【目的】ミトコンドリアはエネルギー生産,細胞内Ca
2+制御,アミノ酸合成,アポトーシスなど,多くの機能に関与するオルガネラである。哺乳動物において,卵母細胞内ミトコンドリア分布や機能の変化が卵母細胞の成熟能や胚の発育能に重要である事が示唆されている。しかし,卵母細胞内でのミトコンドリアの動的分布変化については不明な点が多い。本研究では,卵母細胞のミトコンドリア分布変化を解明するために,蛍光標識したブタGV期卵母細胞のミトコンドリアをブタGV期卵母細胞に注入し,その細胞内動態を観察した。 【方法】春機発動前ブタ卵巣内卵胞(直径2–6 mm)から卵母細胞を採取し,ミトコンドリアのドナー卵母細胞およびレシピエント卵母細胞として用いた。ドナー卵母細胞のミトコンドリアを10 µM MitoTracker-Orange CM-H
2TMRosにより蛍光標識し,10,000 × g,15分間,37
oCで遠心して細胞内高比重画分にミトコンドリアを濃縮した。ミトコンドリアが濃縮された細胞質をインジェクションピペットで吸引採取し,これをレシピエント卵母細胞の中央部または細胞膜近傍に局所注入し,蛍光標識ミトコンドリアの細胞内動態を共焦点レーザー顕微鏡で経時的に解析した。さらに,ミトコンドリアの移動に関与する細胞骨格を調べるため,コルセミドまたはサイトカラシンB存在下で同様の観察を行った。 【結果】卵母細胞中央部に注入されたミトコンドリアは,細胞膜直下まで移動した後,細胞膜に沿って移動拡散した。細胞膜近傍に注入されたミトコンドリアは直接細胞膜に沿って移動拡散した。これらのミトコンドリアの移動は,サイトカラシンB処理により特異的に阻害された。 【考察】本研究の結果より,ブタGV期卵母細胞は細胞質中央から細胞膜直下へ,及び細胞膜に沿った移動経路が存在すると明らかになった。このミトコンドリアの移動にはアクチンフィラメントが関与する事が示唆された。
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