1.問題の所在と研究の目的 1990年代後半から日本の大都市では人口の都心回帰が顕在化しており、その一端を未婚の若年単独世帯(以下,
シングル
世帯と呼ぶ)が担っていることが、最近のいくつかの研究で明らかになっている(たとえば,矢部, 2003; 榊原ほか, 2003)。発表者らは、そうした
シングル
世帯の居住パターンには男女差があり、女性の方が都心部を指向する傾向が強いことを明らかにした(若林ほか, 2002)。しかしながら、男性についての調査を行っていないため、こうした男女差が生じた原因は十分に明らかになっていない。そこで本研究では、改めて男女の
シングル
世帯を対象にした調査を行い、労働と生活の両面からみた
シングル
世帯の居住分化の背景を検討する。2.研究の方法 本研究では,まず東京圏(南関東の1都3県)での男女別・年齢階級別
シングル
世帯の分布状況を定量的に比較するために、GISを用いて空間分析を行った。そうして明らかになった30歳代
シングル
世帯の分布に見られる男女差の背景を明らかにするために、東京圏に住む30歳代の仕事をもつ未婚者612人(女性307人、男性305人)に対して2004年2月にインターネットを通じたアンケート調査を実施した。調査項目は、住宅事情と居住地移動の経緯のほか、就業状態、親元との関係などでからなる。その中から一人暮らしの男女345人(うち,女性161人、男性184人)から得られた回答結果を中心に分析を行った。3.
シングル
世帯の分布にみられる男女差男女別・10歳年齢階級別に
シングル
世帯をグループに分け、市区町村別分布を定量的に比較するために、非類似指数を用いてグループ間のセグリゲーションの度合いを計測した。その結果、
シングル
世帯は性別と年齢による隔離の度合いが高く、高齢になるほど男女差は小さくなることが判明した。とくに.30歳代の女性はきわだった分布傾向を示しており、東京都区部の西側への凝集が顕著であることが、空間的自己相関分析によって明らかになった。これに比べて30歳代男性
シングル
世帯の居住地は分散しており、東京湾岸や多摩川沿いにも比較的高い割合で分布している。4.
シングル
世帯の労働状態と居住地選択の男女差アンケート調査結果から、30歳代
シングル
男女の前住地から現住地への移動傾向を比較したところ、男性に比べて女性の方が東京方面を指向する割合が高く、60%(うち59%は都区部内での移動で占められる)が都区部への移動であった。これは通勤先とも関係しており、女性の75%(男性は65%)は都区部で勤務していることがわかった。ただし、通勤時間に有意な男女差はなく、平均で40分前後と比較的職住近接の傾向がみられた。ところが、現住地の選択理由をみると、「住宅の価格や家賃」、「住宅の広さや間取り」、「駅までの近さ」は男女とも半数程度の人たちが挙げているものの、「職場までの近さ」については、男性ほど女性は重視していない。そのかわり、女性は「親元・友人・知人への近さ」や「治安のよさ」を重視する傾向がみられた。これは労働状態とも関係しており、男性に比べて女性の方が事務系の非正規雇用に就く割合が高く、転職回数も多かった。このような不安定な労働状態のため、女性の労働時間や年収は男性を下回り、プライベートより仕事を重視する割合や昇進意欲も男性より低い傾向がみられた。5.考察以上の結果から、
シングル
世帯の分布にみられる男女差は、基本的には就業機会の分布の違いに関係しているものの、女性の場合は仕事よりむしろ私生活を充実させるために、都市的娯楽の機会が豊富な地区を指向する傾向が強いといえる。このように、都心周辺部に
シングル
女性が凝集する背景には、労働と生活の両面でのジェンダー差が存在すると考えられる。
抄録全体を表示