東ゴンドワナ超大陸に由来する主要な高度変成岩分布地域であるスリランカ・ハイランド岩体は、これまでグラニュライト相変成岩類が広域に分布することが知られており、なかでもスリランカ中央部のKandy周辺地域では
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リンー石英グラニュライトなどの超高温変成岩の分布も明らかにされていた(Osanai, 1989; Osanai et al., 2000, Kriegsman and Schumacher, 1999; Sajeev and Osanai, 2002など).演者らはハイランド岩体について過去7年間で5回の野外調査を実施し、膨大な岩石試料について様々な解析をおこなってきた.今回は、ハイランド岩体の苦鉄質グラニュライトおよび泥質グラニュライトについて、現時点で見積もられる超高温・高圧の最高変成条件について報告する.なお、これらの最高変成条件をしめす岩石は、他の一般的な温度・圧力条件(750-900℃、7-8 kbar)をしめす泥質∼珪長質グラニュライト中にレンズないしブロックとして産する.苦鉄質グラニュライト:Kandy南東のAmpitiyaおよびVictoria Dam Roadの2カ所から見出される.この苦鉄質グラニュライトはザクロ石-単斜輝石-石英からなる塊状の岩石で、ザクロ石ム単斜輝石間あるいはザクロ石ム石英間には等温減圧過程で形成された斜方輝石-斜長石シンプレクタイトが出現する.斜方輝石および斜長石はこのシンプレクタイト以外にはみとめられず、ピーク変成条件としては高圧グラニュライト相∼エクロジャイト相が見積もられる.ザクロ石-単斜輝石地質温度計からは950-1050℃が見積もられ、この温度下での斜方輝石+斜長石=ザクロ石+単斜輝石+石英反応は、岩石化学組成を石英ソレアイトとした場合、約17kbarとなる.斜方輝石-斜長石が安定となった後退変成条件は、900-980℃・約8kbarが見積もられ、ハイランド岩体の一般的な苦鉄質グラニュライトから得られるピーク変成条件(Schumacher et al., 1990)と一致する.この岩石のザクロ石-単斜輝石-珪長質フラクション-全岩によるSm-Nd内部アイソクロン年代は約530 Maとなり、斜方輝石を加えた年代とは誤差の範囲内で一致する.このことは、斜方輝石を形成する等温減圧過程が急速に進行したことをしめすと考えられる.泥質グラニュライト:泥質グラニュライトでは、Osanai(1989)の報告以来、
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リン-ザクロ石-斜方輝石、
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リン-斜方輝石-石英などの超高温条件をしめす鉱物共生が報告されてきた.最近では、Sajeev and Osanai(2002)などでも
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リン+ザクロ石+石英=斜方輝石+珪線石、
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リン+石英=斜方輝石+珪線石+菫青石などの反応が見出され、
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リン-石英の安定領域から斜方輝石-珪線石-石英の安定領域を経て(等圧冷却)、ザクロ石-菫青石および菫青石-スピネルの安定領域へ変化(等温減圧)する変成過程が明らかにされている.今回、新たにKandy南方・Gampola付近のFAS系で解析可能な石英長石質グラニュライトからザクロ石-コランダム-石英およびザクロ石-コランダム-珪線石共生が見出された.ザクロ石-コランダム-石英共生は、Guiraud et al.(1996)では約1000℃、11kbar以上で安定に存在するとされており、付近の
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リングラニュライト中の斜方輝石がしめす最大アルミニウム含有量(12.88wt%)から見積もられる温度条件(約1150℃)とも矛盾しない.従って、様々な岩石成因論的グリッドを用いた泥質グラニュライトから見積もられる最高変成条件は、約1150℃、12.5kbar以上となる.
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