの再建」への2つを挙げた。また「暮らしの再建」とは住民が住める町づくりであり、従前の「インフラの復旧と住宅の再建」の他に「産業と生業の再生」と「コミュニティの再建」の必要性を打ち出した2)。
復興庁の復興推進委員会は2019年9月23日にワーキンググループが提出した「東日本大震災からの復興施策の総括」を了承した。この「総括」では復興の現状について、地震・津波被災地域においては、生活に密着したインフラの復旧はおおむね終了、産業・生業の再生も着実に進展し、復興は「総仕上げ」 に向けて着実に進展していること。また福島の原子力災害被災地域においては、2019年4月までに、帰還困難区域を除き、ほとんどの地域の避難指示が解除され、福島の復興・再生に向けた動きが本格的に始まっていると総括した。しかしこのワーキンググループの「総括」は国会への「年次報告」の一環であり、復興政策の検証という視点からではない3)。
公的機関で福島原発事故災害を検証したのが新潟県である。新潟県は2018年1月に「新潟県原子力発電所事故に関する検証総括委員会」を設置した。そのうち検証委員会の生活分科会は、大規模自然災害との比較で、福島第一原発事故の被害特性を取りまとめ、①事案自体は目に見えない(放射能汚染)、②安心できる放射線量に関する認識の個人差が、現在のところ大きい傾向、③事故の原因としての人為的要素(国・東電の事故責任)があることを指摘した。また生活再建に向けては、①家族・コミュニティ単位での避難生活、②原子力賠償基準の改善(実態に即した改善)、③生活再建の伴走型支援(ケースマネジメント)の必要性を掲げ、ふくしま復興の検証に重要な視点を提示した4)。
本報告の目的は、原発被害の特性である被害に累積性という視点から、ふくしま復興の10年を検証し、もう一つのふくしま復興5)、すなわち地理学における人間復興6)を考えることにおきたい。
1)
アジア
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パシフィック
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イニシアティブ
(2021)『福島原発事故10年検証委員会 民間事故調最終報告書』ディスカバー・トエンティワン。
2)岡本全勝編著(2016)『東日本大震災 復興が日本を変える─行政・企業・NPOの未来のかたち』ぎょうせい。
3)https://www.reconstruction.go.jp/topics/maincat7/sub-cat7-2/191023_wg_finalreport.pdf
4)https://www.pref.niigata.lg.jp/uploaded/attachment/247845.pdf
5)山川充夫・初澤敏生編著(2021)『福島復興学Ⅱ』八朔社
6)山川充夫(2020)「原発事故とふくしまの復興課題−帰還促進から人間の復興へ−」『日本災害復興学会論文集』15、66-74。
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