突然変異育種は,生物資源の拡大の基礎をなすものであり,原子力機構では,イオンビーム照射研究施設TIARAのサイクロトロンを用いて,イオンビームを用いた突然変異育種の研究に取り組んできた。本解説では,イオンビームを用いた植物の突然変異育種と微生物育種への応用の現状を概説する。原子力機構では,植物へのイオンビーム照射とその効果についての研究を通じて,イオンビームで誘発される突然変異は,変異の誘発率が高く,変異のスペクトルが広く,目的外の付随変異が少ないという特長を見出し,世界で初めてイオンビーム育種技術を確立した。イオンビームの生物に対する作用機序からすると,イオンビームは産業に有用な微生物の品種改良にも適用できる。近年,麹菌や酵母などで,イオンビームを用いた有用突然変異株作出についての成果が出ており,イオンビーム照射が産業微生物の品種改良にも有効であることが実証されつつある。イオンビームを用いた微生物の突然変異誘発技術は,基礎科学研究と応用研究の両面に有用なツールである。
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