日本周辺海域のナ
ガニ
シ属Fusinusには,不確実な記録を除いてこれまで18種類(亜種や型を含む)が知られているが,分類は混乱しており,図鑑等で誤って図示されている例も少なくない。本論文ではFusinus longicaudus (Lamarck, 1801)ナ
ガニシとそれに混同されることの多かったナガニ
シ属3種について分類学的再検討を行った。中でも,和名のハシナ
ガニ
シは,これまでに図示されているものを検討した結果,すべてナ
ガニ
シと同種であることが明らかとなった。また,ハシナ
ガニ
シの学名として用いられてきたF. longicaudusはF. colus (Linnaeus, 1758)ホソニシの異名である。これらに関連して,F. perplexus (A. Adams, 1864), F. perplexus nagasakii Grabau, 1904, F. inconstans Lischke, 1869, F. forceps (perry, 1811), F. turriculus (Kiener, 1840)とF. ferrugineus Kuroda & Habe, 1960の6タクサについてレクトタイプを指定した。F. perplexus (A. Adams, 1864)ナ
ガニ
シサイズや殻形に変異が大きい。成熟すると他のナ
ガニ
シ属の種類同様軸唇滑層が板状になる。ハシナ
ガニ
シは本種の異名とみなされるほか,下に述べるように図鑑等でイトマキナ
ガニ
シとして図示されてきたものの多くもナ
ガニ
シである。F. perplexus nagasakii Grabau, 1904もナ
ガニ
シの異名となる(新異名)。F. salisburyi Fulton, 1930イトマキナ
ガニシイトマキナガニ
シは和名の基となったHirase (1907)は正しく本種を図示しているが,その後の図鑑等で図示されているもののほとんどは実際にはナ
ガニ
シの軸唇滑層が板状に発達した個体であった。最近の文献では次種の亜種とされることが多いが,次に挙げるような一貫した特徴があり,別種と認められる。すなわち,本種では成熟すると大型で堅固となり,螺肋が粗くその間が深く窪む。軸唇滑層が板状に発達して偽臍孔を形成する。周縁はやや角張り,そこで縦肋が瘤状となる。F.forceps (Perry, 1811)アライトマキナ
ガニ
シこれまで国内の文献で正しく図示されたものはない。イトマキナ
ガニ
シに近似するが,周縁は丸く,体層上でも規則的な縦肋が消失しないこと,軸唇上の滑層板が真っ直ぐで褶曲しないことで区別できる。和名のアライトマキナ
ガニシはイトマキナガニ
シの異名である可能性が高いが,混乱を避けるためここでは本種の和名として扱う。F.ferrugineus (Kuroda & Habe, 1960)コナ
ガニシナガニ
シに近似するが,螺層の丸みが強く,周縁は丸く角ができず,通常成熟しても小型であることで区別できる。生時は殻全体が海綿に覆われていることが多い。ナ
ガニ
シの亜種とされることもあるが,両者の分布はほぼ重なっていることと,形態的に区別できることから別種として扱われるのが適当であろう。
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