筆者は, 児童養護施設の一人の男子被虐待児童に遊戯療法を行った。彼が, 主体性を取り戻し, 遊戯療法を終了するまでには, 関係を一度構築するだけではなく, 獲得した関係や遊びを手放す事によって, 新たな主体のあり方を構築する事を三度繰りかえした。これを, 三度の対象の喪失と新しい主体の確立との関係という観点から考察した。すると, 第一の対象の喪失は, イメージから分離した主体を構築したと考えられた。第二の対象の喪失は, 象徴的な死による主体と対象の分離による, 人間的な主体を構築したと考えられた。第三の対象の喪失はセラピストとの実際の別れを経て, 一人の自立した主体を構築したと考えられた。このように, 二者関係における基本的な信頼感を持ちながらの分離, つまり対象の喪失は, 子どもの心理面接に大きな意味を持つと思われた。
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