京都大学薬学部で開かれた第33回元素分析シンポジウム (1967年5月26~28日) において金沢大学名誉教授岩崎憲博士に特別講演をお願いした.岩崎博士は1924年にベルリン大学に留学され, さらにカイザー・ウィルヘルム研究所で医化学の研究に数年間従事されたのち1931年帰朝され, 金沢大学教授として医化学の研究教育につとめられた.医学者としても著名なかたであるが, 分析化学の領域ではアゾトメトリーの創案者でもあり, その声価は広く海外にとどろいている.1952年にはアゾトメトリーの研究に対して日本学士院賞が授与され, そのほか朝日賞, 毎日学術奨励賞など多数の輝かしい賞を受けておられる.
当日の岩崎博士の演題は “ミクロ分析の回顧” ということであって, かつてドイツ留学時代, ミクロ分析法の研究でノーベル化学賞をもらったフリッツ・プレーグル (Fritz Pregl) 教授 (1869~1930) をオーストリアの
グラーツ
に訪ね, 直接分析技術を習得された思い出が語られた.当時の最先端を行くこの新技術を学びとろうとする若い日本学徒の真剣な姿と, 権威に盲従しないで堂々とこの新技術をさらに改善しようとする勇敢な精神がユーモアを交えて話されたことは特に感銘を深くした.現在世界中で化学者が愛用している半融ガラス炉過管が若いころの岩崎博士の発明品であることを知っている人は日本人でも案外少ないようであるが, これについてのエピソードも含まれていて興味の尽きないものがある.きたる1970年夏にはミクロ分析の発祥地
グラーツ
で国際微量化学技術シンポジウムが開かれる予定であり,
グラーツ
の紹介という意味でも意義ある講演であった.
本稿は当日の講演記録を基に, 岩崎博士の許可を得て筆者が別文に書き改めたものである.表現, 内容の不手際があれば筆者の責任である.なお本稿中 “私” とあるのは岩崎博士を指す.
抄録全体を表示